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プロローグ

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美しい海が一望できる崖の上。
潮の心地よい香りが漂う中、一人の少女が時折何かを語り掛けながら両手を握り締め、墓前で祈りを捧げていた。

「そろそろ街に戻りましょう、シェリー様。この時季はあまり長い間、外に出ているとお身体によくありません」
「・・・そうですね」

声を掛けられたシェリーは再度墓石に手を合わせ、瞳を閉じる。
そしてゆっくりと一つ息を吐くと、潮風でなびく金髪に少し手をかけ正すと、フードを被って崖を降りて行った。


市街に入るとあちこちから賑わいの声が飛び交ってくる。
季節は秋が過ぎ、もう冬に入ろうかという頃。

街の商店街には通常の店舗のみならず、多くの露店も出店している。

この時期は冬支度を始める人々や冬の季節にのみ現れる魔物を狩るために装備を整える者も多く、商人にとってもかき入れ時なのである。


「冬じゃがの特売だよ!100ミスドだよ!」

「冬の魔物は強敵が多いので治癒術が使える譜術者《フォルスター》がいないパーティーはポーションは多い方がいいですよ~!」

「おい、聞いたかよ?最近ここいらで窃盗事件を次々に起こしている例の盗賊ギルド<闇夜の梟>が今度は貴族の屋敷で盗みを働いたらしいぜ」
「まじかよ、やっぱり五大ギルドの統率力も段々と無くなってきているんかねぇ・・・」

「バーボンさぁ~ん!すいません、朝持ってくる段ボール間違えちゃったみたいで今日目玉にして売るはずだった商品忘れてきちゃいました・・・」
「ふん!貴様は相変わらずだな。まあそうなると分かっていたからな!貴様はこれでも着て少しでも客寄せしておけ!」

「あら、ポプラさん。今日はずいぶん体調いいみたいねぇ」
「ええ、そうなの。これも導師様の加護のおかげかねぇ。また聖堂に行かないと」

「お母さん、さっきね、セーレー見たよ!セーレーって友達になれるんだよね?」
「ええ、そうよ。でもこんな街の中には星霊さんはいないと思うわよ」


フードを被った2人は、街を行き来する人々のそんな会話を聞きながら、互いに顔を見合わせるとなんとなく笑顔がこぼれる。

シェリーはふと空を見上げた。

私はこの世界が好きだ。

問題は沢山あるが人々が笑顔でいられる平和な世界。
そんな世界がこの先も続くと信じている。

その為に、私はいつまでも闘う。
そう誓ったのだから・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

遥か大昔、一人の英雄により、世界は未曾有の危機から救われた。

誰も顔を知らない、名前も知らない。
闘ったその雄姿さえ、見た者はいなかった。

だが、英雄は間違いなく存在した。

もしもまた、世界に滅亡の危機が訪れた時英雄は現れるだろう。
そして、その雄姿はいつまでも後世に語り継がれる事になるだろう・・・



そんな英雄譚が語り継がれる世界にまた一人、とある青年の騎士が存在した。


そこは魔物と兵士達の声が交錯する密林であった。

「ガルルルル・・・!」
「やっぱりな、読み通りだったぜ。思考が似てるな?お前」

こちらを見て唸り声を上げる魔物、ガオウルフ。
そのガオウルフに対し、剣を眼前に構え白いマントを羽織った騎士の青年はニヤリと笑みを浮かべる。

「行くぜ、覚悟しろよ!」

掛け声と共に青年騎士は素早く駆け出す。

それを見たガオウルフは危険を察知したように、後退するも・・・

「逃がさねぇよ!弧月閃!」
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