6 / 15
6.
しおりを挟む
食事が済むと、部屋の一室に龍聖を案内した。
「ここ、自由に使えよ」
シングルサイズのベットが二つ並んでいる。双子はそのベットに駆け寄ると、スプリングをトランポリン代わりにはしゃぎ始めた。
「やめろ! 翼! 光! 壊れるだろ!」
龍聖が声を上げると双子は、「はーい」と返事をし大人しくなった。
「まぁ、いいさ。ちょっと、兄ちゃん借りるぞ。テレビでも見てろ」
竜臣はテレビの電源を入れてやると双子は行儀よくベットに並び、夢中になってテレビを見始めた。
「おまえと少し話しがしたい」
竜臣はそう言って、龍聖の肩を叩いた。
リビングに入ると、キッチンでは千夏が片付けをしており、桐生が携帯で何やら話していた。
竜臣はソファに腰を下ろすが、龍聖は座らずその場に立っている。
「今日は、本当にありがとう。こんなオレたちに風呂も食事を与えてくれて、命の恩人だ。おまえがあの時、現れなかったら俺はきっと翼を……」
グスリと鼻をすすると、Tシャツの袖で涙を拭い、
「この借りはきっと返す」
そう言って、深々と頭を下げた。
「明日からはどうすんだ?」
竜臣はタバコに火を点けると、尋ねた。
「弟たちは施設に預けるか、父親の連絡先何とか調べて連絡してみようと思う」
「おまえは?」
「俺は働けるとこ探して、なんとか生きていくさ」
座れよ、そう言うと龍聖は竜臣の前に腰を下ろした。
「チビたちいて、働けるのかよ」
「こいつらが寝ている間に働けるとこ、みつけるさ」
「おまえ、ここに住めよ」
龍聖は竜臣の唐突な言葉に目を見開いている。
「え?」
「ここに、住めって言ったの。双子も一緒に」
信じられない様子で、混乱しているのか目が泳いでいる。
「そんな……そんな、わけには!」
「いいじゃん、別に」
「そこまでしてもらう理由がない」
「理由があればいいの?」
竜臣はじっと龍聖を見つめた。
「友達になってほしい、俺と」
その言葉に龍聖は面食らったように目を見開いている。
「とも、だち?」
「俺、兄弟も友達いねーからさ」
「友達になるのは全然構わない。でも、何も一緒に住む事は……」
龍聖は竜臣の言っている事が理解できない様子で頭を振っている。
「俺の事、覚えてねーの?」
「覚えてるさ。小学校の時、同じクラスだった江藤竜臣」
「そう、俺はその江藤竜臣だ。極道の息子でいじめられてて、クラスで一人ぼっちだった俺に唯一話しかけてくれたのは、おまえだけだったよ」
薄っすらと笑みを浮かべると、その笑みに見惚れたように龍聖は竜臣を見つめた。
「あの時、おまえがいなければ今の俺はなかった。おまえの優しさに触れて、人の優しさを知った。きっと、おまえがいなかったら俺は、感情を持たないイカれた人間になっていたと思う。だから、俺は今その恩をここで返したい」
「そ、そんな……!」
「俺は小さい頃から大人に囲まれて育って、同い年くらいの友達なんて一人もいなかった。家に帰っても誰もいなくて、母親はオレを産んですぐ死んで、親父はこっちにはほとんど帰ってくる事がない。家族ってものを知らない。もっと欲を言えばおまえと双子が俺の家族になってくれたら嬉しい」
「……っ!」
「双子たちに、これからも美味いもん食べさせてやりたくねえか? また、昨日までの生活に戻りたいと思うのかよ」
「戻りたくないに決まってる……」
「今日、死のうとしてたんだろ。だったらその命、俺にくれよ」
「竜臣……」
龍聖が竜臣の名を呼んだ。
小学校の時、お互いに下の名前で呼び合っていたのを思い出し、竜臣の鼻の奥がツンとした。
「ありがとう、竜臣……俺の命、おまえに預けるよ」
絶望し死のうとしていた自分の命を欲しがる人間が目の前にいる。生きていていいのだと、自分に生きる理由とそして、生きる希望を竜臣は与えてくれた。
龍聖の涙腺が壊れたように、とめどなく涙が流れ落ちた。
「ここ、自由に使えよ」
シングルサイズのベットが二つ並んでいる。双子はそのベットに駆け寄ると、スプリングをトランポリン代わりにはしゃぎ始めた。
「やめろ! 翼! 光! 壊れるだろ!」
龍聖が声を上げると双子は、「はーい」と返事をし大人しくなった。
「まぁ、いいさ。ちょっと、兄ちゃん借りるぞ。テレビでも見てろ」
竜臣はテレビの電源を入れてやると双子は行儀よくベットに並び、夢中になってテレビを見始めた。
「おまえと少し話しがしたい」
竜臣はそう言って、龍聖の肩を叩いた。
リビングに入ると、キッチンでは千夏が片付けをしており、桐生が携帯で何やら話していた。
竜臣はソファに腰を下ろすが、龍聖は座らずその場に立っている。
「今日は、本当にありがとう。こんなオレたちに風呂も食事を与えてくれて、命の恩人だ。おまえがあの時、現れなかったら俺はきっと翼を……」
グスリと鼻をすすると、Tシャツの袖で涙を拭い、
「この借りはきっと返す」
そう言って、深々と頭を下げた。
「明日からはどうすんだ?」
竜臣はタバコに火を点けると、尋ねた。
「弟たちは施設に預けるか、父親の連絡先何とか調べて連絡してみようと思う」
「おまえは?」
「俺は働けるとこ探して、なんとか生きていくさ」
座れよ、そう言うと龍聖は竜臣の前に腰を下ろした。
「チビたちいて、働けるのかよ」
「こいつらが寝ている間に働けるとこ、みつけるさ」
「おまえ、ここに住めよ」
龍聖は竜臣の唐突な言葉に目を見開いている。
「え?」
「ここに、住めって言ったの。双子も一緒に」
信じられない様子で、混乱しているのか目が泳いでいる。
「そんな……そんな、わけには!」
「いいじゃん、別に」
「そこまでしてもらう理由がない」
「理由があればいいの?」
竜臣はじっと龍聖を見つめた。
「友達になってほしい、俺と」
その言葉に龍聖は面食らったように目を見開いている。
「とも、だち?」
「俺、兄弟も友達いねーからさ」
「友達になるのは全然構わない。でも、何も一緒に住む事は……」
龍聖は竜臣の言っている事が理解できない様子で頭を振っている。
「俺の事、覚えてねーの?」
「覚えてるさ。小学校の時、同じクラスだった江藤竜臣」
「そう、俺はその江藤竜臣だ。極道の息子でいじめられてて、クラスで一人ぼっちだった俺に唯一話しかけてくれたのは、おまえだけだったよ」
薄っすらと笑みを浮かべると、その笑みに見惚れたように龍聖は竜臣を見つめた。
「あの時、おまえがいなければ今の俺はなかった。おまえの優しさに触れて、人の優しさを知った。きっと、おまえがいなかったら俺は、感情を持たないイカれた人間になっていたと思う。だから、俺は今その恩をここで返したい」
「そ、そんな……!」
「俺は小さい頃から大人に囲まれて育って、同い年くらいの友達なんて一人もいなかった。家に帰っても誰もいなくて、母親はオレを産んですぐ死んで、親父はこっちにはほとんど帰ってくる事がない。家族ってものを知らない。もっと欲を言えばおまえと双子が俺の家族になってくれたら嬉しい」
「……っ!」
「双子たちに、これからも美味いもん食べさせてやりたくねえか? また、昨日までの生活に戻りたいと思うのかよ」
「戻りたくないに決まってる……」
「今日、死のうとしてたんだろ。だったらその命、俺にくれよ」
「竜臣……」
龍聖が竜臣の名を呼んだ。
小学校の時、お互いに下の名前で呼び合っていたのを思い出し、竜臣の鼻の奥がツンとした。
「ありがとう、竜臣……俺の命、おまえに預けるよ」
絶望し死のうとしていた自分の命を欲しがる人間が目の前にいる。生きていていいのだと、自分に生きる理由とそして、生きる希望を竜臣は与えてくれた。
龍聖の涙腺が壊れたように、とめどなく涙が流れ落ちた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
申し訳ございません。あいにく先約がございまして。
ハリネズミ
BL
取引先の息子から何度もなんども食事に誘われる。
俺は決まって断りもんくを口にする。
「申し訳ございません。あいにく先約がございまして」
いつまで続くこの攻防。
表紙はまちば様(@Machiba0000)に描いていただきました🌸
素敵な表紙をありがとうございました🌸
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる