神様の料理番

柊 ハルト

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ショコラの接吻

01 ー 王都へ

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 日本のレトルト技術は秀逸だと誠は思っている。
 お湯を注ぐだけでできるカップ麺はたまに食べたくなるし、野菜を追加するだけでできる中華料理などはたまに利用する。冷凍食品もバカにできない物は多々ある。
 そして忘れてはいけないのは、沸騰したお湯に浸けるだけで食べられる、ルーだ。
 どうやら誠の料理で舌が肥えた獣人達は、スパイス過多の料理に拒否反応を起こしかけているようだ。物は試しとばかりに、誠はマジックバッグの中からレトルトカレーの箱を出して皆に見せた。
 一箱百円前後の物ではなく、四、五百円くらいする、ちょっとお高いやつだ。絶対に食べたくなると思い、買い込んでいたのがここで役立つとは思っていなかった。
 パッケージのカレーに興味を持った彼らに腹具合を聞くと、まだ大丈夫だと返ってきたので、誠は早速お湯を沸かした。丼の残りの米があるので、ぞろぞろと厨房に着いてきた彼らに小さめのスープボウルを渡し、米は自分でよそってもらうことにした。

「いいか。カレーの量はこれだけだからな。良く考えて米をよそうこと!」

 三箱分用意したので大丈夫だろうが、とりあえず注意しておくことにする。アレクセイにしゃもじを渡すと、誠はお湯からパウチを取り出し、布巾で周りについているお湯を拭いていた。
 誠の前に、列が出来上がる。封を切ると、カレーの食欲を誘う香りが漂ってきた。
 誰かの腹の音を聞きながら、誠は先頭に居るアレクセイのボウルにカレーをかけた。

「…何とも不思議な香りだな。臭いような気もするが、美味そうだ」
「実際には、美味しいんですー。しかもこれ、ちょっと良いやつだし」

 バッグには牛すじカレーの箱も入れているが、選んだのは海軍カレーだ。
 誠はルーと米は五対五の割合で食べるのが好きだが、兄はなぜだか米が多めの三対七派だ。両親は兄とは逆で、ルーが少し多めの方が好きらしい。
 皆には最初なので、五対五の割合になるようにルーをかける。余った分は自分が食べるので、今回はルーが少なくても良いのだ。
 最後にドナルドのボウルにルーをかけてやる。その後ろにまたアレクセイが並んでいたが、これは誠の分だそうだ。

「ありがと」
「いや。ツガイとして当たり前のことをしたまでだ」

 もう皆が席に戻っているとは言え、そんなことをサラリと言われると照れてしまう。アレクセイはそのまま誠の分のスープボウルを持ち、席に戻って行った。

「…紳士だ」

 揺れる銀色の尾を見送りながら、ポツリと零す。自分より歳下のくせに、こうもさらりと優しさを見せてくれるのは反則だ。
 ついついポーっとその背中を見ていた誠は、我に帰ると慌ててアレクセイを追いかけた。
 席に着くと、皆はまだカレーに手をつけていなかった。アレクセイ達を待っていたようで、涎を垂らしそうになっているレビの悲壮感がこちらにも伝わってくる。
 吹き出しそうになったが何とか堪え、アレクセイを見ると、アレクセイも笑いを堪えているようで口角が少し上がっていた。

「よし。いただこう」

 アレクセイの言葉で、皆は一斉にスプーンを取った。
 結果は上々。むしろ足りなかったようで、やはり新居での食事会のメニューはカレーで決まりだ。


 片付けを終えて、割り振られた部屋に案内してもらったが、当たり前のようにアレクセイと同室だった。
 最近ずっと夜はバタバタしていたので、夕飯の片付け後、何もすることが無いのは久し振りだ。アレクセイは誠と二人の時間を取れて嬉しいようで、さっきから尾がゆらゆらと揺れている。
 明日の朝はゆっくりできるそうなので、誠はテーブルにウイスキーを用意した。呑み足りないのもあるが、何をして良いのか分からないと言うのが大きい。
 一人なら、時間を潰す方法はいくらでもある。けれど改めてアレクセイと二人きりだと思うと、途端に時間の潰し方が分からなくなった。
 まともな恋愛経験が無い弊害だ。自分は今、遅い初恋とツガイができたことで、頭がフィーバーを起こしている。それだけは自覚している。
 ゆっくりと進んでいこうとアレクセイに言ったくせに、少し時間が経つと、こうだ。あの時は何とか落ち着いていた気持ちだったが、予兆も無しに突然跳ね上がる。
 スコッチのボトルを何種類か並べると、誠はアレクセイの隣に座った。飾り気の無い室内のソファだが、座り心地だけは良かった。
 備え付けの無骨なグラスに、球体にした氷を入れる。酒を注ぐのはセルフサービスだ。

「つまみでも作りゃ良かったな」

 本場イギリスらしくフィッシュアンドチップスでも良いが、実はチョコレートもスコッチには合うのだ。クーベルチュールチョコレートは大量に持ってきているし、スーパーで買ったチョコレート菓子も大量にある。
 けれどここいら一帯では最大の街であり、外国との貿易も行なっている港街セーヴィルでも、カカオマスどころかカカオ豆のカの字も見当たらなかった。
 この国に無い料理やスイーツを次々に彼らに提供しているが、チョコレートだけは躊躇ってしまう。
 チョコレートは古代、薬として重宝されてきた。そして、媚薬とも。
 誠はなぜか、アレクセイの唇で溶けるチョコレートの欠片を想像してしまった。そして一人で赤面した。
 アホだ。自分でも分かる。
 けれど、人肌でゆっくりと溶け出すチョコレートは魅力的だ。それが冷たい色合いを持つアレクセイの薄い唇で溶ける。何と甘美で背徳感があるんだろう。

「…マコト?」

 アレクセイの唇を見ながら黙ったままの誠を不思議に思ったのか、アレクセイが名前を呼んだ。酒で湿った唇が、ライトに照らされている。
 誠は自然と体が動いてしまい、そのままアレクセイに口付けていた。
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