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第一章 荒神転生

1-6 ダンスGOGO

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 俺は納屋の中に敷き詰められた、新品のいい匂いのする麦わらに転がり、気持ちのいい時間を過ごした。

  やはり獣であるので、こういうものが辛抱たまらない。あっちにゴロゴロ、こっちにゴロゴロとお楽しみ中だ。だが、納屋の戸を元気よく開けた奴がいた。ルナ姫様だった。

「スサノオーっ。見てー」
 よく見ると、お着替えして村娘の着るような服を着ていた。

 いけねえ、荷物はお姫様の着替えを含めて全部俺の収納に入れたままだった。御世話係は目を覚ます気配もないしなあ。

 お姫様、村娘になる。

 まあいいか、本人も楽しそうにくるくると踊ってなさるし。俺も一緒に二本足になり楽しく踊っておいた。

 高校の体育祭とか思い出すねえ。この納屋は丸木そのままが梁になっており、天井が高いので俺も踊れちゃう。

 普通の狼は家猫と違って二本足で踊らないけどね。あいつら、本当に二本足で立ち上がって踊るの好きだよな。

 一頭だと踊らないけど、その辺も猫を多頭飼いする魅力だ。飼い主の前では絶対に踊らないので、隠しカメラで撮影しないといけないが。そんな感じで楽しく踊っておいた。

 いつの間にか、村の子供もたくさん混じってきて狼DJの子供ディスコになってしまった。というわけで、俺の秘密兵器の登場だ。

 例の草薙、ロキの鎧を作ってくれた黒小人を酷使して作らせたマジックアイテムがあるのだ。その名もアポートボックス。

 その名の通り、アポート(物体引き寄せ)をしてくれる箱なのだ。略してアポックス。この世界と地球の二つの世界のどちらかからも物体を引き寄せてくれるが、それには制限がある。

 そいつをきちんとイメージできるものでないといけない。見たり触ったり食したりしたものなら、その引き寄せの質も上がる。

 魔力で起動しないといけないのだが、この神の子の体は魔法を使えなくても魔力はたっぷりとあるので、楽勝で使える。

 こいつは生き物を召喚できない。生き物は生命力が抵抗になるので引き寄せられない。収納も同じような理屈で生き物は収納できない。

 一種の召喚魔法なので、これが人間だと異世界からの召喚儀式に関わった神官が疲労というか生命力が枯渇して三十人くらい死んでしまいそうな気配がするのだが、俺は神の子なので使い放題だ。

 あまり使う必要はないんだけどね。凄い手間がかかるので黒小人どもが文句垂れまくりだったのだが、神の子特権、死神から与えられた我儘言い放題の特約付き転生なので、父から強引に命令していただいた。奴らがもうボヤく事、ボヤく事。

「くそう、覚えてろよ、ロキ~」
「ロキの息子、手前もだあ、この糞犬があ」

 そして、俺はそんな小人どもを足で踏み、楽しくぐりぐりしながら仕事に勤しませたのであった。その甲斐あって素晴らしい性能だった。

 さっき納屋でかけていた音楽はCDラジカセで鳴らしていたのさ。子供向けアニメの主題歌だったので、もう子供ホイホイよ。

 俺が悪い狼なら赤ずきんちゃんなんか食べ放題だぜ。だが気をつけないといけない。SNSなんか見ていると、最近の赤ずきんちゃんのトレンドとして『武装赤ずきん』の流れがあるらしい。

「可愛い赤ずきんちゃん、あーん」などとやろうものなら、可愛い真っ赤なケープの下から銃身を詰めた、象撃ちライフルの460ウエザビーライフルなんかが一瞬のうちにスパっと出てきたっておかしくない。

 そして巨大な銃口を突き付けた、今まで狼を千頭くらい仕留めていそうな感じで赤ずきんの奴が不敵に笑って、こう言いやがるのだ。

「ふっ、年貢の納め時だな、狼(ろきのむすこ)よ」

 そして発射される強力な弾丸。しかも高純度純銀を用いたシルバーチップの至近弾だ。体内で弾ける圧倒的パワーで撃ち込まれる破邪の力。

 新月時分のワーウルフあたりだったら一溜まりもねえぜ。スパッツを履いて、手に下げた可愛らしい意匠の籠に、異様で奇形的な形状をした超大型ライフルの巨大な弾薬を大量に隠し持っている、油断なく周りの気配を探っている赤ずきんに会ったら要注意なんだぜ、御同輩の狼達よ。

 いや、しかしここにはそんな物騒な武装赤ずきんはいないので、ジュースを取り寄せて配っておいた。

 みんな踊りまくって汗をかいたからね。さっきは飴を取り寄せて配ってやろうと思ったんだが、ジュースの方が先になってしまった。

 みんな、プルトップの開け方がわからないようだったので、お手本を見せてやった。

 俺って狼の前足なのに、何故こんなに器用なんだ。パソコンくらいは楽々に打てそうな気がする。必殺のぷにぷに肉球キータッチ!

 これが知っている商品なんかだと簡単に取り寄せられるんだが、知らない商品だとアポックスで検索しながらの闇鍋的なお取り寄せになるんだよね。

 今度父にインターネットを強請ってみようかな。どうせ、魔道具頼みになるので、また黒小人が文句を言いそうだ。

 過労死とかされると少し面倒なのだが。昔も父があまりにもこき使いすぎて、二~三人死んだら物凄い反乱が起きた事があったそうで。

 もっとも一瞬のうちに兄妹達の手で鎮圧されてしまったそうだが。以来奴らはまた激しく下僕一直線の日々らしい。

 飴の加減が一番難しいようで神々も奴らの扱いには苦労しているらしい。父はそのあたりの飴と鞭の使い方が非常に上手い。だから俺も魔法装備には事欠かないのさ。

 しばらく滞在する事になったので、滞在費用の代わりに金貨を払っておいた。姫様も持っていたのだが、ここは俺の奢りだぜ。

 何しろ、親が神なのだ。この世界でも加護を求め、神に捧げ物やお賽銭を捧げる人間が後を絶えない。

 買い物などする必要のない神は常に世界最高の大富豪なのだった。俺達神の息子も当然お小遣いはもらってある。

「人間の金は、わしらのところなどに滞っておってはいかん。お前も暇を見て、金の回っていなそうなところに配ってこい。元人間のお前なら、そういうところも詳しいだろう。そういう面では、他の息子娘はあまり役に立たん」

 というわけで、俺は特別に大枚預かってきているのだ。俺の兄弟姉妹はたくさんいるらしい。いかにも神話の世界の神だよな。気が向くと子供を作っちゃうし。

「いや、神の息子様からお金をいただくなど恐れ多い」と村長は恐縮していたが、蜘蛛の件では迷惑をかけているのだし、ここは受け取ってもらっておいた。

 あと、姫様の事もある。この村にお姫様をもてなせる実力があるとは思えないが、それなりの待遇をしてもらわねば。

 それに、ここはもう姫様の国に入っているそうだから、あの子には辺境の暮らしを学んでいただくも悪いものではあるまい。

 ついでにルナ姫様ご一行の大蜘蛛退治の伝説を築こうぜ。あの女騎士、早く起きないかな。あいつも、たった一人の護衛なんだから活躍させねえと、やられっぱなしのままじゃ格好がつかんだろう。

 あいつが一人だけで護衛をしているのは、訳ありなんだろうからな。少しは活躍させておかないと、何かまずそうだ。

 そのあたりの証拠を見せようと思って、すでにビデオカメラ一式取り寄せてあるのだ。今のところ、村の子供達の玩具になりさがっているのだが。

 何故異世界の辺境の村人の子供が、簡単な説明だけで、三分で現代の電子機器を使いこなせているのだろうか。

 まあ、普通に使うだけなら難しいものではないのだが。基本操作は馬鹿でも使えるようにできているんだからな。

 それが何なのか、そしてなぜそんな物が存在するのか、と村人なら当然のように悩むところなんだが。好奇心は何よりも勝さる向学心の調味料のようだった。まあ所詮は「子供だから」の一言なのだが。
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