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13 誤解
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教室の後ろの扉から、窓際の席に向かってベルティナが一歩歩き始めた。
その時、突然、右手首が掴まれた。ベルティナがゆっくりと振り返るとエリオだった。ベルティナは、何も目に入らない無機質な目でエリオを見ているようで見ていない。エリオは、そんなベルティナの表情を悲しげに見つめた。しかし、すぐにキリッと表情を変えた。
「イルミネ、僕とクレメンティとセリナージェとベルティナは、1、2時限目は休む。さらに、遅れるようなら臨機応変に頼んだよ。クレメンティ、お前は、僕と来るんだ」
そう言って、エリオはベルティナの手を繋ぎ直し、ずんずんと引っ張っていった。
「「は、はいっ!」」
クレメンティとイルミネは、数拍遅れて、気がついて返事をした。クレメンティは、急いでエリオを追う。
エリオがベルティナを引っ張ってきたのは、いつものランチの場所であった。
エリオがハンカチを取り出し、芝生に敷いてくれる。
「どうぞ」
笑顔で導くエリオに、ベルティナは素直にしたがった。
座った途端、ベルティナの目から涙が溢れた。ベルティナもセリナージェの気持ちを思うと、泣きたくてしかたなかったのだ。でも、セリナージェの隣で泣くわけにはいかない。
そう思って我慢していたが、エリオの優しさに耐えられなくなってしまった。エリオが、ベルティナの隣に座って、背中にふれていてくれた。エリオとクレメンティは、ベルティナが落ち着くまでジッと待っていた。
「何があったの?」
ベルティナが涙が止まった頃、エリオがベルティナの顔を覗き込んで優しく問いかけた。ベルティナは、エリオの顔を見てから、クレメンティの顔をチラリと見た。そして、すぐに視線を下に逸してしまう。そんなベルティナの態度に、クレメンティは首を傾げている。
「ベルティナ、今思っていることを、そのまま言ってごらん。バラバラでも、意味がわからなくても構わない。僕がきちんと君を導くよ」
エリオは微笑んだまま優しい口調で声をかけた。
「レム。ふ、ふぅ。セリナは今とても傷ついているわ。はっ、はぁ。だから、もう、セリナに近づくのはやめてほしいの。ふぅ」
下を向いたまま、一生懸命落ち着こうとしているベルティナは、大きく息を吐きながら、なんとか言葉を紡いだ。
「なっ!何を言ってるんだい、ベルティナ。昨日まで、僕たちを応援してくれていたんじゃないのかい?!」
ベルティナはクレメンティの大きな声にビクッとして、膝にあった手をギュッと握りしめ、肩を小さくした。
エリオは、興奮したクレメンティを手で制して、クレメンティに向かって小さく首を振った。そして、ベルティナの顔を覗き込むように姿勢を低くした。
「ねぇ、ベルティナ、レムを応援してくれていただろう?」
エリオの口調は、ゆっくりでどこまでも優しい。
「もちろんよ!もちろん、していたわ。でも、でも、それは、セリナが傷つかないことが大前提よ。私はレムよりセリナを優先するわ」
やっと、ベルティナが顔をあげて訴えた。エリオは、ベルティナと目が合ったことで、話がキチンとできそうだと判断した。
エリオは、ベルティナの背にあった手を少し上げて、ベルティナの頭を撫でた。
「それは、当然さ。君たちはまるで姉妹のように、家族のように、仲良しなのだから」
頭を撫でながら、優しく言葉が紡がれる。
「そうよ!でも私、私は、レムがこんなことをできる人だなんて、思わなかったの。それも知らずに応援していたなんて、私もレムと同罪だわ!私がセリナを傷つけたのよ!私が悪いの!」
ベルティナは、また下を向いて、頭を左右に何度も振り、自分を虐げた。
「ベルティナ!!そんな!僕が何をしたんだ?お願いだ。ちゃんと教えてくれっ!」
ベルティナはまたしも泣き出す。クレメンティは、何を言われているのかわからず慌てていて、ベルティナを急かす。
「ベルティナもクレメンティも落ち着いて」
エリオが2人の顔を優しい瞳で目尻を下げて交互に見つめた。
「ベルティナ、事態が正確にわかっていないときには、自分を責めてはいけないよ。君が一生懸命に取り組んでいることも、セリナを大切に思っていることも、僕たちはわかっている」
エリオがベルティナの頭をなでながら、もう片方の手はベルティナの手と重ね、顔を覗き込んだ。ベルティナはエリオと目が合うと落ち着くようで、手を裏返して、エリオの手をギュッと握った。
エリオは、クレメンティに向き直った。
「レム、こういう時に急ぐのはよくないよ。レムの不安な気持ちはわかる。だからこそ、ちゃんと把握できるようにしよう。な」
エリオは、ベルティナの手を握っていた手を、クレメンティの肩にそっとおいた。
クレメンティが目を伏せて、頷いた。
「ねぇ、ベルティナ。今日のこの事態には、ロゼリンダ嬢たちが絡んでいるんだね?でないと、あの席は考えられないよね?」
エリオは、ベルティナを導いていく。ベルティナは頷く。
「ベルティナ、ゆっくりでいいんだ。何があったのかを話してみて…」
ベルティナは、途切れ途切れに昨夜の話をした。セリナージェの気持ちを考えると涙が止まらず、うまく話せない。それでも、エリオとクレメンティは、辛抱強く聞いてくれた。
ベルティナが気がついたときには、クレメンティの顔は真っ赤で目には怒りが表れていた。
『ドン!』クレメンティが地面を拳で殴りつけた。
「レム、お前も落ち着いて、キチンとベルティナに説明したほうがいい。
いや、こうなったら、セリナも一緒に話をしよう。ベルティナ、寮の共同談話室にセリナを連れてきてくれるかい?」
ベルティナは頷いて、3人は寮へと戻ることにした。
〰️ 〰️ 〰️
ベルティナは、朝と打って変わって、セリナージェの部屋に入り込み、嫌がるセリナージェにフード付きのローブを被せ、無理やり部屋の外へと出した。そして、エリオとクレメンティが待つ、共同談話室へと、セリナージェを引っ張ってきた。
談話室に入るとクレメンティがこちらに来ようと立ち上がったが、エリオが押さえた。エリオたちが待つテーブルへと進み、セリナージェをクレメンティの隣へ座らせる。
「セリナ、大丈夫かい?レムから話があるから、聞いてほしい。何も言わなくていいからね」
エリオの言葉にセリナージェは、小さく頷く。フードを深く被っているので、顔は見えない。
「セリナ、嫌な思いをさせて済まない。実は、夏休みにティエポロ領から寮へ戻ってくると、ピッツォーネ王国の両親から手紙がきていたんだ。それには、僕とロゼリンダ嬢の婚約話が書かれていたよ」
セリナージェの肩が大きく揺れた。
「でも、両親からの手紙は、僕の気持ちを聞いてくれる内容だったんだよ。だから、僕はロゼリンダ嬢との婚約話を断ることと、好きな女性がいることを書いて両親にすぐに返信をした。ティエポロ領から戻ってすぐに書いたんだけど、まだ両親には届いてないかもしれないな。だけど、僕の両親は、僕の気持ちを無視して話を進めるような人たちじゃない。それに、僕の気持ちはもう決まっている」
エリオは立ち上がり、ベルティナの手をとり、離れたテーブルへ行った。クレメンティが椅子をセリナージェの近くに寄せ、背中を擦りながら、セリナージェの耳元で、話をしているのが見える。
「ベルティナ、よくセリナを連れてきてくれたね。大変だったろう?ありがとう」
エリオはベルティナの手を握ったまま、もう片方の手でベルティナの頭をナデナデして、ベルティナを優しく見つめた。
「え?あ、そうね」
ベルティナは、エリオのその暖かな両手の温度を全身で感じて、少しポッーとエリオを見つめて、考え事をしていた。
ベルティナは、朝には、一人ではできなかったことを、セリナージェにした自分に驚いていて、それをホワホワした、頭で考えていた。
「本当に助かったよ。レムから、両親の手紙については聞いていたんだ。はっきりしたことは何もないのに、君たちに伝わるなんて思ってなくて。後手にまわってしまってすまなかったね」
少し下を向いてそう説明するエリオの声をベルティナは上の空で聞いていた。だが、エリオの両手がベルティナの手をすっぽりと包んでいて、とても暖かくて、その暖かさだけは、鮮明に感じていた
『なぜあんな無茶ができたんだろう?……そうだ、私、エリオのことを信頼しているのだわ。エリオが連れてきてほしいと言うから、任せても大丈夫って思ったのだわ。エリオは、いつでも私を支えてくれているのだわ。この暖かな手を私は信じているわ』
そう思ったベルティナは、まるで当たり前のように言葉にしていた。
「私、エリオが好きみたい。あなたのことをとても信頼しているの」
2人の間に沈黙が流れる。
そして、先に我に返り、ベルティナの突然の告白に慌てたのはエリオであった。我に返ったのに、『アワアワ』としていて何も答えない。ベルティナは、そんなエリオを見て、告白してしまった自分にびっくりしてしまった。
「エ、エリオっ!友達としてってことよ。今日もセリナを助けてくれたし、頼りになるなぁって思って。あまり深く考えないで」
「あ、そうか。そうだよね。うん、わかった。ありがとう」
ベルティナは自分で友達だと言ったくせに、エリオにそれを認める発言をされて、心のどこかでがっかりしていた。その気持ちが何を表すのかは、考えることを、これまた心のどこかで拒否していた。
その時、突然、右手首が掴まれた。ベルティナがゆっくりと振り返るとエリオだった。ベルティナは、何も目に入らない無機質な目でエリオを見ているようで見ていない。エリオは、そんなベルティナの表情を悲しげに見つめた。しかし、すぐにキリッと表情を変えた。
「イルミネ、僕とクレメンティとセリナージェとベルティナは、1、2時限目は休む。さらに、遅れるようなら臨機応変に頼んだよ。クレメンティ、お前は、僕と来るんだ」
そう言って、エリオはベルティナの手を繋ぎ直し、ずんずんと引っ張っていった。
「「は、はいっ!」」
クレメンティとイルミネは、数拍遅れて、気がついて返事をした。クレメンティは、急いでエリオを追う。
エリオがベルティナを引っ張ってきたのは、いつものランチの場所であった。
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「どうぞ」
笑顔で導くエリオに、ベルティナは素直にしたがった。
座った途端、ベルティナの目から涙が溢れた。ベルティナもセリナージェの気持ちを思うと、泣きたくてしかたなかったのだ。でも、セリナージェの隣で泣くわけにはいかない。
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「何があったの?」
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「ベルティナ、今思っていることを、そのまま言ってごらん。バラバラでも、意味がわからなくても構わない。僕がきちんと君を導くよ」
エリオは微笑んだまま優しい口調で声をかけた。
「レム。ふ、ふぅ。セリナは今とても傷ついているわ。はっ、はぁ。だから、もう、セリナに近づくのはやめてほしいの。ふぅ」
下を向いたまま、一生懸命落ち着こうとしているベルティナは、大きく息を吐きながら、なんとか言葉を紡いだ。
「なっ!何を言ってるんだい、ベルティナ。昨日まで、僕たちを応援してくれていたんじゃないのかい?!」
ベルティナはクレメンティの大きな声にビクッとして、膝にあった手をギュッと握りしめ、肩を小さくした。
エリオは、興奮したクレメンティを手で制して、クレメンティに向かって小さく首を振った。そして、ベルティナの顔を覗き込むように姿勢を低くした。
「ねぇ、ベルティナ、レムを応援してくれていただろう?」
エリオの口調は、ゆっくりでどこまでも優しい。
「もちろんよ!もちろん、していたわ。でも、でも、それは、セリナが傷つかないことが大前提よ。私はレムよりセリナを優先するわ」
やっと、ベルティナが顔をあげて訴えた。エリオは、ベルティナと目が合ったことで、話がキチンとできそうだと判断した。
エリオは、ベルティナの背にあった手を少し上げて、ベルティナの頭を撫でた。
「それは、当然さ。君たちはまるで姉妹のように、家族のように、仲良しなのだから」
頭を撫でながら、優しく言葉が紡がれる。
「そうよ!でも私、私は、レムがこんなことをできる人だなんて、思わなかったの。それも知らずに応援していたなんて、私もレムと同罪だわ!私がセリナを傷つけたのよ!私が悪いの!」
ベルティナは、また下を向いて、頭を左右に何度も振り、自分を虐げた。
「ベルティナ!!そんな!僕が何をしたんだ?お願いだ。ちゃんと教えてくれっ!」
ベルティナはまたしも泣き出す。クレメンティは、何を言われているのかわからず慌てていて、ベルティナを急かす。
「ベルティナもクレメンティも落ち着いて」
エリオが2人の顔を優しい瞳で目尻を下げて交互に見つめた。
「ベルティナ、事態が正確にわかっていないときには、自分を責めてはいけないよ。君が一生懸命に取り組んでいることも、セリナを大切に思っていることも、僕たちはわかっている」
エリオがベルティナの頭をなでながら、もう片方の手はベルティナの手と重ね、顔を覗き込んだ。ベルティナはエリオと目が合うと落ち着くようで、手を裏返して、エリオの手をギュッと握った。
エリオは、クレメンティに向き直った。
「レム、こういう時に急ぐのはよくないよ。レムの不安な気持ちはわかる。だからこそ、ちゃんと把握できるようにしよう。な」
エリオは、ベルティナの手を握っていた手を、クレメンティの肩にそっとおいた。
クレメンティが目を伏せて、頷いた。
「ねぇ、ベルティナ。今日のこの事態には、ロゼリンダ嬢たちが絡んでいるんだね?でないと、あの席は考えられないよね?」
エリオは、ベルティナを導いていく。ベルティナは頷く。
「ベルティナ、ゆっくりでいいんだ。何があったのかを話してみて…」
ベルティナは、途切れ途切れに昨夜の話をした。セリナージェの気持ちを考えると涙が止まらず、うまく話せない。それでも、エリオとクレメンティは、辛抱強く聞いてくれた。
ベルティナが気がついたときには、クレメンティの顔は真っ赤で目には怒りが表れていた。
『ドン!』クレメンティが地面を拳で殴りつけた。
「レム、お前も落ち着いて、キチンとベルティナに説明したほうがいい。
いや、こうなったら、セリナも一緒に話をしよう。ベルティナ、寮の共同談話室にセリナを連れてきてくれるかい?」
ベルティナは頷いて、3人は寮へと戻ることにした。
〰️ 〰️ 〰️
ベルティナは、朝と打って変わって、セリナージェの部屋に入り込み、嫌がるセリナージェにフード付きのローブを被せ、無理やり部屋の外へと出した。そして、エリオとクレメンティが待つ、共同談話室へと、セリナージェを引っ張ってきた。
談話室に入るとクレメンティがこちらに来ようと立ち上がったが、エリオが押さえた。エリオたちが待つテーブルへと進み、セリナージェをクレメンティの隣へ座らせる。
「セリナ、大丈夫かい?レムから話があるから、聞いてほしい。何も言わなくていいからね」
エリオの言葉にセリナージェは、小さく頷く。フードを深く被っているので、顔は見えない。
「セリナ、嫌な思いをさせて済まない。実は、夏休みにティエポロ領から寮へ戻ってくると、ピッツォーネ王国の両親から手紙がきていたんだ。それには、僕とロゼリンダ嬢の婚約話が書かれていたよ」
セリナージェの肩が大きく揺れた。
「でも、両親からの手紙は、僕の気持ちを聞いてくれる内容だったんだよ。だから、僕はロゼリンダ嬢との婚約話を断ることと、好きな女性がいることを書いて両親にすぐに返信をした。ティエポロ領から戻ってすぐに書いたんだけど、まだ両親には届いてないかもしれないな。だけど、僕の両親は、僕の気持ちを無視して話を進めるような人たちじゃない。それに、僕の気持ちはもう決まっている」
エリオは立ち上がり、ベルティナの手をとり、離れたテーブルへ行った。クレメンティが椅子をセリナージェの近くに寄せ、背中を擦りながら、セリナージェの耳元で、話をしているのが見える。
「ベルティナ、よくセリナを連れてきてくれたね。大変だったろう?ありがとう」
エリオはベルティナの手を握ったまま、もう片方の手でベルティナの頭をナデナデして、ベルティナを優しく見つめた。
「え?あ、そうね」
ベルティナは、エリオのその暖かな両手の温度を全身で感じて、少しポッーとエリオを見つめて、考え事をしていた。
ベルティナは、朝には、一人ではできなかったことを、セリナージェにした自分に驚いていて、それをホワホワした、頭で考えていた。
「本当に助かったよ。レムから、両親の手紙については聞いていたんだ。はっきりしたことは何もないのに、君たちに伝わるなんて思ってなくて。後手にまわってしまってすまなかったね」
少し下を向いてそう説明するエリオの声をベルティナは上の空で聞いていた。だが、エリオの両手がベルティナの手をすっぽりと包んでいて、とても暖かくて、その暖かさだけは、鮮明に感じていた
『なぜあんな無茶ができたんだろう?……そうだ、私、エリオのことを信頼しているのだわ。エリオが連れてきてほしいと言うから、任せても大丈夫って思ったのだわ。エリオは、いつでも私を支えてくれているのだわ。この暖かな手を私は信じているわ』
そう思ったベルティナは、まるで当たり前のように言葉にしていた。
「私、エリオが好きみたい。あなたのことをとても信頼しているの」
2人の間に沈黙が流れる。
そして、先に我に返り、ベルティナの突然の告白に慌てたのはエリオであった。我に返ったのに、『アワアワ』としていて何も答えない。ベルティナは、そんなエリオを見て、告白してしまった自分にびっくりしてしまった。
「エ、エリオっ!友達としてってことよ。今日もセリナを助けてくれたし、頼りになるなぁって思って。あまり深く考えないで」
「あ、そうか。そうだよね。うん、わかった。ありがとう」
ベルティナは自分で友達だと言ったくせに、エリオにそれを認める発言をされて、心のどこかでがっかりしていた。その気持ちが何を表すのかは、考えることを、これまた心のどこかで拒否していた。
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