【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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52 王都へ連行

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 バージルが父親公爵の書斎を出ると公爵とアレクシスは顔を近づけて小声になった。

「アレク、バージルの話をどう見る?」

「なんとも曖昧ですよね。とにかくそのダリアナとかいう娘のことは調べた方がよさそうですね」

 アレクシスは目を細めて思案している。

「そうだな。お前の死を予言か。いい気分にはならんな」

 公爵も眉根を寄せて不快感を表した。

「はい。
それにしても、バージルは公爵になれば伯爵を吸収できるって知らないみたいですね」

「ああ、ギャレット公爵家もマクナイト伯爵家も継げるということか。だがそれだと一時的にマクナイトの名前はなくなるしあまりいいことではない。いくら優秀でも離れた領地を統べることは難しいしな」

「そうですね」

「それにだ。バージルも私も家族はお前の死を誰も望んでいない。それはわかっているな」

 公爵は正面に座るアレクシスの肩を叩いた。

「もちろんです。バージルがクラリッサ嬢からもらった大切な辞書をかけてまで私の帰りを望んでくれたのはわかっていますよ。そこまで言われなかったら護衛たちに相談しなかったかもしれない。それだけバージルは私のことを考えてくれたってことですからね」

「そうだな。バージルはお前の優しい弟だ」

 二人の成長を思い公爵は目を瞑って懐かしんでいた。

「だからこそですよ、父上! バージルには下手な波にのまれてほしくない」

「そうだな。私もわざとバージルと第二王子を側に行かせないでいるのだが学園に入ればそうはいかない。バージルにもそろそろその辺りを説明していくべきなのかもしれんな」

「側室様のまわりはどうなのですか?」

「側室様よりそのご実家だな。権力がお好きなようだ」

 公爵は両手を広げてあきれているという表情をした。

「父上。僕はブランドンの側にいるのでわからないのですが、ブランドン第一王子とコンラッド第二王子ではどちらが優秀なのですか?」

「どちらも大変優秀であられるよ。だからこそ私は第一王子がお継ぎになることが順当であるし世の乱れも少なくなるのだと思う」

「父上もそう考えて臣下になられたのですか?」

「そうだな。兄上と私では得意分野が違っていたからな。『王様』らしいのは間違いなく兄上だったな」

「そう考えると側室様のご実家の心配よりまずは第二王子のお考えを聞いた方がいいかもしれませんよ」

「わかった。兄上にはそのように進言しよう」

 二人は遅くまで相談していた。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝、あの日クララを助けることを協力してくれた護衛が父上と兄上に呼ばれているところを見かけた。僕の言葉を裏付けるためだろう。父上と兄上は僕の言葉を信じてくれるがそうでない者もいるので何かのときのために裏付けすることはとても大切だ。

 十三歳の悪夢はこれで終わりになった。あれ以来、僕がダリアナ嬢に会うことはなかった。


〰 〰 〰

 私とエイダお母さんが子爵家の別宅で暮らして一月後、王都からの使者様という厳しい顔つきの騎士様が私たちに会いに来た。

「伯爵様が話し合いの場を持ちたいとのことです。一緒に来ていただきます」

「わかりました。支度をしてきます」

 別宅に戻ったお母さんはメイドに指示をして支度をはじめた。

「三日分のワンピースと一日分のドレスで充分よ。あとはここに置いていくわ」
  
 慌ただしく馬車に乗り込み出立する。馬車の中には騎士様が一人いて私とお母さんはお話もあまりできずつまらない旅だった。騎士様はピクリとも笑わない。

 騎士様たちと泊まった宿はマクナイト伯爵家からゲラティル子爵家まで帰るときに泊まった宿より小さくて汚かったからお母さんはずっと文句を言っていた。

 二日後に到着した王都ではマクナイト伯爵邸ではなくお城へ連れて来られた。久しぶりのお城にドキドキした。
 
『こんなんだったかな?』

 侯爵のお父様が生きていた時には時々来ていた場所だけど懐かしいような知らないところのような不思議な気分だった。

 お城に入るとすぐにお母さんと別々の部屋に入れられる。そこは小さな机が端に一つ真ん中に一つと椅子は端に一つ真ん中に二つあるだけの寂しい部屋だった。

「奥の椅子に座って」

 護衛さんの顔を見ると怖い目で口の端だけあげた笑顔の偽物だ。『座って』は私に言っているみたいだ。知らない人に命令されるのは嫌だったけど偽物笑顔が怖いから私は言われた席に座る。
 私が奥の椅子に座ると向かいの席と端の席に偽物笑顔の護衛さんが座った。その護衛さんは座ったと同時に表情が何もなくなっていた。

『偽物笑顔の方がマシだわ』

 私は震えてしまった。

「嘘をつくと後で君が困ることになるから正直に答えてね」

 また偽物笑顔になった。

『私が嘘をつくの?』

 不愉快に思ったけどたぶん私に言っているみたいだから一応頷く。
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