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005 女嫌い(1)
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――幸いにも場所はすぐに見つかった。少しも行かないうちに小さな林と、そこによって建つ小屋を見つけたのだ。
急ごしらえの四阿のようなもので、まだ建てられて間もないように見受けられた。あるいはあの兵たちが主である男のために造った仮の住まいだったのかも知れない。だとすれば、男を介抱するために拝借しても何の問題もあるまい。
そう思って五郎太は小屋の中へ男を運び込んだ。何より都合が良かったのは傍に泉が湧いていたことだ。と言うより、泉が湧いている所へ小屋を建てたというのが実際のところなのだろう。
泉といってもごくささやかなもので、どこへも流れ出ていかない小さな渓となって消えていたが、五郎太にはそれで充分だった。まず自分で水を飲んだ後、竹筒に水を汲み、馬を引いてきてそこで水を飲ませた。それから小屋の中に戻り、男を介抱にかかった。
「……しかし、どうやって脱がせたものやら」
薄暗い小屋の中に男の装束を脱がせようとして、早くも壁に突き当たった。脱がせ方がわからないのだ。
男が身に着けているものは五郎太の着る小袖とは明らかに違い、帯もなければ袂もない。……ただ、思い返してみればこれと似通ったものを見たことがないではない。
右大将様のお召物だ。いつか坂本の城にお越しになった折、右大将様が着ておられたのが、たしかこのような装束だった。言うまでもない、切支丹伴天連よりもたらされた南蛮渡来の装束である。
不思議な光沢を放つ黒い生地といい、金糸をあしらった豪奢な装飾といい、いかにも右大将様が好まれそうな派手やかさだ。……このような装束を身にまとった男がこんな辺鄙な場所に転がっているところをみるとはやりここは日ノ本ではないのか。
考え始めようとする頭を落ち着かせ、まずは人助けが先だと再び男に向き直った。
正中に沿って円い銅銭のようなものが並んでいる。左右の褄下がその銅銭のようなものによって留められているように見える。これを外せば脱がせることができるかも知れない。そう思って五郎太は一番上のそれに指をかけた――
「……」
上身の装束を脱がせ終えたとき、その身体を眼下に見つめながら、五郎太はしばらく息をつくことができなかった。
壁の隙間から射す昼下がりの陽光の中に、真っ白な裸が浮かび上がっていた。その胸には、五郎太が解くまできつくさらしに巻かれていた豊かな乳があった。
五郎太が男だと決めてかかっていたその者は、女だったのである。男にしては妙に華奢な身体だと思いはしたが、まさか女だとは思ってもみなかった。
……ただ、五郎太が固まった理由はそればかりではない。さる事情により、五郎太は女体というものをこれほど間近に見たことがなかったのである。やわらかな曲線を描く白い双丘と、その頂に息づく淡い桜色の突起を、五郎太は声もなく見つめた。
だがやがて頭を振ってその身体を返すと、背に刻まれた傷を改めた。――やはり浅手ではない。だが思ったより深くはない。
それだけ確認して五郎太は竹筒の水でその傷を洗い、金創膏を取り出してそこに塗り込めた。血は既に止まっている。糸で縫うまでのこともない。それに、さらしをきつく巻けばそれが傷を締めてくれるだろう。
そう考えて、五郎太は薬を塗り込んだ女の背を立て、その胴へ元通りしっかりとさらしを巻き付けていった。
急ごしらえの四阿のようなもので、まだ建てられて間もないように見受けられた。あるいはあの兵たちが主である男のために造った仮の住まいだったのかも知れない。だとすれば、男を介抱するために拝借しても何の問題もあるまい。
そう思って五郎太は小屋の中へ男を運び込んだ。何より都合が良かったのは傍に泉が湧いていたことだ。と言うより、泉が湧いている所へ小屋を建てたというのが実際のところなのだろう。
泉といってもごくささやかなもので、どこへも流れ出ていかない小さな渓となって消えていたが、五郎太にはそれで充分だった。まず自分で水を飲んだ後、竹筒に水を汲み、馬を引いてきてそこで水を飲ませた。それから小屋の中に戻り、男を介抱にかかった。
「……しかし、どうやって脱がせたものやら」
薄暗い小屋の中に男の装束を脱がせようとして、早くも壁に突き当たった。脱がせ方がわからないのだ。
男が身に着けているものは五郎太の着る小袖とは明らかに違い、帯もなければ袂もない。……ただ、思い返してみればこれと似通ったものを見たことがないではない。
右大将様のお召物だ。いつか坂本の城にお越しになった折、右大将様が着ておられたのが、たしかこのような装束だった。言うまでもない、切支丹伴天連よりもたらされた南蛮渡来の装束である。
不思議な光沢を放つ黒い生地といい、金糸をあしらった豪奢な装飾といい、いかにも右大将様が好まれそうな派手やかさだ。……このような装束を身にまとった男がこんな辺鄙な場所に転がっているところをみるとはやりここは日ノ本ではないのか。
考え始めようとする頭を落ち着かせ、まずは人助けが先だと再び男に向き直った。
正中に沿って円い銅銭のようなものが並んでいる。左右の褄下がその銅銭のようなものによって留められているように見える。これを外せば脱がせることができるかも知れない。そう思って五郎太は一番上のそれに指をかけた――
「……」
上身の装束を脱がせ終えたとき、その身体を眼下に見つめながら、五郎太はしばらく息をつくことができなかった。
壁の隙間から射す昼下がりの陽光の中に、真っ白な裸が浮かび上がっていた。その胸には、五郎太が解くまできつくさらしに巻かれていた豊かな乳があった。
五郎太が男だと決めてかかっていたその者は、女だったのである。男にしては妙に華奢な身体だと思いはしたが、まさか女だとは思ってもみなかった。
……ただ、五郎太が固まった理由はそればかりではない。さる事情により、五郎太は女体というものをこれほど間近に見たことがなかったのである。やわらかな曲線を描く白い双丘と、その頂に息づく淡い桜色の突起を、五郎太は声もなく見つめた。
だがやがて頭を振ってその身体を返すと、背に刻まれた傷を改めた。――やはり浅手ではない。だが思ったより深くはない。
それだけ確認して五郎太は竹筒の水でその傷を洗い、金創膏を取り出してそこに塗り込めた。血は既に止まっている。糸で縫うまでのこともない。それに、さらしをきつく巻けばそれが傷を締めてくれるだろう。
そう考えて、五郎太は薬を塗り込んだ女の背を立て、その胴へ元通りしっかりとさらしを巻き付けていった。
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