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36 あんた、なにもんだ?
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12月2日~12月10日
飯岡展望館光と風にて
あさげー展覧会開催
見に来てね!
☆☆☆
『おいおい……そりゃないぜ……』
プロレスラーとして華麗なデビューを夢見た青年は用意された衣装に啞然とした。
★★
「しゅんちゃん! このノートにガンダム書いてきてくれよ!」
放課後になると交代でクラスメートからノートを託されるシュンイチは、小学生ながら画力が認められ教科書に採用されるほどの腕前であったため、クラスメートからも人気者であった。
家に帰ると黙々とノートに向かえる時間は楽しく、あっという間に過ぎていく。同級生たちがテレビの『タイガーマスク』に夢中になっている頃には、自作漫画に夢中になりテレビどころではなかった。その漫画も友人たちに評判がいいので筆が止まらない。
だが、中学にあがり、友人からのオファーが減り始めた頃、ふと見たテレビに衝撃を受けた。
「タイガーマスク、かっこいいじゃねぇかっ!」
そうは思ったものの、芸術への道も諦めきれず、芸術系の専門学校へ行った……はずだった。体格に恵まれていたシュンイチは専門学校の合間にジムに通いだすとトレーニングに瞬く間にハマり、学校の時間よりジムの時間が多くなってしまった。
「よしっ! まずはプロレスラーになろう! 絵はそれからだ!」
自分に言い聞かせてプロレス団体の門を叩くも人気絶頂期&スパルタ絶頂期であったため、入門試験スクワット千回という過酷さに何度も落とされた。
それでもプロレス人気という追い風にとあるプロレス団体への合格を掴み取った。
そして、文頭。
『おいおい……そりゃないぜ……』
シュンイチの前には頭に槍のようなものを付けたマスクと奇抜な色の全身タイツが用意されていた。
「お前は今日からモンゴルマンだ!」
キン肉マンファンの社長に肩を叩かれればノーとは言えずにマスクは受け取った。全身タイツは……後輩に押し付ける。
斎藤ザ☆モンゴルマン俊一が生まれた瞬間であった。
そらからのモンゴルマンは格闘技と芸術と実生活とをウロチョロウロチョロとしながら、ブラジリアン柔術のアジアチャンピオンになったり、教員になったり、武蔵野美術大学で革命起こしたり、映画に出ちゃってみたり、そうしたらCMも出ちゃって「ついでにドラマも出ちゃう?」なんてことをしてきた。結構有名な出会い型バラエティ番組にも出演して海外でバスに乗っちゃったりもしている。
大阪や東京で「個展もやってみちゃうかぁ」というノリで個展をやったかと思えば、おまけとばかりにパフォーマンスバンド活動も開始。ボーカルを務めたバンドのPVでは、培ってきた演技力と恐ろしいほどの金を使って本格的な爆破シーンまでやっている。『チキンハートコネクション』はまるで読経とロックと芸術をごちゃ混ぜにしたようなグループだ。あ! そういえば、この方は仏教大学にも足をツッコんでいます。その流れも汲んだバンドかもしれなくはないが詳しくは本人に聞いてほしい。
「あんた、なにもんだ?」
その言葉がこれほどに似合う男はいない。
そんなモンゴルマンが、武蔵美時代の友人とともに「新潟大地の芸術祭」に足を運ぶと心を撃ち抜かれた。
「こんなかっこいいことができるのかぁ!!」
街全体を巻き込んだ芸術祭は年々大きくなり、すでに一週間かけないと作品を回りきれないほどの規模になっていて、外国人観光客が観光バスからゾロゾロと降り立つ姿はモンゴルマンにとって旭市にもたらせたい姿そのものだった。
「きっとこの街だって最初からこうだったわけじゃない。まずはスタートしなくては!」
その志をぶつけてみると、モンゴルマンが考えていたより協力者はたくさんいた。旭市の芸術家たちはパフォーマンスができる場所を探していて、モンゴルマンに呼応して立ち上がると、芸術で旭市を盛り上げるグループ『あさげー』が誕生し、個々の活動を応援しながらグループでの発表もしていくことになる。
令和五年十二月上旬。二回目となる『飯岡展望館風と光』での展覧会が開かれる。名だたる作家たちがこれほど集えるのもモンゴルマンの旗印あってこそだろう。
寒さの中、洋太はトテトテと音をさせてバイクを走らせ坂を登る。坂道だと自転車で神力を使ってしまうため飯岡灯台へ行くときにはあえてバイクにしているのだ。
「おっ! やっぱり何かやってるぞ!」
飯岡灯台付近でワクワクするような空気を感じた洋太は急いで様子を見に来たのだった。
階段を駆け上がり展望館の二階のドアを開けた。
ゆっくりと振り向いた男は黒いTシャツが弾けそうな分厚い胸板に似合わない可愛らしい笑顔を向けた。
「お前、何者だ?」
洋太は思わず構えた。
「アイアムチャンピオン!」
モンゴルマンはアジアチャンピオンのTシャツのロゴを見せて鼻を上げたが、英語がわからない洋太はコテンと首を傾げる。ギャグが滑ったモンゴルマンは気を取り直して案内した。
「これが俺の絵だ!」
「なんだっ! お前、すごいヤツなんだなっ! かっこいい絵じゃないかっ!」
洋太の判定で、モンゴルマンは『かっこいい絵を描くすごいヤツ』ということになりました。
是非その絵を見に来てください!
☆☆☆
ご協力
斎藤ザ☆モンゴルマン俊一様
あさげー様
飯岡展望館光と風にて
あさげー展覧会開催
見に来てね!
☆☆☆
『おいおい……そりゃないぜ……』
プロレスラーとして華麗なデビューを夢見た青年は用意された衣装に啞然とした。
★★
「しゅんちゃん! このノートにガンダム書いてきてくれよ!」
放課後になると交代でクラスメートからノートを託されるシュンイチは、小学生ながら画力が認められ教科書に採用されるほどの腕前であったため、クラスメートからも人気者であった。
家に帰ると黙々とノートに向かえる時間は楽しく、あっという間に過ぎていく。同級生たちがテレビの『タイガーマスク』に夢中になっている頃には、自作漫画に夢中になりテレビどころではなかった。その漫画も友人たちに評判がいいので筆が止まらない。
だが、中学にあがり、友人からのオファーが減り始めた頃、ふと見たテレビに衝撃を受けた。
「タイガーマスク、かっこいいじゃねぇかっ!」
そうは思ったものの、芸術への道も諦めきれず、芸術系の専門学校へ行った……はずだった。体格に恵まれていたシュンイチは専門学校の合間にジムに通いだすとトレーニングに瞬く間にハマり、学校の時間よりジムの時間が多くなってしまった。
「よしっ! まずはプロレスラーになろう! 絵はそれからだ!」
自分に言い聞かせてプロレス団体の門を叩くも人気絶頂期&スパルタ絶頂期であったため、入門試験スクワット千回という過酷さに何度も落とされた。
それでもプロレス人気という追い風にとあるプロレス団体への合格を掴み取った。
そして、文頭。
『おいおい……そりゃないぜ……』
シュンイチの前には頭に槍のようなものを付けたマスクと奇抜な色の全身タイツが用意されていた。
「お前は今日からモンゴルマンだ!」
キン肉マンファンの社長に肩を叩かれればノーとは言えずにマスクは受け取った。全身タイツは……後輩に押し付ける。
斎藤ザ☆モンゴルマン俊一が生まれた瞬間であった。
そらからのモンゴルマンは格闘技と芸術と実生活とをウロチョロウロチョロとしながら、ブラジリアン柔術のアジアチャンピオンになったり、教員になったり、武蔵野美術大学で革命起こしたり、映画に出ちゃってみたり、そうしたらCMも出ちゃって「ついでにドラマも出ちゃう?」なんてことをしてきた。結構有名な出会い型バラエティ番組にも出演して海外でバスに乗っちゃったりもしている。
大阪や東京で「個展もやってみちゃうかぁ」というノリで個展をやったかと思えば、おまけとばかりにパフォーマンスバンド活動も開始。ボーカルを務めたバンドのPVでは、培ってきた演技力と恐ろしいほどの金を使って本格的な爆破シーンまでやっている。『チキンハートコネクション』はまるで読経とロックと芸術をごちゃ混ぜにしたようなグループだ。あ! そういえば、この方は仏教大学にも足をツッコんでいます。その流れも汲んだバンドかもしれなくはないが詳しくは本人に聞いてほしい。
「あんた、なにもんだ?」
その言葉がこれほどに似合う男はいない。
そんなモンゴルマンが、武蔵美時代の友人とともに「新潟大地の芸術祭」に足を運ぶと心を撃ち抜かれた。
「こんなかっこいいことができるのかぁ!!」
街全体を巻き込んだ芸術祭は年々大きくなり、すでに一週間かけないと作品を回りきれないほどの規模になっていて、外国人観光客が観光バスからゾロゾロと降り立つ姿はモンゴルマンにとって旭市にもたらせたい姿そのものだった。
「きっとこの街だって最初からこうだったわけじゃない。まずはスタートしなくては!」
その志をぶつけてみると、モンゴルマンが考えていたより協力者はたくさんいた。旭市の芸術家たちはパフォーマンスができる場所を探していて、モンゴルマンに呼応して立ち上がると、芸術で旭市を盛り上げるグループ『あさげー』が誕生し、個々の活動を応援しながらグループでの発表もしていくことになる。
令和五年十二月上旬。二回目となる『飯岡展望館風と光』での展覧会が開かれる。名だたる作家たちがこれほど集えるのもモンゴルマンの旗印あってこそだろう。
寒さの中、洋太はトテトテと音をさせてバイクを走らせ坂を登る。坂道だと自転車で神力を使ってしまうため飯岡灯台へ行くときにはあえてバイクにしているのだ。
「おっ! やっぱり何かやってるぞ!」
飯岡灯台付近でワクワクするような空気を感じた洋太は急いで様子を見に来たのだった。
階段を駆け上がり展望館の二階のドアを開けた。
ゆっくりと振り向いた男は黒いTシャツが弾けそうな分厚い胸板に似合わない可愛らしい笑顔を向けた。
「お前、何者だ?」
洋太は思わず構えた。
「アイアムチャンピオン!」
モンゴルマンはアジアチャンピオンのTシャツのロゴを見せて鼻を上げたが、英語がわからない洋太はコテンと首を傾げる。ギャグが滑ったモンゴルマンは気を取り直して案内した。
「これが俺の絵だ!」
「なんだっ! お前、すごいヤツなんだなっ! かっこいい絵じゃないかっ!」
洋太の判定で、モンゴルマンは『かっこいい絵を描くすごいヤツ』ということになりました。
是非その絵を見に来てください!
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斎藤ザ☆モンゴルマン俊一様
あさげー様
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