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蜂蜜の吐息
02 ー はじまりの森
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銀狼と別れた誠は、川沿いの道を下流に向かって進んでいた。そして、先程の自分の行動に対して、恥ずかしさでいっぱいになっていた。
いくら狼が好きだからと言っても、あの無抵抗さは無いだろう。これが日本だったら、確実に命を落としている。
しかし次またあの銀狼に会った時も、馬鹿みたいにメロメロになりそうな気がしてならない。
相手は獣だ。いや、この世界なのだから魔獣になるのか。
それなのに…だからこそ、余計に不可解だ。
いくらこちらに攻撃意思が無かったとしても、妙に懐かれたし、自分も受け身過ぎだった。
兄やいとこ、親戚の子供達と遊ぶ時でも、あそこまでスキンシップは図らない。その前に、家族や始祖である牡丹と諏訪以外に尻尾を触らせたことも無い。
だと言うのにだ。まさか自ら、尾を相手に絡めにいくなんて…。
考えれば考える程、思考が深みにはまっていく。
脳裏にチラリと、牡丹と諏訪の馴れ初めの話が過ぎった。自分の伴侶に惜しみなく愛を謳う諏訪は、酔った勢いで何度も何度も繰り返し喋るので、覚えたくなくても覚えてしまった話だ。
「まさか…ね」
自分の立場ゆえに、孤高で孤独だった諏訪。牡丹だけが、己の孤独を癒してくれたという。
番いは大事だと周りからよく聞くが、牡丹と諏訪を見ていると良く分かる。互いを慈しみ、尊敬し合い、穏やかな時間を作っている。
諏訪は完全に牡丹の尻に敷かれており、あれがカカア天下かと一目で分かる図式だが、全てを享受している諏訪の、牡丹を見る目は優しい。
牡丹と諏訪は、誠にとっては尊敬する者と同時に憧れでもある。それは能力だけではなく、番い同士のあり方としてもだ。
いつか、自分も…。
誠は軽く頭を振るとその場で立ち止まり、辺りを警戒する。魔獣も人間も居ないことを確認してから、体中の力の巡りを確かめた。
よし、いける。
何かに阻害されている感じがしていた湖とは違い、少し離れたこの場所は山中とそれほど変わりは無い。息を吸い込み、ゆっくり吐き出しながら誠は姿を変えていった。
「…大丈夫そう、かな」
人間の形態になった誠は、手を握ったり開いたりして自分の体を確認した。
特に異常は無いようだ。
服も向こうから着て来た黒いトレンチコートにブラックデニム、黒いエンジニアブーツもきちんと履いている。
一応日本人だが色素が全体的に薄く、先祖返りもあってか誠の髪は狐色で、目にいたっては赤に黄色が所々混じっている。それを引き締めるために黒い服が多いが、誠の一番好きな色は黒色なので気にしていない。
老舗ブランドのお気に入りのコートに不具合が無いのを確認した後、誠は深呼吸をしてから体内の気を整えた。
この世界は地球には無い、魔法を使うにあたって重要で目には見えない、魔素というものが大気中にあると相模から聞いている。もしかしたらその影響で狐態になっていたのではと思っていたが、この具合からみると違うのかもしれない。
試しに一つ、狐火を手元に浮かべてみる。普段と同じように発動し、その魔素とやらに反発したり影響される様子も見られない。
考えても分からないので、誠は再び下流に向かって進むことにした。
山で遭難した時の対処法は、元来た道を戻る、見晴らしの良い場所に行く、等がある。
しかしここは元から知らない場所な上に、見晴らしの良い場所は空しか見当がつかない。この場で浮き上がっても良いのだが、周りに隠れる場所も無いし、誰かに見られる心配もあるので少し厄介だ。
居るかもしれない怪鳥や、飛行する魔獣に襲われても倒せるだろうが、その始末が面倒臭い。流れ出た血の臭いに、他の魔獣が集まってくる可能性もある。
あらゆる可能性を潰していった結果、おとなしく川沿いを下流に進む、というシンプルな手段が残った。
水辺に集落が出来るのは、きっとどこの世界でもお約束だろう。そんな考えもあった上での行動だ。
暫く歩いていると、森を割るように流れている川の幅も、少しずつだが広くなってきた。
つい癖で腕時計で時間を確認してしまったが、地球とこの世界の時間が同じなのか不明なので現時点では役に立つか分からない。
短針は十二時をとっくに過ぎている。誠は腕時計より腹時計を信じ、この辺りで昼食を摂ることにした。
日本の河原のようにゴツゴツとした岩ばかりではなく、大地の高低差によって流れ出たような川だ。足場は悪くない。誠はマジックバッグから折りたたみテーブルと椅子を取り出した。
近年のソロキャンプブームで、キャンプ用品は昔に比べてオシャレになったり、更に便利になったり小型化が進んでいる物もある。
誠は昔から、兄と一緒に諏訪の地元の山でキャンプをするのが好きだったので、その道具一式を持っていた。
今回はそれが役に立った。さすがに兄と共同で使っていたクッカーや焚き火台は、新たに購入しなおしたが。
「タープは…面倒臭ぇな。いいや」
マジックバッグの中を漁りながら、一人ごちた。空はまばらに雲が浮かんでいるくらいで太陽はしっかり見えているが、真夏のように太陽光線はきつくない。長居はしないので、タープを張らないことにした。
誠は今回の出向にあたり、統括の神から「異世界転移三点セット」なるものを貰った。
新手のギャグか何かかと思ったが、陰陽省の決まりで出向者は三点まで特典を貰えるらしい。
PRGやMMOといったゲームをほとんどプレイしたことがないので、相模の助言によって授けて貰ったうちの一つが、このマジックバッグだ。
元は誠が普段使いをしている黒い蛇柄がプリントされたチョークバッグ。財布は尻のポケットに突っ込んでいるので、他の細々とした物を入れておくのに丁度良い。
アクセサリーも服も少々拘りがあるので、そのチョークバッグを改造してくれたのは誠にとってありがたかった。
鞄の中身について陰陽省はノータッチらしいので、次に地球とのコンタクトが取れるようになる神在月までの約一年分の米や調味料、その他食料をこれでもかと入れられている。仲の良い四国の狸の爺様…狸が神格化した爺様達からの餞別も入っているようだ。
容量は無制限な上に時間停止機能も付いているので、孫に小遣いをやる感覚でホイホイと大量 に渡されたと相模が半ば呆れていた。
他には、鑑定スキルと言語変換スキルも授けられている。
「誠君は地球に居てもある意味チートなので、魔法スキルは要らないでしょう」と相模に断言されたので、そんなものかと納得した。
そして統括の神からの餞別は、タブレットだった。これも誠の私物だが、こちらの世界で充電を気にせず使える仕様になっているが、機能は所持している紙の本と電子書籍が読めることと、音楽が聴けるという二つだけに制限されている。
そんな餞別は陰陽省的にはグレーゾーンなのだが、神はわざとらしく「おおっと、手が滑ったー!」と言いながら改造を施してくれた。隣に居た相模は見て見ぬ振りをしてくれたので、一応はセーフなはずだ。
誠はそれを聞いた時、思わず統括の神に拝んでしまった。
アウトドアや旅行も好きだが、読書や音楽も好きだ。むしろ、音楽は生活の一部と化している。好きなバンドの曲が聴けないなんて、誠にとっては死活問題だ。
ついでとして、いつも着けているクラウンのペンダントにはスピーカーシステムを付与し、いつでも音楽が聴けるようにもしてくれている。こちらの世界ではヘッドホンは異質になるため、その対策だ。
しかも周りに音漏れは一切無く、自分だけが好きな音量で聴ける優れものだ。
誠は相模から持たされた、こちらと地球を繋ぐ携帯鳥居から、出来るだけ神に菓子を供えようと固く決意した。
そういう経緯があり、誠のマジックバッグの中身は充実していた。
試しにタブレットを取り出す。電源を入れると、画面には音符と本のアイコンが並んでいた。少し迷ったが音符のアイコンをタップすると、タブレットとヘッドホンのアイコンが表示された。
ヘッドホンを選ぶと、画面は普段使っている携帯音楽プレイヤーの画面に切り替わる。
「おお、使いやすい…!」
ずらりと並ぶ音楽リストを見ながら、曲を選んでいた。
「さて、と…」
奇しくも実家と同じ環境の調理場が整いはしたが、キャンプの定番料理を今作るつもりはない。テントがあるとは言え、集落を先に見つけておきたいのだ。
誠は弁当をマジックバッグの中から取り出した。
店のテイクアウト専用の紙箱にぎっしりと詰められているのは、兄特製のサンドイッチだ。挟んである具材は、定番の卵や野菜、店でも出している海老フライまで入っている。
マジックバッグを貰ったと話した日から、「俺もそれ欲しいな。旅行とかキャンプの時とか、超便利じゃん」と羨ましそうに言いながらも、せっせとご飯を作ってはテイクアウト用の容器に詰めて渡してくれたのだ。
誠はテーブルに箱を置くと、手を合わせてありがたく食べ始めた。
「おぉ…チョー美味い」
自分で作った物もバッグに入れているが、せっかく外で食べるので兄特製サンドが良い。気分はキャンプと言うより、ちょっとしたピクニックだ。
食べている間、一人用の小さい焚き火台で湯を沸かしていた。火は勿論、自前の狐火だ。
薪や木炭などの燃料は不要なのだが、他のキャンパー…いや、野宿や野営する人に見られても不審がられないように、木炭は一応持って来ている。
ケトルからボコボコと沸騰した音が聞こえて来たので一旦食べるのを止め、火を消した。そしてマジックバッグから、キャンプ用にしている「3倍」と書かれた赤いマグカップと、固包装されたドリップ式コーヒーをセットし、ゆっくりと湯を注ぐ。辺りにはコーヒーの良い香りが漂い始めた。
そこでやっと、魔獣のことを思い出した。
兄特製サンドイッチとコーヒーで、完全に気が緩んでしまっていた。
もし今、匂いにつられて森の中から魔獣が出て来たら、最悪なことになる。いくら強いと自負していても、こちらの魔獣の力がどの程度かは未知数だ。
「…まあ、淹れちまったもんは、しゃーないか」
諦め半分で誠は残りのサンドイッチを食べながら、少し冷めたコーヒーを飲んだ。猫舌なのだ。
舌鼓を打った後、どさりと背もたれに体を預ける。
相変わらず、視界には広い空と見渡す限りの木々が映っている。空が広い。東京では味わえない解放感だ。
都会っ子の誠だが、その本性からか性格的なものなのか、体は自然を求めてしまう。キャンプが好きなのも、そのせいだ。
出雲は出雲で観光地の一面もあるが、自然も豊かに残っている。狸の爺様のお膝元に行くのも好きだ。いずれはぐるっと四県回ってみたい。
「はー…カフェ、暖簾分け出来たらどっか田舎の方に店出したい。北海道とか良いよな」
動物園目当てで北海道に行ったことがあるが、誠は本州とは違う植物や大地に魅せられた。食べ物も空気も美味しいので、いずれ長期休暇をとって、一周してみたいという野望を持っている。
大きく伸びをしながら、そんな夢を思い描いていた時だ。
遠くから足音が聞こえてきた。
一、二…。注意深く気配を探ってみると、その数は五。足音からして、人間か獣人だろうか。
この世界の人口の半分弱は人間で、残りは獣人やエルフ、ドワーフらしい。誠としては、ぜひとも獣人に会ってみたいと思っているが、この集団はどの種族なんだろう。
森の奥を注視していると、やって来たのは紺色の軍服を着た男の獣人達だった。
「眩し…」
男の集団が森から出た途端、先頭に居た犬系の青年の髪が光に反射して、思わず目を細める。その青年はこちらを視認したと思ったら、勢いよく近付いて来た。
「え、何?」
「君は…旅人か?」
テーブルを挟み、向かい合う。改めて見ると、ハリウッドのトップスターと並んでも明らかに勝っているくらいの美形だ。シャープな輪郭、薄い唇、すっと筋が通っている高い鼻。銀色の髪に、揃いの耳とフサフサの尾。そして。
そして、瞳の色は少し前に見た色と同じ、アイスブルー。
目が合う。
途端、ゾクリと尾骶骨から首元にかけて、電気が走った。
危険な感じは全くしないが、その瞳は本能を刺激してくる何かがある。懐かしくもあり、焦燥感すらもあった。
お互い目を逸らせないまま、その獣人はゆっくりと誠の横に恭しく膝を着き、誠の手を取る。日本人では絶対にありえないそのスマートな行動に、誠は驚きつつも感心した。
「よければ…名を教えてくれないか」
イケメンは声までもイケメンだ。甘く、少し低く響くその声に、誠は素直に答えた。
「誠…ですけど」
「マコトと言うのか。この辺りでは聞かない、不思議で綺麗な響きだな。私はアレクセイ・ヴォルク。王都騎士団所属で第一部隊、一班の班長だ」
「はあ…」
いきなりそこそこの地位に就いているだろう人物に出会い、面食らう。しかし、真面目な顔をしたまま取られた手の指先に唇を落とされ、誠は一気に顔を赤くした。
自分の容姿がまあ良い方なのは自覚しているが、こんなにも間近で接触を許したことはない。なぜなら、誠の後ろに居る大物狙いがほとんどだからだ。
先日も「café 紺」で「最近は壁ドンなるものが流行っているそうだな」とどこぞの若い神が誠に迫ったことがあったが、実行される前に逆に床ドンをお見舞いしてやった。触りたくないので、もちろん足でだ。
壁ドンが一世風靡したのはもう数年前の話だが、神にとっては人間界の数年は一瞬に等しい。その前に、壁ドンが似合うのは、呼ばれる番組で引っ切りなしに実演させられた某俳優か、九十年代後半から二千年代頭の月曜二十一時に始まるドラマの主役を張っていた某トップアイドルくらいだと誠は思っている。
その前に、誠には男に迫られて喜ぶタイプではない。神主の家系なのに寺田という製菓学校時代からの友人と、誰が一番壁ドンが似合うかというくだらない話し合いをした結果だ。
とにかく、相手に変な気を持たせないように普段から気を付けているのに、この体たらくは何なんだろうと内心あたふたしているうちに、アレクセイは誠の頬に触れてきた。
「マコト、君は旅人かハンターなのか?」
もう一度同じ質問をされたが、今の状態と質問内容が合っていない。だが、誠は不思議とアレクセイの体温を受け入れてしまっていた。
「あ…そう、旅人」
「一人で?」
「そうですけど。何?」
「今の時期、この『はじまりの森』一体は危険地帯に指定されている。君がどこへ行くのかは知らないが、我々王都騎士団の指示に従い、この森から出なければならない」
「そうなんだ…すみません、遠くから来たから、知らなくて」
そんな制限がかかっているとは知らなかったし、嘘は言っていない。「王都」騎士団と言っていたから、それなりに権限もあるのだろう。
誠は素直に彼らの指示に従うことにした。ここで揉めても良いことはないだろうとの打算もあるが。
特に抵抗する様子のない誠を信じたのか、アレクセイは少し笑った。
「一番近い村はミョート村だが、そこから来たのか?」
「いえ…何か変なところから入っちゃって」
「そこまで戻れるか?」
「いいえ。ちょっと迷っちゃったので、川沿いに下って行こうと思ってました」
「そうか…そのまま川沿いに行くと良い。森を抜けると近くにミョート村がある」
「じゃあ、このまま行けば良いんですね」
「ああ。…我々も見回りが終わり次第ミョート村に寄ることになっている。マコト、もし時間があれば、そこで会わないか?お茶でも奢らせてほしい」
誠の手を取ったまま誘ってくるアレクセイに、いやらしさは全く見えない。むしろスマート過ぎて、戸惑ってしまう。お前はイタリア人かと普段ならつっこむのだが、これ程までに自分に警戒心を抱かせないアレクセイという人物が、気になってしまった。
「…別に良いですけど。多分、数日は滞在すると思うし」
ミョート村の規模が分からないが、大体の物価や作物の種類は分かるだろう。誠は怪しまれない程度の滞在を決めていた。
アレクセイは誠の返事に気を良くしたのか、毛並みの良いフサフサの尾を揺らす。
「本当か?断られるかと思った」
「まさか。貴方みたいな方、断る人って居るんですか?」
「俺は自分から誘ったことは無いからな。ドキドキした」
嘘だと瞬時に思った。遊び人の気配は見て取れないが、かなりの人気はあるだろう。
しかし、おもむろに視線をアレクセイの後ろで息を潜めてじっとしている団員達に向けてみると、皆一様に首をガクガクと縦に振っている。若干信じられないようなものを見る目でアレクセイを見ている気もするが、なぜだろう。
誠はまた視線をアレクセイに戻す。
「ミュート村まで、ここからどれくらいかかりますか?」
「ゆっくり歩くと…二日くらいかな。我々は、三日後には到着する予定だ」
「分かりました。じゃあ、待ってます。あ…待ち合わせ場所って、どうしましょうか」
「そうだな…」
そこでやっとアレクセイは誠の手を離し、ジャケットの胸ポケットからプレートの端に小さな淡い水色の宝石がついたブレスレッド取り出し、恭しく誠の左手に着けた。
「このプレート部分の宝石が、連絡鳥の目印となっている。村に着いたら鳥を飛ばすから、彼の後を着いて来てくれないか」
連絡鳥とは、いわゆる伝書鳩のようなものなのだろうか。
「分かりました。その鳥って、どういう…?」
「ああ…見せた方が早いか」
アレクセイは片手を誠の目の前で軽く握った。そしてそっと開くと、淡い光と共に赤い蝶ネクタイを着けた、真っ白な鳩に似た鳥が現れた。チュン、とひと鳴きしたが、どう聞いても雀の鳴き声だ。
「この子だ」
「可愛いですね」
鳥は、ブレスレッドがある誠の左手に飛び乗った。チュンチュンと鳴きながら、軽く羽ばたく。
好奇心に負け、そっと撫でてやると、鳥は上機嫌で鳴いた。
「…珍しいな。コイツがこんなに楽しそうだなんて」
「へぇ…」
「おい、もう戻れ」
アレクセイは命令すると、鳥は不機嫌そうに「ヂュン!」と鳴いてから消えた。
タイミングを見計らっていたのか、控えていたコヨーテ獣人がアレクセイに声をかける。
「班長、そろそろ行かないと、予定がズレます」
「…そうだな」
アレクセイは渋々返事をすると、また誠の指先にキスを落とした。
「ではまた、後日」
「へ?あっ…ハイ」
自然に手を取られたため、また防げなかった。きっと自分は、狐につままれた顔をしているのだろうと誠は思ってしまった。
片手を上げてまた森の中に入って行ったアレクセイ達を見送った後、誠は頭を抱えながら、テーブルに突っ伏しった。ゴンという音がしたが、頭が茹っているせいで痛みは感じない。
「ああああ…」
いくら狼が好きだからと言っても、あの無抵抗さは無いだろう。これが日本だったら、確実に命を落としている。
しかし次またあの銀狼に会った時も、馬鹿みたいにメロメロになりそうな気がしてならない。
相手は獣だ。いや、この世界なのだから魔獣になるのか。
それなのに…だからこそ、余計に不可解だ。
いくらこちらに攻撃意思が無かったとしても、妙に懐かれたし、自分も受け身過ぎだった。
兄やいとこ、親戚の子供達と遊ぶ時でも、あそこまでスキンシップは図らない。その前に、家族や始祖である牡丹と諏訪以外に尻尾を触らせたことも無い。
だと言うのにだ。まさか自ら、尾を相手に絡めにいくなんて…。
考えれば考える程、思考が深みにはまっていく。
脳裏にチラリと、牡丹と諏訪の馴れ初めの話が過ぎった。自分の伴侶に惜しみなく愛を謳う諏訪は、酔った勢いで何度も何度も繰り返し喋るので、覚えたくなくても覚えてしまった話だ。
「まさか…ね」
自分の立場ゆえに、孤高で孤独だった諏訪。牡丹だけが、己の孤独を癒してくれたという。
番いは大事だと周りからよく聞くが、牡丹と諏訪を見ていると良く分かる。互いを慈しみ、尊敬し合い、穏やかな時間を作っている。
諏訪は完全に牡丹の尻に敷かれており、あれがカカア天下かと一目で分かる図式だが、全てを享受している諏訪の、牡丹を見る目は優しい。
牡丹と諏訪は、誠にとっては尊敬する者と同時に憧れでもある。それは能力だけではなく、番い同士のあり方としてもだ。
いつか、自分も…。
誠は軽く頭を振るとその場で立ち止まり、辺りを警戒する。魔獣も人間も居ないことを確認してから、体中の力の巡りを確かめた。
よし、いける。
何かに阻害されている感じがしていた湖とは違い、少し離れたこの場所は山中とそれほど変わりは無い。息を吸い込み、ゆっくり吐き出しながら誠は姿を変えていった。
「…大丈夫そう、かな」
人間の形態になった誠は、手を握ったり開いたりして自分の体を確認した。
特に異常は無いようだ。
服も向こうから着て来た黒いトレンチコートにブラックデニム、黒いエンジニアブーツもきちんと履いている。
一応日本人だが色素が全体的に薄く、先祖返りもあってか誠の髪は狐色で、目にいたっては赤に黄色が所々混じっている。それを引き締めるために黒い服が多いが、誠の一番好きな色は黒色なので気にしていない。
老舗ブランドのお気に入りのコートに不具合が無いのを確認した後、誠は深呼吸をしてから体内の気を整えた。
この世界は地球には無い、魔法を使うにあたって重要で目には見えない、魔素というものが大気中にあると相模から聞いている。もしかしたらその影響で狐態になっていたのではと思っていたが、この具合からみると違うのかもしれない。
試しに一つ、狐火を手元に浮かべてみる。普段と同じように発動し、その魔素とやらに反発したり影響される様子も見られない。
考えても分からないので、誠は再び下流に向かって進むことにした。
山で遭難した時の対処法は、元来た道を戻る、見晴らしの良い場所に行く、等がある。
しかしここは元から知らない場所な上に、見晴らしの良い場所は空しか見当がつかない。この場で浮き上がっても良いのだが、周りに隠れる場所も無いし、誰かに見られる心配もあるので少し厄介だ。
居るかもしれない怪鳥や、飛行する魔獣に襲われても倒せるだろうが、その始末が面倒臭い。流れ出た血の臭いに、他の魔獣が集まってくる可能性もある。
あらゆる可能性を潰していった結果、おとなしく川沿いを下流に進む、というシンプルな手段が残った。
水辺に集落が出来るのは、きっとどこの世界でもお約束だろう。そんな考えもあった上での行動だ。
暫く歩いていると、森を割るように流れている川の幅も、少しずつだが広くなってきた。
つい癖で腕時計で時間を確認してしまったが、地球とこの世界の時間が同じなのか不明なので現時点では役に立つか分からない。
短針は十二時をとっくに過ぎている。誠は腕時計より腹時計を信じ、この辺りで昼食を摂ることにした。
日本の河原のようにゴツゴツとした岩ばかりではなく、大地の高低差によって流れ出たような川だ。足場は悪くない。誠はマジックバッグから折りたたみテーブルと椅子を取り出した。
近年のソロキャンプブームで、キャンプ用品は昔に比べてオシャレになったり、更に便利になったり小型化が進んでいる物もある。
誠は昔から、兄と一緒に諏訪の地元の山でキャンプをするのが好きだったので、その道具一式を持っていた。
今回はそれが役に立った。さすがに兄と共同で使っていたクッカーや焚き火台は、新たに購入しなおしたが。
「タープは…面倒臭ぇな。いいや」
マジックバッグの中を漁りながら、一人ごちた。空はまばらに雲が浮かんでいるくらいで太陽はしっかり見えているが、真夏のように太陽光線はきつくない。長居はしないので、タープを張らないことにした。
誠は今回の出向にあたり、統括の神から「異世界転移三点セット」なるものを貰った。
新手のギャグか何かかと思ったが、陰陽省の決まりで出向者は三点まで特典を貰えるらしい。
PRGやMMOといったゲームをほとんどプレイしたことがないので、相模の助言によって授けて貰ったうちの一つが、このマジックバッグだ。
元は誠が普段使いをしている黒い蛇柄がプリントされたチョークバッグ。財布は尻のポケットに突っ込んでいるので、他の細々とした物を入れておくのに丁度良い。
アクセサリーも服も少々拘りがあるので、そのチョークバッグを改造してくれたのは誠にとってありがたかった。
鞄の中身について陰陽省はノータッチらしいので、次に地球とのコンタクトが取れるようになる神在月までの約一年分の米や調味料、その他食料をこれでもかと入れられている。仲の良い四国の狸の爺様…狸が神格化した爺様達からの餞別も入っているようだ。
容量は無制限な上に時間停止機能も付いているので、孫に小遣いをやる感覚でホイホイと大量 に渡されたと相模が半ば呆れていた。
他には、鑑定スキルと言語変換スキルも授けられている。
「誠君は地球に居てもある意味チートなので、魔法スキルは要らないでしょう」と相模に断言されたので、そんなものかと納得した。
そして統括の神からの餞別は、タブレットだった。これも誠の私物だが、こちらの世界で充電を気にせず使える仕様になっているが、機能は所持している紙の本と電子書籍が読めることと、音楽が聴けるという二つだけに制限されている。
そんな餞別は陰陽省的にはグレーゾーンなのだが、神はわざとらしく「おおっと、手が滑ったー!」と言いながら改造を施してくれた。隣に居た相模は見て見ぬ振りをしてくれたので、一応はセーフなはずだ。
誠はそれを聞いた時、思わず統括の神に拝んでしまった。
アウトドアや旅行も好きだが、読書や音楽も好きだ。むしろ、音楽は生活の一部と化している。好きなバンドの曲が聴けないなんて、誠にとっては死活問題だ。
ついでとして、いつも着けているクラウンのペンダントにはスピーカーシステムを付与し、いつでも音楽が聴けるようにもしてくれている。こちらの世界ではヘッドホンは異質になるため、その対策だ。
しかも周りに音漏れは一切無く、自分だけが好きな音量で聴ける優れものだ。
誠は相模から持たされた、こちらと地球を繋ぐ携帯鳥居から、出来るだけ神に菓子を供えようと固く決意した。
そういう経緯があり、誠のマジックバッグの中身は充実していた。
試しにタブレットを取り出す。電源を入れると、画面には音符と本のアイコンが並んでいた。少し迷ったが音符のアイコンをタップすると、タブレットとヘッドホンのアイコンが表示された。
ヘッドホンを選ぶと、画面は普段使っている携帯音楽プレイヤーの画面に切り替わる。
「おお、使いやすい…!」
ずらりと並ぶ音楽リストを見ながら、曲を選んでいた。
「さて、と…」
奇しくも実家と同じ環境の調理場が整いはしたが、キャンプの定番料理を今作るつもりはない。テントがあるとは言え、集落を先に見つけておきたいのだ。
誠は弁当をマジックバッグの中から取り出した。
店のテイクアウト専用の紙箱にぎっしりと詰められているのは、兄特製のサンドイッチだ。挟んである具材は、定番の卵や野菜、店でも出している海老フライまで入っている。
マジックバッグを貰ったと話した日から、「俺もそれ欲しいな。旅行とかキャンプの時とか、超便利じゃん」と羨ましそうに言いながらも、せっせとご飯を作ってはテイクアウト用の容器に詰めて渡してくれたのだ。
誠はテーブルに箱を置くと、手を合わせてありがたく食べ始めた。
「おぉ…チョー美味い」
自分で作った物もバッグに入れているが、せっかく外で食べるので兄特製サンドが良い。気分はキャンプと言うより、ちょっとしたピクニックだ。
食べている間、一人用の小さい焚き火台で湯を沸かしていた。火は勿論、自前の狐火だ。
薪や木炭などの燃料は不要なのだが、他のキャンパー…いや、野宿や野営する人に見られても不審がられないように、木炭は一応持って来ている。
ケトルからボコボコと沸騰した音が聞こえて来たので一旦食べるのを止め、火を消した。そしてマジックバッグから、キャンプ用にしている「3倍」と書かれた赤いマグカップと、固包装されたドリップ式コーヒーをセットし、ゆっくりと湯を注ぐ。辺りにはコーヒーの良い香りが漂い始めた。
そこでやっと、魔獣のことを思い出した。
兄特製サンドイッチとコーヒーで、完全に気が緩んでしまっていた。
もし今、匂いにつられて森の中から魔獣が出て来たら、最悪なことになる。いくら強いと自負していても、こちらの魔獣の力がどの程度かは未知数だ。
「…まあ、淹れちまったもんは、しゃーないか」
諦め半分で誠は残りのサンドイッチを食べながら、少し冷めたコーヒーを飲んだ。猫舌なのだ。
舌鼓を打った後、どさりと背もたれに体を預ける。
相変わらず、視界には広い空と見渡す限りの木々が映っている。空が広い。東京では味わえない解放感だ。
都会っ子の誠だが、その本性からか性格的なものなのか、体は自然を求めてしまう。キャンプが好きなのも、そのせいだ。
出雲は出雲で観光地の一面もあるが、自然も豊かに残っている。狸の爺様のお膝元に行くのも好きだ。いずれはぐるっと四県回ってみたい。
「はー…カフェ、暖簾分け出来たらどっか田舎の方に店出したい。北海道とか良いよな」
動物園目当てで北海道に行ったことがあるが、誠は本州とは違う植物や大地に魅せられた。食べ物も空気も美味しいので、いずれ長期休暇をとって、一周してみたいという野望を持っている。
大きく伸びをしながら、そんな夢を思い描いていた時だ。
遠くから足音が聞こえてきた。
一、二…。注意深く気配を探ってみると、その数は五。足音からして、人間か獣人だろうか。
この世界の人口の半分弱は人間で、残りは獣人やエルフ、ドワーフらしい。誠としては、ぜひとも獣人に会ってみたいと思っているが、この集団はどの種族なんだろう。
森の奥を注視していると、やって来たのは紺色の軍服を着た男の獣人達だった。
「眩し…」
男の集団が森から出た途端、先頭に居た犬系の青年の髪が光に反射して、思わず目を細める。その青年はこちらを視認したと思ったら、勢いよく近付いて来た。
「え、何?」
「君は…旅人か?」
テーブルを挟み、向かい合う。改めて見ると、ハリウッドのトップスターと並んでも明らかに勝っているくらいの美形だ。シャープな輪郭、薄い唇、すっと筋が通っている高い鼻。銀色の髪に、揃いの耳とフサフサの尾。そして。
そして、瞳の色は少し前に見た色と同じ、アイスブルー。
目が合う。
途端、ゾクリと尾骶骨から首元にかけて、電気が走った。
危険な感じは全くしないが、その瞳は本能を刺激してくる何かがある。懐かしくもあり、焦燥感すらもあった。
お互い目を逸らせないまま、その獣人はゆっくりと誠の横に恭しく膝を着き、誠の手を取る。日本人では絶対にありえないそのスマートな行動に、誠は驚きつつも感心した。
「よければ…名を教えてくれないか」
イケメンは声までもイケメンだ。甘く、少し低く響くその声に、誠は素直に答えた。
「誠…ですけど」
「マコトと言うのか。この辺りでは聞かない、不思議で綺麗な響きだな。私はアレクセイ・ヴォルク。王都騎士団所属で第一部隊、一班の班長だ」
「はあ…」
いきなりそこそこの地位に就いているだろう人物に出会い、面食らう。しかし、真面目な顔をしたまま取られた手の指先に唇を落とされ、誠は一気に顔を赤くした。
自分の容姿がまあ良い方なのは自覚しているが、こんなにも間近で接触を許したことはない。なぜなら、誠の後ろに居る大物狙いがほとんどだからだ。
先日も「café 紺」で「最近は壁ドンなるものが流行っているそうだな」とどこぞの若い神が誠に迫ったことがあったが、実行される前に逆に床ドンをお見舞いしてやった。触りたくないので、もちろん足でだ。
壁ドンが一世風靡したのはもう数年前の話だが、神にとっては人間界の数年は一瞬に等しい。その前に、壁ドンが似合うのは、呼ばれる番組で引っ切りなしに実演させられた某俳優か、九十年代後半から二千年代頭の月曜二十一時に始まるドラマの主役を張っていた某トップアイドルくらいだと誠は思っている。
その前に、誠には男に迫られて喜ぶタイプではない。神主の家系なのに寺田という製菓学校時代からの友人と、誰が一番壁ドンが似合うかというくだらない話し合いをした結果だ。
とにかく、相手に変な気を持たせないように普段から気を付けているのに、この体たらくは何なんだろうと内心あたふたしているうちに、アレクセイは誠の頬に触れてきた。
「マコト、君は旅人かハンターなのか?」
もう一度同じ質問をされたが、今の状態と質問内容が合っていない。だが、誠は不思議とアレクセイの体温を受け入れてしまっていた。
「あ…そう、旅人」
「一人で?」
「そうですけど。何?」
「今の時期、この『はじまりの森』一体は危険地帯に指定されている。君がどこへ行くのかは知らないが、我々王都騎士団の指示に従い、この森から出なければならない」
「そうなんだ…すみません、遠くから来たから、知らなくて」
そんな制限がかかっているとは知らなかったし、嘘は言っていない。「王都」騎士団と言っていたから、それなりに権限もあるのだろう。
誠は素直に彼らの指示に従うことにした。ここで揉めても良いことはないだろうとの打算もあるが。
特に抵抗する様子のない誠を信じたのか、アレクセイは少し笑った。
「一番近い村はミョート村だが、そこから来たのか?」
「いえ…何か変なところから入っちゃって」
「そこまで戻れるか?」
「いいえ。ちょっと迷っちゃったので、川沿いに下って行こうと思ってました」
「そうか…そのまま川沿いに行くと良い。森を抜けると近くにミョート村がある」
「じゃあ、このまま行けば良いんですね」
「ああ。…我々も見回りが終わり次第ミョート村に寄ることになっている。マコト、もし時間があれば、そこで会わないか?お茶でも奢らせてほしい」
誠の手を取ったまま誘ってくるアレクセイに、いやらしさは全く見えない。むしろスマート過ぎて、戸惑ってしまう。お前はイタリア人かと普段ならつっこむのだが、これ程までに自分に警戒心を抱かせないアレクセイという人物が、気になってしまった。
「…別に良いですけど。多分、数日は滞在すると思うし」
ミョート村の規模が分からないが、大体の物価や作物の種類は分かるだろう。誠は怪しまれない程度の滞在を決めていた。
アレクセイは誠の返事に気を良くしたのか、毛並みの良いフサフサの尾を揺らす。
「本当か?断られるかと思った」
「まさか。貴方みたいな方、断る人って居るんですか?」
「俺は自分から誘ったことは無いからな。ドキドキした」
嘘だと瞬時に思った。遊び人の気配は見て取れないが、かなりの人気はあるだろう。
しかし、おもむろに視線をアレクセイの後ろで息を潜めてじっとしている団員達に向けてみると、皆一様に首をガクガクと縦に振っている。若干信じられないようなものを見る目でアレクセイを見ている気もするが、なぜだろう。
誠はまた視線をアレクセイに戻す。
「ミュート村まで、ここからどれくらいかかりますか?」
「ゆっくり歩くと…二日くらいかな。我々は、三日後には到着する予定だ」
「分かりました。じゃあ、待ってます。あ…待ち合わせ場所って、どうしましょうか」
「そうだな…」
そこでやっとアレクセイは誠の手を離し、ジャケットの胸ポケットからプレートの端に小さな淡い水色の宝石がついたブレスレッド取り出し、恭しく誠の左手に着けた。
「このプレート部分の宝石が、連絡鳥の目印となっている。村に着いたら鳥を飛ばすから、彼の後を着いて来てくれないか」
連絡鳥とは、いわゆる伝書鳩のようなものなのだろうか。
「分かりました。その鳥って、どういう…?」
「ああ…見せた方が早いか」
アレクセイは片手を誠の目の前で軽く握った。そしてそっと開くと、淡い光と共に赤い蝶ネクタイを着けた、真っ白な鳩に似た鳥が現れた。チュン、とひと鳴きしたが、どう聞いても雀の鳴き声だ。
「この子だ」
「可愛いですね」
鳥は、ブレスレッドがある誠の左手に飛び乗った。チュンチュンと鳴きながら、軽く羽ばたく。
好奇心に負け、そっと撫でてやると、鳥は上機嫌で鳴いた。
「…珍しいな。コイツがこんなに楽しそうだなんて」
「へぇ…」
「おい、もう戻れ」
アレクセイは命令すると、鳥は不機嫌そうに「ヂュン!」と鳴いてから消えた。
タイミングを見計らっていたのか、控えていたコヨーテ獣人がアレクセイに声をかける。
「班長、そろそろ行かないと、予定がズレます」
「…そうだな」
アレクセイは渋々返事をすると、また誠の指先にキスを落とした。
「ではまた、後日」
「へ?あっ…ハイ」
自然に手を取られたため、また防げなかった。きっと自分は、狐につままれた顔をしているのだろうと誠は思ってしまった。
片手を上げてまた森の中に入って行ったアレクセイ達を見送った後、誠は頭を抱えながら、テーブルに突っ伏しった。ゴンという音がしたが、頭が茹っているせいで痛みは感じない。
「ああああ…」
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