【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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46 貸金庫屋

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 朝になったらしい。まだ暗いのに無理やり起こされて着替えもしないままメイドに背を押されて玄関に行くと馬車に押し込まれた。昨晩はクラリッサお義姉様とボブバージルへの怒りのままドレスを脱がずに寝てしまっていたみたいでドレスが重かった。ヨロヨロと乗った馬車の冷たい椅子面に薄っすらと覚めた。

 反対側の椅子面に誰かがいるが暗くてよく見えない。

「眠いのならそのまま寝てていいわ」

 エイダお母様の声だったから私はホッとしてそのまま寝た。

「ダリアナ、起きなさい。ここで朝食にするわよ」

 お母様に起こされて馬車を降りると小さな茶店でサンドイッチを食べた。隣の荷物の馬車にはメイドが一人だけでメイドは外で馭者たちと食べている。
 食べ終わってからその店の部屋を借りてメイドに着替えをしてもらうとすぐにまた馬車へ戻る。

「お母様、どこへ行くの?」

「ゲラティル子爵領へ行くのよ。しばらく戻ることにしたの。結婚して半年も経つのにガーリーお兄様の家に顔を出していないでしょう」

 お母様のご様子は特にお変わりなく見えた。

「そうなのね。伯父様のお家までどれくらいかかるんだっけ?」

 私は子爵家らしい言葉にすることにした。この方がずっと楽だもの。

「宿に二回泊まるくらいよ」

 お母さんとの旅はお話も面白くて好きなの。
 私達は馬車に揺られて伯父様のお家へ向かった。
 
 三日目、知らない街にたどり着いた。

「ここはどこ?」

 私は馬車の窓から知らない街をキョロキョロと見た。前に住んでいたガーリー伯父様のお屋敷のある街よりはお店の数が少ない感じだ。

「子爵邸のある街の隣町よ。貴女はこの街は初めて来るのね」

「うん」

 街並みは似ているので私はすぐに見飽きてしまう。ボォっと外を見ていたら馬車が止まってお母さんが降りる用意をする。 

「ダリアナも来なさい」

 馬車を降りるといくつかのドアが並ぶ通り沿いだった。

「あれ? もう一台は?」

「先に子爵邸へ行かせたわ。荷解きがあるでしょう」

 お母さんがずんずんと歩くから私は一生懸命に追いかける。

 お母さんが止まったお店の前にはいかにも強そうな人が二人立っていてお母さんの顔を見てそのドアを開ける。その人たちには目もくれずお母さんがお店に入ろうとするから私は怖くてお母さんの袖を握って一緒に歩くようにした。
 中はお店というよりお義父様の執務室のような感じだ。

「エイダ様。いかがなさいましたか?」

 お店に入るとすぐに執務机に座る紳士がお母さんに親しげに話しかけてくる。その人の両脇にも強そうな人が二人立っていた。部屋の奥にも二人立っている。守られているように見えるからきっと店主さんなのだと思う。

「また預けたいものがあるの。出してもらえるかしら」

 お母さんは平然としているというより顔に表情がなくて私にはそれが怖い。

「畏まりました。それよりそちらの方は?」

 ニヤニヤとして私の顔を見る店主さんらしい人から隠れるようにお母さんの後ろに行く。

「私の娘よ」

「ほぉ。なるほど。
 ではこちらでお待ちください」

 店主さんらしい人は部屋の奥で立っていた人たちの間のドアの鍵を開けて中へと消えた。

「あの人はここの店主さんなの?」

 できるだけ小さな声でお母さんに聞いた。

「店主? まあそんなものね」

 そっけなく答えたお母さんと丸テーブルに並んで座り待っている間にはお母さんはお話もしてくれないしお顔もそのままだった。

 店主さんが肩幅ほどの大きさで鎖で縛られている箱を持って戻ってきた。お母さんがバッグから取り出した鍵で錠前を開けて鎖をはずし蓋を開けると指輪やネックレスが見えてびっくりした。
 お母さんはバッグの中からまた違う指輪やネックレスや金貨を出してその箱に入れていくとまた鎖と錠前をする。さっきの人が頷いて箱を持ち奥へと片付けに行った。

 帰ってきたその人にお母さんのお話が始まる。

「私の娘のダリアナよ。この子に限り鍵がなくともあの箱を受け取る権利を持たせるわ」

「わかりました。今、書類を作りますね」

 お母さんとは反対で常にニコニコしているこの店主さんもなんだか怖い。顔や体つきは周りに立つ人の方が怖いはずなのに。

 私は怖い顔の人に手のひらにインクを塗られて書類と言われた紙に手形を押させられた。それを紳士な怖い人がニコニコと確認した。

「ダリアナ。ここは大切な物を預かってくれるお店なの。私達の大切な物とはさっきの箱のことよ。あの箱についていた錠前の鍵は私とあの男しか持っていないわ。私にもしものことがあってお金が必要になったらここに来てあの箱の中身を使いなさい」

 お母さんの見たことのない真剣で怖い顔にコクンと頷いた。本当はよくわからなかったけどそうは言えなかった。
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