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大星霊を求めて

獣人でなかったら

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黒い枷で

「いよいよお前らとも決着をつける時が来たな!ガルドバンドでは仕留め損なったが果たして俺に勝てるかな?」
「同じ獣人族として貴様は私の手で倒させてもらう!」
「最初から全力で行くぜ!ダルトロス、神衣コンタクト!」

ダルトロスとの神衣コンタクトによりアスベルの両腕に鉱石のガントレットが装備された。

「ほぉ~小僧、新しい力を得たようだな?」
「これが大星霊ダルトロスの力だ!真っ向勝負の打撃戦で倒してやる!」
「面白いっ!人間が獣人族にパワーで勝てると思うなよ!ベアァァー--!!」
「うおぉぉー--!!」

開始早々雄叫びと同時にガルシアとアスベルの拳がぶつかり合う!
互いに衝撃で弾かれた形になったが、ガルシアの方が早く態勢を整えるとすかさずアスベルに襲い掛かっていく。
ガルシアの強力な爪の攻撃をアスベルは両手でしっかりガードする。

「ぐぅ~!こいつは人間の耐久力じゃねぇな!」
「ダルトロスの力は攻撃だけじゃなく防御力も上げてくれるんだ。喰らえっ!」
「ぐおぁぁっ!!」

攻撃の合間を縫ってアスベルは右ストレートをガルシアの身体に打ち込む。
壁に激突したガルシアだが、すぐに起き上がってくる。

「良いパンチだ!だが、これならどうだ!雷爪撃!」

ガルシアの手から放たれた雷の斬撃を避けるも、その隙にガルシアは間合いを詰めて飛び蹴りを放つ。
なんとか手でガードをするも、今度はその勢いでアスベルの身体が壁に激突する。
追撃をしようとするガルシアに今度はレオグスが棍棒で攻撃をする。
それを躱すガルシア。

「私がいることを忘れるなよ?」
「あぁ、そうだったな。フン、上等だ!本能の獣人と理性の獣人、どちらが強いか勝負だ!」

ガルシアとレオグスによる技の攻防が繰り広げられる。


互角に見えるが、ガルシアの方がスピードが速くレオグスが捕らえきれていない。
更に攻撃の手数が増し、徐々にレオグスの身体が押され始める。

「どうした?偉そうな事を言っていた割にその程度か?」
「なんの、まだまだこれからだ!」
「ならこれならどうだ!奥義<突きの輪グマ>!」
「がはっ!?」

ガルシアの渾身の拳がレオグスの腹をえぐる!
さらに追撃をしようというところに、飛んできたアスベルの拳がガルシアの顔面に入り巨体を吹っ飛ばす!

「レオグス!大丈夫か?」
「あぁ・・・すまぬ、心配は無用だ。」
「あいつ、見た目に反して動きが速いな・・・。なんとか動きを封じないと。」

さっきもそうだったが、このガルシアは何気に動きが速いのだ。ただ攻撃が強いだけならここまで苦労しないのだが、あれが野生の力なのだろうか?

「やってくれるな、小僧!さあ来いっ!」
「アスベル、私が盾になる。お前は攻撃に集中しろ。」
「分かった!二人で闘おう!」

再びアスベルとガルシアの殴り合いが始まった。
ガルシアはヒット&アウェイを得意としているようだ。
攻撃をしてはすぐ間合いを取ってアスベルの攻撃を避けるが、レオグスが間に入り攻撃を防ぐことでアスベルは攻撃に集中でき間合いを詰めるスピードが上がる。

「フン、コンビネーションで来るか、いいだろう!獣人の野生の力見せてやる!野生開放、逆鱗グマ!!ベアァァァー--!!」

咆哮を上げたガルシアの身体が赤く染まると打撃の嵐がレオグスに降り注がれる。
レオグスが必死に防御態勢でガードすると、ガルシアの身体を掴みにかかる。

「くっ!貴様なんのつもりだ?離せ!」
「アスベル、やれ!」
「うおぉぉー!掌底岩!追撃の連撃岩!」

レオグスに掴まれ身動きの取れないガルシアに次々に打撃技を繰り出し叩き込んでいく。
今度はガルシアにもしっかりダメージが入る!よし、いける!

とアスベルが思ったさなか、突如大きな音と共にアスベル達の足元の床が崩れる!
下で闘っていた兵士の譜術が飛んでいるイベリアに当たらず、誤爆したのだ。
衝撃でガルシアを掴んでいたレオグスもその手を離してしまう。

「やべっ!」
「隙ありっ!死ねぇ~突きの輪グマー--!!」

バランスを崩したアスベルに奥義の構えで飛び込むガルシア。

「させるかぁー!重弾棍!!」

レオグスの振り抜いた棍棒がガルシアの爪を弾く!
衝撃でガルシアの突き出した爪が粉々に砕ける!

「今だっ!アスベル!!」
「喰らえっ!ロック・ジャイロ!」
「ぐあぁぁ~~~!!」

アスベルの渾身の拳の一撃がガルシアにヒット!
ガルシアの身体が空中に大きく舞い上がると、そのまま下の階の戦場に落下する。
地面に激突して仰向けになったまま動かないガルシアは2階から見下ろしているアスベル、レオグスと目が合う。

「俺は負けちまった・・・か・・・。ちっ、良いコンビネーションしやがる。人間と獣人族があぁも手を取り合えるとはな・・・。」

俺は、貴族の多い街に生まれ、生まれた時から人間やエルフどもに蔑まれてる人生が始まった・・・。人間は俺を気味悪がったり、怪物と呼び、魔物どもは俺を人間世界で生きる権利を持つ異端児として受け入れてはくれなかった。
そう、獣人族なんてのは人でも獣でもない、中途半端な怪物なんだと俺は学んだ。

だったら望み通り支配してやるよ!

何もしなくても恐れられ、石をぶつけられ、仲間に入れてもらえねぇ!
そんな俺の絶望を人間どもにも与えてやる!

・・・なんで俺は仲間になれないんだ?!なんで誰も友達になってくれねぇんだ?!
俺が一体何をお前らにしたっていうんだ?!

俺が・・・獣人族じゃなかったら・・・友達たくさんできたのかなぁ?

あいつらみたいに手を取り合って、助け合って生きていけたのかなぁ?

ガルシアは目を閉じてそのまま起き上がることはなかった。

「ガルシア・・・お前の言うことは決して間違いではなかった。確かにこの世界で生きる多くの獣人族が差別や偏見に苦しんでいる。その差別の歴史を変えていくことは決して簡単なことではないだろう。しかし、だからと言って人間を殺し、恐怖させることが問題の解決にはならん。ある意味それは考えを放棄したもっとも甘い楽な道なのだ。」
「獣人族が差別を受けるのは獣人族たちのせいじゃない。俺達、人間だって変わらないといけないんだ。弱い立場の者が一方的に悪く言われる社会こそ悪なんだ。」
「ガルシアよ、もし生まれた場所が違えば・・・、出会いた人間がアスベルやメイヴィン隊長のような人物であれば、お前の故郷の貴族がシェリーのような心を持った貴族であれば、お前の人生も違ったものになったのだろうか・・・?」

俺とレオグスの声は戦場の音に掻き消され、ガルシアには聞こえていないだろう。
いや、聞こえたとしてもすでに死んでいるガルシアに届くとこはなかったかもしれない。

俺とレオグスは、自分が獣人に生まれたことを悔やんだまま死んでしまった、ガルシアの悲し気な顔をこの先ずっと忘れないようにしようと心に誓った。

~to be continue~

【後書き】
ガルシアとの決着がつきました。
ガルシアは幼少期に迫害を受けただけでなく、両親を裁判で逮捕されました。内容は事実無根でしたが相手が貴族だったため有罪となってしまいました。
この事がきっかけでガルシアは街を出て闇ギルドに所属していたところをパンドラにスカウトされ、ナイトメアマスターズとして活動を始めました。
ガルシアの背景は書く場がなかったので裏設定をここに記載しました!












「アスベル、色々と聞きたいこと試したいことはあるだろうが、まずはこの火山を出ないか?ミカエラがもう暑さでやられてしまっている。魔力も切れてしまったようだしな」

見ると、ミカエラはすでにへばって声も出さない。
あれ、エリーゼがいないな?どこ行ったんだ?

辺りをキョロキョロしていると、エリーゼが手を振って戻って来る。

「エリーゼ、どこ行ってたんだ?」
「暑すぎてお水沢山飲んでたらちょっと・・・あ、あんまり聞かないでくださいよ・・・先輩のえっち・・・」

そう言ってエリーゼは顔を赤らめるとモジモジし出す。

「ギョッ!?」

振り返るとシェリーとミカエラがゴミを見るような目で俺を見ている!?
ミカエラなんて暑さのせいか、もう目が死んでる!いつもの可愛げのある幼女の瞳は影も形もない!
いかん、また変態扱いされてしまう!

「わ、わ、わ、分かった。とにかく全員揃ったしいったん出よう!」
「ところでオリビア様、先ほどあなたが張っていた結界はあなたがいなくなっても維持されるのでしょうか?それに魔物が強くなってしまう懸念が・・・」

シェリーが不安げな表情でオリビアを見る。
が、オリビアはニコッと笑うと、

<それは大丈夫です。結界自体は維持されますし、それに私がここを離れれば火山に満ちてる譜素の力もかなり弱まります。たとえ譜素を吸収しても魔物を強くすることはないですよ>

まぁ、枷を着けた魔物は粗方倒したし、そういうことなら大丈夫だろう!

安心した俺達はグーザス火山を後にした。

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火山を出ると、例の兵士二人が心配そうに迎えてくれた。
ギガルダが暴れていたことや、その原因が以前火山を訪れた男(オリビアが見た男の特徴は頬に切り傷があり手刀で闘うらしい)の仕業だったこと、そして火山の活性化はもう収まったことを報告すると、急いで彼らは地元の駐屯兵団に連絡を取ってくれた。

大星霊を連れていくことで何かしら街や資源に影響がないか心配をしたが、オリビア曰く今までいた場所の譜素が減少する程度で、生活や環境に影響はないらしい。

「それにしても、結局駐屯兵を殺した犯人だけは最後まで分からなかったな」

帰り道シェリーが隣で呟く。

「うん、オリビアも分からないって。レオグス、俺達はこの後どうするんだ?」
「地元の兵士への報告を済ませた以上、特にこの町でやり残したことはない。船に戻ろう」
「私は少し町を見て回りたいです!」
「はぁ~い!私もミカちゃんに賛成でぇ~す!」

そう言ってミカエラとエリーゼが手を挙げた。
ミカエラも火山を出てようやく元気を取り戻したようだ。

「ははっ、二人は相変わらずだな。シェリーとユーゴは?」
「そうだな、火山でかなり汗もかいてしまった。時間に猶予があるなら私も温泉には行きたいところだな」
「俺もだな。一休みしていく時間くらいいいんじゃねえの?」
「うむ、皆の意見ももっともだな。では少し休息を取ろう」

ということで、俺達は温泉の入れる施設を探しにカノースの宿場エリアに入った。
すると、町の中央には何やら人だかりができている。
俺達は顔を見合わせ、人をかき分けて覗いてみると、

「貴様達、ここで一体何を企んでいた?事と次第によっては今すぐこの場で捕縛するぞ!」
「ふん!俺達がこの港で何をしようが勝手なこと。それともギルドの人間は温泉街に来ることも許されねぇってのか?ユートピアさんよ」
「あぁそうだ!現在の緊張状態の中で、このカノース港は現在、五大ギルドの中で商会ギルドである<女神のマルシェ>のみが入港を許可されている。その<女神のマルシェ>ですら厳重な検査を行なっての入港となるのだ。貴様らのような野蛮ギルドが入る余地などない!」
「なにを~?やろうってのか!?」

どうやらギルドとユートピアの騎士団が揉めているようだ。
よく見ると、ギルド側の紋章には見覚えがある。

「あっ、レオグス!あれはギルド<罰を下す者エクスキューショナー>の紋章だ!」
「あぁ、よく見るとこの前出会った奴らの顔も何人かいるな」
「なんだ?アスベル達はあのギルドと知り合いなのか?」
「あぁ、ちょっとな・・・」

シェリーが意外そうに聞いてくるのでローエンまでの道中の話をした。
そ<罰を下す者エクスキューショナー>と言い合っているのは、ユートピアの紋章を着けた騎士兵達。
真ん中にいる女騎士が一番偉いのか?

「フレイア様。この<罰を下す者エクスキューショナー>は五大ギルドの中でも特に粗暴な連中です。捕縛の許可を!」
「おもしれぇ!おいっ!誰か頭領ドンに連絡しろ!ユートピアの騎士様にギルドの力見せてやれ!」

ギルドの奴らはともかく、ユートピアの騎士たちまで武器を構えだしている。
おいおい、こんな街中でやり合うのか?!
流石にまずいと思い、シェリーと止めに入ろうと目を合わせて頷くと、

「馬鹿どもが!そこまでにしろ!!」

集まった人垣が左右に割れ、声の主が現れると、そこには二人の部下を引き連れた大柄な男が仁王立ちしていた!

~to be continue~
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