35 / 62
詐欺師と記憶
12
しおりを挟むともりとキョウコを送り出したあと、向かったのは病院だった。流石に痣も消えているのだがしばらくは通院するように言われている。それも何だかんださぼっていたのだが、ついにともりにばれ今日は絶対に行くようにと言われたのだ。
心配性。けれども、立場が逆ならば自分も同じことを言うと思うと突っ張りきれない。
大きな病院なので混む時はものすごく混むんだよな……と溜め息を吐きながら地図アプリを開く。病院のあとにフルミから教わった雑居ビルに行く予定だった。問題の階段までは確認出来ないだろうけれど。
最寄り駅はどこなのだろうかと確認した時、GPSが示す現在地がそのビルと酷く近い位置を指していることに気付いた。青いマークが問題のビルの近くに静止している。
「……え?」
顔を上げる。目の前に聳え立つ建物はこれから行こうとしていた病院。地図とそれを見合わせ、建物を見上げたまま二、三歩後退り、もっと見やすい位置からをそれを見る。再確認。自分が間違っていないことを認識する。
現場のビルは、病院のすぐ横に位置していた。
「……」
かちん、かちん、と脳内に小さな金属音。何かが当て嵌まっていくような。
ニノ コウは研修医だ。この病院に勤めていてもおかしくはない。そもそもこの病院もニノの家と関連のある病院なのでは?
「……ミカゲさん?」
ふいに背後から声をかけられびくりと振り返った。キノシタとカサイだった。内心ぎょっとしつつ唇を湿らせた。今、酷い顔をしているかもしれない。
「どうされました? 顔色があまりよくないようですが」
「……まだ体調があまり、よくなくて……」
「ああ」
仕事上のものだろうが、二人の刑事は気の毒そうな顔を浮かべた。
「色々とありましたもんね。精神的なショックは短期間で抜けるものではありません。長期に渡って体調を崩す方が多いです」
「いえ……情けないです」
「そんなことはありません。ミカゲさんはまだお若いのですから。歳を重ねた男でも辛いですよ」
「……そう言って頂けるとありがたいです。狼狽えっ放しで情けないと思っていたので。刑事さんたちも体調が?」
そんなわけはないだろうという前提で聞くと、案の定キノシタは少し笑って首を横に振った。
「いえ、何度目かになるのですが、聞き込みです」
「? 聞き込み?」
「あれ、ご存知ないのですか。ニノさんはここで研修医をされているのですよ。今入院されているのもここです」
「───え」
予想通りの答えと想定外の答え。指先が冷たくなっていくのを感じた。
「……ニノ コウが、今ここに?」
「ええ。まだ意識は戻りませんが……」
カサイが眉を顰めた。
「……ミカゲさん? 真っ青ですよ、大丈夫ですか?」
大丈夫では、なかった。
「……すみません、失礼します」
「えっ……ミカゲさん、病院に行かれるんじゃ、」
「いえ、いいです。他のところに行きます」
「そんな、倒れそうですよ」
「タクシー拾います、ほんとう、大丈夫ですから」
事件以降何度か通った病院。ともりとも一緒に来た病院。───知らない内に、近付いていた。そのことが肌を粟立たせる。二度と来ないと心に決めた。
恐らく酷い顔色で足早に去ったこちらを、刑事たちは無理に追うことはしなかった。疑われただろうか。どうでもいい。ただ早くここから去りたい。
大通りに出たが、こんな時に限って空車のタクシーは通ってくれなかった。仕方なくふらつく足でバス停の椅子に座る。ぎゅっと自分の腕に爪を立てるくらい強く握ると、酷く冷えいることが分かった。
フルミ ナオキはもしかしたら思ったことがあるかもしれない。このひとと出会いさえしていなければ、と。
フルミ ナオミはもしかしたら思ったことがあるかもしれない。このひとと出会いさえしていなければ、と。
フルミ キョウコはもしかしたら思ったことがあるかもしれない。このひとと出会いさえしていなければ、と。
そして自分は思ったことがある。このひととと出会いさえしていなければ、と。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クアドロフォニアは突然に
七星満実
ミステリー
過疎化の進む山奥の小さな集落、忍足(おしたり)村。
廃校寸前の地元中学校に通う有沢祐樹は、卒業を間近に控え、県を出るか、県に留まるか、同級生たちと同じく進路に迷っていた。
そんな時、東京から忍足中学へ転入生がやってくる。
どうしてこの時期に?そんな疑問をよそにやってきた彼は、祐樹達が想像していた東京人とは似ても似つかない、不気味な風貌の少年だった。
時を同じくして、耳を疑うニュースが忍足村に飛び込んでくる。そしてこの事をきっかけにして、かつてない凄惨な事件が次々と巻き起こり、忍足の村民達を恐怖と絶望に陥れるのであった。
自分たちの生まれ育った村で起こる数々の恐ろしく残忍な事件に対し、祐樹達は知恵を絞って懸命に立ち向かおうとするが、禁忌とされていた忍足村の過去を偶然知ってしまったことで、事件は思いもよらぬ展開を見せ始める……。
青春と戦慄が交錯する、プライマリーユースサスペンス。
どうぞ、ご期待ください。
アークトゥルスの花束
ナコイトオル
ミステリー
大学を卒業し社会人になったミカゲユキと、自他共に認める彼女の在宅ストーカーであるカブラギトモリは、ユキの亡き父が眠る桜の咲き誇る地に来ていた。
そこで出会った少年から二人は結婚指輪を渡され、「遠くでこれを捨てて欲しい」と頼まれてしまう。
これは誰の指輪なのか、どうして少年がそんなにも必死なのかを調べる内に、二人はあるひとたちの心に触れることになる───。
ひとの心はいつだって謎が多く、よく識っていると思っていてもふとした瞬間識らない貌を見せるから。
───だからこそその先で願わずにはいられないんだ。
これは、たくさんの心と想いに触れることを選んだ『彼ら』の話。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる