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詐欺師と記憶
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しおりを挟む再婚した父が海外に出張した時、折り畳み傘を買って来たことがある。出張先で急に必要になってしまい買ったとのことだが、小物にも拘る父はセンスが良く、とてもきれいな色の傘を買ってきた。この国ではあまり見ないような鮮やかな青色の折り畳み傘で、高校入学間近だった自分はその色を一目で気に入った。自分用に買ってきてもらったお土産よりもその傘に目が行った。
「リトルハッピー、この傘が気に入った?」
父が笑う。大きくうなずくと、くるくるときれいに畳んでこちらに渡してくれた。
「じゃあ、これもあげるよ。雨の日も特別な日にしてくれ」
父の言った通りになったのは、それからもう少し先の話。
翌日、張り切って作ったお弁当を手渡すと、キョウコはきらきらとした目でそれを受け取った。
「ありがとうユキ!」
「どういたしまして。たくさん食べて、楽しんでね。キャラ弁とか作れなくてごめんね」
色合いには一応気を使ったが、たまにネットで見るようなお弁当に見えないお弁当を作れるレベルではない。ごめんよ。
「ううん、うれしい! お弁当がうれしいの」
にこにことしながら大事そうに鞄に詰めた少女にほっこりした気持ちになりながら朝食を促した。お弁当の都合で今日はおにぎりと卵焼きとウィンナーとお味噌汁だ。サラダまで手が及びそうになかったのでお味噌汁に多めにキャベツを入れ昨日の残りのほうれん草の白合えを出した。だが少女が飛びついたのは、
「おにぎり!」
元から輝いていた笑顔をさらにきらめかせて少女が叫んだ。なんだかとっても素晴らしいものを見つけたかのようにおにぎりを見つめる。
「あ、ひとが握ったの苦手だったかな」
「違う! あたしおにぎりはじめて! いただきます!」
うれしそうにおにぎりを頬張った少女に朝から少しだけ複雑な気分になる。
「あのね、コンビニとかではもちろんあるけど、こうやってひとが握ってくれたのってあたしはじめて。自分で作っても、ほらなんかね!」
「うん」
うなずく。自分も席についてひとつ頬張った。握ったばかりなのでほかほかと温かい。シャケの身をほぐしてフレークにして、それを全体に混ぜ込んだ全体がピンク色がかっ
ているおにぎり。母が握るおにぎりは昔からそうだった。具を中に詰めることはしない。
全体に混ぜ込んで握るから、一目で何のおにぎりか分かるものだった。
そう考えたら、おにぎりというのは家庭ごとにある家庭料理なのかもしれない───煮物やカレーのように、家族の味というものが大きく出るものなのかもしれない。
───すげえ、ピンク色のおにぎり! 桜みたいだ!
自分にとって当たり前だと思っていたものが誰かにとっては当たり前じゃない。そんなことは、もう何年も前に識っていたはずなのに。
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