フェンリル転生 神の子に転生しましたが残念な事に魔法が使えません、魔道具と物理で頑張ります

緋色優希

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第一章 荒神転生

1-24 戦いの決意

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「はあ、俺はなんてついてないんだろう」

「まだ言っとるのか、アレン。いい加減に諦めるんだな、往生際の悪い。さあ、ルナ姫様達に自己紹介をしろよ、お前ら」

「俺はアレン・マルーク」
「グレン・マルークです」
「ウォーレン・マルークだ」

 そして、そんなやり取りをなんとも言えないような顔で奴らを見ているヘルマスとサリー。

「やれやれ、さすがは神の子でございますな。まさか、あの有名なマルーク兄弟を容易く眷属にしてしまわれるとは」

「知っているのか、ヘルマス」

「少なくとも、あなた様がおられなくば、我々とルナ姫ご一行様の命運は間違いなく一刻と要さずに、この荒野にて尽きましたでしょう。

 しかし、彼らは仁義に厚い者達で頑固に仕事を選ぶので有名です。金では決して転ばない。本来であれば子供の暗殺などに手を染めるような者達ではないはずなのですが、何か訳ありなのでございましょう。

 しかし、これは非常に幸い。何故なら、こやつらがこちらについたならば、そうそう我らに危害を加える事は難しくなりました。不幸中の幸い、いや災い転じて福となすといったところでございましょうか」

 そいつはラッキー! いや、俺は神の子なんだから、これくらいの展開は当たり前だよな。いや、単に『知略の神ロキの息子』ってだけかね。それと目をキラキラさせて連中を見ているルナ姫様、そしてグリー達。

「ルナ姫様、こいつらは襲ってきた敵だったけど、俺の下僕になったから、これからよろしくね。ルナ姫様にとっても召使いみたいなもんだから」

「わーい」
「げげっ、なんでそうなるんだよ。強面な第一王妃を裏切り、その次の勢力である第二王妃を通り越し、弱小第三王妃の姫につけというのか。冗談じゃねえぜ! 命がいくつあっても足りねえ」

「心配するな、アレンよ。お前らには俺の加護をしっかりつけてあるから、そう簡単には死なないさ。手足が全部もげようが、体が半分無くなろうがな。奴らに捕まって拷問やお仕置きを食らおうとも、簡単には死ねない体になっているから」

「うわー、勘弁してくれー。そんなもん、なお悪いわ!」
 頭を抱えて蹲るアレン。だが俺は遠慮なく追い打ちをかけてやった。

「なお、俺やお前らが味方につくのは、このルナ王女だけじゃあねえんだ」
「なんだと!」

「ルナ王女の弟君、つまり跡継ぎの王子様にもな!」
 それを聞いて、全員が目を丸くした。ただ一人ヘルマスを除いては。

 聡明な彼だけは、こういう結果になると思っていたのだろう。俺は彼に向かって耳を立てウインクすると、彼も鍔付き帽子を取って軽い会釈で挨拶してくれる。

 いいねえ、こういう阿吽の呼吸というものは。本当は彼こそ眷属に欲しい人材なのだが、それはこのように真摯に仲間としての振る舞いをしてくれる彼に対して、いくらなんでも失礼過ぎるので絶対に無しだ。

「ば! 冗談じゃねえぞ。そんなの無理に決まっているじゃねえかよ」
「そうだよ、スサノオ様。もうあの王子は隣の国にやるって約束になっているんだから」
「国全部、いや他の三国と合わせて四か国を、俺達だけで敵に回すつもりなのか!」

「ウエーハッハッハッハッハーー‼」
 だが俺は盛大な高笑いをご披露した。

 パチンコで連続確変大当たりをした時に思わずやってしまって周りの客全員から苦笑いをされて注意を受ける、得意のアレな笑いなのだ。こいつだけは神の子に転生してもやめられない。

「それがどうした。俺は神ロキの息子、フェンリル様だぜ。俺の体は最強だー」

 だが、顔中に垂れ線のスクリーントーンを貼り付けた他の二人とは違い、ウォーレンの奴が口をはさんだ。

「だが、そいつはおかしいんじゃないのか? だってフェンリルは、その力を恐れたオーディンの息子に一度殺されたはずなのでは。何故今ここにいるのだ。それはもう伝説の中、神話の世界の遠い遠い昔の話なんだぜ」

 なんだとー? 将来起きるラグナロクで、オーディンを食い殺して、その後で顎を踏まれて蹴り殺されるのではないのか。

 この世界は一体どうなっていやがる。地球の伝説とはまったく違う世界なのだろうか。しかし、皆はフェンリルの名と姿を知っていたわけだしな。

 神話や伝承などにそういう逸話があったという事なわけか。この世界では地球とは異なり、その手のものは実在したお話なのだ。

 すると、まさかこの体は新造品ではなく、以前死んだというロキの息子で本物のフェンリルの肉体だったのか!?

「だが、俺がロキの息子として強大な力を持っている事には違いないのさ。大体、このままルナ王女を連れ帰ったって、またお前らみたいな連中が来るだけじゃねえかよ。

 それにルナだってまだ小さいんだ。お母さんと一緒にいてえはずだ。まだ赤ん坊である弟王子だってな。それに母親の第三王妃も、おそらくは国王自身も子供達と一緒にいたいはずだ。跡目争いには心を痛めているんだろうさ。

 やってやろうじゃねえか、この神ロキの息子であるフェンリルのスサノオ様がよ。それこそフェンリルたるものが、神の息子としてのカムバック第一弾として相応しい狼煙だぜ」

 それを聞いて、さらに絶望的な表情と顔色になる三匹。

「おいおい、どうするんだ、これ」
「でもアレン兄貴。俺達に拒否権は一切ないんだけど」
「らしいなあ。ああ、短い人生だった」

 そんな連中を捨て置いて、サリーは真剣な顔で尋ねてきた。
「本当にそれでいいのか、スサノオ殿」

「ああ、構わんね」
 俺は、あっさりと間髪を入れずに言い切ってやった。

 彼女は、少し目を伏したような柔らかい笑みを浮かべた。こんな顔をするのは初めてだな。いつもどこか厳しいような張り詰めたような表情をしていた。

 そして、むしゃぶりついてくる幼女姫。大粒の涙を零しながら俺の毛皮に縋りついてくる。
「スサノオ、スサノオ。大好きだよ、あたしの親友、あたしのフェンリル」

 可哀想に。ずっと本音は隠して諦めて、我慢していたのだ。我儘も言わずに、家族のために大人びた振りをして遠い遠い隣国まで、碌に伴もつけてもらえないのに。

 幼女にはあまりにも厳しかっただろう。挙句に魔物なんかに殺されかけて。だが彼女は一国の姫として、常に毅然とした態度で臨んでいた。

 俺はそんな誇り高い真正の王女である彼女の事が大好きだった。ルナ、俺の大親友。この真っ黒な黒狼の怪物である俺を親友と呼んでくれた、この世界で最初の友達。

「俺はお前さんの従魔さ、そしてそこには、ちゃんとお姫様の騎士もいるんだぜ」

 そう、結局俺のたっての希望で、この従魔としての俺の主人は正式にギルドにてルナを主として登録してあるのだ。この事実だけで、俺がこの問題に介入する大義名分となる。

「さあ、戦いの狼煙を上げるぞ。狼だけにな! もう野営なんぞはしない。主である姫君を宿にも泊められないなんて従者の風上にも置けんからな。

 聞くがいい、各々方よ。この神の子の神々しい咆哮を。我らは今、この荒野に誓わん。この糞くだらねえ諍いに終止符を打ってやろう。神の子の力をもってしてな」

 そして、俺はあらん限りの力をもって、この荒野の隅々まで、そして王都へさえ届と言わんばかりに神の子の魔力を込めた、偉大なるフェンリルの雄叫びを響かせたのだった。
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