【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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40 エイダの言い訳

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 旦那様がボブバージルと話をすると言って私達の部屋を出てから二刻がたった頃戻ってきた旦那様は酷い形相だった。
 私は少し劣勢だと感じた。

「クララを監禁していたとはどういうことだ?」

 旦那様は目を釣り上げたまま私に問う。

『そこからか!?』

 舌打ちしたくなったが言い訳はちゃんと考えてある。

「クラリッサは原因不明で体調を崩していたのよ。だからしかたなく誰も近づかせないようにしたの。ボブバージル様が帰ったらお医者様に診せる予定だったわ」
 
 これはボブバージルがクラリッサの部屋に入ったときから考えていたもっともらしい嘘だ。これを縋るような目をつけて演技すれば完璧。

「それならばバージルのことよりクララを医者に診せる方が先だろう!」

 普段から穏やかな旦那様は怒っていても声をあらげるわけではないが怒気は多少入っているようだ。私のしなだれに靡かないから涙を拭く演技も加えた。

「もちろんそうしようとしたわ。でも思っているより早くにボブバージル様が来てしまったのよ。そうしたらボブバージル様にクラリッサの部屋に入るなって言われて…。それもギャレット公爵家のお名前まで出されて『入るなっ』て言われたら私には逆らえないわ」

 旦那様が目を細めて訝しむ表情をする。でもまだ疑惑であり本当が何かはわかっていないようだ。本当は私が嘘なのだからこれで充分だ。ふふふ

「先日までバージルとクララが話をできないようにしていたのか?」

「何を言っているの? ボブバージル様がいらした時には最上のおもてなしをしていたわ」

 これは本当なのだから今度は私は訝しんだ顔になってしまう。

「最上のもてなしだと? それがバージルとダリアナを二人にさせることなのか?」

 旦那様の質問の意図がわからない。誰が考えても、ボブ様と一緒になるのはダリアナがいいに決まっている。

「そうよ。当たり前でしょう? ボブバージル様は十三歳とはいえ男なのよ。不細工なクラリッサより美しいダリアナがお相手した方がいいに決まっているではありませんか?」

『バチーン!』

 何が起きたかわからなかった。私は床に倒れ頬がヒリヒリとしていた。口の中にサビのような匂いが満ちた。

「それをっ! それをクララに言い続けたのかっ!」

 私は頬を左手で押さえたまま旦那様を見上げる。怒りを顕にしている旦那様が言いたいことがわからない。

「それ? 何のことを言っているの?」

「不細工などという言葉をクララに使ったのかと聞いているんだっ!」

 旦那様は目を血走らせたまま喚いた。

『こんなに声を荒げる人だったかしら?
それにしても当然の教育をしたのに何を怒っているのか本当にわからないわ』

 私には旦那様の言葉が理解できなかった。

「本人に真実をわからせることは大人の仕事だわ。それを知らないまま傲慢な女になってはどこにも嫁になんて行けないわよっ! 私は本当のことを教えてあげたのよ。あなたからクラリッサへは教えてあげられないことを、ねっ!」

「毎日、毎日、か……」

 旦那様は理解してきたようで大人しくなった。

「それが教育ということでしょう。一度言っただけで何でも理解できる人間なんていないのよ。だから毎日教えてあげたのよ」

 更に夜中にはメイドを枕元へ行かせて耳元で呟かせていた。
 
『ブサイクなクララは美しいジルには似合わない』
『ダリアナを虐めているような女は婚約破棄だ』
『美しくないのだから自分から身を引くべきだ』

 これも寝ている間の教育なのだが旦那様は誤解して解釈しそうなのでわざわざ口にしないでおくことにする。

「そうか。わかった」

 旦那様は目を閉じて息を一つ吐いた。

「君と私とは教育に関して考えに差があるようだ。一度離れよう。明日、日が昇ったら子爵家に帰りなさい。君たちにあげたものは持っていって構わない。
ただし、金輪際クララには近づくな。いいね」

『『一度離れよう』と言った直後に『金輪際近づくな』だと? どっちなんだってのっ!
『近づくな』が本音なんでしょうね。私はここで縋るような女ではないわよ。ダメなら次よ。バリーに会いたいし、ね』

 私は開き直った。今の旦那様に何を言っても無駄だろう。

「わかったわ。でも、手ぶらでは帰れないわ。お兄様はケチなのよ。ご存知でしょう?」

 私は立ち上がり顔を上げ高慢気味な態度に変えた。
 お兄様が私を嫁がせるときに多額の結納金をもらったことは知っている。こんな短期間の婚姻であってももらう物はもらわなきゃならない。

「ほぉ、それが本性か。ここにあるものでは足りないのか? 強欲な。
まあいい、大人しく出ていってくれるなら安いものだ。明日、馬車に乗った時に渡そう。ただし、日が昇って一刻たってもこの屋敷にいるようならば一握りの金も渡さない」

「わかったわ」

 部屋を出ていく旦那様の背中を見送ると急いで出ていく支度を始めた。
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