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第一章 荒神転生

1-34 新騎士誕生

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「それで、旦那。この事態の説明はしてくれるんだろうな」

 そう言って、男を連れて地上に降りてきたアレン。マルーク三兄弟を相手に抵抗しても無駄なのがわかっているので、奴も抵抗せずに捕縛された。

「ああ、もちろんだ」
「言っておくが、そいつバリスタは寝返らないぞ。頑固者で有名なんだ。契約は絶対に守る」

「おや、お前達も最初は結構頑張っていたような気がするがな」
「う、うるさい。お前があんな手を使うからだろう」

 そして、俺はそいつの前に行き、お得意の『へっへっへっへ&可愛く尻尾振り』をご披露してみせた。

「なあ、君さあ」
 俺はバリスタに猫なで声で話しかけた。狼なのに猫なで声というのは、どういうものだろうか。だが、犬なで声というのは聞かないしなあ。

「勧誘ならお断りだ。さっさと殺せ。逃がせば、お前達をまた狙うだけだ」

「あら~。でもいいのさ。君は俺には絶対に敵わないのだから、もう襲ってきたりしないよ。だってほれ」

 そう言って俺は首輪に仕込んだフェンリルの紋章を起動してやった。

「ぐ、神の子が相手だったか。従魔証なんかつけていやがるから騙されたぜ。あの律儀で依頼人は絶対に裏切らないと評判のマルクス兄弟が寝返るなど、おかしいと思っていたんだ。そういう事だったのか」

「だったのです」
 従魔証が意外と目くらましの効果があるな。俺は、項垂れてしまったそいつに話を続けた。

「俺さあ、お前みたいに頑固な奴が大好きなのよー」
 そう言って尻尾を振りながらうちの三人衆を順番に眺めていったら、奴らが苦笑していた。

「バリスタ、俺はお前の強さを評価する。マルーク兄弟も認めていたしねえ。そして頑固で律儀そうな、その性格もな。別に特に犯罪組織の人間じゃあないんだろう。マルーク兄弟と同じ稼業の仕事人で、どちらかというと荒事専門っていう感じだが」

 それから俺はルナ姫を呼んで内緒話をしてやった。それを聞いた彼女は目を輝かせて、奴の前に立ち、嬉しそうにこう言った。

「アクエリア王国第五王女ルナの名において宣言する。汝バリスタを、我が騎士に任命する!」

 ポカンっとした奴は、しばらく放心した後でこう言った。
「待て待て待て。この狼め。人の話を聞いていたか、俺は雇い主を絶対に裏切ったりはせん」

「ルナ姫、今の聞いた?」
「聞いたー。つまり、もし雇えたら絶対に裏切らない人だって事だよね」 

 それを聞いて、またがっくりとするバリスタ。諦めな、幼女様には敵いません事よ。子供の論理で強引に攻めちゃうからな。

「あのなあ……」

「なあ、バリスタ。この俺フェンリルのスサノオ様と父ロキは、この第五王女の味方をする事に決めた。まあ父は特に知った事じゃないだろうが、俺が窮すれば『ロキの軍勢』を送ってくれるんだぜ。あの主神オーディンの率いるアース神族さえ力で圧倒できるほどの巨人族の軍勢をな。この意味がわかるか?」

 それを聞いた奴も、さすがに顔が引き攣った。そして、俺は高らかに宣言した。

「そうさ、これはいわば神の軍勢なのだ。俺はアクエリア王国第三王妃の息子である第一王子マルスを『神の名において』王太子と認め、祝福し『神の加護を与える』

 もうそれは誰にも止められないよ。そして、このルナ王女には現在信頼できる部下がそこの女騎士しかいない。彼女だって本来は騎士になるはずじゃなかった。

 騎士の家系でたまたま男子がいないから仕方がなく女騎士となっただけなのだ。つまり、今現在ルナ王女にはまともな騎士が一人もいないんだ、なあサリー」

 彼女も笑って前に立つと言った。
「今なら騎士団長の座が空いているぞ。しかも、特別に唐揚げ食べ放題だ、ほれ」

 そう言って奴の口に、自分のおやつ用にせしめておいた唐揚げを放り込むサリー。

 いや、それはどんなものだろう。買収の対価、裏切りの代償としては、さすがになあ。お前じゃないんだから。だが、奴は言った。

「むぐむぐ。おお、この唐揚げという奴は凄いな。まあ要するに、今、拒否したところで、どの道もう御仕舞いっていうところなのか」

「そういう事さ。この俺が王宮に乗り込んで、その話をして国王様が断ると思うのか? 第三王妃と国王の熱愛の関係、そして国王が唯一愛する妃との間に生まれたルナ王女とアルス王子をどれだけ大事に思っているのか、お前も知っているだろう」

 そして奴は諦めたような苦笑いをすると、こう言った。

「まあ、どの道情勢は決まっているので、自分を高く売るのなら今の内と言いたいわけだな。よかろう。わが剣をその姫君に捧げようではないか。その代わり、王女というか第三王妃のところの騎士団長の地位を忘れるなよ。もっとも先方が、国王がこの俺のような無頼の男を騎士団長として認めるとは思わんが」

「何、国王だってお前のように絶対に裏切らないだろう騎士団長は絶対に欲しいさ。何が悲しくて自分の王妃から別の自分の王妃を守るために、国王自らが直接守っていないといけないのだ。

 とりあえず、第三王妃を守る騎士団を創設するぞ。サリーとエルンストが出てしまったので、彼女は今も毎晩国王が自ら匿っているそうで、第三王妃への他の王妃たちの風当たりがますます強くなるだろう」

 俺の分析と宣言、に奴も苦笑いで返した。
「それで、その酷い有様のところへ、俺をたった一人で放り込むという訳だな」

「その通りだが、今なら美人の女騎士もいるから大丈夫だ」
 平然と自分で美人の女騎士とか言っちゃうサリー。

 案外と面の皮が厚いな。まあそれも唐揚げの要求っぷりを見ていればわかるのだが。

「まあ、今なら俺と下僕もいるのだから、とっとと決着をつけるぞ」

「はっはっは。では行こうではないか、この俺が紡ぐ、孤立無援の騎士団長武勇伝を打ち立てにな。それと唐揚げ食い放題の報酬は忘れないでくれよ」

 そして、その騎士団は後に『唐揚げ騎士団』と呼ばれるようになるのであった?
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