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大星霊を求めて

王都

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ザザザッ・・・
森の木々を避けながら、二つの影がお互い相手の様子を伺いながら間合いを詰める。
そして影が同時に飛び出すと、

「「弧月閃!」」

森の中でアスベルとユーゴの剣が激しくぶつかり合う!
船が<カノース港>に停泊して5日。本日出港するということだが、それまでの時間アスベルとユーゴは剣の修行をする為、人気のない森に入っていた。

「遠慮せず、もっと本気で向かってきていいんだぜ?」
「ユーゴこそ、セイヴァー・ガーディアンの実力はそんなものか?」
「ヘっ、負けん気だけはいっちょ前だな。なら王都でユートピアの連中見てビビらないように少し本気で行くぜ?」
「あぁ、望むところだっ!」

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「あっ!アスベル達が帰ってきましたよ、シェリー!アスベル~!」
「遅いぞ、アスベル!ユーゴ!いったい二人はいつまで遊んでいたのだ?」

港ではシェリーとミカエラが待っていた。

「遊んでたんじゃねぇよ。身体なまってたんで、アスベルとちょっくら剣を合わせてたんだよ」
「出港の時間は伝えていただろう!もう10分前だぞ!」

シェリーはだいぶおかんむりだった。

「い、いや~つい夢中になっちゃって。セイヴァー・ガーディアンの騎士と剣を交わえることなんて滅多にない機会だし~」
「なら王都に着いてからでもいいだろう・・・。とにかく早く乗れ!」

シェリーに怒られた俺達が乗船すると船内の廊下でノアに会う。

「やぁ、二人ともお疲れ様です。如何でしたか、修行の成果は?」
「まあ上々だな。森の中で魔物が暴れてたのか木がなぎ倒されてたり、そこら中に爪痕みたいなのが多くて走り回るのは大変だったけどな」

そう言ってユーゴは肩をコキコキと鳴らしている。

「木々を避けながらだから足腰を鍛えたり、実践向きではあったよ。ユーゴは強いし」
「俺も感謝してるぜ、ちょっとしたサプライズもあったしな!」
「サプライズ・・・ですか?」

ノアがニヤニヤしている俺達を不思議そうに眺めて首を傾げている。

「あぁ、実はな-------」

ユーゴがそこまで言いかけると、操縦室からレイトンの声が船内に響く。
出港の合図だ。各々客室に入って待機するよう指示が出る。

ということで船が動き出すということで話を中断して慌てて部屋に戻った俺達。


出港後はいたって平和だった。
途中レオグスが二日酔いなのか気分が優れないとオズウェルに水をもらったり、ミカエラがそんなレオグスをいじって遊んだり、シェリーの下着が一着無くなってなぜか俺が盗んだ犯人に疑われたり?!、レイトンが俺とユーゴを笑顔で締め上げたり・・・いたって平和(?)だった。

エリーゼも昨日の事が嘘のように普段通りの笑顔を見せている。

やはり、せめてレオグスかレイトンには相談した方がいいよなぁ。
でも・・・

「はぁ・・・昨日のは夢・・・じゃないよなぁ」
「何がです?」

悩む俺をミカエラがまじまじと見つめていたのであった。


そして・・・

ホエールベイ号は遂にバスカッシュ王国の王都<シュトラール>に到着した!

さすが王都の波止場なだけあり、港にはホエールベイ号以外にも何隻もの船が泊っている。
商船に軍艦、客船・・・

「アスベル見てください!こんなにたくさんの人がいますよ!」
「あぁ、ローエンも人が多かったけどその比じゃないな・・・」
「さぁ、いつまでもここに立ち止っていても仕方ありません。城に向かいますよ」

人の多さに圧倒されていた俺とミカエラにレイトンが声をかけてくる。
街に入ると、俺達は更に驚かされる。

所狭しと並んだ店や屋台からはあちこちから商人の声が飛び交っており、ワコールの村では見ないような高価な服装を着た貴族やエルフもたくさんいる。
中央の噴水広場を抜けると、多数の武器屋があり、その先にはカジノや闘技場もある。

そして上を見上げればバスカッシュ王国の旗をはためかせた王都を象徴する巨大な城がそびえ立っている。

「へい、らっしゃらっしゃい!本日仕入れたばかりのブルベアのもも肉だよ!」

「では、このポーションは私達のギルド<女神のマルシェ>が独占販売させてもらうわね。」
「はいっ!いつもありがとうございます、オリベラさん!」

「旅のお供に譜具はいかがでしょうか~?今なら店主の100%当たる占い付きですよ~!」
「闘技場参加の戦士の方はエントリーを済ませてください!」

さすが王都。今聞こえたギルド<女神のマルシェ>って確か五大ギルドの一つだったよな?
当たり前だが大物ギルドも普通に取引に来ているようだ。

そうこうしているうちに城門前に辿り着くと、そこには明らかにユートピア騎士団と思われる騎士兵が列を成して待っていた。

「お待ちしておりました、導師ノア。道中危険に見舞われながらもご無事で何よりでございます。今回導師の警護を担当してくださったセイヴァー・ガーディアン及びロシリア帝国の兵士の方々にも感謝申し上げる。私はバスカッシュ王国騎士団<ユートピア>所属第一部隊ネイサン・D・ジラルディ大将だ。以後よろしく」
「ジラルディ大将、お久しぶりです。わざわざ出迎えいただきありがとうございます」

ノアとジラルディが握手を交わす。
続いてロシリア帝国、そしてセイヴァー・ガーディアンを代表してレイトンが前に出る。

「私はロシリア帝国軍、軍事司令責任者兼セイヴァー・ガーディアン、レイトン・クリスティ司令です。どうぞ、よろしく」
「貴公が‶地獄の門番ヘル・ポーター”・レイトン。ふふっ、噂はよく聞いていますよ。お会いできて光栄です」
「いえいえ~あなた程ではありませんよ。‶閃光”のジラルディ大将・・・」

不敵に笑う二人はお互いにけん制しながら握手を交わす。
和平交渉のために導師を先導してきたとはいえ、こうして敵国の人間が王都に足を踏み入れるというのはどちらにとっても油断ならぬということなのだ。

このジラルディという人、歳はレイトンと同じか少し上くらいだろうか。
黒髪を後ろで束ね、鋭い眼つきに生やした顎髭は威圧感たっぷりだ。

来ている灰色の隊服は他の兵士のそれとは少し異なり、十字架のような黒い線が入ったデザインとなっている。
背中のマントには<ユートピア>を象徴する鳥と星があしらわれている。

なによりこの人譜素の圧がすごい。
レイトンの時も感じたが高い譜素を持っている人は、それを通して相手に圧力を与えられるようだ。


ノアと共に王城へ通された俺達は客間で待機していたが、ノアの王への謁見とその後についての話し合いは明日行われるということで、今日の俺達の役割は終了してしまった。

ノアの計らいで、ジラルディ大将にワコールへの増援要請を打診する機会を得た為、レオグスとノアは別室でジラルディと交渉へ。
レイトンとシェリーは明日の謁見の準備を城の人達と行っている。

そして俺とミカエラは庭の散策をしていた。

いや・・・決してやることがなかったわけではない。断じて違うっ!!

「凄いな、王都ってこんな広いんだな」
「はいっ!アスベルもいつか王都やユートピアに所属するような強い騎士になれるよう頑張ってくださいね!」
「そうだなぁ~大星霊7人くらい仲間にしたらいけるかもな」
「アスベル・・・欲張りです・・・」

冗談で言ったつもりなんだが、ミカエラがジト目で俺を見て来る。

「ところでアスベル、何か隠し事していませんか?」
「えっ・・・なんで?」

子どもってのはなんでこう敏感なんだよ!
というか相変わらずミカエラは俺の心を見透かしてやがる。

「ん~アスベルの譜素がそわそわしてます!なんだか悩んでいるような」
「まぁ、年頃の男は色々あるんだよ」

そんな会話をしていると、ユートピアの騎士と思われる男が庭にやってきた。
真っ赤な長髪で少々眼つきの悪いその男は最初剣を抜こうとしていたが、俺達を見つけるとそれを止め、こちらに近寄って来る。

「おい、お前。さっき導師と共にいた騎士だな?セイヴァー・ガーディアンか?」
「いや、俺はセイヴァー・ガーディアンじゃないよ。ワコールの駐屯兵をしているアスベル・X・シュナイダーだ。君はユートピアの騎士だろ?」

友好的に接したつもりなのだが・・・

相手はそれを聞くと、少し舌打ちをし、

「フンっ!田舎町の新米騎士か。期待をして損をした」

おいっ・・・

なぜかいきなり喧嘩を売られた・・・

「初対面で随分な言い方だな?」
「俺はユートピアの少将だ。セイヴァー・ガーディアンの騎士なら手合わせ願おうと思ったが、田舎の新米騎士では相手にならん。素振りをしていた方がマシだ」

その赤髪の男はその場を去ろうとしたが、そこにユーゴがやってくる。

「俺、セイヴァー・ガーディアンなんだけどよ、試しにアスベルと手合わせしてみたらどうだ?そいつ強いぞ?」
「・・・なら、あんたと手合わせ願いたい」

そう言って赤毛の男はユーゴを睨む。
が、ユーゴは両手を頭に回すと、

「ん~わりぃな、剣置いてきてんだ。それにアスベルに勝てないお前じゃ俺にも勝てねぇよ」

そう言って笑った。

「俺があいつに勝てないだと?何を寝言を・・・」
「じゃあ逃げないでやってみろって。ユートピアの騎士なんだろ?」
「貴様・・・。いいだろう、秒で終わらせてやる!」
「だってよ、アスベル。頑張れよ~!」

俺、まだやるとも言ってないんだけど・・・
ただ、初めてユートピアの騎士と戦う機会を得た。
実力が気にならないと言えば嘘になる。

仕方なく剣を抜いた俺は、赤髪の男と対峙した。

<お手伝いしますか、マスター?>
(いや、騎士同士の模擬戦だから大丈夫)

模擬戦は基本的に己の肉体で闘うもんだからな。
でもオリビアはちょっと不満そうだけど。

「・・・あんた、名前は?」
「ジラルディ第一部隊所属ライアー・スペクター少将。さぁ早くかかってこい!」
「舐められたもんだな。行くぞっ!」

飛び込んだ俺の剣を受け止めると、返す刃で今度はライアーが切り込んでくる。
俺とライアーは剣を打ち合った。
ライアーの剣は一撃、一撃が重い!そして迫力がある!

徐々に俺はライアーの打ち込みを防ぐので精一杯になっていた。

「おらっ!どうした!もう防ぐのでいっぱいいっぱいか?」
「くっ!まだまだ~!」
「アスベル~!頑張ってー!」
「よく相手の動きを見ろよ、アスベル!」

ミカエラとユーゴの声援を背に再びライアー相手に盛り返していく。

「ちっ!うぜぇ・・・」

段々とライアーの額にも汗が浮かんで来る。
確かに強い。だが今朝森で戦ったユーゴはもっと強く、そして速かった。

このライアーの攻撃は決して速くはない!そして重いと感じていた攻撃も剣の攻撃として考えればそうだが、レオグスの棍棒で受ける打撃の方が重い。

大丈夫だ。勢いに押されていたが、冷静になれば十分戦える!

アスベルは、徐々に相手の攻撃のリズムが単調になっていくのを感じると、右から剣が下ろされる瞬間身体を反転させて後ろに回り込み、

「今だっ!」
「な、なんだと?!」

反撃の一撃を振り抜いた!咄嗟に出したライアーの剣は弾き飛ばされ、ライアーの手から離れる。

そして、ライアーの喉元へ剣を突き立てる。

飛ばされたライナーの剣が地面に落ちた音が試合終了のゴングとなり庭に鳴り響く。

「くっ・・・!」
「はぁ・・・はぁ・・・!」
「勝負ありだな。剣下ろしていいぞ。アスベルお前の勝ちだよ」

ユーゴは飛ばされたライアーの剣を拾い、それを膝を突いてうなだれるライアーに返す。

「残念だったな。え~っと・・・ライアーだっけ?アスベル、強かっただろ?」
「フン、少し油断しただけだ・・・。本気でやればこんなやつ・・・」
「ならやっぱお前の負けだよ。戦場ならお前は今、油断して死んでんだ。ユートピアの騎士様がみっともねぇ言い訳すんな」
「くっ・・・!」

悔しさを滲ませたライアーはユーゴからひったくるように剣を受け取ると、

「アスベル・X・シュナイダー・・・。この借りは必ず返す!せいぜいその時まで鍛えておけっ!」

そう言って早足にその場を去って行った・・・

「い~だ!次会う時はアスベルはもっと強くなっていますからねぇ~!」

ミカエラがその背に少し舌を出してそう呟いた。

「か、勝ったぁ~・・・」

疲労と緊張でベンチに座り込む俺の下へユーゴがやってきた。

「お疲れさん、アスベル。良かったんじゃねぇの?」
「あぁ、ユーゴとの特訓のおかげだよ。ありがとう!」



その後、王都から手配された宿屋に帰ってレオグスに何をしていたのか聞かれた俺は、ミカエラの正直な説明により・・・

それはもう、こっぴどく怒られた・・・。

~to be continue~
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