上 下
32 / 107
第一章 荒神転生

1-32 縁起物

しおりを挟む
 俺達も朝御飯を済ませた。俺はもちろん人間用の御飯にしてもらった。朝っぱらから焼き肉は勘弁してほしい。

 サリーは喜ぶかもしれないが。少々お上品な飯で量が足りないので、俺と鳥ども(ロイ除く)は朝から追加でコンビニ飯をがつがつと大量に食らっている。

「あ、唐揚げ発見。これは朝から縁起がいいですね」

 唐揚げがメニューに入っていたので、目聡くサリーが十個くらい持っていった。縁起がいいって、おまえ。まあいいんだけど、ほぼ終日馬車に乗ってばかりだから太ってしまわないか?

 鍛えているから基礎代謝が素晴らしいのかもしれないが。この間拝見した感じでは、写真集を出せるようなベビーフェイスの女子プロレスラーあたりと同じくらいの体ではないだろうか。

 それは、はっきり言ってたいしたものなのだが、かなり鍛えていても女の子は体質的になかなか筋肉だけの固い体にはならない。

 毎朝、一人で修練しているようだしな。どうせ、アレン達は早く起きないし。あいつらは実践オンリーというか、金にならない事は興味ないというか。

 まあ唐揚げが好きな女の子は胸が大きいという話を聞いた事があるが、あまり胸を育てると鎧を新調しないといけなくなるのではないだろうか。

 宿でお弁当を作ってもらってあったので、そいつを収納してから俺達は出発した。結構急いできたので先には進めたが、まだ三分の二以上旅程は残っている。

 何しろ、辺境から始まって王都まで馬車で行くのだから。俺だけなら半日で着けるのだが、乗客がそのスピードには絶対に耐えられないからな。

「まあ、焦らなくてもベルバードがいてくれるから、先制を食らう事はないだろうさ。頑張ってくれよ、ロイ」

 アレンの楽天的な声掛けにロイが答える。
『お任せください、アレン。お話を聞く限りでは、襲撃を受ける確率は非常に高そうですね』

 俺はそれを通訳してやり、アレンに話を振った。
「だってさ、アレン。そこからは、お前達の仕事さ」

「へいへい、任せてくれよ。あ、眷属だからって小遣いはもらうからな」
「わかってるさ。金にだけは困っていない」

 アレン達が大人しく俺の言う事を聞くのは、そういう理由もあるのだ。何しろ、俺はあの飴と鞭で黒小人どもにいう事を聞かせる事に関しては神々随一と言われるロキの息子なのだ。

 そのノウハウを目の当たりにして、あっという間に、その道のナンバー2へと上り詰めた。俺には取って置きの手があるものでな。黒小人どもはもう俺には逆らえないのさ、ふっふ。

 既にオーディンの糞野郎の威信を遥かに凌駕したはずだ。元々、黒小人なんて奴らには神々の威信なんてものは通用しないがな。はっきり言って実利一本の連中なのだから。

「ロイちゃーん」
「ぴー」
 新しいお友達の登場に幼いルナ姫の表情も、いつもにも増して明るい。

 いやあ、なんたってこのパーティときたら、まずは俺。真っ黒な巨大狼。もうこれだけで、この集団すべてがアウト判定されるのではないだろうか。

 確かに神々しく美獣ではあるのだが、何せ真っ黒な狼というだけで、初めて見る人の表情は引き攣る。かくいうルナ自身もそうだったのだ。そして肉食大型鳥魔物、その中でも一癖も二癖もありそうなのが三羽。

 さらにいかにもといった感じの、見るからに堅気の人間ではなさそうな三人組に、御車のヘルマスも冒険者ギルド・ギルマスが寄越した「とびっきり」なのだ。

 もうまともな人種がいないと言っても過言ではない。元々いたエルンストがいてくれたら、まだマシな構成になったのだが、彼は俺の収納の中で安らかに眠っているし。

 後は、金属鎧を着込んだサリーしかいない。元々のルナの護衛のわけだが、常に金属鎧着用の騎士なので、ある意味では一番濃い人物だ。

 俺とペアを組むと、こいつがまた一番異彩を放つ。兜を脱げば金髪美人なので、また違った意味でも目立つ。

 それに、お友達というには、お役目で傍にいる大人なので薹(とう)が立っている。あの村で遊べたことがルナにとって、いかに貴重な時間であったものか。厳しかった旅の中で、彼女の心を今も温かく包んでくれている事だろう。

『ロイ、ルナの事を頼んだぞ。その方面じゃあ、お前が一番頼りになりそうだ』
『お任せください、スサノオ様』

 このベルバードは、一度忠誠を誓った相手から一生離れないらしい。だから、あんなに元居た場所に帰りたがるのだ。

 お店にいる奴は別なのだが、彼らもまた忠義を示す相手をそこで待つのだ。この鳥を購入するには、ちょっとしたルールがある。

 無理強いはできなくて、なんとベルバードの方に拒否権があるのだ。強引に買い取っても、お互いに不幸になるだけなので、どんなに強引な客も買う時にはそのルールにだけは従うのだ。

 見かけは小鳥でも長生きする魔物なのだが、主人が後継に指名して、さらに自分を愛してくれる人間にしか忠誠を示さない。

 まあ人間でなくても、彼らの気に入る態度であるならば忠誠は示してくれるようなのだが。また恩義に報いる素晴らしい心根も持っているようだ。

 またルナのように好意を全面に押し出してくれるような相手は仲良くするのも吝かではないようだった。

 子供とは相性がいい魔物だそうで、子供の旅の安全を祈って、小さな子供のうちに買い与えたがる貴族なども多いそうだ。

『なあ、ロイ』
『お前は元のご主人様のところへ帰らなくてもよかったのかい?』

『私のご主人様は……あの盗賊どもに殺されてしまったのです。本当にいい方だったのに』
『そ、そうだったか、すまん』

『いえ、お蔭様でご主人様の仇は討てましたし、新しいご主人様にも巡り合えました。きっと神ロキの思し召しでしょう』

『はは、安心してくれ。今度のご主人様は、そう簡単には死なんよ』

 これで死ねない理由ができたな。オーディンの一族には十分気をつける事としよう。俺ってまだ大きくなるのかね。

 あまり育つと連中が警戒して、また妙なちょっかいをかけられかねん。さすがの俺も神々の一族、しかも主神の一族を相手にするなら骨が折れそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...