41 / 80
41 ケーキ当てクイズ
しおりを挟む
「はい! 恒例のチコニアクイズぅぅぅぅ」
自分で拍手をしながら高々と宣言した水萌里に付き合うように手を打っている洋太の口はもぐもぐと動き、手はテーブルに置かれた木製の菓子入れを何度も往復してクッキーを頬張りそのたびに独り言感想を言っている。
「くるみクッキーか。これも旨いけど、俺的にはアーモンドクッキーだな。でも母さんはくるみクッキーが好きそうだ」
ぽりぽりもぐもぐ
「ミルクにコーヒークッキーは最強コンビだ」
ごきゅごきゅごきゅ
クッキーも美味しい『Ciconiaチコニア』は旭二中の北側にある長屋店舗の真ん中にある小さなお菓子屋さんである。一人で全ての手作りしているという女性オーナーは以前には母親と一緒に菓子教室をやりながらやっていたが集合自粛で教室を続けることが難しくなりお店だけにした。そのころよりメニューも増えていて集まり自粛を好機と変換しているので、調理だけでなく経営にも腕がいいと言える。
「よ、洋太! 俺のもとっておいてくれよ」
洋太の食べ方の勢いに真守は焦りを見せる。油断をしていると全部洋太に食べられてしまうのだ。ちなみに、水萌里はすでに自分が食べたい分は確保している。
「おやじはクイズに正解すればケーキが食べられるんだからいいじゃないか」
そういう洋太はすでに二つのケーキを平らげていた。
「それにチコニアのクッキーは日持ちするから心配いらないだろう?」
「日持ちの心配じゃない。当家の在庫の心配だ!」
真守は急いで皿を持ってきて好みのクッキーを分けておく。ちなみに、日持ちがすることをいいことに水萌里はキッチンの引き出しに二袋ほど隠してあるが、知らぬは真守ばかりなり。するどい洋太は知っているが気を使ってそれには手を出さない。
「相変わらずセコいな」
「じゃーん!」
二人のやり取りを無視していた水萌里は銀の蓋クローシュが乗った皿を持ってきた。
「では真守さん。いつものように!」
真守はため息をこぼしながらも素直にアイマスクをする。
「香りで正解したら、真守さんが食べたことがないケーキ贈呈。一口で正解したら食べたことがある好きなケーキ一ピース。三口で正解したら半ピースです!」
「クッキークイズにしないか?」
アイマスクをしていても口が引きつったのがわかるほど真守は懇願した。
「クッキーは独特な味が多いからクイズにならないじゃないか」
「でも当てやすいから…………」
チコニアのケーキはいろいろな国のオーソドックスなスポンジ系なのだ。このクイズの難しいところは正確な名前と国まで当てなければならないことだ。「あれだよ。あれ! 味はわかるのに国名が出てこないぃぃぃ」とか「はい、一文字違いまーす」いうことが、よくある。クッキーなら「紅茶味」とか「マカデミアナッツ」という答えなので正解しやすい。
「はいはい。とにかく始めますよ。オープーン!」
「おおおおおお!」
盛り上げ上手の洋太がノリノリで付き合うが、真守は不安そうだ。洋太がクイズに参加しないのは、横文字に弱く全く当たらないから。世界各国どころか日本の都道府県も覚えていない。「あっちの遠くに天照様のお力を感じる」と言って毎日西に頭を下げるが、何県かは知らない。
皿を持った水萌里は真守の鼻に近づける。
「心地よいバターの香りだ」
正確な名前を当てなければならない時点で真守の頭の中では『ガトーショコラクラッシク』と『ベイクドチーズケーキ』は削除されている。
「では、答えをどうぞ」
「ポルトガルのボーロ・ドウラード!」
「ざんねーん! 確かにボーロ・ドウラードはバター香るカステラよね。あれは美味しいわ。でもこれは違いまーす」
「そうなんだよ。バターだけじゃない香ばしい何かは感じるんだ」
「では実食!」
水萌里がそれを一口大にフォークで切り分け真守の口に運んだ。
「え? これ食べたことある?」
「絶対にある」
「キャラメルアップルケーキもバターケーキがベースだけど、アップルの味はしないしな……」
洋太のお墨付きに真守が諦めてもう一度口を開け、水萌里はもう一口入れた。
「まじで? これはアーモンド系だと思うんだよ。あと別のナッツ系? こんなケーキ食べたことあるか? んー、わからないから……ナッツ系だとイタリアのトルタ・マントヴァーナ!」
「違いまーす! では最後の一口をどうぞ」
真守は探るように食べるが首を傾げた。
「なら、ヒントをあげましょう。ケーキではありません」
「ずっるーーー! 答えはフィナンシェです!」
ガバリとアイマスクを外した真守が苦い顔で皿に残っていたフィナンシェを食べ、水萌里も洋太もいたずらが成功して大笑いした。
「ケーキだって思い込んでいたし、舌触りがいいからクッキーではないから騙された。確かにこのアーモンドとカシューナッツ、最後に鼻に抜けるラム酒はフィナンシェだよな」
マドレーヌとフィナンシェは生地を寝かしてから作るため量が限られた貴重なものだ。十個以上大量購入するためには事前に予約しておく必要があるほど手がこんでいるものである。
「うふふ。面白かったから、サービスよ。はい、イギリスのレモンドリズルケーキです」
「念願のっ」
クイズに正解しなかったり、ジャンケンに負けたり、早さで負けたりして、真守はレモンドリズルケーキをこれまで食べることができなかったのだった。
「この黄色の添えレモンがいい。色だけでも食欲が沸く。うーん、レモンが爽やかだ」
「うふふ。美味しいわよねぇ。それは『チコニア』のオーナーさんご本人も好きだって言っていたもの」
嬉しそうにケーキを食べる真守にお茶を淹れ直し、自分の分のココナッツドリームケーキを乗せた皿を持ってテーブルについた。
お茶の時間を終えると洋太はいつものようにメレンゲクッキーを一袋持って立ち上がった。
「ごちそうさまあ」
「あら? 洋太、それでいいの?」
メレンゲカプチーノクッキーの袋がにこにこと笑う水萌里の手にあった。
「ずっるーーー!」
唇を尖らせながらもひょいっと水萌里の手からその袋を奪う。
「洋太。ならそっちおいていってくれよ。明日、俺が食べるから」
「やあだね。俺の明日のおやつだよぉ」
二つの袋を持ってご満悦の洋太は軽い足取りで部屋へ向かった。
☆☆☆
ご協力
Ciconiaチコニア様(火曜日水曜日定休日)
自分で拍手をしながら高々と宣言した水萌里に付き合うように手を打っている洋太の口はもぐもぐと動き、手はテーブルに置かれた木製の菓子入れを何度も往復してクッキーを頬張りそのたびに独り言感想を言っている。
「くるみクッキーか。これも旨いけど、俺的にはアーモンドクッキーだな。でも母さんはくるみクッキーが好きそうだ」
ぽりぽりもぐもぐ
「ミルクにコーヒークッキーは最強コンビだ」
ごきゅごきゅごきゅ
クッキーも美味しい『Ciconiaチコニア』は旭二中の北側にある長屋店舗の真ん中にある小さなお菓子屋さんである。一人で全ての手作りしているという女性オーナーは以前には母親と一緒に菓子教室をやりながらやっていたが集合自粛で教室を続けることが難しくなりお店だけにした。そのころよりメニューも増えていて集まり自粛を好機と変換しているので、調理だけでなく経営にも腕がいいと言える。
「よ、洋太! 俺のもとっておいてくれよ」
洋太の食べ方の勢いに真守は焦りを見せる。油断をしていると全部洋太に食べられてしまうのだ。ちなみに、水萌里はすでに自分が食べたい分は確保している。
「おやじはクイズに正解すればケーキが食べられるんだからいいじゃないか」
そういう洋太はすでに二つのケーキを平らげていた。
「それにチコニアのクッキーは日持ちするから心配いらないだろう?」
「日持ちの心配じゃない。当家の在庫の心配だ!」
真守は急いで皿を持ってきて好みのクッキーを分けておく。ちなみに、日持ちがすることをいいことに水萌里はキッチンの引き出しに二袋ほど隠してあるが、知らぬは真守ばかりなり。するどい洋太は知っているが気を使ってそれには手を出さない。
「相変わらずセコいな」
「じゃーん!」
二人のやり取りを無視していた水萌里は銀の蓋クローシュが乗った皿を持ってきた。
「では真守さん。いつものように!」
真守はため息をこぼしながらも素直にアイマスクをする。
「香りで正解したら、真守さんが食べたことがないケーキ贈呈。一口で正解したら食べたことがある好きなケーキ一ピース。三口で正解したら半ピースです!」
「クッキークイズにしないか?」
アイマスクをしていても口が引きつったのがわかるほど真守は懇願した。
「クッキーは独特な味が多いからクイズにならないじゃないか」
「でも当てやすいから…………」
チコニアのケーキはいろいろな国のオーソドックスなスポンジ系なのだ。このクイズの難しいところは正確な名前と国まで当てなければならないことだ。「あれだよ。あれ! 味はわかるのに国名が出てこないぃぃぃ」とか「はい、一文字違いまーす」いうことが、よくある。クッキーなら「紅茶味」とか「マカデミアナッツ」という答えなので正解しやすい。
「はいはい。とにかく始めますよ。オープーン!」
「おおおおおお!」
盛り上げ上手の洋太がノリノリで付き合うが、真守は不安そうだ。洋太がクイズに参加しないのは、横文字に弱く全く当たらないから。世界各国どころか日本の都道府県も覚えていない。「あっちの遠くに天照様のお力を感じる」と言って毎日西に頭を下げるが、何県かは知らない。
皿を持った水萌里は真守の鼻に近づける。
「心地よいバターの香りだ」
正確な名前を当てなければならない時点で真守の頭の中では『ガトーショコラクラッシク』と『ベイクドチーズケーキ』は削除されている。
「では、答えをどうぞ」
「ポルトガルのボーロ・ドウラード!」
「ざんねーん! 確かにボーロ・ドウラードはバター香るカステラよね。あれは美味しいわ。でもこれは違いまーす」
「そうなんだよ。バターだけじゃない香ばしい何かは感じるんだ」
「では実食!」
水萌里がそれを一口大にフォークで切り分け真守の口に運んだ。
「え? これ食べたことある?」
「絶対にある」
「キャラメルアップルケーキもバターケーキがベースだけど、アップルの味はしないしな……」
洋太のお墨付きに真守が諦めてもう一度口を開け、水萌里はもう一口入れた。
「まじで? これはアーモンド系だと思うんだよ。あと別のナッツ系? こんなケーキ食べたことあるか? んー、わからないから……ナッツ系だとイタリアのトルタ・マントヴァーナ!」
「違いまーす! では最後の一口をどうぞ」
真守は探るように食べるが首を傾げた。
「なら、ヒントをあげましょう。ケーキではありません」
「ずっるーーー! 答えはフィナンシェです!」
ガバリとアイマスクを外した真守が苦い顔で皿に残っていたフィナンシェを食べ、水萌里も洋太もいたずらが成功して大笑いした。
「ケーキだって思い込んでいたし、舌触りがいいからクッキーではないから騙された。確かにこのアーモンドとカシューナッツ、最後に鼻に抜けるラム酒はフィナンシェだよな」
マドレーヌとフィナンシェは生地を寝かしてから作るため量が限られた貴重なものだ。十個以上大量購入するためには事前に予約しておく必要があるほど手がこんでいるものである。
「うふふ。面白かったから、サービスよ。はい、イギリスのレモンドリズルケーキです」
「念願のっ」
クイズに正解しなかったり、ジャンケンに負けたり、早さで負けたりして、真守はレモンドリズルケーキをこれまで食べることができなかったのだった。
「この黄色の添えレモンがいい。色だけでも食欲が沸く。うーん、レモンが爽やかだ」
「うふふ。美味しいわよねぇ。それは『チコニア』のオーナーさんご本人も好きだって言っていたもの」
嬉しそうにケーキを食べる真守にお茶を淹れ直し、自分の分のココナッツドリームケーキを乗せた皿を持ってテーブルについた。
お茶の時間を終えると洋太はいつものようにメレンゲクッキーを一袋持って立ち上がった。
「ごちそうさまあ」
「あら? 洋太、それでいいの?」
メレンゲカプチーノクッキーの袋がにこにこと笑う水萌里の手にあった。
「ずっるーーー!」
唇を尖らせながらもひょいっと水萌里の手からその袋を奪う。
「洋太。ならそっちおいていってくれよ。明日、俺が食べるから」
「やあだね。俺の明日のおやつだよぉ」
二つの袋を持ってご満悦の洋太は軽い足取りで部屋へ向かった。
☆☆☆
ご協力
Ciconiaチコニア様(火曜日水曜日定休日)
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。


いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる