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第6話 修行をしたのは無駄じゃなかった

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 今日は、父さんに誘われて一緒にクエストを受けに行く。理由という理由は無く、父さんの気まぐれだった。父さんからは、自分がどういう仕事をしているのか知って欲しいという事を聞かされたけど。
「レイン、準備は出来たか?」
「うん、大丈夫だよ」
「それじゃあ、母さん、行ってくるよ」
「はい、2人とも気を付けてね」
 母さんに、笑顔で見送られて家を出発した。俺が一緒にクエストに行くのをあまり好ましくは思っていなかっただろうが、何かあっても父さんのことを信頼しているのかもしれない。
 目的地に向かう途中、父さんからクエストの内容を軽く聞いていた。
「今回のクエストは、魔物退治だ」
「魔物退治?」
「ああ、街の近くで大量の魔物が発見されたらしくてな、被害が出る前に倒してしまおうというものだ」
「俺もそれを手伝うの?」
「いや、レインには街に魔物が入って来ないようにする仕事を頼む」
「大丈夫かな?」
「俺の他にも冒険者は多く参加している。だからと言って安心は出来ないだろうが、街には一匹もやらないようにするさ。だけど、もし街の方に行ったらお前が街を守れ」
「俺に期待しすぎじゃない?」
「ん? 俺の息子だからな、当たり前だ。この前、お前と木剣で少し手合わせをしたが問題無いはずだ」
 そういうと、父さんは大きな手で俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。父さんが強いことは知っているけれど、油断はしないでおこう。
 目的地に着くと、父さんはすぐに他の冒険者達と魔物退治に向かった。俺は、門の近くで待機していた。
 街の人達は念の為に家の中に入って貰っているから、近くに人は誰もいない。
「暇ですか? マスター」
「アルファ、いきなり声を掛けるなよ」
「周りに人がいないのは確認済みです。それに、そんなお馬鹿なミスはしませんよ」
「優秀だな」
「ありがとうございます」
「・・・アルファ、父さん達は無事に魔物を退治出来ると思うか?」
「ここでいう無事が何を意味するのかは分かりませんが、お父様含めて冒険者の中に死者が出ることは無いと思います」
「どうして、そう思う?」
「先程、この辺りを調べて来ました。確かに多くの魔物を確認出来ましたが、大したことはありませんでした。マスターでも十分勝てますよ」
「そりゃあ、お前のおかげで魔物とも戦ってたからな」
 そう、この3年間実は魔物とも戦って経験を積んでいたのだ。色んな魔物と戦わされたが、毒を盛っている魔物との戦いが一番辛かった。思い出しただけで、身震いがした。
「おや? どうやら取りこぼしがあったようですね」
 アルファの言うとおり、前方から砂煙を上げながらイノシシのような魔物が凄い勢いで向かってきていた。
「頑張って下さい、マスター。貴方があの魔物を仕留めなければ街に被害が出てしまいますよ」
「嫌な応援の仕方してくれるな」
 俺は、腰に下げていた剣を鞘から抜き少し前に出る。アルファとの特訓のおかげか不思議と怖さは無く冷静だった。
 俺は、突っ込んでくる魔物に合わせて剣を振り盾に真っ二つにした。
「お見事です、マスター」
「こいつだけかな? こっちに向かって来ているやついない?」
「はい、確認しましたが何かが近づいているのは感じられません」
「良かった、俺の仕事はとりあえず達成かな」
 その後、あの一匹以外は街に向かってくることは無く、父さんは怪我も無く帰ってきた。無事であって欲しいとは思ったが、まさか無傷で帰って来るとは思わなかったけど。
「どうだ、レイン、街は守れたか?」
「守れたというか、魔物はこっちに来なかったから」
「それでも、誰かがいるだけで街の人達は安心感が違う」
「そうかな? 父さんはどうだった?」
「ん? そうだな、本当は少し心配だったよ」
「えっ?」
「お前に実力が無いと思っている訳じゃ無いが、やっぱり親だからな・・・とにかく無事で良かった」
「父さんが、頑張って魔物を退治してくれたおかげだよ」
「そうか、それじゃあ俺は依頼者に報告してくる」
 ここに来る前より優しく頭を撫でられた後、父さんは依頼者に報告をしにいった。
「良いお父様ですね」
「本当、感謝しているよ。それで、何かあったの?」
「はい、実は少し面白い物を見つけまして」
「面白い物?」
「転移出来るように、この場所を設定したので今日は1度帰って明日改めて報告します」
「危険なことじゃないよな?」
「そうですね、マスターがさらに経験を積める場所だとは思いますよ」
 勿体ぶるアルファからもう少し話しを聞きたかったが、父さんが戻って来たのでアルファも1度離れていった。
 何が起こるのかは分からないが、せめて死ぬようなことだけは無いようにと祈りながら家に帰る俺なのだった。

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