神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
75 / 150
バターの微笑み

01 ー ジョーカー

しおりを挟む


「…私が呪われている、か。誰が呪術をかけたか分かるか?」
「んー…薄っすらと繋がってるのは見える。雑な呪いだね。オニーチャンの魔力でかなり相殺されてるけど、どうする?利子付けて丁寧にお返しすることもできるけど」

 誠がニヤリと笑うと、フレデリクは口角だけを上げて笑い返した。

「ああ。君に危険が無いのなら、ぜひとも頼みたいところだな。…しかしマコト。君は呪術が使えるのか?」
「呪術って、魔法の親戚みたいなもん?俺のはそういうんじゃなくて、純粋な呪い…かな。妖怪ならある程度の奴は使えるし、遠野の妖狐は呪いは得意なんだ。まあ、これはアレクセイには言ってないけど」
「そうか。それを私に先に言って良いのかね?」
「それはオニーチャンだから…かな。もう少し、アンタを信用したいんだよ」
「そうか。それは…嬉しいな」

 そう言って、ふ、と笑う笑い方は、アレクセイと同じだった。
 誠はフレデリクに「少し触るよ」と言ってから、気高き黒豹に纏わりつく、粘ついた薄汚い触手のようなものを払う。そしてそれを掴んだまま力を流すと、触手は誠が握っているところから徐々に消えていった。

「…これで大丈夫。オニーチャン、体の不調は?」
「いや、かなり軽くなった。ありがとう。疲れていただけかと思っていたが、呪いのせいだったのか」

 明かりを絞っているので気が付かなかったが、こうして見るとフレデリクの顔色は良くなっているように思える。
 魔法だが呪術だか何だか知らないが、呪い系統の術は遠野の妖狐が最も得意とするものだ。妖怪は悪戯が仕事だと思われがちだが、呪いも立派な悪戯だ。ただ、その規模が違うだけ。
 だからアレクセイが自分につけた首筋の魔法をひっぺ返すことができたし、その効果を覆うこともできた。あれは大きく分類すると、まじない。つまりは呪いの一種だったからだ。

「俺にまじない関係で勝てる奴は、そうそう居ないと思うよ」
「そうか。君の力は、底しれんな」
「まあ、純粋な"力"だけならね」

 誠はそう言ってから、手の甲から何かを抜き取り、フレデリクに渡した。

「これは?」
「龍の鱗」

 誠は妖狐の姿しか取れないが、半分は諏訪の血が流れている。だから少しなら龍の鱗を出すことができるが、その大きさはギターピック程の大きさしかない。

「小さいが、ドラゴンの鱗に似ているんだな」
「まあね。一応それには加護がある。肌身離さず持ってて。呪いくらいなら弾けるし、何か用事があれば、鱗を握って俺に話しかけてくれれば聞こえるから」
「それは…」

 魔力も誠の纏う力の流れも見えるフレデリクだからこそ、その鱗が纏う力も見えたのだろう。フレデリクは渡された鱗をまじまじと見てから、そっと握った。

「ありがとう、マコト。二枚ということは、一枚はローゼスにか?」
「そう」
「アレクセイにも渡しているのか?」
「いや。アレクセイには、龍玉を渡してるから」
「リュウギョク…ああ、アレクセイが言っていたな」
「聞いてるかもしんないけど、龍玉は俺のツガイの証だ。あと、遠野の始祖の加護がバリバリ働いてるから、呪いなんかはかけようとした奴が即座に自滅する代物だよ」
「…随分、物騒な物に聞こえるんだが」
「物騒だよ。でも、それが遠野なんだ」
「なるほど。ヴォルク家の者のツガイは、こうでなければな」

 フレデリクはニヤリと笑い、ティーポットから紅茶を注いだ。誠はそろそろ帰ると言い、おかわりは丁寧に断った。

「…あ。オニーチャン、ちょっと鱗貸して」
「どうした?」

 誠は先程渡したばかりの鱗を返してもらうと、さっと撫でてからまたフレデリクに渡した。

「…穴?」
「そう。多分、誰も加工できないから。ローゼスとお揃いのペンダントにでもしてくれよ」

 鱗を撫でたのは、小さな穴を開けるためだ。革紐かペンダント用のパーツなら通せるサイズだ。今まで鱗を剥がしたことがなかったので、すっかり失念していたのだ。

「お揃いか。あの子猫ちゃんとのお揃いなら、いくつあっても足りないな」
「だと思った。水に濡れても大丈夫だから、風呂入る時も外すなよ」
「ああ。子猫ちゃんにも言っておこう。しかし…私はとんでもないジョーカーを手に入れたような気がするんだがね」
「…かもね。神には勝てないだろうけど、使い方によっては国崩しも可能かも」
「ほぉ…なら、気を付けないとな」
「オニーチャンなら、正しくジョーカーを使えると思ってる。…あ。オニーチャンに呪いをかけてた奴は、茶髪の猫系獣人。人間の見た目年齢で言うと、四十後半くらいかな。この建物の下の階に居る。…あー…鼠獣人と一緒みたい」

 呪いの痕跡を辿れば、それくらいは見える。直接赴けばもっと正確な情報を手に入れられるのだが、フレデリクはその情報だけで良いと言った。

「その鼠獣人は、多分私の子飼いの者だな」
「さすがオニーチャン。じゃあ、そろそろ帰るよ」

 誠は約束した通り、フレデリクにメレンゲクッキーとビスコッティが入った紙袋をいくつか渡してから席を立った。

「ありがとう、マコト」
「いやいや。笑顔で俺が作ったもん食べてくれるのが、最高のお返しだから」
「そうか。また何かあれば、いつでも来てくれ。私から連絡したい場合は、この鱗を使っても大丈夫か?」
「もちろん。それも兼ねて渡したから。俺もまた、何かあったら来させてもらうよ」

 それじゃあ。と、誠はフレデリクに軽く手を振ると、いつぞやと同じように闇の中に消えて行った。
 別館の厨房に戻り、壁にかかってある時計を確認すると、出る前に寝かせておいたクッキー生地は丁度良い感じになっていた。一時間程フレデリクと話していたことになる。
 誠は血の滲む手の甲を見て、舌打ちをした。

「オニーチャンとアレクセイにバレなきゃ良いんだけど。つーか、思ったよりも時間食ったな。まぁ、今夜は徹夜する予定だったから、しょうがないんだけど」

 片方の手で手の甲を押さえる。傷はすぐに治ったが、鈍い痛みは引かない。肉まで引っこ抜いてはいなかったが、鱗だけでこの痛みだ。逆鱗を抜けば、さぞかし痛いんだろう。
 誠は兄を思い浮かべ、心のなかだけでこっそり合掌していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...