上 下
22 / 107
第一章 荒神転生

1-22 荒野の用心棒

しおりを挟む
「それで、どうするんだい?」
 俺は更にひっくり返って、お腹を見せてやった。

 可愛く逆さの格好から上目遣いだ。犬族狼族からしてみれば、これは普通ならば全面降伏の印なのだが、奴らはそうは受け取るまい。

『お前らなんかの相手はこの体勢で十分だぜ』
 そのような挑発と受け取った事だろう。

 だがこれは、そうであるような、またそうでないようなものなのだが。ちょっと、こいつらの事を試してみたくてな。

「どうっていう事もないんだが、俺達も単に仕事を請け負ってきただけなんでなあ」
 頭をかきながら、そいつは馬車の屋根から降りてきて、俺の目の前にしゃがんだ。

 いい度胸だ。さっきの俺の技を見ながら、そんなところに立っているとは。

 俺は奴が上にいる間に馬車を収納して、こいつをずっこけさせてやろうかとも思ったのだが、それくらいの事でずっこけてくれるような可愛げは持ち合わせていないだろうから、そいつはやめにした。

 そして今、馬車は収納してみた。
「へえ、収納を使えるのか。便利な狼の従魔だな」

「ほお。お前らって収納の能力は持っていないのか?」
「貴重なスキルだからな。なあお前、俺の仲間にならないかい」

 おっと、そう来たのかよ。神の子を荷物持ちに抜擢しようとは、なかなか生意気な野郎どもだな。なら俺も遠慮なく言わせてもらうとするか。

「まあ、今の仲間がいなかったら考えたかもしれんがなあ。それより、お前こそ俺の仲間にならないか。いや、冒険者を雇いたいんだが、裏切られるとマズイんでな。お前らみたいなプロを雇いたいと思っていたんだがよ」

 この言い草には、さすがに奴らも全員が笑った。案外と陽気な連中なのかもしれん。

「おいおい、聞いたか、兄貴」
「ああ、聞いた聞いた」
 スキンヘッドが痩せぎす長髪に言った。そっちが兄だったか。そしてなお、陰気野郎が言った。

「なあアレン兄貴。こいつ、こんな事を言っているんだけどさ。思わず、その要求を飲んでしまいそうなくらい受けたわ。いや、参ったね。このワンちゃんと来た日にはよ」

 三兄弟だったのか。ありがちだが、同じ親から生まれたなら皆強いのも納得できるわけだ。
「はっはっは、グレン。そいつも悪くないんだがなあ」

 そこからアレンは立ち上がると、頭をかきながら生真面目な顔付きで俺を見下ろしながら言った。

「すまんな、狼。俺達も契約っていうものがあってなあ。そいつは出来ない事になっているのだ。お前の事は凄く気に入ったのだが、悪く思うな」

「いやあ、お前らの、そこいらへんのしっかりとした考え方ってものが、ますます気に入ったわあ。じゃあ、遠慮なくいかせてもらおうか」

 俺は寝ころんで、両手両足を広げて寛いだまま、弛緩したのんびりした空気の中で言った。

『神の子に隷属せよ、人の子よ。エル・バルム・エキソドス・グム・エンブレム・ロキ。偉大なるロキの一族の名において、汝を神の軍勢に徴用する。

 我が名はスサノオ、ロキの息子フェンリルである。我ら最強の巨人族の名において戦士の誉と加護を与えよう。

 我が戦士アレン・グレン・ウォーレン。人の子よ、我が僕よ。神の名において汝が使命を果たせ。この契約はこの荒神武の魂による契約であり、この世界の人の子にはけして抗う事はできぬ』

 ここでいう加護は、ルナに与えているものとは違う。あれは俺がルナを守る騎士になるというような、本当の意味での加護。こっちは眷属として俺の力を与えるという意味での、逆のような意味合いなのだ。

 彼らは驚愕して、とっさに契約を躱すために動こうとしたが、それは叶わなかった。連中、俺をちょっと甘く見過ぎだよな。

 何故なら異世界の魂の波動は、この世界の人間には拒絶する事はまず不可能なのだ。高位というか、異質というか、それを中和する事は不可能な代物なのだ。

 しかも神のエンブレムによる拘束なのだから。ロキのファミリー・スペルを唱えたので、こいつらは生きている限り、俺の眷属なのだ。

 もちろん見返りとして眷属の力を与えないといけなくなるわけだが、こいつらの力はなかなかのもの、しかも心根はそう悪くない。この状況で殺してしまうのは、あまりに惜し過ぎた。

「がはっ、フェンリルだとおっ。相手に神の子がついているなんて聞いてねえぞ。なんで従魔証なんか首にぶらさげているんだよ。詐欺だ」

「アレン兄貴、どうするんだ、これは」

「グレン兄貴、無理だ。神との契約はいかに俺達マルーク兄弟といえども破る事はできない。これはもう諦めるしかあるまい。そこのフェンリルは何かが普通と違う。契約を反故にできる気がまったくしない」

 俺はのそっと起き上がると、またしても得意の『へっへっへっへっ』をご披露し、奴らに言った。

「お前ら、案外と情弱だな。俺も結構あちこちで正体をバラしてきたんだがなあ。まあいいさ。いやあ、助かったぜー。ちょうど、お前らみたいな子分が欲しくてしょうがないところだったのよー。さあ神の子の伴をせよ、三匹」

 なんていうかさ、人数的に荒野の七人っていうよりも『三匹』の方じゃね? こいつらも、三銃士っていうほどパリっとしていなしな。

 がっくりと項垂れた連中に、さっそく仕事を申し付けた。
「さて一番の仕事として、うちのルナ姫様をお迎えに上がるぞ。ついてまいれ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

人類の中“では”最強の軍人、異世界を調査する

yasaca
ファンタジー
「今日限りで辞める」 そう告げたのはパラミリタリーに所属するアーロ・ガルシア。彼はある任務達成の為、錠薬を飲み、異世界へと調査に赴いていた。 一ヶ月という短い期間でパーティーを抜けた彼は、1人で依頼をこなしている途中でアレシアという槍使いの少女と仲間になった。 混乱に巻き込まれながらも彼は任務のために進み続ける。 だが、これは誰にも口外されてはならない調査。もし、されてしまえば現実に戻ることは不可能。 ※この話は小説家になろうでも掲載しています ※表紙はTwitterのフォロワーさんである志茂塚ゆり(@shimotsukayuri)さんが描いてくださいました!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...