49 / 61
49 兄の説得
しおりを挟む
父上にマクナイト伯爵邸でのことを報告したがダリアナ嬢が兄上について変なことを言っていたことについてはまだ言わなかった。
言えなかった…。僕の夢のことも言わなくちゃならなくなるかもしれないから…。
僕は家族に頭がおかしいと思われたくない……。
〰️ 〰️ 〰️
ギャレット公爵と夫人は応接室を出ていくボブバージルの背中を愛情こもる目で見送った。
「バージルもいつの間にか男の顔をするようになったな」
「ふふふ、そうですわね。好きな女の子の前でそうできるなんて頼もしいわ。昔の貴方みたいですわね」
「私が十三歳のときは、もう少し子供だったよ。なにせ、君と出会ったのは学園なのだから」
「そうですわね。そう思うと、バージルの手が離れてしまうのは早すぎて寂しいですわ。アレクシスだって、いつも婚約者のキャサリンさんのことばかりですのよ」
「ハハハ、そういうな。兄上が息子たちに代を譲ったら、二人で領地でのんびりしよう。君が大好きな薔薇をたくさん育てよう」
「まあ! ステキ! 楽しみにしておりますわね。ふふふ」
ボブバージルの帰還に安心した夫人の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
〰️ 〰️ 〰️
後日、クララの家も執事が戻り使用人たちも戻ってきて平穏な日常となった。なんと、出ていった使用人のほとんどが推薦状を持たせてもらえず職につけなかった者が多かった。今回はそれが功を奏しクララの家はすぐに元に戻ったが本来ならありえない話である。
もちろん料理長も戻った。僕が婿入りするのを楽しみに待っていると言っていた。
伯爵様が使用人たちに働いてなかった時の分の給料も払いそれを子爵家に請求して賠償してもらったという話は僕が大人になってから聞いた。これも、貴族の責任、貴族のシステムのようなものだそうだ。使用人は決して使い捨ての駒ではない。
僕は数日ダリアナ嬢の言葉と僕の夢について考えてそれらを隠しながらアレクシス兄上に護衛について相談するべきだと考えた。
僕が兄上の部屋を訪れると父上と同じ色の髪を持つ兄上が、僕より青みの強い紺色の目をこれでもかと細めて喜んで迎え入れてくれた。
僕を招き入れて前を歩く姿は精悍で母上似の黄緑と金色を混ぜた艷やかなグリーンゴールドの髪のサイドは耳の下までの長さだが後ろ髪を伸ばし今日も丁寧に三つ編みがされていた。
兄上と僕は顔立ちが似ていると言われるが三つ違いの年のせいかすごく大人に見える。
しばらく歓談の後に僕は本題を切り出した。
「兄上。来週、お祖父様の所へ伺うのは中止にできませんか?」
「なんだ? 何かあったのか?」
唐突な僕の話に兄上は目をキョトキョトさせて聞いてきた。
「いえ、そういう訳ではないのですが……」
夢のこともダリアナ嬢のことも話したくないとなると説明がとても難しい。僕のわがままだと思ってほしいくらいだ。
「うーん、理由もなくは無理だな。ブランドンも一緒だからな。ブランドンが行くのは内密なのだがな」
「え!?」
僕はびっくりしてカチャリとカップの音をたててしまった。
ブランドンとはこの国の第一王子殿下のことだ。兄上とブランドン第一王子殿下は同い年で兄上は国王の側近という意味でも父上を継ぐ予定であのだ。
お祖父様とは前国王陛下である。すでにお祖母様は亡くなっていて離宮でお一人で暮らしている。長男同士のブランドン王子殿下とアレク兄上はお祖父様に小さい頃から可愛がられていてお祖父様が離宮へ行ってしまってからは年に数回会いに行っている。僕や一つ下の妹ティナヴェイラも時々はご一緒する。
今まではブランドン第一王子は一緒じゃなく兄上だけで行くことの方が多いのだと思っていたが実はそうではないのかもしれない。
「では、護衛の数を増やすことはできますか?」
「ブランドンが行くことが内密であるのだ。あまり大袈裟にはできないよ。それに王都からの街道は整備されているし然程遠くでもない。何度も行っているところだ心配はいらないよ」
兄上は大丈夫だとばかりに僕の肩を叩いた。
どうにか兄上に僕の心境をわかってもらうしかない僕は考えてきたことを言うことにした。僕にとっても決断のいることだ。
「兄上。もし、兄上が無事に戻ってきてくださったら兄上がほしがっていたあの辞書を差し上げます」
「え! 本当に?」
兄上が目を見開いて反応した。その隣国の言葉辞書は僕の宝物だけど兄上の命には変えられない。
「はい。あれはクララのお父上が手配してくれたものです。次はいつ手に入れるチャンスがあるか予想もつかないほどです。それを差し上げます!」
「なんか普通は逆じゃないのか? まあ、いいや。お前の気持ちはわかったよ。護衛たちに人数を増やせるか聞いてみよう。
だが、私が帰ってきて取られるって泣いたりするなよ。ハハハ」
兄上は茶目っ気たっぷりに僕にウインクまでしてみせたけど僕にはそれをうまく返せる余裕がなかった。
「兄上が無事に戻ってきてくだされば帰ってきてくれた嬉しさに本当に泣いてしまうかもしれませんね」
「大丈夫か、バージル? お前にそこまで心配されるのは初めてだぞ」
兄上は首を傾げていた。
言えなかった…。僕の夢のことも言わなくちゃならなくなるかもしれないから…。
僕は家族に頭がおかしいと思われたくない……。
〰️ 〰️ 〰️
ギャレット公爵と夫人は応接室を出ていくボブバージルの背中を愛情こもる目で見送った。
「バージルもいつの間にか男の顔をするようになったな」
「ふふふ、そうですわね。好きな女の子の前でそうできるなんて頼もしいわ。昔の貴方みたいですわね」
「私が十三歳のときは、もう少し子供だったよ。なにせ、君と出会ったのは学園なのだから」
「そうですわね。そう思うと、バージルの手が離れてしまうのは早すぎて寂しいですわ。アレクシスだって、いつも婚約者のキャサリンさんのことばかりですのよ」
「ハハハ、そういうな。兄上が息子たちに代を譲ったら、二人で領地でのんびりしよう。君が大好きな薔薇をたくさん育てよう」
「まあ! ステキ! 楽しみにしておりますわね。ふふふ」
ボブバージルの帰還に安心した夫人の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
〰️ 〰️ 〰️
後日、クララの家も執事が戻り使用人たちも戻ってきて平穏な日常となった。なんと、出ていった使用人のほとんどが推薦状を持たせてもらえず職につけなかった者が多かった。今回はそれが功を奏しクララの家はすぐに元に戻ったが本来ならありえない話である。
もちろん料理長も戻った。僕が婿入りするのを楽しみに待っていると言っていた。
伯爵様が使用人たちに働いてなかった時の分の給料も払いそれを子爵家に請求して賠償してもらったという話は僕が大人になってから聞いた。これも、貴族の責任、貴族のシステムのようなものだそうだ。使用人は決して使い捨ての駒ではない。
僕は数日ダリアナ嬢の言葉と僕の夢について考えてそれらを隠しながらアレクシス兄上に護衛について相談するべきだと考えた。
僕が兄上の部屋を訪れると父上と同じ色の髪を持つ兄上が、僕より青みの強い紺色の目をこれでもかと細めて喜んで迎え入れてくれた。
僕を招き入れて前を歩く姿は精悍で母上似の黄緑と金色を混ぜた艷やかなグリーンゴールドの髪のサイドは耳の下までの長さだが後ろ髪を伸ばし今日も丁寧に三つ編みがされていた。
兄上と僕は顔立ちが似ていると言われるが三つ違いの年のせいかすごく大人に見える。
しばらく歓談の後に僕は本題を切り出した。
「兄上。来週、お祖父様の所へ伺うのは中止にできませんか?」
「なんだ? 何かあったのか?」
唐突な僕の話に兄上は目をキョトキョトさせて聞いてきた。
「いえ、そういう訳ではないのですが……」
夢のこともダリアナ嬢のことも話したくないとなると説明がとても難しい。僕のわがままだと思ってほしいくらいだ。
「うーん、理由もなくは無理だな。ブランドンも一緒だからな。ブランドンが行くのは内密なのだがな」
「え!?」
僕はびっくりしてカチャリとカップの音をたててしまった。
ブランドンとはこの国の第一王子殿下のことだ。兄上とブランドン第一王子殿下は同い年で兄上は国王の側近という意味でも父上を継ぐ予定であのだ。
お祖父様とは前国王陛下である。すでにお祖母様は亡くなっていて離宮でお一人で暮らしている。長男同士のブランドン王子殿下とアレク兄上はお祖父様に小さい頃から可愛がられていてお祖父様が離宮へ行ってしまってからは年に数回会いに行っている。僕や一つ下の妹ティナヴェイラも時々はご一緒する。
今まではブランドン第一王子は一緒じゃなく兄上だけで行くことの方が多いのだと思っていたが実はそうではないのかもしれない。
「では、護衛の数を増やすことはできますか?」
「ブランドンが行くことが内密であるのだ。あまり大袈裟にはできないよ。それに王都からの街道は整備されているし然程遠くでもない。何度も行っているところだ心配はいらないよ」
兄上は大丈夫だとばかりに僕の肩を叩いた。
どうにか兄上に僕の心境をわかってもらうしかない僕は考えてきたことを言うことにした。僕にとっても決断のいることだ。
「兄上。もし、兄上が無事に戻ってきてくださったら兄上がほしがっていたあの辞書を差し上げます」
「え! 本当に?」
兄上が目を見開いて反応した。その隣国の言葉辞書は僕の宝物だけど兄上の命には変えられない。
「はい。あれはクララのお父上が手配してくれたものです。次はいつ手に入れるチャンスがあるか予想もつかないほどです。それを差し上げます!」
「なんか普通は逆じゃないのか? まあ、いいや。お前の気持ちはわかったよ。護衛たちに人数を増やせるか聞いてみよう。
だが、私が帰ってきて取られるって泣いたりするなよ。ハハハ」
兄上は茶目っ気たっぷりに僕にウインクまでしてみせたけど僕にはそれをうまく返せる余裕がなかった。
「兄上が無事に戻ってきてくだされば帰ってきてくれた嬉しさに本当に泣いてしまうかもしれませんね」
「大丈夫か、バージル? お前にそこまで心配されるのは初めてだぞ」
兄上は首を傾げていた。
1
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
狂った執事は転生令嬢を溺愛し過ぎて過保護です!!~身分の差わきまえなさい!~
無月公主
恋愛
転生した公爵令嬢ペルシカ・ハイドシュバルツは現代チートを駆使して幸せルートに進む予定が変態に目をつけられてしまいドンドン話が狂ってしまう。気がつけば変態執事に溺愛されている!?しかも超過保護!!
そんな状態から始まる学園生活!!いや無理でしょ!!(笑)
しかし、転生しているのはペルシカだけじゃなさそうだぞ!?
此方の作品は変態と公爵令嬢のとんでもない毎日をお送り致しております。
私は婚約破棄を回避するため王家直属「マルサ」を作って王国財政を握ることにしました
中七七三
ファンタジー
王立貴族学校卒業の年の夏――
私は自分が転生者であることに気づいた、というか思い出した。
王子と婚約している公爵令嬢であり、ご他聞に漏れず「悪役令嬢」というやつだった
このまま行くと卒業パーティで婚約破棄され破滅する。
私はそれを回避するため、王国の財政を握ることにした。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる