神様の料理番

柊 ハルト

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レモンの憂愁

01 ー 戦う料理番

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 出立は早朝にひっそりと行われた。昨日とは打って変わり、皆の表情は引き締まっている。
 集合場所は、騎士団塔のエントランスだった。フレデリクとローゼス、そしてカーマインが見送りに来てくれた。
 城門を出るまで、移動は徒歩だ。少し離れてから獣身の姿になり、目的地まで一気に目指すことになっている。誠も狐の姿になって一緒に駆けたかったのだが、九本の尾を持つ狐はこの世界に存在しないので、今回もアレクセイの背中に乗せてもらう。
 獣人は、緊急時以外はツガイ以外を背中に乗せないそうだ。そのことを教えてもらった時、誠は妙に嬉しくなったと同時に、少しだけ申し訳なく思ってしまった。
 以前乗せてもらった時に。いや、もっと前から、アレクセイは自分のことをツガイと心に決めていたのだ。どうしても、待たせてしまった負い目を感じてしまう。
 だからとことん、アレクセイのことは甘やかしてやりたくなる。
 昼飯は、コカトリスの亜種が出現した林で摂った。あれから数日経った今も、ここは立ち入りを禁止されているそうだ。
 冒険者が立ち入らないからか、視界の端に魔獣が映った。指示を仰ぐため、誠は魔獣に気付かれないように小さな声で呼んだ。

「アレクセイ」
「ああ。しばらく立ち入り禁止にしていたからな。おそらく、様子見といったところだろう」

 なるほど。自分達の天敵である冒険者の姿が見えないので、警戒心の薄い魔獣や行動範囲の広い魔獣が、そろそろ行動を開始しだしたらしい。
 レビ達もいつの間にか獲物を手にして、アレクセイを伺っていた。

「あまりこの辺をうろつかれると、行商人や近くの集落に被害が出るかもしれない。少し狩って行こう。深追いはするな」
「了解」

 オスカーが返事をすると、ドナルドと共に静かに林に向かって行った。レビとルイージは互いに目配せをすると、オスカー達とは別方向に向かった。
 残ったのは、指揮官であるアレクセイと、料理番である誠だけだ。
 ずっとアレクセイの背中に乗っていのだ。そろそろ体を動かしたい。自分も狩りに行って良いかアレクセイに聞くと、少し考えたあと、アレクセイは了承してくれた。

「オスカー達にも言ったが、あまり遠くには行くな。あと、絶対に怪我だけはしないでくれ」
「分かってるって。大丈夫。危なくなったら、影に潜るから」
「ああ。気を付けてな」
「ん。行ってきます」

 行かせてくれると思っていたが、もっとごねられるかと予想していた。少し拍子抜けだったが、今のアレクセイは、騎士団の班長としての役割をしっかりと担っているだけだ。
 戦力の一つとして誠を見ている。それは、信頼されている証だ。
 誠はアレクセイの信頼のためにも、無傷で戻らなければならない。けれど、久し振りにひと暴れできるとあってか、心が躍っていた。

「さーて。大物でも小物でも、美味い魔獣が出てくれれば良いんだけど」

 どうせ狩るなら、食材になる魔獣が良いに決まっている。
 辺りの気配を探ると、少し離れた所でレビ達がしっかりと魔獣を狩っているのが分かった。この辺りに居るのはどれも小型の魔獣のようで、肩慣らしとしては少々物足りない。誠は前方に魔獣を確認すると、小さな竜巻を作って次々に攫っては窒息させていった。
 近くの魔獣を粗方狩り終わると、誠はアレクセイの元に戻ることにした。まだ他の四人は戻って来ていないらしく、アレクセイは資料を見ながら顰めっ面をしていた。けれど、戻ってきた誠に気付くと表情はすぐに和らいだ。

「お帰り。…良かった、怪我は無さそうだな」
「もちろん。こっちに向かって来る前に、窒息死させたからね。怪我なんて、しないしない」
「…そうか。さすがだな。それで、どんな種類の魔獣が居たんだ。見せてくれないか」

 誠が何を狩ったのか、興味本位で聞いているのではないらしい。
 亜種が出現した後は生態系が崩れやすく、爆発的に増える種類や、他から流れ込んで来る種類が居る。アレクセイはそのバランスを見るために、誠が見つけた魔獣を調べるそうだ。
 狩った魔獣は、全てマジックバッグに入れてある。鑑定スキルを使わないと名前が分からないので、誠はその場に全部出すことにした。
 半分は猪型の魔獣。他にはウサギや蛇が、次々とこの場に山を形成していった。最後に大きな熊の魔獣を出した時には、アレクセイにぎょっとされてしまった。やはりこの時期の熊は、この国でも凶暴だったようだ。
 そうこうしているうちに、レビ達も戻って来た。そして魔獣の山を見るやいなや、驚いた表情を浮かべながら、視線を誠と魔獣の山とで行き来させていた。
 全員の戦果を並べ終えると、資料と魔獣を見比べていたアレクセイから、異常無しの言葉がかかった。例年より少し多いそうだが、許容範囲内だそうだ。
 それから皆は、一気に魔獣の解体を始めた。売れる素材は騎士団の費用に。食べられる肉は、遠征中の食材か騎士団として卸すかのどちらかだ。誠は食べられる肉の中から。夕飯用の肉を選んでいた。
 レビやオスカー達も蛇の魔獣を倒していて、真っ先に皮を剥ぐと、誠に差し出してきた。彼らが唐揚げを所望だということは、すぐに分かった。誠は頭と内臓の処理を頼むと、早速夕飯の準備に取り掛かることにした。
 解体作業が終わる頃には、日もすっかり沈んでしまっていた。今日はこのまま、ここで過ごす予定だ。
 明日は林を抜け、少し北に上がることになっている。以前のように村や町を拠点にしないので、これからは殆どが野宿の日々になることは事前に知らされていた。
 じゃんけんで夜番の一番目を勝ち取った誠は、アレクセイと一緒に、焚き火の前を陣取っていた。

「何だろな…出だしは好調?」
「そうだな。これで何事も無ければ良いが、これだけ亜種の出現情報が上がっているんだ。途中で何体かと当たるだろうな」

 アレクセイは、亜種の出現ポイントが書き込まれた地図を見ていた。その真剣な横顔に、誠は目が離せなくなった。
 やはりアレクセイは、群れを率いている方が性に合っているのだろう。王都に居た時よりも、生き生きとしているように見えた。

「…どうした?」

 誠の視線に気付いたアレクセイが、こちらを向いた。途端に目元が優しくなった。

「別にー。男前のアレクセイを観察してただけ」

 邪魔をしたいわけではない。けれど、自分を見つめる時の、その目が好きだといつも思う。
 夜番は気を抜いてはいけないが、張り詰め過ぎるのも良くない。数時間とはいえ、最後まで保たないからだ。誠は労いにと、良い豆でコーヒーを淹れてやることにした。
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