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「迷子になりそうだな」
風呂場からリビングに向かって歩いていると、龍聖が辺りを見渡しながら言った。
翼と光も龍聖の手を握り、キョロキョロと周囲を見ている。双子はお揃いの戦闘モノのパジャマを着ていた。
言われた通り、どうやら桐生が買ってきたようだった。龍聖は、竜臣のハーフパンツとTシャツを着ていた。前に比べ痩せたとは言え、やはり竜臣のTシャツではサイズが合っていないのか、少しピタッと肌に張り付いている。
風呂に入っている時も思ったが、野球をやっていただけあり、男らしく程よく筋肉の付いた綺麗な体をしていると思った。
リビングに入ると、食事の匂いが部屋に充満している。
「いい匂い!」
双子は同時に言うと、お腹が鳴る音が聞こえた。
テーブルには所狭しと、食事が並べられている。横にいた龍聖すら、喉をゴクリと鳴らしたのが聞こえた。
すでに、ダイニングテーブルにタバコを燻らせた男が一人座っていた。
「桐生、こいつが九條龍聖。で、双子の弟の翼と光」
龍聖は桐生を見ると、深々と頭を下げた。
桐生は藤神会の経理全般を任されている事務長の立場で、藤神会の資金の管理をしていた。それでも極道であるのは違いなかったが極道らしかぬその出で立ちは、弁護士や医師と言っても通用しそうな面構えで、有名大学を出ている所謂インテリヤクザだった。
そして桐生は竜臣の父、竜生の腹違いの弟でもあり、竜臣にしてみると叔父にあたった。だが、桐生は愛人の子供という引け目からかなのか、竜臣に対しては上司のご子息という扱いを頑なに貫いていた。
「このパジャマ、随分気に入ったみたいだぞ」
竜臣は揶揄うように言うと、
「店員に選んでもらっただけです」
桐生は片眉を上げ、苦笑いを浮かべた。
「さあ、双子ちゃんたち、お腹いっぱい食べてね」
千夏は双子を椅子に座らせてやると、キラキラした顔で双子はテーブルの食事を見ている。
「おまえも食えよ」
そう言われた龍聖は震える手で箸を手にした。目の前で弟たちが口いっぱいにご飯を食べているのを、じっと見つめている。
「うまいか?」
竜臣は双子に声をかけると、
「こんな美味しいご飯、初めて!」
「兄ちゃんも早く食べなよ! 美味しいよ!」
龍聖はゆっくりと箸を動かし、目の前にある肉を一切れ取る。震える手で口に運び、咀嚼した。白いご飯を一口頬張る。途端、龍聖はポロポロと泣き出した。
「兄ちゃん、どうしたの?」
「どこか痛いの?」
心配そうに双子が龍聖に声をかけている。
流星は首を振ると、
「う、まい……」
そう言って、ハタハタと涙を流し、また一口白いご飯を口に入れた。
一体どれほどの間、まともな食事をしていなかったのだろうか。
毎日ひもじい思いをし、幼い弟を抱え、精神的にも身体的にもギリギリ生きていた。だが、とうとう絶望し無理心中をしようと弟の首に手を掛けた。あの時、生徒手帳を偶然拾い、それを届けてやろうなど普段なら絶対にする事のない行動に、そして、気まぐれに龍聖の家に行った事を心底良かったと思った。
おそらく、竜臣が行かなければ本当にこの兄弟たちは死んでいたと思う。
一口一口大事そうにご飯を噛み締める龍聖を、竜臣はしばらくそっと見つめた。
千夏はそんな龍聖の姿を見て、貰い泣きをしていた。
風呂場からリビングに向かって歩いていると、龍聖が辺りを見渡しながら言った。
翼と光も龍聖の手を握り、キョロキョロと周囲を見ている。双子はお揃いの戦闘モノのパジャマを着ていた。
言われた通り、どうやら桐生が買ってきたようだった。龍聖は、竜臣のハーフパンツとTシャツを着ていた。前に比べ痩せたとは言え、やはり竜臣のTシャツではサイズが合っていないのか、少しピタッと肌に張り付いている。
風呂に入っている時も思ったが、野球をやっていただけあり、男らしく程よく筋肉の付いた綺麗な体をしていると思った。
リビングに入ると、食事の匂いが部屋に充満している。
「いい匂い!」
双子は同時に言うと、お腹が鳴る音が聞こえた。
テーブルには所狭しと、食事が並べられている。横にいた龍聖すら、喉をゴクリと鳴らしたのが聞こえた。
すでに、ダイニングテーブルにタバコを燻らせた男が一人座っていた。
「桐生、こいつが九條龍聖。で、双子の弟の翼と光」
龍聖は桐生を見ると、深々と頭を下げた。
桐生は藤神会の経理全般を任されている事務長の立場で、藤神会の資金の管理をしていた。それでも極道であるのは違いなかったが極道らしかぬその出で立ちは、弁護士や医師と言っても通用しそうな面構えで、有名大学を出ている所謂インテリヤクザだった。
そして桐生は竜臣の父、竜生の腹違いの弟でもあり、竜臣にしてみると叔父にあたった。だが、桐生は愛人の子供という引け目からかなのか、竜臣に対しては上司のご子息という扱いを頑なに貫いていた。
「このパジャマ、随分気に入ったみたいだぞ」
竜臣は揶揄うように言うと、
「店員に選んでもらっただけです」
桐生は片眉を上げ、苦笑いを浮かべた。
「さあ、双子ちゃんたち、お腹いっぱい食べてね」
千夏は双子を椅子に座らせてやると、キラキラした顔で双子はテーブルの食事を見ている。
「おまえも食えよ」
そう言われた龍聖は震える手で箸を手にした。目の前で弟たちが口いっぱいにご飯を食べているのを、じっと見つめている。
「うまいか?」
竜臣は双子に声をかけると、
「こんな美味しいご飯、初めて!」
「兄ちゃんも早く食べなよ! 美味しいよ!」
龍聖はゆっくりと箸を動かし、目の前にある肉を一切れ取る。震える手で口に運び、咀嚼した。白いご飯を一口頬張る。途端、龍聖はポロポロと泣き出した。
「兄ちゃん、どうしたの?」
「どこか痛いの?」
心配そうに双子が龍聖に声をかけている。
流星は首を振ると、
「う、まい……」
そう言って、ハタハタと涙を流し、また一口白いご飯を口に入れた。
一体どれほどの間、まともな食事をしていなかったのだろうか。
毎日ひもじい思いをし、幼い弟を抱え、精神的にも身体的にもギリギリ生きていた。だが、とうとう絶望し無理心中をしようと弟の首に手を掛けた。あの時、生徒手帳を偶然拾い、それを届けてやろうなど普段なら絶対にする事のない行動に、そして、気まぐれに龍聖の家に行った事を心底良かったと思った。
おそらく、竜臣が行かなければ本当にこの兄弟たちは死んでいたと思う。
一口一口大事そうにご飯を噛み締める龍聖を、竜臣はしばらくそっと見つめた。
千夏はそんな龍聖の姿を見て、貰い泣きをしていた。
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