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 食事が済むと、部屋の一室に龍聖を案内した。
「ここ、自由に使えよ」
 シングルサイズのベットが二つ並んでいる。双子はそのベットに駆け寄ると、スプリングをトランポリン代わりにはしゃぎ始めた。
「やめろ! 翼! 光! 壊れるだろ!」
 龍聖が声を上げると双子は、「はーい」と返事をし大人しくなった。
「まぁ、いいさ。ちょっと、兄ちゃん借りるぞ。テレビでも見てろ」
 竜臣はテレビの電源を入れてやると双子は行儀よくベットに並び、夢中になってテレビを見始めた。
「おまえと少し話しがしたい」
 竜臣はそう言って、龍聖の肩を叩いた。

 リビングに入ると、キッチンでは千夏が片付けをしており、桐生が携帯で何やら話していた。
 竜臣はソファに腰を下ろすが、龍聖は座らずその場に立っている。
「今日は、本当にありがとう。こんなオレたちに風呂も食事を与えてくれて、命の恩人だ。おまえがあの時、現れなかったら俺はきっと翼を……」
 グスリと鼻をすすると、Tシャツの袖で涙を拭い、
「この借りはきっと返す」
 そう言って、深々と頭を下げた。

「明日からはどうすんだ?」
 竜臣はタバコに火を点けると、尋ねた。
「弟たちは施設に預けるか、父親の連絡先何とか調べて連絡してみようと思う」
「おまえは?」
「俺は働けるとこ探して、なんとか生きていくさ」
 座れよ、そう言うと龍聖は竜臣の前に腰を下ろした。
「チビたちいて、働けるのかよ」
「こいつらが寝ている間に働けるとこ、みつけるさ」
「おまえ、ここに住めよ」
 龍聖は竜臣の唐突な言葉に目を見開いている。
「え?」
「ここに、住めって言ったの。双子も一緒に」
 信じられない様子で、混乱しているのか目が泳いでいる。
「そんな……そんな、わけには!」
「いいじゃん、別に」
「そこまでしてもらう理由がない」
「理由があればいいの?」
 竜臣はじっと龍聖を見つめた。

「友達になってほしい、俺と」
 その言葉に龍聖は面食らったように目を見開いている。
「とも、だち?」
「俺、兄弟も友達いねーからさ」
「友達になるのは全然構わない。でも、何も一緒に住む事は……」
 龍聖は竜臣の言っている事が理解できない様子で頭を振っている。
「俺の事、覚えてねーの?」
「覚えてるさ。小学校の時、同じクラスだった江藤竜臣」
「そう、俺はその江藤竜臣だ。極道の息子でいじめられてて、クラスで一人ぼっちだった俺に唯一話しかけてくれたのは、おまえだけだったよ」
 薄っすらと笑みを浮かべると、その笑みに見惚れたように龍聖は竜臣を見つめた。

「あの時、おまえがいなければ今の俺はなかった。おまえの優しさに触れて、人の優しさを知った。きっと、おまえがいなかったら俺は、感情を持たないイカれた人間になっていたと思う。だから、俺は今その恩をここで返したい」
「そ、そんな……!」
「俺は小さい頃から大人に囲まれて育って、同い年くらいの友達なんて一人もいなかった。家に帰っても誰もいなくて、母親はオレを産んですぐ死んで、親父はこっちにはほとんど帰ってくる事がない。家族ってものを知らない。もっと欲を言えばおまえと双子が俺の家族になってくれたら嬉しい」
「……っ!」
「双子たちに、これからも美味いもん食べさせてやりたくねえか? また、昨日までの生活に戻りたいと思うのかよ」
「戻りたくないに決まってる……」
「今日、死のうとしてたんだろ。だったらその命、俺にくれよ」
「竜臣……」
 龍聖が竜臣の名を呼んだ。

 小学校の時、お互いに下の名前で呼び合っていたのを思い出し、竜臣の鼻の奥がツンとした。
「ありがとう、竜臣……俺の命、おまえに預けるよ」

 絶望し死のうとしていた自分の命を欲しがる人間が目の前にいる。生きていていいのだと、自分に生きる理由とそして、生きる希望を竜臣は与えてくれた。
 龍聖の涙腺が壊れたように、とめどなく涙が流れ落ちた。
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