【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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57 母娘の旅路

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 馬車の中でお母さんがさっきの男の人について話しているけどあまり頭に入ってこなかった。でもあの男の人の話をするお母さんは今まで見たこともないくらい可愛らしくてびっくりした。

「おい、降りなっ!」

 馭者の一人が扉を開ける。お母さんは馬車を降りると怒鳴り出した。

「こんなとこに泊まれるわけないでしょっ! ここにはあなたたちが泊まりなさい。私たちをちゃんとした宿に連れて行って!」

 私はさっきの顔と正反対なお母さんが怖くて馬車を降りられない。

「ここに泊まるだけの銭しかもらってねぇよ」

 眉間に皺を寄せて一人の馭者が睨んでいたいてもう一人は道にツバを吐いていた。

「お金は私が払うわ。あなたたちはどうせ馬車で寝るつもりだったのでしょう? それよりはここの方がマシというものよ」

「あんたらが逃げたらたまんねぇ」

「ならこのお金で貴方たちが護衛を雇いなさいよ。そして私たちが逃げないように見張らせればいいでしょう」

 お母さんはお金を投げる。

 お母さんは二人をあざ笑うように見ていたがそれでも二人は納得したようで再び馬車に乗りこんだ。

「ふんっ! 王族に睨まれてこの国に居場所なんかないのにあいつらから逃げるわけないじゃない。馬車代金なしの宿代だけで隣国まで連れて行ってくれるなんてこっちは大儲け気分よ」

 お母さんは一人で楽しそうに笑っていた。
 先程よりずっといい宿へ泊まることになって私も嬉しかった。ワンピースや下着の入ったトランクを持って降りる。お母様は大きなバッグを手放さない。
 六日振りに湯浴みができたて髪はキシキシとしていたけど気持ちいい。フカフカのベッドへ飛び込むと夕食も食べずに眠った。

 久しぶりに気持ちのいい朝!

 しかしそれはすぐに終わってしまう。朝食が終わる頃には馭者たちが来た。

「急げよ。時間がねぇ」

 私たちは慌てて支度をしてまた汚い馬車に乗る。

「役人が雇った馬車だからこればっかりは変えられないわね。国境でバレちゃうもの」

 お母様は渋顔だったけれど気を取り直したようですぐに笑顔で話をしてくれた。

「ダリアナの力のことを考えたのよ。直に触ると詳しくわかるっていうのは確かだと思うのね」

 お母さんは真面目に話を進めていく。私は頷く。……しかできない。だって、難しいことはわからないもの。

「まさかダリアナが見た運命を拒否する人がいるなんて思わなかったわね。拒否できるのは私達だけじゃないなんてちょっと不便ね」
 
「きょひ?」

『ほらね、すぐにわからないお話にするんだから』

 私は泣きそうになった。

「ごめんごめん。拒否っていうのはそれを嫌がるってことよ。ボブバージルがダリアナが見た運命を嫌がったからこうなってしまったのよ」

「そうかもしれないわ」

 すごくよくわかった。ボブバージルが公爵になりたいって思ってくれればすべてが上手くいったのだ。ボブバージルを騙していたクラリッサが憎くてたまらない。

『今度マクナイト伯爵邸に戻ったらもっとちゃんと教えてあげなくちゃ!』

 私は強く決心した。

「ダリアナ、そんな顔をしないで。美しいことが私たちには大事なことなのよ」

 お母さんに叱られるくらいひどい顔をしていたらしい。

『最初に馭者へお金を渡した時の悪巧みの魔女の顔をしたお母さんみたいってことかも。気をつけなくっちゃ』

 あの時のお母さんの顔を思い出してチラリと見たことに気が付かないで話が進む。

「結婚のように長い期間のことをダリアナの力に頼るのは止めておきましょう。伯爵様も短い間だったけど、優しくしてくれていたのは間違いないのだから」

「うん」

「お別れのお金もたくさんくれたしね」

「え? お別れしたの?」

 私は少しの間だけガーリー伯父様の家にいるものだと思っていた。今はマクナイト伯爵様のご領地へ向かっていると思っていたのだ。

「そうよ。私たちはわけのわからない罪でこの国にいられなくなったのよ。だからお隣の国にあるのオルグレンの町に行くの。バリーの知り合いがいる町でよかったわ」

『オルグレンという町はお隣の国の町なのね。あの男の人に説明していたのは伯爵様のご領地ではないみたい』

 私は肩を落としてしまった。

「そこはどれくらい遠いの?」

「あと三日くらいで国境を越えられると思うわ」

「こっきょう?」

「この国の外に行くってことよ」

 私はもう私の王子様ボブバージル様に会えなくなるのだと初めてわかった。椅子に倒れ込んでしばらくそのまま寝てしまった。

 その日もキレイな宿に泊まった。夕食もちゃんと食べた。久しぶりに美味しい夕食だった。湯浴みをしてフカフカのベッドで眠った。
 そして、次の日もキレイな宿だった。

 お母様が毎日新しい生活でしたいことの話をするので私ももうボブバージルのことはどうでもよくなっていた。
 
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