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43 マクナイト伯爵の憔悴
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朝食の後にクララとお茶をする。
「ジル、わたくしは何も知らないのよ。昨日もなぜかジルが隣にいてくださって。
そうだわっ! わたくしがここでジルと朝ごはんをいただいているなんて後でお義母様に怒られたりしないかしら?
ダリアナもここへ呼べばよかったわね。きっと怒っているわ」
クララが口に手を当ててドアの方から誰かが乗り込んで来るのではと警戒するように視線を送る。
僕はクララの手を握りこちらを向かせた。心配させないために満面の笑顔で答えた。
「それは、大丈夫だよ。クララと僕が朝食を一緒にいただくことは僕が伯爵様から頼まれたことだから」
クララがホッと小さなため息を吐いた。
『こんなことにまで怯えるなんて何をされてきたんだ?』
また心の奥底に怒りがユラユラする。しかしそれはクララには見せてはならない。
「そうなのね。それにしても今朝起きた時からお屋敷の中がすごく静かな気がするの。大丈夫かしら?」
優しいクララはメイド二人に視線を送り確認をする。メイド二人はニコニコとして頷いて『大丈夫だ』と伝えてきた。
「僕もわからないんだ。でも、昨日の伯爵様のご様子だとクララを一番大切にしてくれているよ。伯爵様にお任せしよう」
「ジルはお父様とお話しになったのね。
そうですわね。お父様にお任せするしかわたくしには何もできませんわね」
「違うよ。クララ。今君がすべきことは回復するように食事をしたりお散歩したり大好きな本を読んだりすることだよ。何もできないなんて言わないで」
クララは納得したようで下がっていた眉尻を戻して自分に向けてウンウンと頷いていた。
「旦那様は落ち着きましたら、お嬢様にはきちんとお話ししてくださいますよ」
「そうよね。今は待つわ」
「そろそろかな。僕は行ってくるね。帰りにはまたクララと会いたいんだけど来てもいい?」
僕は懇願するような顔をクララに向けた。
「ジ、ジルっ! も、もちろんですわ。待ってますね」
「うんっ! いってきます!」
僕は護衛一人にクララの部屋の前に残ってもらい一階の応接室へ向かった。
メイドに伴われて廊下へ出る。
「本当に静かだね」
「はい。今朝方日の出とともに半分ほどの使用人が出ていきましたので。
ですからボブバージル様や護衛様にはご迷惑をおかけすることもあるかもしれません。手が足りないもので申し訳ありません」
メイドが歩きながらも僕に頭を下げた。僕はそんなこと気にしてない。
「いや、原因の半分は僕だ。気にしなくていいよ」
「原因だなんてとんでもないことでございます。残った者はみなクラリッサお嬢様をお慕いしております。ですからボブバージル様には誰もが感謝しておりますわ」
メイドは困り顔の笑顔で僕への気持ちを伝えてきた。
「大したことはしてないよ」
メイドがノックをして応接室のドアをあける。僕が中に入るとすでに伯爵様はいらっしゃった。
「朝早くから悪いな。クララもキチンと朝食を食べたと聞いている。君のお陰だ、バージル。すまないな」
クララとは逆に昨日よりやつれてしまった伯爵様に僕はなんとも言えない気持ちになる。
「おはようございます、マクナイト伯爵様。僕は朝食をクララといただけて二人でおしゃべりしたのは久しぶりだったのでとても楽しかったです。伯爵家のお料理は美味しいですね」
『ギャレット公爵家で引き取った料理人の弟子らしいから美味しくて当たり前なのかもしれない。後で彼がうちにいることは説明しなくてはならないな』
僕は元料理長が戻ってくることは可能だろうと思い安堵した。
「そうか、後で料理人に伝えておこう。まあ、座ってくれ」
僕が伯爵様と向かい合って座ると伯爵様は小さなため息の後、話を始める。
「昨日は大変世話になったな。クララを助けてくれてありがとう」
伯爵様が僕に頭を下げた。
「止めてください。僕も無茶をしすぎました。今朝から邸内が変わった感じがして責任を感じています」
僕は両手の平を左右に振って謝らないでほしい意思を伝えた。
「いや、いい方向に変わったのだ。礼をいくら言っても足りないくらいだよ。それなのに昨日は礼も言えずに……。すまなかったな」
伯爵様が目を伏せた。昨日の伯爵様の心理状態がどんなものかは理解している。だって僕の気持ちを代理してくれると思って話したのだから。
「ジル、わたくしは何も知らないのよ。昨日もなぜかジルが隣にいてくださって。
そうだわっ! わたくしがここでジルと朝ごはんをいただいているなんて後でお義母様に怒られたりしないかしら?
ダリアナもここへ呼べばよかったわね。きっと怒っているわ」
クララが口に手を当ててドアの方から誰かが乗り込んで来るのではと警戒するように視線を送る。
僕はクララの手を握りこちらを向かせた。心配させないために満面の笑顔で答えた。
「それは、大丈夫だよ。クララと僕が朝食を一緒にいただくことは僕が伯爵様から頼まれたことだから」
クララがホッと小さなため息を吐いた。
『こんなことにまで怯えるなんて何をされてきたんだ?』
また心の奥底に怒りがユラユラする。しかしそれはクララには見せてはならない。
「そうなのね。それにしても今朝起きた時からお屋敷の中がすごく静かな気がするの。大丈夫かしら?」
優しいクララはメイド二人に視線を送り確認をする。メイド二人はニコニコとして頷いて『大丈夫だ』と伝えてきた。
「僕もわからないんだ。でも、昨日の伯爵様のご様子だとクララを一番大切にしてくれているよ。伯爵様にお任せしよう」
「ジルはお父様とお話しになったのね。
そうですわね。お父様にお任せするしかわたくしには何もできませんわね」
「違うよ。クララ。今君がすべきことは回復するように食事をしたりお散歩したり大好きな本を読んだりすることだよ。何もできないなんて言わないで」
クララは納得したようで下がっていた眉尻を戻して自分に向けてウンウンと頷いていた。
「旦那様は落ち着きましたら、お嬢様にはきちんとお話ししてくださいますよ」
「そうよね。今は待つわ」
「そろそろかな。僕は行ってくるね。帰りにはまたクララと会いたいんだけど来てもいい?」
僕は懇願するような顔をクララに向けた。
「ジ、ジルっ! も、もちろんですわ。待ってますね」
「うんっ! いってきます!」
僕は護衛一人にクララの部屋の前に残ってもらい一階の応接室へ向かった。
メイドに伴われて廊下へ出る。
「本当に静かだね」
「はい。今朝方日の出とともに半分ほどの使用人が出ていきましたので。
ですからボブバージル様や護衛様にはご迷惑をおかけすることもあるかもしれません。手が足りないもので申し訳ありません」
メイドが歩きながらも僕に頭を下げた。僕はそんなこと気にしてない。
「いや、原因の半分は僕だ。気にしなくていいよ」
「原因だなんてとんでもないことでございます。残った者はみなクラリッサお嬢様をお慕いしております。ですからボブバージル様には誰もが感謝しておりますわ」
メイドは困り顔の笑顔で僕への気持ちを伝えてきた。
「大したことはしてないよ」
メイドがノックをして応接室のドアをあける。僕が中に入るとすでに伯爵様はいらっしゃった。
「朝早くから悪いな。クララもキチンと朝食を食べたと聞いている。君のお陰だ、バージル。すまないな」
クララとは逆に昨日よりやつれてしまった伯爵様に僕はなんとも言えない気持ちになる。
「おはようございます、マクナイト伯爵様。僕は朝食をクララといただけて二人でおしゃべりしたのは久しぶりだったのでとても楽しかったです。伯爵家のお料理は美味しいですね」
『ギャレット公爵家で引き取った料理人の弟子らしいから美味しくて当たり前なのかもしれない。後で彼がうちにいることは説明しなくてはならないな』
僕は元料理長が戻ってくることは可能だろうと思い安堵した。
「そうか、後で料理人に伝えておこう。まあ、座ってくれ」
僕が伯爵様と向かい合って座ると伯爵様は小さなため息の後、話を始める。
「昨日は大変世話になったな。クララを助けてくれてありがとう」
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「止めてください。僕も無茶をしすぎました。今朝から邸内が変わった感じがして責任を感じています」
僕は両手の平を左右に振って謝らないでほしい意思を伝えた。
「いや、いい方向に変わったのだ。礼をいくら言っても足りないくらいだよ。それなのに昨日は礼も言えずに……。すまなかったな」
伯爵様が目を伏せた。昨日の伯爵様の心理状態がどんなものかは理解している。だって僕の気持ちを代理してくれると思って話したのだから。
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