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大星霊を求めて

守護者として

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以前、アエローと出会った時にも感じたことだが、大星霊という存在はその姿が現れただけで譜素の宿っている量が人間の宿すそれとは全く異なるのが分かる。
まぁ大星霊とは、その存在自体がそもそも譜素の源のようなものなので当然といえば当然なのだが。

<強き力抱きし者。私に一体なんの用でしょう?>

アエローは鳥だったが、こっちは人間やエルフに近い容姿。
だが、気のせいか身体の至る所が傷ついているようにも見える・・・。
そんな容姿の少女は少し怪訝そうにこちらを尋ねてくる。

「俺の名はアスベル・X・シュナイダー。大星霊オリビア、あなたと契約を交わしたくてここまで来た!俺に力を貸してもらえないだろうか?」
<申し訳ございません。お帰りください>

即答だな!
やっぱり大星霊ってのは簡単に契約をできるような存在ではないらしい。

「オリビア!大星霊と契約を交わすにはその大星霊に認められることが必要と聞いた。どうすれば俺を認めて契約を交わしてもらえる?」
<私はこの地の星霊としてこの場所を守護しています。そして今、この地は脅威に晒されています。ですから私はここを離れることはできません>
「脅威?それっていったい・・・」

ビロオオオオォォォ~!
アスベルがオリビアに問いかけると、突如例の不気味な鳴き声が聴こえてきた。

<今の声が聴こえたでしょう?あれはギガルダという魔物の声。私はあの魔物を倒さねばなりません>
「ギガルダを?そんなにその魔物は強いのか?」
<ギガルダは元々この火山にいた普通の魔物でした。ところが一か月前・・・一人の男がこの火山にやってきて、何体もの魔物に黒い枷を着けては次々と自分の手で狩っていったのです。まるで狂暴化した魔物をテストするかのように・・・>
「なんでそんなことを?」

俺は眉根を寄ながら問うも、オリビアは首を振ると、

<分かりません。それに、本来人間が魔物を狩ることに私達星霊は干渉しません。人が魔物を狩ることも、魔物が人を襲うことも、この世界に生きている者同士それぞれ理由があります。私達の役割は星の譜素の維持であって、生態系の維持ではありませんので。・・・話が逸れましたね。そしてその中で生き残った魔物達は放置され、その後は人を襲ったり、魔物同士での縄張り争いをしていました>
「そしてその中でひと際成長したのが、ギガルダってわけか。黒い枷を着けたっていう男の目的はより強い魔物を作りだすって事なのか・・・?」

どうやらここの魔物が黒い枷を着けているのは偶然ではないようだ。
そしてワコールに限らず、多くの地域で黒い枷を着けられた魔物が発生してのは人為的なものであることが確定した。

ならば犯人は同一人物なのだろうか?それとも・・・

「一つ聞かせてもらっていいか?なぜ人と魔物の闘いに干渉しない大星霊であるオリビアが奴と闘っているんだ?」
<あの魔物が着けていた枷は周囲の譜素を吸収して魔物に力を与えています。強い譜素を喰らえば喰らう程に強くなる。それに気づいて倒そうと思った時にはすでに遅かった・・・>

なるほど。
つまりあのギガルダはオリビアの眠るこの噴火口の譜素を吸収して更に怪物化したって事か。

そして人と魔物の争いに関わらないオリビアだけど、ギガルダが自分の周囲に発生する譜素を喰らって強い魔物になってしまったこと、そしてその処理が遅れたことに責任を感じているようだ。

だから魔物を倒すまで、人が入ってこないよう火山の活動を活性化させ人が近寄れないようにしたり、逆にギガルダが外に出ないよう火山の出入り口を見張っているようだ。

そして現在、枷を着けた他の魔物はこれ以上譜素を吸収できないよう星壁によって噴火口に近寄れないようにしているようなので、これ以上成長はしないようだ。

<私はこの地の守護者としてあの魔物を倒さねばならないのです>
「事情は分かった!なら、オリビア。俺があのギガルダを倒すことを条件に契約をしてくれないか?」
<・・・あなたが、ですか?>

俺の提案に、やや訝し気に俺を見つめるオリビアであった・・・。

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「どこに逃げやがった、あの鳥野郎・・・!」

ユーゴ達は逃げたギガルダを探して火山を歩いていた。

ギガルダは二つの顔が身体から伸びて、鋭い嘴にトサカを持つ。
両手は羽が生えていて翼の様になっており、しっぽは煌びやかな彩をしていて孔雀の姿にも似ている魔物だ。

「さっきのは・・・ギガルダか?火山や熱帯地域に生存する鳥の魔物だが明らかに大きすぎる。やはり枷の影響だろうか?」

シェリー曰く、ギガルダは本来もっと小さく大人しい魔物らしい。

「だろうなぁ。首に他の魔物達が身に着けていたのと同じ枷を着けてやがった」
「しかし、ユーゴ。そうなると奴も相当力が強くなっている可能性が高いぞ?」
「んなこたぁ、わぁ~ってるよ。でも向こうさんから出てきたんだ。とっとと始末しちまおうぜ」

そう言ってユーゴは手に持った剣を軽く振って見せる。
シェリーは溜め息を尽きつつ、天井を見上げる。

敵は空を飛んでいるのでこちらから攻撃を仕掛けにくい。
先程はユーゴの斬撃と、ミカエラの水の譜術で少しは闘えたが苦戦は必至だ。

「レオグス、シェリーが難しい顔をしていますね?」
「うむ。空を飛ぶ敵は厄介だからな。ワタシも今回はあまり力になれんだろう」
「私は一応拳銃持ってるけど、大して役に立ちそうにないなぁ~・・・」

そう言ってエリーゼは腰から譜弾の装丁された拳銃を取り出してみる。
ミカエラはピョコピョコと悩むシェリーに近づくと、

「シェリー!大丈夫です!私が譜術で頑張りますっ!」
「ふふっ、そうだな。頼りにしているぞ、ミカエラ」

やや微笑んだシェリーはミカエラの頭を撫でる。


しばらく歩き回ったシェリー達。すると・・・

「みんな、止まるんだ!いたぞ」

シェリーは全員に岩陰に隠れるよう指示する。

ギガルダはマグマや他の魔物を餌として生きているらしく、今のように闘いが終わると食事をしていることが多い。
どうやら先ほどシェリー達が倒したフレアリザードの死体を貪っているようだ。

「飛ばれては厄介だ。私とユーゴで背後から近づこう」
「だな・・・」

岩陰から頭を出した二人がゆっくりと近づく。

大丈夫、ギガルダは食事に夢中で気づいていない。
もう少し・・・

「あっ!」

カツン・・・!

あと少しというところで首を伸ばしていたエリーゼが落ちていた石に当たり声を上げてしまった!
その音で二人の気配に気づいたギガルダが、食べていたフレアリザードを吐き捨てると、奇声を上げて飛び上がる!

「しまった!」
「伏せろ、シェリー!」

舞い上がったギガルダは手の翼を羽ばたかせて熱風を生み出す。
二人がひるんだ隙に、ギガルダは頭上に来たかと思うとふたつの嘴を向けて突撃してくる!

「くっ・・・!」
「あぶねぇ!」

シェリーとユーゴは地面を反転しながらそれを避ける。
嘴が地面に刺さり動けなくなったギガルダにシェリーが攻撃を叩き込む!
が、あまり効果がないのか、すぐに嘴を引き抜いたギガルダは二つの頭でシェリーにみだれづきをする。

「よしっ!エリーゼ、ミカエラ!ワタシ達も応戦するぞ!」
「ましたっ!」
「はいっ!」

レオグス達も岩陰から飛び出すと、ミカエラが詠唱を開始する!
その間、シェリーやユーゴを援護すべくエリーゼも拳銃で飛び上がるギガルダの身体を撃つ。

「もお~!さっきから当たってるのに全然効いてないんですけどぉ~!」
「黒い枷で強化された魔物は皮膚が硬ぇんだ!俺の斬撃やピストルの弾くらいじゃあ致命傷にはならねぇ!鍵を握ってんのは・・・」

ユーゴがチラリと背後を見ると、ミカエラの魔法陣が輝きを放つ!

「いきますっ!癒しの水泡よ!敵を撃ち落とせ!水のⅡ式<バブル・ショット>!」

ミカエラが唱えた水の譜術がギガルダに命中する。
皮膚は硬くても譜術は魔法攻撃!魔法耐性のない魔物ならしっかりダメージは通る。
泡に包まれた翼が重いのか、ギガルダは地面に落下し、飛べないでいる。

「あの野郎、泡を取り除こうと羽ばたいてやがる!おい、シェリー!また飛ばれないように翼切り落とすぞっ!」
「承知した!」

ユーゴとシェリーが一気に駈け出す!
が、次の瞬間銃声が響くとシェリーの肩から鮮血が飛び出しその場に倒れてしまった!
加勢をしていたエリーゼの譜弾が誤ってシェリーの肩を貫いてしまったのだ。

「っ!おいっ、シェリー!?」
「ぐっ・・・!」

肩からおびただしい量の血が流れるシェリー。

「そんなっ・・・!私・・・!やっちゃった・・・」

青ざめた表情で拳銃をその場に落とし、膝を突くエリーゼ。

「いかん!シェリーが狙われとる!」
「シェリーが危ないですっ!」

血の匂いに刺激されたのか、ギガルダはけたたましい奇声と共にシェリーを捕食すべく顎を開け、迫る!

「「「「シェリー(先輩)!」」」」




<星炎の術式ボルカニック・エクスプロード!>

ギガルダを魔法陣が包み込むと、業火の炎がギガルダの身体を焼く!

そして怯んだギガルダめがけて白いマントの影が飛び込み、片方の翼を斬り落とした!!

「あっ・・・!あれは!」
「ったく、遅ぇんだよ。馬鹿野郎が・・・」

マントをはためかせ皆の視線の先に立っていたのは勿論・・・

「待たせたなっ!みんな!」


大星霊オリビアの焔と共に今、アスベル見参!!

~to be continue~
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