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 瞬は一瞬、キョトンとし、
「初めて?」
 瞬の問いに武蔵は何度も頷いている。
「あぁ、男とはって事だろ? 大丈夫、俺も男とは初めてだから」
 武蔵は瞬の言葉にフルフルと首を振っている。
(まさか……)
 武蔵は恥ずかしそうに顔を両手で覆っていたが、隠れていない耳は真っ赤だ。
「童貞?」
「は、はい……」

『…………』

「フハハハ……」
瞬は乾いた笑いを一つすると、
「……おめでとう、これで脱童貞って事だな」
 瞬は都合よく解釈し再び腰を落そうとした。

「ダ、ダメです! 俺は好きな人としかしないって決めてるんです!」
 武蔵は瞬の腰を強く押した。

 発せられたその言葉に力が抜けてしまった瞬は、武蔵の股間に尻が着地してしまった。その拍子に、互いに硬くなっている二人の中心が一瞬擦れ合った。

「あっ……♡」
 ドピュッ!

 武蔵の顔が快感に歪んだと思うと、瞬の顔に生暖かい液が飛んできた。青臭い独特の匂いが鼻につく。事もあろうに、武蔵の白い液体は瞬の顔面めがけて発射されたのだ。
「て、てめー!」
 ギロリと武蔵に睨み、拳を振り上げた。
「う、わぁ……! す、すいません!」
 武蔵の頭上に瞬の拳が振り落とされた。

 シャワーを借り、リビングに戻ると武蔵は床に正座していた。
「すみませんでした」
 そう謝罪され、
「まぁ、俺も寝てるとこ襲ったしな」
「そ、そうですよ! そもそも榛名さんが襲ってきたんじゃないですか!」
 瞬は武蔵の言葉にそっぽを向いた。

 しばし沈黙が流れ、先に口を開いたのは武蔵だった。
「あの、榛名さんは……ゲイな」
「違う」
 否定の言葉を瞬時に被せた。
「俺はゲイじゃない」
 用意されていたコーヒーに口を付け間を置くと、
「アナルセックスに興味があるんだよ」
 そう開き直ったように言うと、武蔵は口をパクパクとさせ、顔を赤くしたり青くしたりと動揺している。

 それがやっと落ち着くと、
「榛名さんの奇行の理由は理解しました。でも、俺は好きな人としかしないと決めているので」
 武蔵の決心は固いようだ。
「何その乙女思考! しかも、その年で童貞とかありえないでしょ! マジ、ウケる!」
「そ、そうでしょうか?!」
 瞬は前屈みになり、武蔵に顔を近づけ顎を掴んだ。

「だからさ……俺で童貞捨てろよ」
「ーーっ!」

 武蔵の目が見開き、瞬を凝視したかと思うと前髪の奥の目が左右上下に忙しなく動き始めた。
(おー考えてる考えてる)
 武蔵の手が伸び、顎を掴んでいた瞬の手を掴んだ。
「やっぱりダメです!」
「ちっ!」
 瞬は大きく舌打ちをし、掴まれた腕を振り払った。

「榛名さんも……好きな人とだけ、そういう事した方がいいですよ」
「だからさ、言ってんじゃん、俺は男が好きなんじゃなくて、アナルセックスに興味があるの! そんな、好きだのなんだのは必要ないの!童貞の分際で俺に説教すんな!」
 手元にあったクッションを勢いよく武蔵に投げつけると、武蔵の顔面にヒットした。

 そんな武蔵を童貞だとバカにはしたが、ある意味自分も童貞だ。
 《恋愛童貞》
 瞬は心から好きだと思える相手とセックスした記憶がない。昔は武蔵が言うように本当に好きな相手とのセックスに憧れた時もあった。いつかそんな相手が自分にも現れるはずだと。

 だが現時点で、それはまだ叶わない。
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