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それぞれの出逢い

心に秘めし刃

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ガープ達の襲撃は想像以上の被害だった。
船内のほとんどの兵士が魔物に殺され、当初150人ほどが乗っていたという兵士も、現在はアスベルやレイトンらを除くと10人ほど。
更にエンジンに不具合も見つかったということで、レイトンの指示により一時近くの港に船をつけることとなった。

船を停泊させた場所は、バスカッシュ王国の領地にある天然温泉の有名な港町<カノース港>。

導師ノアが同船しているということで拒否されることはなかったが、ロシリア帝国の軍艦が敵国の港につけることはあまり歓迎されず、レイトンら、ロシリア帝国の騎士兵は基本的に船からの下船をせず、俺やレグルス、ミカエラが町への買い出しなど担当することとなった。

「じゃあ私達がシェリー先輩の看病してますね!」
「アスベル、買い物お願いします!」
「あぁ、よろしくな。エリーゼ、ミカエラ!」

先の闘いでダメージを負ったシェリーは船で寝ているので、ミカエラ達に看病を頼んだ。
レオグスは死んだ兵士の供養の為、他の隊員と死体を港の外に運んでいる。
霊安室には収まりきらないので港の一角で簡易的な火葬をするようだ。

「さて、ノアとユーゴはどこかなぁ?」

二人を探していると、レイトンとノア、ユーゴが何やら話をしていた。

「・・・ということで、あなたも頭に入れておいてくださいね。ノア様、くれぐれもお気をつけください」
「ったく、わぁ~たよ」
「・・・・・・」

何の話をしてんだろ・・・?
三人とも妙に深刻な顔してるけど。

すると、俺の姿に気づいたノアはすぐに笑顔になると、

「やぁ、アスベル!お待たせしてすいません。では行きましょうか!」
「なぁ、何か大事な話だったのか?」
「えぇ・・・ちょっとこちらの話で。大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう!」
「あぁ・・・」

ノアに背中を押され、ノア、ユーゴと共に町に向かう。
ふと振り返るも、レイトンはすでにブリッジに戻ってしまったようだった・・・。


町に出た俺達3人は、早速火葬用の道具や停泊期間の物資の買い出しをしていた。
入った瞬間から温泉独特の硫黄の香りが感じられ、そこに広がる壮大な景観が目に飛び込んできた。

「ここがカノース港かぁ。温泉のある観光地って聞いたことあったけど、あんまり大きい町じゃないんだな」
「えぇ、ここは観光地として知られていても基本的には港町なので、補給船を停泊させる事が主な目的ですからね。アスベルは初めてですか?」
「あぁ、むしろ船でこんな外に出たことなんて数えるくらいしか経験ないよ」

カノース港はローエンとは違い、田舎の観光名所という雰囲気で、町の規模は決して小さくなく自然を周りに残し、その中に町を作ったようだ。
その証拠に岩々はそのままに、そこから源泉が流れこんできているのが分かる。

「おっ、地酒も売ってやがんな。アスベル、後でお前も呑むか?」
「俺は弱いからいいよ。それにそんな気分でもないしな」
「ユーゴ。いくら騎士でも、アスベルはあなたやレイトンと違ってあんなに大勢の人が死ぬのを目の当たりにした事はないのでしょう。気を遣ってあげてください」

流石に上司らしくノアは顔を顰めると、ユーゴに苦言を呈する。

「わりぃ!わりぃ!まぁ、俺だっていい気はしてねぇよ。でも落ち込んでても死んだ奴らは帰ってこねぇ。ならせめて、しっかりあいつらの魂供養してやらねぇとな」

へぇ~・・・飄々としているし、軽い感じだがユーゴもちゃんと考えているんだなぁ。



地元の店だけでなく、商人の露店も多く、温泉地らしいものが沢山売っていて賑わいを見せている為、町は活気づいている。
ノアとユーゴが買い物をしている間、ベンチに座っていた俺は先ほどの闘いを思い返していた。

「レイトンとユーゴ。あいつら強かったな・・・」

レイトンは俺とユーゴがガルシアと戦っている間にグレムリンを譜術で一撃で倒したらしい。
レオグスの話によれば、あのグレムリンもガルシアと同等かそれ以上の実力者だったらしいのでその相手を一撃で倒すってレイトンの実力を少々侮っていたようだ。

ユーゴはといえば、俺がガルシアとの闘いに苦戦していたところに現れたかと思えば、ガルシアの攻撃をすべて交わしつつ、早業で次々と攻撃を繰り出し圧倒していた。

・・・・・・・

唇を噛み締め、作った拳が震える。

ガーレとの闘いの後も思っていたが・・・俺は・・・

「俺は弱い・・・!」

ワコールの村でどれだけ強くても、一歩外の世界に出ればそこにはもっと老貪虎視、常に命の凌ぎ合いをしている奴らがいる。
そんな奴らを相手にすると俺は結局何もできないじゃないか・・・。

「くそっ!」

脳裏に蘇る叫び声・・・

迫る鋭い眼光に、不敵な笑み・・・


必死に頭を振り、幻影を振り払うアスベル。

もう嫌なんだ、強い奴からただ逃げ回るのも、強い奴に全てを奪われるのも。
あんな思いを・・・10年前のような思いをまたしたくない!俺は・・・

「俺はもっと強くなりたいっ!!じゃないと、また大切なものを失ってしまう!!」


「・・・方法ならありますよ、アスベル」
「っ!?」

上げた頭の前に立っていたのはノアだった。

「えっ・・・ノア!?えっ?も、もしかして心の声が漏れてた?!」
「はい、思いっきり出てましたよ」

相変わらず嫌味のない爽やかな笑顔で笑いかけてくる。
どっかの司令官とは大違いだ。

ってか、は、恥ずかしい・・・。まあ他の人には聞かれていなかったようだが。

「そ、それよりノア。方法ならあるってその・・・強くなる方法のこと?」
「はい、もちろん可能性の一つです。しかし、アスベルなら素養があるので簡単なことではありませんが飛躍的に力をつけられる方法があります」
「教えてくれ、ノア!俺はもっと強くなりたいんだ!」

俺は藁にも縋る思いでノアに食いついた!
が、ノアは俺をジッと見つめると、

「その前に一つ聞かせてください。あなたはその力で何を望むのですか?その力の先にどのような目的がありますか?」

目的・・・前にシェリーにも聞かれたっけ。
俺の騎士になった目的は、強くなって10年前の・・・

「俺は・・・復讐したい奴がいる。俺はそいつに村も家族も仲間も全部奪われた。そいつを・・・殺したい。それも本音だ。だけど・・・」
「だけど?」
「最初は復讐の為だけに騎士になったけど、今は騎士として守りたいものが出てきた・・・気がするんだ。こんな俺でも、守れる命があるなら守りたい。俺のような思いをする人がもう周りに出ないように、強くなって一人でも多くの笑顔を守りたいんだ!」

もう二度と大切なものを失いたくない!

俺の言葉を真剣な眼差しで聞くノア。
そして少し穏やかな笑顔になると、

「分かりました。ただ、今からお伝えする方法はあなたが復讐心に心を支配された時、逆にその力が災いをもたらすことになるかもしれません。心を強く持つこと。その決意を心にしまっておいてください。いいですか?」

心を強く持つ事・・・か。
俺は一つ大きく息を吸い気持ちを落ち着けた。

「分かった。始祖ユリアと導師ノアに誓って」

俺はベンチから立ち上がると、ノアにしっかり正対し、両手の指を合わせ手のひらはやや浮かせる騎士の誓いのポーズを取った。騎士学校で習う作法のひとつである。

「では、その方法をお伝えします。その方法は・・・」


「大星霊と契約を交わすことです!」
「大・・・星霊!?」

ここからアスベルの本当の冒険が始まる!!

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その頃、カノース港近辺にある、火山では・・・

溶岩が滾る火山口。
時折、噴き上げる火柱の中に黒い影が蠢く。

「ビロオオオオォォォ~!」

火山に広がる狂気の旋律。
その声を聞きながら、獣人ガルシアは一人火山の中の補装された道を歩く。

「ククク・・・!良い声だ。どうやらここにはとんでもねぇ化け物がいるらしいな」

すると、火山の魔物達がガルシアの前に現れる。
バキバキと腕を鳴らし、牙を剥きだしにするガルシア。

「獣人ってのはくそだよなぁ~・・・。こうやって魔物には襲われ、人間には迫害される。中途半端でしょうもねぇ~種族だよ、全く・・・」

魔物を皆殺しにし、血を全身に浴びたガルシアはぺろりと舌を出す。

「黒獅子よぉ~、俺達はどこまでいっても穢れたケダモノなんだよ!それを分からせてやらあ!」

~to be continue~
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