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22 王子殿下

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 王家の面々が、椅子に座った。
 文官が国王陛下に招待客の紹介を始める。これは、入場と逆で、エリオたちからだ。

「ピッツォーネ王国からお越しいただきました、ピッツォーネ王家エリージオ第三王子殿下。お連れ様は、ティエポロ侯爵家ベルティナ様でございます。お付きは、マーディア伯爵家イルミネ様でございます。
並びにピッツォーネ王国からお越しいただきました、ガットゥーゾ公爵家クレメンティ様、お連れ様はティエポロ侯爵家セリナージェ様でございます」

「新年おめでとうございます、国王陛下、王妃殿下、並びに王子殿下、王女殿下。今宵はご招待いただきまして、誠にありがとうございます」

 エリオとともに、5人で頭を下げる。

「よい、面を上げてくれ」

「はっ!国王陛下におかれましては、ご健勝であらせられるご様子。大変嬉しきことと存じます」

「うむ、学園の方はどうだ?」

「はい、大変勉強になっております」

「今日の様子だと、良い縁もあったようだの」

 ベルティナは、国王陛下の笑顔に、まさか国王陛下にまで知られているのか?と内心ドキドキした。

「はい。国王陛下のご理解をいただきまして、大変感謝をしております」

「あと、三月、学園生活を楽しまれよ」

「はっ!ありがとうございます」

 また5人で頭を下げ、今度はすぐに頭を上げて、横へと下がる。
 後ろには公爵家から伯爵家が並んでいる。国王陛下に挨拶できるのは、伯爵家までだ。後は特別に何かあったときに、挨拶できることもある。
 

 5人は舞台の手前の方の高位貴族が多くいるべき位置に立った。イルミネが、エリオに耳打ちする。

「ベルティナ、君の元両親もいらしている」

 当然のことなのに、ベルティナは肩を揺らしてしまった。

「なるべく僕と離れないでね。レストルームを使いたいときには、セリナと一緒に、近くまでイルミネも連れていくんだよ」

「はい」

 ベルティナは、少しだけ不安だったが、頑張って顔に出さないようにした。

「まだ、ご挨拶は続きます。休憩室を取りましたので、そちらへ」

 イルミネの先導で、休憩室へ向かった。

 

「やっぱり、緊張するねぇ!ハハハ」

 イルミネは、入室とともに、いつもの調子になった。5人でソファーテーブルにつく。メイドが飲み物を持って来てくれた。
 イルミネがまず口にして、頷く。毒味だろうか。

「シャンパンか。ベルティナ、セリナ、果実水でももらうかい?」

「私たちはこれで大丈夫よ。それより、エリオ、説明してくれる?」

 エリオは、隣に座るベルティナの手を握った。

 エリオは、シャンパンを一口飲み、ゆっくり話始めた。

「騙していたみたいになってごめんね。正直なところ、こんなに大切に思える女性と出会えるなんて思っていなかったんだ」

 エリオはいつものクセで頭に手をあてるが、整髪剤を触って、手を引っ込めた。本当は、照れ隠して頭をかきたかったのだろう。

「ふふふ、あ、ごめん、なんでもないわ」

 ベルティナは、エリオがやりたかったことを想像して、笑ってしまった。ベルティナには、余裕があるようだ。

「4月の頃のレムの様子を知っているだろう?公爵のレムでさえ、あんなだったんだよ。僕が王族だと知ったらどうなっていたか。
パッセラ子爵家はね、母上の実家なんだ」

 エリオはもしもの想像をして、苦笑いをした。みんなもその状況をよぉく知っているので、クスクスと笑いが出た。 

 エリオがベルティナの顔を見た。

「ベルティナは、薄々感づいていたよね」

 エリオが断定した。

「「「え?」」」

 3人は驚いていたが、ベルティナだけは、笑顔で返した。

「エリオは、私が気がついていることに気がついていたのね。ふふふ。
ええ気がついていたわ。3人の関係性がおかしいと思ったのよ。レムもイルも、時々、エリオを上の者として扱うから。最初は、レムとエリオの爵位を取り替えているのだと思ったのだけど、セリナとのことで、レムは本物の公爵家だとわかったでしょう。
だから、エリオは、侯爵様か公爵様、または大公様かなって。まさか、王子殿下までは想像しなかったわ」

 公爵同士でも、差がつくことはある。ベルティナのきちんとした説明に、エリオでさえびっくりしていた。

「わぉ!観察力はさすがだね。俺たちの演技もまだまだだな」

 今度はイルミネが頭をかきあげようとして、髪を触って手をおろした。

「僕は今は王子だけど、兄上が来年王太子になるのと同時に、公爵を賜ることになっている。後は、我が国には外交部がないからね。僕たちで外交部の基礎みたいなものを作ることになっていて、この留学は、その練習だ」

「レムが、『困らない地位はすでに約束されている』って、ロゼリンダ様に言っていたって、ベルティナから聞いたわ。その外交部のことなのね」

 セリナージェがクレメンティに聞いた。

「ああ、そうだよ。公爵家は継ぐけど、しばらくは領地経営は無理そうかな」

 クレメンティは、セリナージェの手を強く握った。

「休みの日などは、ここへ来て外交部の見学とか仕事の説明とかしてもらっていたんだ」

 イルミネは、軽食をつまみながら、答えた。

「国王陛下には、すごくよくしていただいてね、今回新年パーティーにも招待されたってわけ。二人がパートナーになってくれて、よかった」

 エリオもベルティナの手を強く握った。

「ところで、本当は何ヶ国語が、話せるの?」

 ベルティナの質問に、イルミネが、ギョッとした目でベルティナを見た。

「プハハ、ベルティナにかかると、それもわかっちゃうのか?僕はあと3ヶ国語だ」 

 エリオが、吹き出した。ベルティナの観察力の素晴らしさに感嘆も、していた。
 ピッツォーネ王国は、スピラリニ王国の他に3ヶ国と隣接している。

「僕はあと2ヶ国だ。北の言葉は、勉強中」

「俺はまだ北だけ。レムと反対周りで覚えていってるんだ」

 セリナージェは、小さく口を開いていた。

「で?ベルティナは?」

「私もイルと一緒。北だけよ」

 北の国は、スピラリニ王国とピッツォーネ王国、両国と隣接している国である。

「今のところは、だろ?」

 エリオが、ベルティナの心を読むようにウィンクした。

「そうね、そのつもりは、あるわ」

 ベルティナが笑顔で答えた。セリナージェが目を回しそうで、口をパクパクしている。

「あ、あのね、セリナ。もし、外交に同行することになっても、君が会うのは高官だけだから、大陸共通語で充分だよ」

 クレメンティは必死にセリナージェを説得しはじめた。言葉ができるできないで、フラレてはたまらない。クレメンティはそれほどセリナージェが好きだった。

「ブッ!ハーハッハ!レム、外交に同行するのは妻だけだぞ。恋人では、無理だよねぇ」

 イルミネがクレメンティをからかう。セリナージェは真っ赤になって、シャンパンを一気に煽った。炭酸が喉の刺激になりすぎて、セリナージェがむせて咳をし始めた。クレメンティは、慌ててセリナージェの背を擦る。
 エリオが、イルミネの頭を『コツン』と叩いた。

「ごっめーん」

 ベルティナだけが、クスクスと笑っていた。セリナージェの咳が落ち着いたのを見て、イルミネが立ち上がった。

「エリオ、僕たちは先に会場へ戻る。来賓ダンスは抜けられない。後で声かけるから」

「ああ、頼むよ」

 クレメンティがセリナージェの手をとって立ち上がる。3人が出ていった。

 エリオがメイドに、シャンパンのおかわりを頼んだ。二人でグラスを合わせた。

「違和感って、いつから?」

「春休みに王都の案内をしたでしょう。その時には、なんとなく、エリオが1番上位だろうって思っていたの。それなのに、学園での紹介はあなたが子爵家だと自己紹介するんだもの」

「なるほど、二人は僕の側近なんだ。イルは護衛でもある。ああ見えて強いんだよ」

「うん、それはすぐにわかったわ。イルは動きが騎士という感じよね」

 イルミネのことを思い出して、ベルティナは思わず笑った。

「そうか」

「3人が同等の爵位っていうなら、違和感はなかったかも。エリオが子爵っていうのは、無理があったわね。
それに、席順よ。あれでは、守られているのは、どう見てもレムでなく、エリオだわ」

 エリオの席順は、前はイルミネ、横は壁とクレメンティ、後ろはセリナージェだ。

「なるほどね。長期に身分を偽装するって、難しいんだね」

「そうね」

「ところで、ベルティナ。僕は本気だよ。学園を卒業したら、僕と一緒にピッツォーネ王国へ行ってほしい。そして、僕の妻になってほしいんだ」

 エリオは真剣な眼差しだった。ベルティナは正直とても嬉しかった。それでも、ベルティナには少しだけ不安があった。

「もしかして、そのために私は侯爵家の養子になったの?」

「それは違うよ!僕が、ベルティナが侯爵令嬢であることを知ったのは、あの丘で夕日を見てから一月も過ぎてからだよ。あの丘でのことに、嘘の気持ちはないよ」

「そうなのね。あの丘でのあなたを信じたいわ」

「僕も信じてほしいよ」

「あのね、もし、あの丘の前に告白されていたら、私、きっとお断りしていたわ」

「え?」

 エリオは、少しだけ顔を青くした。
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