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17 八百万の神
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夏まつり当日、まだまだ暑さの残る夕方の明るい時間に真守も洋太もつれて出かけた。主催者の所有地で行われ、縁日というだけあって子どもたちで溢れていた。母親たちも安心して子どもたちを遊ばせることができるようで、友人たちと立ち話に華を咲かせていた。とても賑やかでアットホームで家主たちの人柄が溢れているような集いだった。
水萌里は木だまりのママたまきに挨拶をして春巻きを六本買う。その間に真守と洋太が飲み物や焼きそばを買って用意されていたテーブルに座っていた。
心地よい喧騒の中で二人は春巻きを絶賛して頬張る。真守はまさかビールが飲めると思って来ていなかったので嬉しさのあまり三杯も買ってきていた。水萌里も焼きそばを食べながらノンアルコールドリンクで喉を潤す。
腹が満たされたころに本日のメインイベントであろう「スイカ割り」が始まった。主催者家族と思われる成人したばかりくらいの年齢の少女と大人数じゃんけんをして最後に残るとできるらしい。
「はーい! やりたい人お!」
透き通るような声に多くの子供達が「はい!」「はーい!」と我先に反応する姿が微笑ましいと水萌里が思ったのは一瞬で、隣に座る見た目十八歳の少年が目を輝かせて手をあげているのを見て慌ててその手をはたき落とした。
「どう見ても子どもたち用の企画でしょ。やめなさいっ!」
「ちぇ」
洋太は唇を尖らせて真守のビールに手を伸ばすがその手もはたき落とされた。
拗ねたふりをする洋太の頭を真守がナデナデしてその手を洋太にはたき落とされた。
「スイカ割りをやりたいなら、家でやってやるけどさあ。洋太は心眼で見えちゃうから意味ないと思うぞ」
叩かれた手をさする真守の言葉を理解できなかった洋太であったが、一人目の子供がぐるぐる回った後に数歩歩いてスイカの真ん中あたりにバットをヒットさせた様子を見て納得した。
「なんだ切るわけではないのか。心眼のない人間の子どもでは当てることも難しいというわけだな」
「そうよ。洋太が一回で粉々にしたら楽しくなくなっちゃうわ。それにバットでは何も切れません」
「いやいや簡単だぞ。切り口もスッパとしていた方が旨そうに見えると思うが?」
「「洋太だけしかできない」」
粉々どころか包丁で切ったかのように切れるといいきる洋太に二人は「まだまだ常識がずれているのだな」と溜息を吐いた。洋太はそれを尊敬と取ったのか、まんざらでもなさそうに笑った。
それからというもの楽しそうに子どもたちの様子を見ている洋太に水萌里は安堵していた。水萌里としてはここに洋太を連れてくるべきか悩んでいたのだが、二人が行ってみたいというので連れてきたのだ。
「こういうのもいいな」
「洋太は『まつり』の本来の趣旨に合わないことは気にしないの?」
祭とは本来神への感謝を表すものだと水萌里は考えていた。古来の祭はそういう趣旨であったのは間違いではない。だが近年では、市民の楽しみであったり、集客収益のためのものも存在し、水萌里がそれを否定することはない。だが、本当の神である洋太がどうとらえるのかは不安を持っている。
水萌里の質問の意図がわからず首を傾げる。
「だって、この集まりは神様に感謝しているわけじゃないでしょう」
「そんなことはないぞ。神々は自然に対して何らかの力を及ぼすことが多い。つまりは四季は神々の力ということだ。子どもたちが水鉄砲で遊んだり、あのプールに足を入れたり、こうして外で薄着で食事をしたり、大人たちが暑さでビールを旨いと感じたり。それらは夏という季節を楽しんでいる証拠じゃないか。ありがとうと感謝することだけが神を感じることではない。自然を感じそれを楽しむことも間接的に神を感じているということなんだ」
「ふっかいなぁ。なんだか洋太が神様に見えてきた……」
洋太が空いた紙コップの底で真守の頭をコツンと叩いくと、真守は嬉しそうに笑う。
「笑うというのは、テレビを見たり漫画を読んだり人と話をしたりしてもできる。だが、今ここで笑っている者たちは子どもであろうと大人であろうと心のどこかで夏を感受しているだろう」
「そうね」
二人は洋太のおかげでなんだか幸せな気分になった。
「季節だけじゃないぞ。海の恵みを感じることも大地の恵みを感じることも神を感じているのと同じだ。風を気持ちいいと思ったり、波を楽しいと思ったり、緑や花を美しいと感じるのも、な」
「まさに八百万に神は存在する、だな」
真守が残りのビールを一気に飲み干して立ち上がる。
三人は楽しそうな喧騒を背に感じながら帰宅の途についた。
「あら? そう言えば、さっきのお家って『Bar TAKU』を営んでいるご夫婦ってたまきさんが言っていたわ」
帰りの車の中で運転手の水萌里が言う。
「ええ!! 早く教えてよ。それなら、旦那さんともっと仲良くなってきたのに……。気軽な飲み屋を知りたかったんだよ……」
唇を尖らせた真守は決してカワイイことはない。
☆☆☆
ご協力
石橋家のご家族様
Bar TAKU様
水萌里は木だまりのママたまきに挨拶をして春巻きを六本買う。その間に真守と洋太が飲み物や焼きそばを買って用意されていたテーブルに座っていた。
心地よい喧騒の中で二人は春巻きを絶賛して頬張る。真守はまさかビールが飲めると思って来ていなかったので嬉しさのあまり三杯も買ってきていた。水萌里も焼きそばを食べながらノンアルコールドリンクで喉を潤す。
腹が満たされたころに本日のメインイベントであろう「スイカ割り」が始まった。主催者家族と思われる成人したばかりくらいの年齢の少女と大人数じゃんけんをして最後に残るとできるらしい。
「はーい! やりたい人お!」
透き通るような声に多くの子供達が「はい!」「はーい!」と我先に反応する姿が微笑ましいと水萌里が思ったのは一瞬で、隣に座る見た目十八歳の少年が目を輝かせて手をあげているのを見て慌ててその手をはたき落とした。
「どう見ても子どもたち用の企画でしょ。やめなさいっ!」
「ちぇ」
洋太は唇を尖らせて真守のビールに手を伸ばすがその手もはたき落とされた。
拗ねたふりをする洋太の頭を真守がナデナデしてその手を洋太にはたき落とされた。
「スイカ割りをやりたいなら、家でやってやるけどさあ。洋太は心眼で見えちゃうから意味ないと思うぞ」
叩かれた手をさする真守の言葉を理解できなかった洋太であったが、一人目の子供がぐるぐる回った後に数歩歩いてスイカの真ん中あたりにバットをヒットさせた様子を見て納得した。
「なんだ切るわけではないのか。心眼のない人間の子どもでは当てることも難しいというわけだな」
「そうよ。洋太が一回で粉々にしたら楽しくなくなっちゃうわ。それにバットでは何も切れません」
「いやいや簡単だぞ。切り口もスッパとしていた方が旨そうに見えると思うが?」
「「洋太だけしかできない」」
粉々どころか包丁で切ったかのように切れるといいきる洋太に二人は「まだまだ常識がずれているのだな」と溜息を吐いた。洋太はそれを尊敬と取ったのか、まんざらでもなさそうに笑った。
それからというもの楽しそうに子どもたちの様子を見ている洋太に水萌里は安堵していた。水萌里としてはここに洋太を連れてくるべきか悩んでいたのだが、二人が行ってみたいというので連れてきたのだ。
「こういうのもいいな」
「洋太は『まつり』の本来の趣旨に合わないことは気にしないの?」
祭とは本来神への感謝を表すものだと水萌里は考えていた。古来の祭はそういう趣旨であったのは間違いではない。だが近年では、市民の楽しみであったり、集客収益のためのものも存在し、水萌里がそれを否定することはない。だが、本当の神である洋太がどうとらえるのかは不安を持っている。
水萌里の質問の意図がわからず首を傾げる。
「だって、この集まりは神様に感謝しているわけじゃないでしょう」
「そんなことはないぞ。神々は自然に対して何らかの力を及ぼすことが多い。つまりは四季は神々の力ということだ。子どもたちが水鉄砲で遊んだり、あのプールに足を入れたり、こうして外で薄着で食事をしたり、大人たちが暑さでビールを旨いと感じたり。それらは夏という季節を楽しんでいる証拠じゃないか。ありがとうと感謝することだけが神を感じることではない。自然を感じそれを楽しむことも間接的に神を感じているということなんだ」
「ふっかいなぁ。なんだか洋太が神様に見えてきた……」
洋太が空いた紙コップの底で真守の頭をコツンと叩いくと、真守は嬉しそうに笑う。
「笑うというのは、テレビを見たり漫画を読んだり人と話をしたりしてもできる。だが、今ここで笑っている者たちは子どもであろうと大人であろうと心のどこかで夏を感受しているだろう」
「そうね」
二人は洋太のおかげでなんだか幸せな気分になった。
「季節だけじゃないぞ。海の恵みを感じることも大地の恵みを感じることも神を感じているのと同じだ。風を気持ちいいと思ったり、波を楽しいと思ったり、緑や花を美しいと感じるのも、な」
「まさに八百万に神は存在する、だな」
真守が残りのビールを一気に飲み干して立ち上がる。
三人は楽しそうな喧騒を背に感じながら帰宅の途についた。
「あら? そう言えば、さっきのお家って『Bar TAKU』を営んでいるご夫婦ってたまきさんが言っていたわ」
帰りの車の中で運転手の水萌里が言う。
「ええ!! 早く教えてよ。それなら、旦那さんともっと仲良くなってきたのに……。気軽な飲み屋を知りたかったんだよ……」
唇を尖らせた真守は決してカワイイことはない。
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石橋家のご家族様
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