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13 ミニトマトジュース
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「おおおお!!! これはあああ!!」
洋太がまるで眩しい太陽を見るかのように自分の目の前に手をかざした。
「おおげさねえ。今日でもうそんなリアクションを覚えてきたの? 随分と楽しそうな職場ね」
「うん! 陽気なやつらだった!」
漁師たちなので口は荒かったはずだが、元より一般的な話し方も学び途中の洋太には全く気にならなかったようだ。
洋太がその中の一本を手に取った。
「みも……母さんはよく俺が食したいものがわかったな」
真守と水萌里は目を丸くする。
「あ……まあ……なんだ。社長に親を呼び捨てにするなって言われたんだ」
持っているビンの中身と同じくらい顔を赤くする。水萌里は人差し指で自分の目尻を押さえた。真守がガバリと洋太の肩を抱く。
「で? 俺は?」
洋太は思わず顔をしかめてからジト目をした。
「真守はまだ真守だっ!」
フンと横を向く洋太におどけた泣き顔をする真守を見て、水萌里は泣き笑いした。その雰囲気を変えようと洋太が声を張る。
「飲もうぜ! いただきます!」
アルミ製の蓋をぐるりと回し口へ持っていく。が、ガッとビンを持った手を遠くにした。
「匂いが! 匂いがすげえ!」
洋太の目はキラキラとしている。
洋太がまだ飲んでもいないのに感動しているそれは水萌里がおひさまテラスからもらってきた「ローカルチャレンジャー」の広告にあった一期生が作っているというトマトジュースなのだ。
「石井ファームの【ミニトマトジュース】よ。販売店も限定されていてなかなかお目にかかれないんだから」
水萌里がふふふと自慢気にでも可愛らしく笑った。
石井ファームは様々な農法を取り入れ、ハウスの管理や株の管理などを行っている農家で、自家のミニトマトを【お日様えくぼ】と名付け販売している。その名前に相応しく、光合成にこだわり、ハウスでは温度湿度だけでなく遮光にも気を配り、葉の剪定までも日光を考えられている。
石井ファームが手間をかけて育てた野菜の規格【外】品で作ったミニトマトジュースなのである。規格品となんら手間は変わらない野菜だ。
洋太は尊いものをいただくかのように口へ慎重に持っていくとゴクリと喉を鳴らして一口飲む。そして固まった。
「どれ、俺も」
じれったいその様子にしびれを切らした真守がビンを開ける。
「わぉ! すっごいトマト臭」
「ちょっとぉ。二人とも「香り」って言ってくれる? 感動が半減しちゃう。言葉選びは大事よ」
「大丈夫だ。母さん。味がすべてを昇華させてくれる」
二人は洋太の言葉を信じて一口飲んだ。
「これは……トマトだな」
「すっごくトマトね」
真守がビンを動かして驚愕の仕草をした。
「原材料がトマトだって」
「他には?」
水萌里も裏ラベルを見た。
【原材料∶トマト】
どうやら塩も水も添加物も使っていない。
「美味いわけだぁ!」
洋太は喜んで再び飲み始めた。
「やっぱりあさピーの頭になるだけあって旭市のトマトは美味いんだよな」
真守もしみじみと言う。
「ミニトマトを何個使っているのかしら? ちょっちょっ! ストップ!」
二人が半分以上飲んだところで急いで止めたが、止められた二人が不服そうに見やる。
「実はね」
水萌里は再び冷蔵庫からビンを三本持って来た。
「じゃーーん!」
「「おおお!」」
「なんと! 期間限定の黄色のミニトマトジュースでーす!」
パチパチパチと二人は万感の賛辞をして、三人は赤いミニトマトジュースを残したまま黄色いミニトマトジュースを開けた。
「酸味は赤より弱めだな。甘さが際立つ」
「確かに美味いけど、俺は赤の方が好きだ。【トマトッ!】って感じがする」
二人がチョビチョビと飲み比べを始めた姿に水萌里は満足気に頷いていた。
真守が一口分しか飲んでいない黄色いミニトマトジュースの蓋を閉めた。
「あら? とっておきたくなるくらいお好みだったの?」
「まあね。これは夜のお楽しみだ」
鼻歌を歌いながら冷蔵庫にしまい……かけてキョロキョロとして戸棚の中にあった物を見つけるとそこへ行って何やら怪しく動く。
「これでよしっ! じゃかじゃーん!」
「せっこっ!」「あきれた……」
ビンには【まもる】とラベルにマジックで書かれていた。
「だって、洋太の様子は危ないじゃないか。俺のお愉しみなのに」
二人の反応に不貞腐れた真守であるが、二人は呆れに油を注がれただけだった。
「酒だな……」
「お酒ね……」
目を泳がせた真守は急いで黄色いミニトマトジュースを冷蔵庫へしまうとテーブルの上の残りを飲み干した。
「散歩してこよぉっと!」
二人は逃げるように出ていく真守に呆れのため息を吐いた。
「俺、風呂行ってくるわぁ」
「私はもう少しパソコン作業するわ」
大人としてそれぞれの時間に戻っていった。
この『石井ファーム』のミニトマトジュースは『旭市ふるさと納税返礼品』への登録も認められるほど『あさひ!』な商品である。
『石井ファーム』の妻さおりは次の構想もあるようなので、是非楽しみにしたい。
夜になると三人は再びダイニングキッチンに集まり、水萌里はお味噌汁を作っていた。
「そういえばさぁ。なんでそんな珍しいミニトマトジュースが買えたんだんだい?」
パソコンから目を離して真守が問いかけた。
「偶然売っているお店を知っていたのよ。洋太を迎える前に旭市の視察に来たの。真守さんは洋太が生まれる海岸線沿いをリサーチしてくれるだろうから、私は元干潟町っていう田園方面のリサーチに行ったのよ。干潟八万石方面ね」
『そうよ。リサーチなの。決してあわてて降りたら目的と違っていたわけでも、自然に戯れて楽しすぎて終わってしまったわけでもないわ』
ふふふんと自分に言い聞かせてお味噌汁を三つに分けていく。真守もパソコン机から椅子を動かしてダイニングテーブルに座り直し、洋太もテレビを消した。
☆☆☆
ご協力
石井ファーム様(ミニトマトジュースについて知りたい方は石井ファーム様のインスタをどうぞ)
洋太がまるで眩しい太陽を見るかのように自分の目の前に手をかざした。
「おおげさねえ。今日でもうそんなリアクションを覚えてきたの? 随分と楽しそうな職場ね」
「うん! 陽気なやつらだった!」
漁師たちなので口は荒かったはずだが、元より一般的な話し方も学び途中の洋太には全く気にならなかったようだ。
洋太がその中の一本を手に取った。
「みも……母さんはよく俺が食したいものがわかったな」
真守と水萌里は目を丸くする。
「あ……まあ……なんだ。社長に親を呼び捨てにするなって言われたんだ」
持っているビンの中身と同じくらい顔を赤くする。水萌里は人差し指で自分の目尻を押さえた。真守がガバリと洋太の肩を抱く。
「で? 俺は?」
洋太は思わず顔をしかめてからジト目をした。
「真守はまだ真守だっ!」
フンと横を向く洋太におどけた泣き顔をする真守を見て、水萌里は泣き笑いした。その雰囲気を変えようと洋太が声を張る。
「飲もうぜ! いただきます!」
アルミ製の蓋をぐるりと回し口へ持っていく。が、ガッとビンを持った手を遠くにした。
「匂いが! 匂いがすげえ!」
洋太の目はキラキラとしている。
洋太がまだ飲んでもいないのに感動しているそれは水萌里がおひさまテラスからもらってきた「ローカルチャレンジャー」の広告にあった一期生が作っているというトマトジュースなのだ。
「石井ファームの【ミニトマトジュース】よ。販売店も限定されていてなかなかお目にかかれないんだから」
水萌里がふふふと自慢気にでも可愛らしく笑った。
石井ファームは様々な農法を取り入れ、ハウスの管理や株の管理などを行っている農家で、自家のミニトマトを【お日様えくぼ】と名付け販売している。その名前に相応しく、光合成にこだわり、ハウスでは温度湿度だけでなく遮光にも気を配り、葉の剪定までも日光を考えられている。
石井ファームが手間をかけて育てた野菜の規格【外】品で作ったミニトマトジュースなのである。規格品となんら手間は変わらない野菜だ。
洋太は尊いものをいただくかのように口へ慎重に持っていくとゴクリと喉を鳴らして一口飲む。そして固まった。
「どれ、俺も」
じれったいその様子にしびれを切らした真守がビンを開ける。
「わぉ! すっごいトマト臭」
「ちょっとぉ。二人とも「香り」って言ってくれる? 感動が半減しちゃう。言葉選びは大事よ」
「大丈夫だ。母さん。味がすべてを昇華させてくれる」
二人は洋太の言葉を信じて一口飲んだ。
「これは……トマトだな」
「すっごくトマトね」
真守がビンを動かして驚愕の仕草をした。
「原材料がトマトだって」
「他には?」
水萌里も裏ラベルを見た。
【原材料∶トマト】
どうやら塩も水も添加物も使っていない。
「美味いわけだぁ!」
洋太は喜んで再び飲み始めた。
「やっぱりあさピーの頭になるだけあって旭市のトマトは美味いんだよな」
真守もしみじみと言う。
「ミニトマトを何個使っているのかしら? ちょっちょっ! ストップ!」
二人が半分以上飲んだところで急いで止めたが、止められた二人が不服そうに見やる。
「実はね」
水萌里は再び冷蔵庫からビンを三本持って来た。
「じゃーーん!」
「「おおお!」」
「なんと! 期間限定の黄色のミニトマトジュースでーす!」
パチパチパチと二人は万感の賛辞をして、三人は赤いミニトマトジュースを残したまま黄色いミニトマトジュースを開けた。
「酸味は赤より弱めだな。甘さが際立つ」
「確かに美味いけど、俺は赤の方が好きだ。【トマトッ!】って感じがする」
二人がチョビチョビと飲み比べを始めた姿に水萌里は満足気に頷いていた。
真守が一口分しか飲んでいない黄色いミニトマトジュースの蓋を閉めた。
「あら? とっておきたくなるくらいお好みだったの?」
「まあね。これは夜のお楽しみだ」
鼻歌を歌いながら冷蔵庫にしまい……かけてキョロキョロとして戸棚の中にあった物を見つけるとそこへ行って何やら怪しく動く。
「これでよしっ! じゃかじゃーん!」
「せっこっ!」「あきれた……」
ビンには【まもる】とラベルにマジックで書かれていた。
「だって、洋太の様子は危ないじゃないか。俺のお愉しみなのに」
二人の反応に不貞腐れた真守であるが、二人は呆れに油を注がれただけだった。
「酒だな……」
「お酒ね……」
目を泳がせた真守は急いで黄色いミニトマトジュースを冷蔵庫へしまうとテーブルの上の残りを飲み干した。
「散歩してこよぉっと!」
二人は逃げるように出ていく真守に呆れのため息を吐いた。
「俺、風呂行ってくるわぁ」
「私はもう少しパソコン作業するわ」
大人としてそれぞれの時間に戻っていった。
この『石井ファーム』のミニトマトジュースは『旭市ふるさと納税返礼品』への登録も認められるほど『あさひ!』な商品である。
『石井ファーム』の妻さおりは次の構想もあるようなので、是非楽しみにしたい。
夜になると三人は再びダイニングキッチンに集まり、水萌里はお味噌汁を作っていた。
「そういえばさぁ。なんでそんな珍しいミニトマトジュースが買えたんだんだい?」
パソコンから目を離して真守が問いかけた。
「偶然売っているお店を知っていたのよ。洋太を迎える前に旭市の視察に来たの。真守さんは洋太が生まれる海岸線沿いをリサーチしてくれるだろうから、私は元干潟町っていう田園方面のリサーチに行ったのよ。干潟八万石方面ね」
『そうよ。リサーチなの。決してあわてて降りたら目的と違っていたわけでも、自然に戯れて楽しすぎて終わってしまったわけでもないわ』
ふふふんと自分に言い聞かせてお味噌汁を三つに分けていく。真守もパソコン机から椅子を動かしてダイニングテーブルに座り直し、洋太もテレビを消した。
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ご協力
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