Twin Dragonーそれが恋だと気付くまでー

藤美りゅう

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 十二月に入り、世間はクリスマスムードに浮かれている。
 龍聖たちが竜臣の家に居候して、三ヶ月が経っていた。

「クリスマスかー。おまえチビたちになんかあげるの?」
「うーん、考え中。聞いたけど、千夏さんのオムライスって言われた」
 そう言って、苦笑いを浮かべている。
 双子の翼と光は、思いのほか欲がなかった。それに龍聖は安堵していた。言えば何でも買ってもらえる今の環境に、慣れてしまわないか不安でいたのだが、要らぬ心配だったようだ。
 竜臣は何でも買ってやってしまう。それはまるで、孫に何でも買え与えてしまう、おじいちゃんのようだ。双子たちは、物より食に対する欲が強いように龍聖は思えた。あの時、食べ物を満足に食べられないという環境が、今、そうさせているのかもしれない。

 翼と光には忘れて欲しいと思う。特に、首を絞めてしまった事を。きっと、五歳ならば記憶は残ってしまうかもしれない。トラウマにならない事を祈るだけだった。
 そして龍聖自身、絶対に忘れない事はできないだろう。

 生きる希望を与えてくれた竜臣は、龍聖にとって弟と同じくらいに大事な存在になっていた。竜臣はきっと極道になるだろう。だったら、自分も同じ道を歩み、一生かけて竜臣を守る。それは、自分にとって、ごく自然な当たり前の事なのだと思っている。

「おっ、これなんてどうだ?」
 商店街をブラブラと歩いていると、竜臣は自転車屋の補助輪付きの子供用自転車に目を奪われている。
「そんな、高い物いいって!」
「だって、普通の子どもならこのくらいあるだろ?」
「そうかもしんねーけど……」
「あいつらには、普通の子供と同じようにしてやりてーんだよ」
 そう言って双子を思い浮かべているのか、優しい笑みを溢しながら子供用の自転車を見つめている。
「住む所与えてもらってるだけで、オレたちは有難いんだよ」
「うるせーな、俺がしたいんだからいいだろ!」
 竜臣は口を尖らせている。思わずその子供のような顔を見て、龍聖は笑ってしまった。
「おまえは何か欲しい物あるか?」
 不意に竜臣に聞かれた。
「今、充分色々与えてもらってるから、思い浮かばないな。そういう竜臣は何かないのか?」
「うーん、ないな。一番欲しかった友達と家族は手に入ったから」
 そう言って、ふわりと笑った。
「……っ」
 その言葉に鼻の奥がツンとした。それを誤魔化すように、龍聖は顔をマフラーに埋めた。

 クリスマスは盛大に祝った。大きなクリスマスツリーを飾り、クリスマスケーキを食べた。
 竜臣にしても龍聖にしても、こんな盛大にクリスマスをやったのは初めてだった。
 一緒に住む若い衆たちも集めて大人数でパーティーをした。
 双子たちは、沢山のプレゼントをもらい、竜臣からは案の定、補助輪付きの自転車をそれぞれもらっていた。
 双子たちは早速中庭に出て、若い衆に支えられ自転車を嬉しそうに漕いでいる。
「また、こんな高い物……」
 思わず龍聖は頭を抱える。
「喜んでんだから、いいじゃねーか」
 隣で竜臣はタバコを燻らせている。目を細め、双子が嬉しそうに自転車に乗る姿を見て、満足気な顔を浮かべている。
不意にこちらに顔を向けると、
「そうだ、俺からはこれ」
 そう言って、竜臣はポケットから小さな袋を取り出した。手に取り中を見ると星型のピアスだった。
 鈍く黒い光を放つ、スタッズピアスでシンプルなデザイン。
「穴、開いてないけど?」
「今から開けるんだよ。俺の部屋行ってて」
 そう言われ、竜臣の部屋のソファに座り竜臣が来るのを待った。
 正直、耳に穴など開けたくはない。だが、それを竜臣が望む事ならと、受け入れた。

 竜臣がビニール袋を持って戻ってくると、龍聖の横に座り向き合う形になる。ビニール袋をおもむろに龍聖の左の耳たぶにあてた。
「冷てえ!」
「冷やして感覚無くして開けるんだよ。つっても、痛みはあるけどな」
 ビニール袋の中は氷だった。
 しばらくその体制で待つ。竜臣の耳に目を向けると、五つあるピアスのうち、一つが先程見せられた星のピアスと同じだった。

 次第に龍聖の耳たぶの感覚がなくなり始める。
 ガラステーブルに置かれたピアッサーを竜臣は手に取り、龍聖の耳たぶにあてた。
「開けるぞ」
 バチン! と大きな音が龍聖の耳に響いた。痛みで思わず顔をしかめ、首に血が流れるのを感じた。
 竜臣の目が首筋に流れる血をジッと見つめている。竜臣の右手が龍聖の頬に添えられ、左手で流星の顔を少し傾けた。次の瞬間、竜臣の舌がその血を舐めとった。首筋の血をゆっくり舌先で舐め上げ、最後は耳たぶを口に含んだ。冷えて感覚のない耳たぶが、竜臣の口の中で溶かされるように、熱を持ち始めた。
 ゾクゾクと龍聖の体が小さく震え、目を閉じた。ゆっくり目を開けると、目の前には顔を蒸気させた虚ろな目の竜臣。龍聖は竜臣の頬を両手で挟むと半ば強引に口を塞いだ。竜臣も龍聖の髪を鷲掴み、その唇を離すまいときつく髪を掴んできた。
 何度も啄むキスを繰り返し、夢中で舌を絡ませた。

 その時、部屋がノックされ二人は大きく肩を揺らした。
「坊ちゃん、龍聖くん、食事の用意できてますよ」
 千夏の声が聞こえ、二人は体を離すと、
「今、行く」
 竜臣は何事もなかったように、部屋を出て行った。
 龍聖は暫く頭を抱え、気持ちが落ち着くのを待ってから部屋を出た。

 きっと竜臣にしてみれば、キスをしたかったからした、という事なのだろう。したくなった理由など、竜臣には必要ないのだ。
 十六歳の子供とは思えない、時折見せる竜臣の色気にふと、理性を失いそうになる。
 竜臣とは兄弟という名の下に一緒にいる。ましてや、男同士。自分は同性愛者ではない自覚がある故に、違和感を覚えた。

 それでも、龍聖の胸の奥にチロチロと小さな火が灯り初めている事に、龍聖自身もその時は気付いてはいなかった。

 その感情に気付くのに、まだ龍聖は子供だった。
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