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8 おひさまテラス
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真守は職業斡旋コンサルタントを建前上の仕事にして洋太をサポートすることになっている。本職はデイトレーダーである。
真守が洋太の仕事先を見つけてくる間に、水萌里は洋太の言葉レッスンにと「おひさまテラス」へ連れてきた。
「おひさまテラス」とは令和四年にオープンしたイオンタウンの二階にある多目的スペースで、多世代交流施設となっている。
館内ではのんびりと本を読んだり、美味しいごはんを食べたり、料理やものづくりを楽しんだり、思い切り遊んでみたり、ダンスや音楽や仕事に打ち込んだりすることができるようになっている。
数千冊の蔵書に囲まれたオープンスペースでは、勉強や休憩、ほっと一息つくなど個々のペースで様々な過ごし方ができる。天候に関係なく遊べる室内公園も充実していて子どもたちがいつでも楽しそうに遊んでいた。
緩やかで心地よい喧騒と適度に休める空間についつい長居してしまう場所である。
有料のレンタルスペースも充実しているのだが、またそれは後ほど紹介する。
その気楽さからか、そこここで邪魔にならない程度で会話が弾んでいたりする。当然隣に迷惑をかけるほどではないが、抑えられた神力でも五感や勘の鋭さが残る洋太が会話を聞き取るには丁度よいくらいである。
「聞きたくないことも耳に入ってしまうの?」
初めて洋太の感覚の鋭さを聞いた水萌里は心配していたが、その声を拾おうとしなければ人並みの聴力だというのだから便利なものだ。
洋太は子どもたちの親子の会話や、学生同士の会話や、レンタルスペースでの真面目な会話を自分の理解を深めるようにと選んで聞いていく。
三日目には随分と普通の会話ができるようになっていて、真守と水萌里は安堵した。神々の中にはプライドが高く人と同様になることを好まない神もいるのだ。天照大御神様が選んだ洋太の姿は十八歳であるが、人に興味を持つその姿はもう少し幼い感じがする。
『放っておいても大丈夫そうね』
洋太が人間界に興味を持ち、積極的に学んでくれていることを確認した水萌里はおひさまテラス内を探索し始めた。クラフトルームやキッチンスタジオ、パーティールームもある。
『アパートや狭小住宅とかで人を招くことができない家もあるもの。これは便利ね』
カフェレストラン『Ready Made in Wonderland』のメニューを確認して、時計を見るとまだ昼食には早い。洋太に目をやると、テーブルに肘をついて目を瞑っている。喧騒に耳を傾けているのだろうが、はたから見れば瞑想状態である。
後で来ようと決めて歩みを進めた。受付カウンターを過ぎると催し物のパンフレットが目に入った。その一枚を手にとり、一読してから受付にいる職員に声をかけた。
その日の夕食が終わったタイミングで水萌里は二人の前に一枚のパンフレットを広げた。
「私、これに参加したいと思っているの」
そこには「Local Challenger」と書いてある。真守はそれを手に取り興味津々に見た。洋太は真守の手元を覗き込むが、さすがにまだ英語を含めた文字をスラスラと読むことはできない。
こんな方におすすめです
『新しいことにチャレンジしたい』
『旭市で楽しいことをしたい』
『切磋琢磨する仲間と出会いたい』
真守から見てもなかなかに魅力的なキャッチコピーが並ぶ。
「チャレンジってなんだ?」
「挑戦ってことよ」
「水萌里は何に挑戦するんだ?」
「挑戦より、これね」
水萌里の指先には『旭市で楽しいことをしたい』と書かれている。ほっほぉと洋太が感心したように頷いき、真守もにっこりと笑う。
「まだ、何がしたいと言えるほど、旭市を知らないもの。『出会い』も楽しみだわ」
「どこでやるの?」
「「おひさまテラス」よ。洋太と行ったときに見つけたの。係の方も親切にいろいろと教えてくれたわ」
「おっ! これはトマトジュースだな!」
広告を裏返した洋太はツヤツヤのトマトの前にビンのジュースが置かれた写真を指さした。洋太は「あさピー」の帽子となっているためすぐにトマトが大好きになり、毎朝かぶりついている。季節もちょうど夏であり、トマトが美味しい時期であることも大好きに拍車をかけていた。
「この方は一期生の方みたい。これをきっかけにトマトジュースを作り始めたのね。すごいわ。
こちらの方もそうかもしれない」
水萌里はシフォンケーキの写真の隣にある紹介文を読んで顔を綻ばせる。
「すごいな。プログラムが五つも用意されているのか」
「プログラムって?」
「ここでは『課題』って訳になるのかしら? 日本語になってしまっている英語って、逆に和訳が難しいわね。うふふ。
課題をやりながら楽しむってことがぴったりだと思う」
水萌里は洋太にも関心を持たれて嬉しくなっている。
「いいね。やってみて俺たちにも教えてよ」
「うん! あそこはいいところだからきっといいことができるぞ」
二人もすぐに賛成して、水萌里は満面の笑みになった。
☆☆☆
ご協力
おひさまテラス様(イオンタウン二階)
真守が洋太の仕事先を見つけてくる間に、水萌里は洋太の言葉レッスンにと「おひさまテラス」へ連れてきた。
「おひさまテラス」とは令和四年にオープンしたイオンタウンの二階にある多目的スペースで、多世代交流施設となっている。
館内ではのんびりと本を読んだり、美味しいごはんを食べたり、料理やものづくりを楽しんだり、思い切り遊んでみたり、ダンスや音楽や仕事に打ち込んだりすることができるようになっている。
数千冊の蔵書に囲まれたオープンスペースでは、勉強や休憩、ほっと一息つくなど個々のペースで様々な過ごし方ができる。天候に関係なく遊べる室内公園も充実していて子どもたちがいつでも楽しそうに遊んでいた。
緩やかで心地よい喧騒と適度に休める空間についつい長居してしまう場所である。
有料のレンタルスペースも充実しているのだが、またそれは後ほど紹介する。
その気楽さからか、そこここで邪魔にならない程度で会話が弾んでいたりする。当然隣に迷惑をかけるほどではないが、抑えられた神力でも五感や勘の鋭さが残る洋太が会話を聞き取るには丁度よいくらいである。
「聞きたくないことも耳に入ってしまうの?」
初めて洋太の感覚の鋭さを聞いた水萌里は心配していたが、その声を拾おうとしなければ人並みの聴力だというのだから便利なものだ。
洋太は子どもたちの親子の会話や、学生同士の会話や、レンタルスペースでの真面目な会話を自分の理解を深めるようにと選んで聞いていく。
三日目には随分と普通の会話ができるようになっていて、真守と水萌里は安堵した。神々の中にはプライドが高く人と同様になることを好まない神もいるのだ。天照大御神様が選んだ洋太の姿は十八歳であるが、人に興味を持つその姿はもう少し幼い感じがする。
『放っておいても大丈夫そうね』
洋太が人間界に興味を持ち、積極的に学んでくれていることを確認した水萌里はおひさまテラス内を探索し始めた。クラフトルームやキッチンスタジオ、パーティールームもある。
『アパートや狭小住宅とかで人を招くことができない家もあるもの。これは便利ね』
カフェレストラン『Ready Made in Wonderland』のメニューを確認して、時計を見るとまだ昼食には早い。洋太に目をやると、テーブルに肘をついて目を瞑っている。喧騒に耳を傾けているのだろうが、はたから見れば瞑想状態である。
後で来ようと決めて歩みを進めた。受付カウンターを過ぎると催し物のパンフレットが目に入った。その一枚を手にとり、一読してから受付にいる職員に声をかけた。
その日の夕食が終わったタイミングで水萌里は二人の前に一枚のパンフレットを広げた。
「私、これに参加したいと思っているの」
そこには「Local Challenger」と書いてある。真守はそれを手に取り興味津々に見た。洋太は真守の手元を覗き込むが、さすがにまだ英語を含めた文字をスラスラと読むことはできない。
こんな方におすすめです
『新しいことにチャレンジしたい』
『旭市で楽しいことをしたい』
『切磋琢磨する仲間と出会いたい』
真守から見てもなかなかに魅力的なキャッチコピーが並ぶ。
「チャレンジってなんだ?」
「挑戦ってことよ」
「水萌里は何に挑戦するんだ?」
「挑戦より、これね」
水萌里の指先には『旭市で楽しいことをしたい』と書かれている。ほっほぉと洋太が感心したように頷いき、真守もにっこりと笑う。
「まだ、何がしたいと言えるほど、旭市を知らないもの。『出会い』も楽しみだわ」
「どこでやるの?」
「「おひさまテラス」よ。洋太と行ったときに見つけたの。係の方も親切にいろいろと教えてくれたわ」
「おっ! これはトマトジュースだな!」
広告を裏返した洋太はツヤツヤのトマトの前にビンのジュースが置かれた写真を指さした。洋太は「あさピー」の帽子となっているためすぐにトマトが大好きになり、毎朝かぶりついている。季節もちょうど夏であり、トマトが美味しい時期であることも大好きに拍車をかけていた。
「この方は一期生の方みたい。これをきっかけにトマトジュースを作り始めたのね。すごいわ。
こちらの方もそうかもしれない」
水萌里はシフォンケーキの写真の隣にある紹介文を読んで顔を綻ばせる。
「すごいな。プログラムが五つも用意されているのか」
「プログラムって?」
「ここでは『課題』って訳になるのかしら? 日本語になってしまっている英語って、逆に和訳が難しいわね。うふふ。
課題をやりながら楽しむってことがぴったりだと思う」
水萌里は洋太にも関心を持たれて嬉しくなっている。
「いいね。やってみて俺たちにも教えてよ」
「うん! あそこはいいところだからきっといいことができるぞ」
二人もすぐに賛成して、水萌里は満面の笑みになった。
☆☆☆
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おひさまテラス様(イオンタウン二階)
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