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それぞれの出逢い

たとえ、友であっても・・・

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俺たちの前に巨大な怪鳥が多くの譜素の粒子と共に現れた!

強大な翼に鋭い嘴、孔雀や白鳥を連想させる首に鶏冠、それらを鮮やかに彩る真紅と黄銅色の身体をした怪鳥は、先ほどまで声が聞こえていなかったレオグス達の目にもしっかり見えているようだ。

「俺はアスベル・X・シュナイダー!大星霊と契約をしたいと思ってここに来た。お前は誰なんだ?」
<わらわはアエロー。汝らが探す大星霊と同族だ>

大星霊!
本当に本物が!

「まさか、こうも都合よく出くわすとは・・・」

レオグスも驚きの表情で額の汗を拭う。

「あぁ、今までも遺跡や洞窟の捜索は教会の任務で行ってきたが、私もこうして出くわすのは初めてだ・・・」
「お、おっきくてとても綺麗です!」

シェリーとミカエラも当然初めての様でかなり興奮している。

「本当に神様の使いみたいで美しいですねぇ~!」
<小娘。わらわは使いなどではない。神に相当する存在だ。口を慎め・・・>
「ヒィ~!す、す、す、すいません!!以後気を付けますっ!」

アエローに睨まれたエリーゼは即座にシェリーの背後に隠れ小さくなる。

俺は一歩前に足を踏み出して巨大な怪鳥に近づくと、

「アエロー!俺は大星霊と契約を交わすための極星の力を持っている!俺に力を貸してほしい!」
<汝の力はこの町に主が足を踏み入れた時から感じていた。して、汝はなぜわらわの力を欲する?>

「俺はもっと強くなりたい!大切なものを守るために、大切なものを失わないように!」

俺の言葉にしばし沈黙し、俺を見つめるアエロー。
パッと見は魔物にしか見えないので、ちょっと怖い・・・

<ふむ、嘘はついていないようだ。しかし・・・汝の目的はそれだけか?わらわは人の心をすべてを見通す。汝の心の光も、そして闇も・・・>
「それは・・・」

アエローの眼孔は全てを見透かしているようだった。
言葉に詰まる俺を皆が不安そうに見つめる。
レオグスも俺に宿る心の闇を知っているが、どう返答するのかを黙って見守る様子。

俺は黙ったまま下を向いた。

ダメだ・・・復讐の心を大星霊が受け入れてくれると思えない・・・

<・・・言えぬようだな。まあ良い。だが覚えておくがいい。我々星霊は、生命に宿りし世界の秩序を見守る存在。我々の概念に正義も悪もない。星霊は自分が正しいと思ったことを行い、契約を交わした主に従う。汝の信じる道が、心に偽りなきものならそれもまた一つの道だ>
「アエロー、俺は・・・!」
<わらわは汝とは契約をしない。汝には迷いがある。その迷いが払拭できぬ限り汝と契約を交わすつもりはない>

アエローはキッパリと言い切った。
俺は大星霊に認めてもらえなかったようだ。

・・・・・・・・

「そ、そんな。せっかく大星霊様にお会いできたのに、アスベルが可哀そうです・・・」
「やはり大星霊と契約を交わすなど一筋縄ではいかないということか」

ミカエラとレオグスが肩を落とす中、ここまで黙って聞いていたノアが口を開いた。

「大星霊アエロー!僕はダラム教会の導師ノア。アスベルの心を見通す力を持っていながら、それでもこうしてあなたは僕達の前に姿を現してくれました。それはなぜですか?」
<その小僧の力は強大だ。ゆえにわらわと契約をするに値するかを試させてもらった>

ノアの問いに淡々と答えるアエロー。

「なら、もしもアスベルが心の迷いを払拭できた暁には、契約をしてもらえますか?」
<・・・わらわにも目的がある。その為には強力な力を持った人間と契約し、わらわの力を与える対価として利用させてもらう必要がある。いいだろう、機会をやろう。汝は強くなりたいと言ったな。汝に覚悟があるのであればそれを試させてもらおう>
「試すっていったいどうやって?」

アエローの言葉に疑問を返したアスベル。

<他の地に眠る大星霊に会うがよい。そこで奴らに汝の覚悟を示すがよい>

要するに、アエローはある場所に行って大星霊と契約を交わすよう指示をしてきた。
場所は『グーザス火山』と『ボレロー山』、『ヴァリリウス洞窟』の三か所。

これらの場所には大星霊が眠っているらしい。
俺が行けば、彼らは俺の極星に反応し会えるだろうとのことだ。
そこで契約を交わし、他の大星霊に認められれば、いずれアエローも再び俺達の前に現れてくれる・・・のか?

<汝、そしてその仲間よ。この先には過酷な試練がお前たちを待っている。心するがよい>
「あぁ、ありがとうアエロー!必ず他の大星霊と契約をしてみせる!」
<今夜は満月。それも赤月の晩よのう・・・>

アエローはそれだけ言い残すと空に向かって羽ばたき、やがて姿が消えた。

アエローがいなくなると、みんなホッと息を吐き出した。
やはり緊張していたのだろう・・・

それにしても不思議な体験だった。
そもそもアエローはこの町にずっといたのだろうか?それとも偶然?いったい何を司る大星霊だったのか等、疑問は多く残ったが、とりあえずノアを王都に届けた後の俺の道は決まった。


ホエールベイ号に戻る帰路で俺とノアは話をしていた。

「<グーザス火山>はちょうどこの港町にある火山ですね。その火山による地熱の影響で温泉の湧くようになった事が、この港町が温泉の観光地と呼ばれる由縁です!まだ軍艦は直っていないようですし、明日にでも行ってみたらどうでしょう?」
「分かった!ノア、さっきはありがとう。俺、自分の事なのにアエローに何も言えなくなって・・・」

落ち込む俺にノアは首を横に振ると、

「アスベル、人は誰しも心の中に闇を持つものです。それは決して変なことではありません。その自分の闇と向き合い、どのように付き合っていくのか考えることが重要だと僕は思います」
「闇と向き合う・・・」

その言葉の意味がこの時の俺には分からなかった。
けど、それが本当に俺にとって大切な事だったと、この旅を通じて知ることになる・・・

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船へ戻る途中、レオグスが話があるというのでみんなと途中で別れ、久々に二人で町の酒場で食事を取ることにした。
古びた酒場だが、いかにも地元の人々に愛された下町の酒場という雰囲気だ。
ワコールの酒場を思い出させるので、かえって落ち着く。

「アスベル、この旅は予定に反して随分と大きな話になってしまったな」

レオグスが一杯目の酒を呑むと、そう切り出した。

「うん、増援の要請が王都に導師を送る任務になって、その船が襲われ、今は大星霊と契約だもんな・・・。まあ契約は完全に俺の寄り道だけど」
「いや、そうとも言い切れんぞ。お前が力を手に入れることは今後ワコール兵団にとっても大きい。なにせ、今回のように魔物の狂暴化が深刻化した時、応援が見込めないなら自分達で守らねばならない。その時はお前の出番だからな」
「なんだよ、俺ばっかり闘わせる気か?レオグスもメイおじさんが勇退したら時期隊長だろ?頑張ってくれよ?」

そう言って肘でレオグスをつつく。

「フッ、そうだな。隊長に指名されるかは分からんが、私もお前に負けぬよう精進する。この旅が終わったら、お前の方が強くなっているかもしれんからな」

レオグスは手元のグラスに入った氷を回しながらそう語ると、残った酒を一気に口に入れた。

俺は兵団での訓練ではレオグスに勝ったことがなかった。
ワコールの村で一番強いレグルスだが、そのレオグスも船では魔物や獣人に苦戦してた。

“自分より強い騎士になってほしい”それがレオグスの俺への期待だった。

「アスベル、お前はまだ10年前の事件の傷は消えていないのだな」
「・・・あぁ。騎士として復讐に刃を振るってはいけない。メイおじさんやレオグスに散々言われてきたことだ。でも俺はどうしても・・・」

俺は握ったグラスに自然と力が入った。
忘れたいとか、忘れようとも思わない。
これが10年間俺の生きる理由になってしまったのだから。

ただ、メイおじさんやレオグスには申し訳ないという気持ちもあるが・・・
そんな俺の気持ちを察してか、レオグスはフッと笑うと、

「それでいい。お前の良さは良くも悪くも真っすぐなところだ。メイヴィン隊長もお前の芯の強さは評価していた。それにアエローや導師が言っていただろう、『皆誰しもが心の闇はある』と。‶皆”が・・・だ。だからと言ってお前は理由もなく人を傷つけたり、弱き者に剣を向けることはない。もし、お前の復讐心がなくなる時が来るとしたら、それはお前自身がお前の手で決着をつけた時だ。だから無理になくそうとせず、自分で答えを出すまで向き合っていけ」
「レオグス・・・」

レオグスは今でも俺が復讐心を持っていることを否定しなかった。
自分に正直に生きろと、そして答えを自らの手で出せと言ってきた。
その言葉がなんだかとても気持ちを楽にしてくれた・・・

「今日はもう遅い、そろそろお開きとしよう。アスベル、騎士の心得として最後に一つだけ言っておくぞ。もし・・・誰かが心の闇に支配され我を失ったら、その時、私は全力でそいつを止める。それが結果的に相手を殺すことになったとしてもだ」
「それが、たとえ大切な仲間や友であっても?」
「あぁ、たとえアスベル、お前であってもだ。間違った道に進んだまま見逃すのではなく、騎士として誇りある姿であってほしいからな。逆にもしも私が人の道を外してしまったら、見ず知らずの者より苦楽を共にした仲間に命を預けたい」
「それって、殺す側の人間にはとっても残酷だけどな~」

そう言って俺とレオグスは笑い合った。

レオグスは今日はこのまま町の宿に泊まるという。
今日の出来事と、船がナイトメア・マスターズなる集団に襲われた事を伝書鷹でワコールに報告するようだ。


・・・というのは建前で、船に戻ればミカエラの面倒やレイトンにこき使われるので、少し一人になりたいのだろう。
なんだかんだレオグスも疲れているはずだ。



船に戻った俺は、すぐにベッドに落ちた。
船内には赤い月光りが差し込み、どこかで吠える狼の遠吠えのような声だけが静かな町に音を奏でていた・・・

~to be continue~
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