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78 タイムスリップ
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入店した中年男性は店の雰囲気に「ほぉ」笑顔を見せた。
「なんだここは!? この店、貧乏なのか?」
びっくり顔の青年は両親に問う。
「違うわ。こういう雰囲気をレトロっていうの。昭和風な店構えにしているのよ。このテーブルもビールケース椅子もこだわりなの。これがわからないなんて子供ね」
中年女性のフォローに青年は首を傾げながらも興味津津にキョロキョロしながら店の奥の座敷席へ行く。
「なるほど。ユーチューブとかで見た昔風ってやつだな。あ! このニオイは! どれどれどれ」
座るや否やメニューを広げて青年洋太は満面の笑みを見せた。
「おねぇさん。生中一つとウーロン茶二つ」
「はーい!」
真守は我慢できないとばかりに飲み物を注文する。飲み物が届き、洋太が次々と注文していくのを横目に真守は早速生中を飲み始めた。
「かぁ! こういう屋台風の雰囲気で飲めるって旨さが増すよなぁ!」
しばらくレトロについて三人が話をしていると一つの皿が届く。
「おまたせしましたぁ。ガツネギです」
「これこれこれぇ! ビールにぴったりなこれ、サイコー!」
あまりの真守の喜び様に店員は笑顔で下がる。
「旭市に来るまではこんなお料理知らなかったものね」
「だよな。隠れた地元料理なんだと思う。さすがに養豚が盛んな町だけあるよ」
「俺のも来たぁ!」
洋太の叫びでたくさんの焼き鳥が並んだ。そして大盛りご飯と小さなご飯。
「美味しいわ。地元のお肉にこだわってるらしいわ」
「飯が進むぅ!」
洋太はタレ味でご飯を頬張り、真守は塩味で酒を飲み、水萌里は少しずつたくさんの味を楽しんだ。
「塩やきとりに添えられた味噌? なんだこれ? うまっ!!」
真守のジョッキも空いていく。
「レアタン刺しとレアハツ刺しでーす」
「レアって食べて大丈夫なんですか?」
興味を持って注文はしたが、よくよく考えた水萌里はビビリ気味に聞く。
「レアといっても低温調理してあるので生ではないんで、大丈夫ですよ」
真守が早速手を伸ばす。
「ほっほー! 本当にレアって感じる。懐かしいなぁ」
一昔前は生肉も食せていて、真守はそれが好きだった。
三人はそれぞれに大満足で店を出た。
別の日、三人は違う店に食事に来た。
「おお! レトロだ」
「ふふふ。洋太。よくその言葉を覚えていたわ。そうね、まさにレトロ。ワクワクしちゃうわ」
店内に入ったとたん、タイムスリップでもしたかのような空間に真守は我も忘れてそこかしこを見たり触ったりした。案内された席も昔の教室風だ。
ここは『お好み焼き楽今』。レトロ感満載のお好み焼き店である。
「これよ。私のお目当ては!」
メニューから水萌里は早速注文した。
「他のご注文がお決まりでしたらそちらで呼んでください」
「うおおおお! これが呼び鈴? かっこいい!」
大興奮の真守がなでなでしているのはファミコンである。「ファミコンの形をしているもの」ではなく「ファミコン」だ。
「レアレアレア。すごーー」
レアさのわからない洋太でも室内の変わった雰囲気にキョロキョロが止まらない。もちろん水萌里も。しばらくの間三人は個々にキョロキョロしてその部屋を堪能してから我に返って注文を決めた。
真守が慎重にファミコンを押し、店員に注文を告げる。
水萌里が早々に頼んだものが届く。
「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ。おまたせしました」
黒アヒージョとは、オリーブオイルとにんにくを使ったアヒージョにさらに醤油を加えた千葉県が推している新ご当地グルメである。
千葉県は醤油工場が有名でそのアピールのために県庁の若手職員が考えた黒アヒージョ。それを使った料理コンテストが開催された。
そして数ある応募メニューから準グランプリに選ばれたのがこの「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ」である。
スキレット鍋の真ん中に陣取る玉ねぎに黒アヒージョがたっぷりと丹念にかけられツヤツヤと輝き、それに箸をいれると何の抵抗もなく割れていく。慎重に持ち上げると鼻先に香ばしいにんにくが踊り、誘われて口に運ぶとオリーブオイルのまろやかさと玉ねぎの甘さが洪水を起こす。
「んんんんんん♡」
水萌里が震えた。
「母さん、くれぇ」
洋太がスキレット鍋を引こうとする手を水萌里は戸惑うことなくペチリと叩いた。
「ねぇ、洋太。貴方はショートケーキを半分にする?」
「それ、ケーキなの?」
水萌里はツッコミを入れた隣に座る真守をチロリと睨んだ。
「とにかく、私はあげたくないって言ってるのよ。トロトロで甘々で香ばしいのにソフトなこれは一人で食べたいの」
水萌里は付属されているバケットをちぎってアヒージョの油をたっぷりと吸わせ口に入れる。
「んんんん!!!」
またしてももだえた。
結局もう一つ注文し、真守と洋太はシェアした。二人もその甘さにびっくりしていたのは言うまでもない。
洋太のお好み焼き作成初体験をわたわたと楽しみ、他は店主に焼いてもらい、もんじゃは真守も初めてでワッキャッキャッと喜んで食事をした。鉄板焼きには大人も楽しんでしまう魅力がある。
デザートタイムとなり水萌里の前に出されたのは『さつまいもと林檎のデザート黒アヒージョ』だ。
「おお! 不思議なうまさ」
「だな。にんにくなのにデザートだよ」
二人は素直に水萌里に追随して同じものを注文しているため二人の前にも並んだ。
「このメニューは、黒アヒージョコンテストのカジュアル部門で! なんと! グランプリになりましたぁ!」
パチパチと拍手がされた。
まるで自分がグランプリかのように鼻高々に言う水萌里とそれにちゃんと拍手で答える男二人。仲の良い家族である。
食事を終え外に出る。
「ねぇ。お隣にカレー屋さんがあるわ」
「カレー屋? あれ、なんて読むんだ?」
洋太は英語はローマ字も苦手だ。
「『KUROTA』だな。そういえば洋太は外でカレー食べたことないのか」
「ないっ! よし、行こう!」
「いやいやいや。今は腹に入らないよ」
「でも近いうちに来ましょうよ」
三人は車に乗り込んだ。
☆☆☆
ご協力
居酒屋博海様
鉄板ダイニング楽今様
カレーKUROTA様
「なんだここは!? この店、貧乏なのか?」
びっくり顔の青年は両親に問う。
「違うわ。こういう雰囲気をレトロっていうの。昭和風な店構えにしているのよ。このテーブルもビールケース椅子もこだわりなの。これがわからないなんて子供ね」
中年女性のフォローに青年は首を傾げながらも興味津津にキョロキョロしながら店の奥の座敷席へ行く。
「なるほど。ユーチューブとかで見た昔風ってやつだな。あ! このニオイは! どれどれどれ」
座るや否やメニューを広げて青年洋太は満面の笑みを見せた。
「おねぇさん。生中一つとウーロン茶二つ」
「はーい!」
真守は我慢できないとばかりに飲み物を注文する。飲み物が届き、洋太が次々と注文していくのを横目に真守は早速生中を飲み始めた。
「かぁ! こういう屋台風の雰囲気で飲めるって旨さが増すよなぁ!」
しばらくレトロについて三人が話をしていると一つの皿が届く。
「おまたせしましたぁ。ガツネギです」
「これこれこれぇ! ビールにぴったりなこれ、サイコー!」
あまりの真守の喜び様に店員は笑顔で下がる。
「旭市に来るまではこんなお料理知らなかったものね」
「だよな。隠れた地元料理なんだと思う。さすがに養豚が盛んな町だけあるよ」
「俺のも来たぁ!」
洋太の叫びでたくさんの焼き鳥が並んだ。そして大盛りご飯と小さなご飯。
「美味しいわ。地元のお肉にこだわってるらしいわ」
「飯が進むぅ!」
洋太はタレ味でご飯を頬張り、真守は塩味で酒を飲み、水萌里は少しずつたくさんの味を楽しんだ。
「塩やきとりに添えられた味噌? なんだこれ? うまっ!!」
真守のジョッキも空いていく。
「レアタン刺しとレアハツ刺しでーす」
「レアって食べて大丈夫なんですか?」
興味を持って注文はしたが、よくよく考えた水萌里はビビリ気味に聞く。
「レアといっても低温調理してあるので生ではないんで、大丈夫ですよ」
真守が早速手を伸ばす。
「ほっほー! 本当にレアって感じる。懐かしいなぁ」
一昔前は生肉も食せていて、真守はそれが好きだった。
三人はそれぞれに大満足で店を出た。
別の日、三人は違う店に食事に来た。
「おお! レトロだ」
「ふふふ。洋太。よくその言葉を覚えていたわ。そうね、まさにレトロ。ワクワクしちゃうわ」
店内に入ったとたん、タイムスリップでもしたかのような空間に真守は我も忘れてそこかしこを見たり触ったりした。案内された席も昔の教室風だ。
ここは『お好み焼き楽今』。レトロ感満載のお好み焼き店である。
「これよ。私のお目当ては!」
メニューから水萌里は早速注文した。
「他のご注文がお決まりでしたらそちらで呼んでください」
「うおおおお! これが呼び鈴? かっこいい!」
大興奮の真守がなでなでしているのはファミコンである。「ファミコンの形をしているもの」ではなく「ファミコン」だ。
「レアレアレア。すごーー」
レアさのわからない洋太でも室内の変わった雰囲気にキョロキョロが止まらない。もちろん水萌里も。しばらくの間三人は個々にキョロキョロしてその部屋を堪能してから我に返って注文を決めた。
真守が慎重にファミコンを押し、店員に注文を告げる。
水萌里が早々に頼んだものが届く。
「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ。おまたせしました」
黒アヒージョとは、オリーブオイルとにんにくを使ったアヒージョにさらに醤油を加えた千葉県が推している新ご当地グルメである。
千葉県は醤油工場が有名でそのアピールのために県庁の若手職員が考えた黒アヒージョ。それを使った料理コンテストが開催された。
そして数ある応募メニューから準グランプリに選ばれたのがこの「丸ごと玉ねぎとシラスの黒アヒージョ」である。
スキレット鍋の真ん中に陣取る玉ねぎに黒アヒージョがたっぷりと丹念にかけられツヤツヤと輝き、それに箸をいれると何の抵抗もなく割れていく。慎重に持ち上げると鼻先に香ばしいにんにくが踊り、誘われて口に運ぶとオリーブオイルのまろやかさと玉ねぎの甘さが洪水を起こす。
「んんんんんん♡」
水萌里が震えた。
「母さん、くれぇ」
洋太がスキレット鍋を引こうとする手を水萌里は戸惑うことなくペチリと叩いた。
「ねぇ、洋太。貴方はショートケーキを半分にする?」
「それ、ケーキなの?」
水萌里はツッコミを入れた隣に座る真守をチロリと睨んだ。
「とにかく、私はあげたくないって言ってるのよ。トロトロで甘々で香ばしいのにソフトなこれは一人で食べたいの」
水萌里は付属されているバケットをちぎってアヒージョの油をたっぷりと吸わせ口に入れる。
「んんんん!!!」
またしてももだえた。
結局もう一つ注文し、真守と洋太はシェアした。二人もその甘さにびっくりしていたのは言うまでもない。
洋太のお好み焼き作成初体験をわたわたと楽しみ、他は店主に焼いてもらい、もんじゃは真守も初めてでワッキャッキャッと喜んで食事をした。鉄板焼きには大人も楽しんでしまう魅力がある。
デザートタイムとなり水萌里の前に出されたのは『さつまいもと林檎のデザート黒アヒージョ』だ。
「おお! 不思議なうまさ」
「だな。にんにくなのにデザートだよ」
二人は素直に水萌里に追随して同じものを注文しているため二人の前にも並んだ。
「このメニューは、黒アヒージョコンテストのカジュアル部門で! なんと! グランプリになりましたぁ!」
パチパチと拍手がされた。
まるで自分がグランプリかのように鼻高々に言う水萌里とそれにちゃんと拍手で答える男二人。仲の良い家族である。
食事を終え外に出る。
「ねぇ。お隣にカレー屋さんがあるわ」
「カレー屋? あれ、なんて読むんだ?」
洋太は英語はローマ字も苦手だ。
「『KUROTA』だな。そういえば洋太は外でカレー食べたことないのか」
「ないっ! よし、行こう!」
「いやいやいや。今は腹に入らないよ」
「でも近いうちに来ましょうよ」
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ご協力
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