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第一章 荒神転生
1-29 小さなお客様
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『起きて。お願いだから起きてください』
何かが俺の耳元で囁いている。そしてつつくのだ。何か可愛らしい尖ったもので。
この口調はルナじゃあないな。そして敵でもなさそうだ。敵が来たなら、俺は飛び起きて戦闘態勢に入っていただろう。というか、話しかけてくる声は人間の言葉ではないようだった。
『んー、なんだ。敵も来ないんだから大人しく寝かせてくれよ』
『助けてください、フェンリル様。偉大なるロキの息子様よ』
俺は、仕方がないのでむっくりと体を起こした。人に非ざる者に父の名を口に出して懇願されちゃあな。
そして、俺の顔の傍にいたそいつは、その拍子に力なく転がりおちてしまった。俺は慌ててそいつを前足でそっと優しく拾い上げた。どうやら少し小さめの鳥のようだった。
『あ、悪い。大丈夫だったか』
『すみません。いつもならこんな事はないのですが、怪我をして弱っているのです』
ああ、本当だ。確かに血の匂いがする。よく見ると、羽根などに浅くない怪我をしているようだ。体が痙攣気味に震えている。
ヤバイな、これ。神に救いを求めてきた者を死なせてしまうわけにはいかん。父にバレたら雷が落ちるじゃあないか。
あの人って、そういう事にはすげえ煩いんだよな。これが政治家だったのなら地元から懇請に来た有権者には、どんなに忙しくても必ず会って話を聞くようなタイプなのだ。俺は当座しなければならない準備をしながら尋ねた。
『お前は何故ここへ?』
『はい、私はベルバード。あなた様の波動をキャッチしたので、お慈悲と御情けをいただきたく夜中に失礼と思いつつも、こうしてまいった次第でございます』
『ベルバード⁉』
俺達が探していた奴が、わざわざ向こうからやってきて、しかもこの俺に助けを求めているのだと。
『まず、その怪我を治そう』
そう言って俺が取り出したのは、ポーション。いわゆる、ヒールポーションだ。
魔物にも効くし、自分用に必要なのかどうなのかわからなかったが、ギルドで各種仕込んでおいたのだ。
瓶の口をきゅっと指の間に挟み器用に蓋を取ると、さーっとベルバードの体全体にふりかけてみた。
こういう物の用法・容量ってどうなのだろう。地球の医薬品のように、いちいちくどいほど書いてくれてない。というか説明書などついていない。
「そんなものは知っていて当然」の世界でありますので。まあちゃんと知っていないと死んでしまうような冒険者ギルドという部署での販売品なのだがな。
そいつは夜中に、きらきらとした光を全身から零れるように立ちぼらせ、瞬く間に回復したようだ。体が小さいのに、瓶一本分、全部使っちゃったからな。
『ありがとうございます。奴等から逃げる際に怪我を負ってしまって』
『奴ら?』
『私達を攫っている連中です。奴らはわたしたちの仲間を盗み、捕えているのです。皆大切にされていましたから、元の主人やお店に帰りたがって泣いております。私はベルバードには珍しく、魔法が使えましたので逃げてこれたのですが、逃げる際に傷を負わされまして、この有様です』
『どんな連中なのだい?』
『盗賊団ですわ。首領は、元軍の上の方にいた奴で、悪事がばれて追放されたため悪行を重ねています。あとは軍人崩れや冒険者崩ればかりを集めて手強いので、なかなか捕まらないのです。
お願いです。私の仲間を助けてください。それに、あいつらは他人のベルバードを奪い、自分達だけが所有する事で仕事をやりやすくしているのです。このままでは被害が拡大するばかりで』
『そうだったのか』
禄でもねえな。
まあ、狡賢いと言えない事もない。この馬の目を抜くような厳しい異世界では賢いと褒められる部類に入るのかね。だが、行かないわけにもいくまい。
俺は隣の部屋で寝ているヘルマスをそっと起こした。というか、起こす必要すらない。男衆四人は、俺の気配を察知して既に起きている。
さすがだな、サリーのようにポンコツな奴はこの中には一人もいない。あいつだって寝こけているんでなければ、それなりにやれる奴なんだが。俺は、男衆にかいつまんで説明すると宣言した。
「そういう訳で、ちょっと行ってくるので、ここの守りはよろしくな」
「任されました」
「また変な話を受けてきたもんだな」
「まあ神の子なんだから仕方がない」
「ついでに一羽うちに来てもらってくれよ、大将」
だが、俺の肩に止まっていたベルバードが言った。
『フェンリル様、仲間を助けていただけたのなら、私が御奉公させていただきますので』
「ウォーレン、こいつが来てくれるとよ。では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
まるで執事のように見送ってくれるヘルマスと、欠伸しながら布団に潜り込む三人を横目に俺は部屋をするっと抜け出した。
俺は器用なので、尻尾で音もなくドアを閉めていくんだが。しかし、あいつらめ、ブーツを履いたまま寝てやがるのか。職業病だな。
見上げた根性だが、絶対に水虫確定だな。今度いい薬を召喚するか。我が眷属どもに日本の製薬会社の加護を与えるとしよう。
何かが俺の耳元で囁いている。そしてつつくのだ。何か可愛らしい尖ったもので。
この口調はルナじゃあないな。そして敵でもなさそうだ。敵が来たなら、俺は飛び起きて戦闘態勢に入っていただろう。というか、話しかけてくる声は人間の言葉ではないようだった。
『んー、なんだ。敵も来ないんだから大人しく寝かせてくれよ』
『助けてください、フェンリル様。偉大なるロキの息子様よ』
俺は、仕方がないのでむっくりと体を起こした。人に非ざる者に父の名を口に出して懇願されちゃあな。
そして、俺の顔の傍にいたそいつは、その拍子に力なく転がりおちてしまった。俺は慌ててそいつを前足でそっと優しく拾い上げた。どうやら少し小さめの鳥のようだった。
『あ、悪い。大丈夫だったか』
『すみません。いつもならこんな事はないのですが、怪我をして弱っているのです』
ああ、本当だ。確かに血の匂いがする。よく見ると、羽根などに浅くない怪我をしているようだ。体が痙攣気味に震えている。
ヤバイな、これ。神に救いを求めてきた者を死なせてしまうわけにはいかん。父にバレたら雷が落ちるじゃあないか。
あの人って、そういう事にはすげえ煩いんだよな。これが政治家だったのなら地元から懇請に来た有権者には、どんなに忙しくても必ず会って話を聞くようなタイプなのだ。俺は当座しなければならない準備をしながら尋ねた。
『お前は何故ここへ?』
『はい、私はベルバード。あなた様の波動をキャッチしたので、お慈悲と御情けをいただきたく夜中に失礼と思いつつも、こうしてまいった次第でございます』
『ベルバード⁉』
俺達が探していた奴が、わざわざ向こうからやってきて、しかもこの俺に助けを求めているのだと。
『まず、その怪我を治そう』
そう言って俺が取り出したのは、ポーション。いわゆる、ヒールポーションだ。
魔物にも効くし、自分用に必要なのかどうなのかわからなかったが、ギルドで各種仕込んでおいたのだ。
瓶の口をきゅっと指の間に挟み器用に蓋を取ると、さーっとベルバードの体全体にふりかけてみた。
こういう物の用法・容量ってどうなのだろう。地球の医薬品のように、いちいちくどいほど書いてくれてない。というか説明書などついていない。
「そんなものは知っていて当然」の世界でありますので。まあちゃんと知っていないと死んでしまうような冒険者ギルドという部署での販売品なのだがな。
そいつは夜中に、きらきらとした光を全身から零れるように立ちぼらせ、瞬く間に回復したようだ。体が小さいのに、瓶一本分、全部使っちゃったからな。
『ありがとうございます。奴等から逃げる際に怪我を負ってしまって』
『奴ら?』
『私達を攫っている連中です。奴らはわたしたちの仲間を盗み、捕えているのです。皆大切にされていましたから、元の主人やお店に帰りたがって泣いております。私はベルバードには珍しく、魔法が使えましたので逃げてこれたのですが、逃げる際に傷を負わされまして、この有様です』
『どんな連中なのだい?』
『盗賊団ですわ。首領は、元軍の上の方にいた奴で、悪事がばれて追放されたため悪行を重ねています。あとは軍人崩れや冒険者崩ればかりを集めて手強いので、なかなか捕まらないのです。
お願いです。私の仲間を助けてください。それに、あいつらは他人のベルバードを奪い、自分達だけが所有する事で仕事をやりやすくしているのです。このままでは被害が拡大するばかりで』
『そうだったのか』
禄でもねえな。
まあ、狡賢いと言えない事もない。この馬の目を抜くような厳しい異世界では賢いと褒められる部類に入るのかね。だが、行かないわけにもいくまい。
俺は隣の部屋で寝ているヘルマスをそっと起こした。というか、起こす必要すらない。男衆四人は、俺の気配を察知して既に起きている。
さすがだな、サリーのようにポンコツな奴はこの中には一人もいない。あいつだって寝こけているんでなければ、それなりにやれる奴なんだが。俺は、男衆にかいつまんで説明すると宣言した。
「そういう訳で、ちょっと行ってくるので、ここの守りはよろしくな」
「任されました」
「また変な話を受けてきたもんだな」
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だが、俺の肩に止まっていたベルバードが言った。
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「ウォーレン、こいつが来てくれるとよ。では行ってくる」
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まるで執事のように見送ってくれるヘルマスと、欠伸しながら布団に潜り込む三人を横目に俺は部屋をするっと抜け出した。
俺は器用なので、尻尾で音もなくドアを閉めていくんだが。しかし、あいつらめ、ブーツを履いたまま寝てやがるのか。職業病だな。
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