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飯岡花火大会はYOU・遊フェスティバルとして毎年開催されすでに35回を数えるほどになっている。
砂浜でのビーチバレー大会や砂浜宝探しなど、花火大会だけでなく催され、多くの観光客を飯岡へといざなってきた。
しかし、自然の力には抗うことはできなかった。今年から開催季節を変更し、内容も花火大会だけにしたのだ。
年々、九十九里浜の中間部にあたる地域の砂が波に削られて痩せていった。長い砂浜が自慢だった地域は侵食を食い止めるために堤防を築いた。海に突き出すように長く築かれた堤防はかつての砂浜の長さを示しているようだ。
その努力も叶わず、侵食は進んだ。突き出し堤防だけでは防ぎきれず、海岸に沿って護岸整備をすることになった。今ではコンクリートの壁となった。
残念なことだが、海水浴場としての資源ではなくなってしまった。かろうじてサーファーたちが海を楽しんでくれている。
「これは海の大神様よりもっともっと大きな力。この丸い地球というものを包む力によるものだ。『自然』は大神様よりも強い。アマテラス様も海の大神様も自然の一部に力をお与えになるだけ、それもすごいことなんだぞ。俺など、自然に力を与える力を得るなんてあと数百年かかるだろう」
海岸線の形成変化について真守と語った洋太は厳しい顔をしていた。
そうして削られた九十九里浜中間部の砂は飯岡海岸へと押し寄せて来た。
神様にもどうにもできない『自然の力』に我々人間が抗うなど不可能だ。ならば、それに合わせて我々が変化していくべきだろう。
YOU・遊フェスティバルもその変化の一つである。
砂の押し寄せによって砂浜が伸びた。これまで波消しにしていたテトラポットまで五メートルまで接近した。海の中にあるテトラポットは大変に危険だ。体を打ち付ければ当然大怪我になるし、足や手を挟めば怪我となる。最悪だと手足を挟み動けなくなり波が来て溺れることもありえる。
実際にまだテトラポットまで長い距離があった頃にはこれらの事故は多発していた。これまではそこまで行ってしまう大人だけの事故であったが、ここまでテトラポットに近づくと子供たちまで危険なことになる。
飯岡海岸は海水浴場ではなくなった。現在、旭市で海水浴場と銘打っているのは矢指海水浴場だけである。
長くなった砂浜は急激に緑地化が進む。以前は九十九里浜中間部に見られた植物たちが、波から逃げてきたかのように飯岡海岸で繁殖しているのだ。これらを整備してビーチバレー大会や宝探しを開催すると莫大な資金が必要となる。
YOU・遊フェスティバル実行委員会は花火大会に全力を注ぐことを決定した。
一番に問題になったのは交通状況と駐車場問題であった。ある意味当然のことなのだが、これまでの花火大会では、『会場周辺に行けばどこか停められるところがあるだろう』と考える人が多数いて、周辺に大渋滞を巻き起こし、通行止めの時間になっても車が動かず、花火大会協賛来賓でさえ時間内に会場へ到着できなかった。
さらに終了後には砂浜を駐車場として利用した車が真っ暗な中で、砂にタイヤを取られ動けなくなり、後続車が全て出られないというハプニングもあり、これを解消できたのは夜中の12時を回っていた。運良く駐車できた人たちも帰りの大渋滞にハマり、バイパス道路終点『網戸交差点』を通るまでに1時間半を要する事態に陥った。
これらを解決するために『会場周辺駐車場全面有料化』に踏み切った。シャトルバス付き駐車場を作ることで車で会場入りせずとも観覧できるシステムも用意した。もちろん、賛否両論あるのは覚悟の上である。
また、開催も七月から十月に変更した。これは風向きが大きく関係する。七月の風向きでは、煙が客席側へ流れ花火がキレイに見えなかったし、『日本で一番近くから観られる花火大会』であるため火の粉や燃えかすが客席側に届いてしまうこともあったのだ。
さらに、『有料席』も作り、堤防より先は一般客は入れないことにした。
これまでとの大幅な改革が吉と出るか凶と出るか、YOU・遊フェスティバル実行委員の面々は期待と不安を抱えながら準備を進めて行った。
当日はどしゃ降りとはならぬまでも1ミリ位の雨が朝から降り続いた。花火師たちから「大風でなければいける」と言われてはいたが、人出を心配する声がちらほらと出てくる中で実行委員たちの作業が続けられた。
しかし、お昼が過ぎるとその心配を他所にちらほらと客足があり、出店や屋台がオープンする3時には混み始め、5時過ぎにはたくさんの観覧者がやってきた。
花火大会が始まると近さゆえの迫力に会場全体から歓声があがった。最後のスターマインでは映画『打ち上げ花火 下から見るか横から見るか』の主題歌『打ち上げ花火』の歌とともに披露され圧巻のショーである。
「下から見るとはこのことだな」
口を半開きで見上げていた。
興奮冷めやらぬ田中家の三人は徒歩で帰りながら花火大会の感想を述べあった。自宅に着くと真守は冷蔵庫から缶ビールを取り出してから、パソコンを広げ、ネットサーフィンでアーカイブのチェックを始めた。
「おっ! やっぱり動画上げている人いるよ。結構視聴数あるなぁ。リアルタイムで見れる楽しさだ。これで凄さをわかってもらって来年はこちらに来てほしいなぁ」
「そうね。あら? 友達がもう家に到着したってラインをくれたわ。帰りも大渋滞にはならなかったみたい。駐車場対策も功を奏したのね」
水萌里も冷蔵庫から缶チューハイを取り出すと真守の隣に座る。二人は他の人がアップしたアーカイブを観ながら楽しそうに語っていた。
「確かに面白かった。来年も行こうな」
風呂上がりに髪にタオルをあてた洋太も後から覗き込んでいる。
☆☆☆ご協力☆☆☆
YOU・遊フェスティバル実行委員会
砂浜でのビーチバレー大会や砂浜宝探しなど、花火大会だけでなく催され、多くの観光客を飯岡へといざなってきた。
しかし、自然の力には抗うことはできなかった。今年から開催季節を変更し、内容も花火大会だけにしたのだ。
年々、九十九里浜の中間部にあたる地域の砂が波に削られて痩せていった。長い砂浜が自慢だった地域は侵食を食い止めるために堤防を築いた。海に突き出すように長く築かれた堤防はかつての砂浜の長さを示しているようだ。
その努力も叶わず、侵食は進んだ。突き出し堤防だけでは防ぎきれず、海岸に沿って護岸整備をすることになった。今ではコンクリートの壁となった。
残念なことだが、海水浴場としての資源ではなくなってしまった。かろうじてサーファーたちが海を楽しんでくれている。
「これは海の大神様よりもっともっと大きな力。この丸い地球というものを包む力によるものだ。『自然』は大神様よりも強い。アマテラス様も海の大神様も自然の一部に力をお与えになるだけ、それもすごいことなんだぞ。俺など、自然に力を与える力を得るなんてあと数百年かかるだろう」
海岸線の形成変化について真守と語った洋太は厳しい顔をしていた。
そうして削られた九十九里浜中間部の砂は飯岡海岸へと押し寄せて来た。
神様にもどうにもできない『自然の力』に我々人間が抗うなど不可能だ。ならば、それに合わせて我々が変化していくべきだろう。
YOU・遊フェスティバルもその変化の一つである。
砂の押し寄せによって砂浜が伸びた。これまで波消しにしていたテトラポットまで五メートルまで接近した。海の中にあるテトラポットは大変に危険だ。体を打ち付ければ当然大怪我になるし、足や手を挟めば怪我となる。最悪だと手足を挟み動けなくなり波が来て溺れることもありえる。
実際にまだテトラポットまで長い距離があった頃にはこれらの事故は多発していた。これまではそこまで行ってしまう大人だけの事故であったが、ここまでテトラポットに近づくと子供たちまで危険なことになる。
飯岡海岸は海水浴場ではなくなった。現在、旭市で海水浴場と銘打っているのは矢指海水浴場だけである。
長くなった砂浜は急激に緑地化が進む。以前は九十九里浜中間部に見られた植物たちが、波から逃げてきたかのように飯岡海岸で繁殖しているのだ。これらを整備してビーチバレー大会や宝探しを開催すると莫大な資金が必要となる。
YOU・遊フェスティバル実行委員会は花火大会に全力を注ぐことを決定した。
一番に問題になったのは交通状況と駐車場問題であった。ある意味当然のことなのだが、これまでの花火大会では、『会場周辺に行けばどこか停められるところがあるだろう』と考える人が多数いて、周辺に大渋滞を巻き起こし、通行止めの時間になっても車が動かず、花火大会協賛来賓でさえ時間内に会場へ到着できなかった。
さらに終了後には砂浜を駐車場として利用した車が真っ暗な中で、砂にタイヤを取られ動けなくなり、後続車が全て出られないというハプニングもあり、これを解消できたのは夜中の12時を回っていた。運良く駐車できた人たちも帰りの大渋滞にハマり、バイパス道路終点『網戸交差点』を通るまでに1時間半を要する事態に陥った。
これらを解決するために『会場周辺駐車場全面有料化』に踏み切った。シャトルバス付き駐車場を作ることで車で会場入りせずとも観覧できるシステムも用意した。もちろん、賛否両論あるのは覚悟の上である。
また、開催も七月から十月に変更した。これは風向きが大きく関係する。七月の風向きでは、煙が客席側へ流れ花火がキレイに見えなかったし、『日本で一番近くから観られる花火大会』であるため火の粉や燃えかすが客席側に届いてしまうこともあったのだ。
さらに、『有料席』も作り、堤防より先は一般客は入れないことにした。
これまでとの大幅な改革が吉と出るか凶と出るか、YOU・遊フェスティバル実行委員の面々は期待と不安を抱えながら準備を進めて行った。
当日はどしゃ降りとはならぬまでも1ミリ位の雨が朝から降り続いた。花火師たちから「大風でなければいける」と言われてはいたが、人出を心配する声がちらほらと出てくる中で実行委員たちの作業が続けられた。
しかし、お昼が過ぎるとその心配を他所にちらほらと客足があり、出店や屋台がオープンする3時には混み始め、5時過ぎにはたくさんの観覧者がやってきた。
花火大会が始まると近さゆえの迫力に会場全体から歓声があがった。最後のスターマインでは映画『打ち上げ花火 下から見るか横から見るか』の主題歌『打ち上げ花火』の歌とともに披露され圧巻のショーである。
「下から見るとはこのことだな」
口を半開きで見上げていた。
興奮冷めやらぬ田中家の三人は徒歩で帰りながら花火大会の感想を述べあった。自宅に着くと真守は冷蔵庫から缶ビールを取り出してから、パソコンを広げ、ネットサーフィンでアーカイブのチェックを始めた。
「おっ! やっぱり動画上げている人いるよ。結構視聴数あるなぁ。リアルタイムで見れる楽しさだ。これで凄さをわかってもらって来年はこちらに来てほしいなぁ」
「そうね。あら? 友達がもう家に到着したってラインをくれたわ。帰りも大渋滞にはならなかったみたい。駐車場対策も功を奏したのね」
水萌里も冷蔵庫から缶チューハイを取り出すと真守の隣に座る。二人は他の人がアップしたアーカイブを観ながら楽しそうに語っていた。
「確かに面白かった。来年も行こうな」
風呂上がりに髪にタオルをあてた洋太も後から覗き込んでいる。
☆☆☆ご協力☆☆☆
YOU・遊フェスティバル実行委員会
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