52 / 61
52 王都へ連行
しおりを挟む
バージルが父親公爵の書斎を出ると公爵とアレクシスは顔を近づけて小声になった。
「アレク、バージルの話をどう見る?」
「なんとも曖昧ですよね。とにかくそのダリアナとかいう娘のことは調べた方がよさそうですね」
アレクシスは目を細めて思案している。
「そうだな。お前の死を予言か。いい気分にはならんな」
公爵も眉根を寄せて不快感を表した。
「はい。
それにしても、バージルは公爵になれば伯爵を吸収できるって知らないみたいですね」
「ああ、ギャレット公爵家もマクナイト伯爵家も継げるということか。だがそれだと一時的にマクナイトの名前はなくなるしあまりいいことではない。いくら優秀でも離れた領地を統べることは難しいしな」
「そうですね」
「それにだ。バージルも私も家族はお前の死を誰も望んでいない。それはわかっているな」
公爵は正面に座るアレクシスの肩を叩いた。
「もちろんです。バージルがクラリッサ嬢からもらった大切な辞書をかけてまで私の帰りを望んでくれたのはわかっていますよ。そこまで言われなかったら護衛たちに相談しなかったかもしれない。それだけバージルは私のことを考えてくれたってことですからね」
「そうだな。バージルはお前の優しい弟だ」
二人の成長を思い公爵は目を瞑って懐かしんでいた。
「だからこそですよ、父上! バージルには下手な波にのまれてほしくない」
「そうだな。私もわざとバージルと第二王子を側に行かせないでいるのだが学園に入ればそうはいかない。バージルにもそろそろその辺りを説明していくべきなのかもしれんな」
「側室様のまわりはどうなのですか?」
「側室様よりそのご実家だな。権力がお好きなようだ」
公爵は両手を広げてあきれているという表情をした。
「父上。僕はブランドンの側にいるのでわからないのですが、ブランドン第一王子とコンラッド第二王子ではどちらが優秀なのですか?」
「どちらも大変優秀であられるよ。だからこそ私は第一王子がお継ぎになることが順当であるし世の乱れも少なくなるのだと思う」
「父上もそう考えて臣下になられたのですか?」
「そうだな。兄上と私では得意分野が違っていたからな。『王様』らしいのは間違いなく兄上だったな」
「そう考えると側室様のご実家の心配よりまずは第二王子のお考えを聞いた方がいいかもしれませんよ」
「わかった。兄上にはそのように進言しよう」
二人は遅くまで相談していた。
〰️ 〰️ 〰️
翌朝、あの日クララを助けることを協力してくれた護衛が父上と兄上に呼ばれているところを見かけた。僕の言葉を裏付けるためだろう。父上と兄上は僕の言葉を信じてくれるがそうでない者もいるので何かのときのために裏付けすることはとても大切だ。
十三歳の悪夢はこれで終わりになった。あれ以来、僕がダリアナ嬢に会うことはなかった。
〰 〰 〰
私とエイダお母さんが子爵家の別宅で暮らして一月後、王都からの使者様という厳しい顔つきの騎士様が私たちに会いに来た。
「伯爵様が話し合いの場を持ちたいとのことです。一緒に来ていただきます」
「わかりました。支度をしてきます」
別宅に戻ったお母さんはメイドに指示をして支度をはじめた。
「三日分のワンピースと一日分のドレスで充分よ。あとはここに置いていくわ」
慌ただしく馬車に乗り込み出立する。馬車の中には騎士様が一人いて私とお母さんはお話もあまりできずつまらない旅だった。騎士様はピクリとも笑わない。
騎士様たちと泊まった宿はマクナイト伯爵家からゲラティル子爵家まで帰るときに泊まった宿より小さくて汚かったからお母さんはずっと文句を言っていた。
二日後に到着した王都ではマクナイト伯爵邸ではなくお城へ連れて来られた。久しぶりのお城にドキドキした。
『こんなんだったかな?』
侯爵のお父様が生きていた時には時々来ていた場所だけど懐かしいような知らないところのような不思議な気分だった。
お城に入るとすぐにお母さんと別々の部屋に入れられる。そこは小さな机が端に一つ真ん中に一つと椅子は端に一つ真ん中に二つあるだけの寂しい部屋だった。
「奥の椅子に座って」
護衛さんの顔を見ると怖い目で口の端だけあげた笑顔の偽物だ。『座って』は私に言っているみたいだ。知らない人に命令されるのは嫌だったけど偽物笑顔が怖いから私は言われた席に座る。
私が奥の椅子に座ると向かいの席と端の席に偽物笑顔の護衛さんが座った。その護衛さんは座ったと同時に表情が何もなくなっていた。
『偽物笑顔の方がマシだわ』
私は震えてしまった。
「嘘をつくと後で君が困ることになるから正直に答えてね」
また偽物笑顔になった。
『私が嘘をつくの?』
不愉快に思ったけどたぶん私に言っているみたいだから一応頷く。
「アレク、バージルの話をどう見る?」
「なんとも曖昧ですよね。とにかくそのダリアナとかいう娘のことは調べた方がよさそうですね」
アレクシスは目を細めて思案している。
「そうだな。お前の死を予言か。いい気分にはならんな」
公爵も眉根を寄せて不快感を表した。
「はい。
それにしても、バージルは公爵になれば伯爵を吸収できるって知らないみたいですね」
「ああ、ギャレット公爵家もマクナイト伯爵家も継げるということか。だがそれだと一時的にマクナイトの名前はなくなるしあまりいいことではない。いくら優秀でも離れた領地を統べることは難しいしな」
「そうですね」
「それにだ。バージルも私も家族はお前の死を誰も望んでいない。それはわかっているな」
公爵は正面に座るアレクシスの肩を叩いた。
「もちろんです。バージルがクラリッサ嬢からもらった大切な辞書をかけてまで私の帰りを望んでくれたのはわかっていますよ。そこまで言われなかったら護衛たちに相談しなかったかもしれない。それだけバージルは私のことを考えてくれたってことですからね」
「そうだな。バージルはお前の優しい弟だ」
二人の成長を思い公爵は目を瞑って懐かしんでいた。
「だからこそですよ、父上! バージルには下手な波にのまれてほしくない」
「そうだな。私もわざとバージルと第二王子を側に行かせないでいるのだが学園に入ればそうはいかない。バージルにもそろそろその辺りを説明していくべきなのかもしれんな」
「側室様のまわりはどうなのですか?」
「側室様よりそのご実家だな。権力がお好きなようだ」
公爵は両手を広げてあきれているという表情をした。
「父上。僕はブランドンの側にいるのでわからないのですが、ブランドン第一王子とコンラッド第二王子ではどちらが優秀なのですか?」
「どちらも大変優秀であられるよ。だからこそ私は第一王子がお継ぎになることが順当であるし世の乱れも少なくなるのだと思う」
「父上もそう考えて臣下になられたのですか?」
「そうだな。兄上と私では得意分野が違っていたからな。『王様』らしいのは間違いなく兄上だったな」
「そう考えると側室様のご実家の心配よりまずは第二王子のお考えを聞いた方がいいかもしれませんよ」
「わかった。兄上にはそのように進言しよう」
二人は遅くまで相談していた。
〰️ 〰️ 〰️
翌朝、あの日クララを助けることを協力してくれた護衛が父上と兄上に呼ばれているところを見かけた。僕の言葉を裏付けるためだろう。父上と兄上は僕の言葉を信じてくれるがそうでない者もいるので何かのときのために裏付けすることはとても大切だ。
十三歳の悪夢はこれで終わりになった。あれ以来、僕がダリアナ嬢に会うことはなかった。
〰 〰 〰
私とエイダお母さんが子爵家の別宅で暮らして一月後、王都からの使者様という厳しい顔つきの騎士様が私たちに会いに来た。
「伯爵様が話し合いの場を持ちたいとのことです。一緒に来ていただきます」
「わかりました。支度をしてきます」
別宅に戻ったお母さんはメイドに指示をして支度をはじめた。
「三日分のワンピースと一日分のドレスで充分よ。あとはここに置いていくわ」
慌ただしく馬車に乗り込み出立する。馬車の中には騎士様が一人いて私とお母さんはお話もあまりできずつまらない旅だった。騎士様はピクリとも笑わない。
騎士様たちと泊まった宿はマクナイト伯爵家からゲラティル子爵家まで帰るときに泊まった宿より小さくて汚かったからお母さんはずっと文句を言っていた。
二日後に到着した王都ではマクナイト伯爵邸ではなくお城へ連れて来られた。久しぶりのお城にドキドキした。
『こんなんだったかな?』
侯爵のお父様が生きていた時には時々来ていた場所だけど懐かしいような知らないところのような不思議な気分だった。
お城に入るとすぐにお母さんと別々の部屋に入れられる。そこは小さな机が端に一つ真ん中に一つと椅子は端に一つ真ん中に二つあるだけの寂しい部屋だった。
「奥の椅子に座って」
護衛さんの顔を見ると怖い目で口の端だけあげた笑顔の偽物だ。『座って』は私に言っているみたいだ。知らない人に命令されるのは嫌だったけど偽物笑顔が怖いから私は言われた席に座る。
私が奥の椅子に座ると向かいの席と端の席に偽物笑顔の護衛さんが座った。その護衛さんは座ったと同時に表情が何もなくなっていた。
『偽物笑顔の方がマシだわ』
私は震えてしまった。
「嘘をつくと後で君が困ることになるから正直に答えてね」
また偽物笑顔になった。
『私が嘘をつくの?』
不愉快に思ったけどたぶん私に言っているみたいだから一応頷く。
4
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる