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6 移住希望者ツアー
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真守は一つ咳払いをして電話を耳元に持っていった。
「移住のHPを見た者なんですけど」
「移住をお考えの方ですね。担当に替わりますのでお待ちください」
保留音になったかと思うとすぐに電話口に男性の声がした。
「お待たせしました! 移住サポート担当の江野です!」
相手のテンションの高さに真守は車の中でふふふと笑う。
「移住のHPを見て興味を持ちまして」
「ありがとうございます。旭の良さは見てもらわないとわかりにくいんですよ。よかったら、是非一度こちらに来ていただきたいんです」
「わかりました。では今日、今から行きます」
「は? はい? きょ、今日ですか?」
「はい。実はもうそちらに向かっておりまして」
「うわぁ。そうですかぁ。ちょっと待ってくださいねぇ」
『今日のスケジュールを確認して当然だよな。無理なら一泊すればいいか』
それはそれで楽しみだと真守は気楽に考えていた。
「お待たせしてすみません。今日ですね。何時頃こちらに来れそうですか?」
「え? いいんですか?」
自分が「今日」と指定しておいて受け入れられると驚いてしまう。
「ええ。大丈夫ですよぉ。今日は他の移住希望者さんの見学ツアーが入っていないんで」
明るい声が笑いを含ませて返って来た。
『見学ツアーか。是非行きたいな』
「たぶん、あと三十分くらいだと思うんですけど」
「わかりましたぁ。ここの場所わかりますかね?」
「ナビで行くので大丈夫だと思います」
「その建物の二階ですので! お持ちしてまぁす」
電話を切った真守のウキウキ気分は更にアップしていて、アクセルを踏みすぎないようにと自分に言い聞かせて発車した。
旭市観光物産協会で待っていた江野という職員は電話の通りまわりを元気にしそうな男であった。年齢は真守とさほど違いはないように見える。説明もそこそこに江野の運転する車に乗り込む。
「実は自分も旭市に来てまだ数ヶ月なんですよ。でも、とっても住みやすいですし、気候も穏やかですし、すごくオススメですよ。何より飯が旨いです!」
「飯って、白米って意味ですか?」
「それも込みです。だって、これ見てくださいよ」
そこには百八十度田んぼが果てしなく続く農道であった。
「ここは『干潟八万石』と言われる昔からの穀倉地帯です。すごい水田地帯でしょう。数年前に区画整理して道路も通りやすくなったし、水田も管理しやすくなったそうです」
「へえ。街ぐるみで田んぼを大切にしている感じがしますね」
江野の旭市の説明を聞きながら市内を回る。米に限らず美味いものだらけだと、何度も説明されるとそれだけでお腹がすきそうになってしまう。
その他、そこここにあるスーパーや大きな病院、充実した公共施設などの説明を受けていき、本当に住みやすいのだと思えた。
『まあ、俺にはここに『住まない』という選択肢はないんだけどね』
学校施設の説明まで始めた江野に真守は思わず笑ってしまった。
「うちの子は学校へ行くほど幼くないので大丈夫ですよ」
「でも、そのお子さんのお子さんが通うことになるかもいれないじゃないっすか」
「なるほど」
真守はふふふと顔が緩みっぱなしである。天照大御神様が真守を指名した時点で、新しい神様はそれなりの年齢の姿になるのだろうと真守には予想ができた。残念ながら神様が子供を産むことはないが、雰囲気を壊すこともないと、それ以上の否定はしなかった。
「どこか行きたいところはありますか?」
すでに飯岡地区も回っていて、天照大御神様が見せてくれた夢が飯岡灯台であることを真守は確認していた。
「飯岡の海岸線近くにいい物件があったら、見てみたいです」
「え? もう移住決定ですか?」
「はい。断る理由もありませんでしたし。実際過ごしやすそうだと思いましたから」
「ご家族に聞かなくていいんですか?」
「数件の物件情報を持って帰ります。それは見てもらいますよ」
急展開に江野が面食らっていた。
「田中さんはお車も持っていましたし、飯岡地区の住居で問題はないと思いますけど、奥様やお子さんは免許をお持ちですか?」
「妻は持っています。子供はこれからですけど大丈夫です」
「そうですね。坂道も無い街なんで若いなら自転車でも充分、生活には困らないです」
確かにぐるっと回ってきた地域で坂道だったのは飯岡灯台だけだった。
「では、事務所に戻りますので、不動産屋さんの場所をお教えするということでいいですかね?」
観光物産協会としては、物件のやり取りまではできないことはこれまでの引っ越しで真守もわかっていた。そのため、真守も不動産屋の目星は付けていたのだった。
「はい。それで大丈夫です」
その日の夕方、観光物産協会の事務所に不動産仮契約したことを真守が報告に行くと流石の江野も目が飛び出してしまうのではないかというほどに驚いていた。
☆☆☆
ご協力
旭市観光物産協会様
旭市移住サポートセンター様
★★★★★
明日もお楽しみに!
「移住のHPを見た者なんですけど」
「移住をお考えの方ですね。担当に替わりますのでお待ちください」
保留音になったかと思うとすぐに電話口に男性の声がした。
「お待たせしました! 移住サポート担当の江野です!」
相手のテンションの高さに真守は車の中でふふふと笑う。
「移住のHPを見て興味を持ちまして」
「ありがとうございます。旭の良さは見てもらわないとわかりにくいんですよ。よかったら、是非一度こちらに来ていただきたいんです」
「わかりました。では今日、今から行きます」
「は? はい? きょ、今日ですか?」
「はい。実はもうそちらに向かっておりまして」
「うわぁ。そうですかぁ。ちょっと待ってくださいねぇ」
『今日のスケジュールを確認して当然だよな。無理なら一泊すればいいか』
それはそれで楽しみだと真守は気楽に考えていた。
「お待たせしてすみません。今日ですね。何時頃こちらに来れそうですか?」
「え? いいんですか?」
自分が「今日」と指定しておいて受け入れられると驚いてしまう。
「ええ。大丈夫ですよぉ。今日は他の移住希望者さんの見学ツアーが入っていないんで」
明るい声が笑いを含ませて返って来た。
『見学ツアーか。是非行きたいな』
「たぶん、あと三十分くらいだと思うんですけど」
「わかりましたぁ。ここの場所わかりますかね?」
「ナビで行くので大丈夫だと思います」
「その建物の二階ですので! お持ちしてまぁす」
電話を切った真守のウキウキ気分は更にアップしていて、アクセルを踏みすぎないようにと自分に言い聞かせて発車した。
旭市観光物産協会で待っていた江野という職員は電話の通りまわりを元気にしそうな男であった。年齢は真守とさほど違いはないように見える。説明もそこそこに江野の運転する車に乗り込む。
「実は自分も旭市に来てまだ数ヶ月なんですよ。でも、とっても住みやすいですし、気候も穏やかですし、すごくオススメですよ。何より飯が旨いです!」
「飯って、白米って意味ですか?」
「それも込みです。だって、これ見てくださいよ」
そこには百八十度田んぼが果てしなく続く農道であった。
「ここは『干潟八万石』と言われる昔からの穀倉地帯です。すごい水田地帯でしょう。数年前に区画整理して道路も通りやすくなったし、水田も管理しやすくなったそうです」
「へえ。街ぐるみで田んぼを大切にしている感じがしますね」
江野の旭市の説明を聞きながら市内を回る。米に限らず美味いものだらけだと、何度も説明されるとそれだけでお腹がすきそうになってしまう。
その他、そこここにあるスーパーや大きな病院、充実した公共施設などの説明を受けていき、本当に住みやすいのだと思えた。
『まあ、俺にはここに『住まない』という選択肢はないんだけどね』
学校施設の説明まで始めた江野に真守は思わず笑ってしまった。
「うちの子は学校へ行くほど幼くないので大丈夫ですよ」
「でも、そのお子さんのお子さんが通うことになるかもいれないじゃないっすか」
「なるほど」
真守はふふふと顔が緩みっぱなしである。天照大御神様が真守を指名した時点で、新しい神様はそれなりの年齢の姿になるのだろうと真守には予想ができた。残念ながら神様が子供を産むことはないが、雰囲気を壊すこともないと、それ以上の否定はしなかった。
「どこか行きたいところはありますか?」
すでに飯岡地区も回っていて、天照大御神様が見せてくれた夢が飯岡灯台であることを真守は確認していた。
「飯岡の海岸線近くにいい物件があったら、見てみたいです」
「え? もう移住決定ですか?」
「はい。断る理由もありませんでしたし。実際過ごしやすそうだと思いましたから」
「ご家族に聞かなくていいんですか?」
「数件の物件情報を持って帰ります。それは見てもらいますよ」
急展開に江野が面食らっていた。
「田中さんはお車も持っていましたし、飯岡地区の住居で問題はないと思いますけど、奥様やお子さんは免許をお持ちですか?」
「妻は持っています。子供はこれからですけど大丈夫です」
「そうですね。坂道も無い街なんで若いなら自転車でも充分、生活には困らないです」
確かにぐるっと回ってきた地域で坂道だったのは飯岡灯台だけだった。
「では、事務所に戻りますので、不動産屋さんの場所をお教えするということでいいですかね?」
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「はい。それで大丈夫です」
その日の夕方、観光物産協会の事務所に不動産仮契約したことを真守が報告に行くと流石の江野も目が飛び出してしまうのではないかというほどに驚いていた。
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