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37 マクナイト伯爵への説明
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「それで? 何があったんだ?」
マクナイト伯爵様は手の平を前で組み肘を膝に乗せて前屈みで僕の話に耳を傾けた。僕は背筋を伸ばししっかりと伯爵様の目を見る。
「伯爵様は、昨日、僕に『クラリッサに会いに来てほしい』と言われました。どなたに頼まれたのですか?」
「妻だ。クララはこのところ、どう見ても元気かったようで食事を共にすることも少なくなっていた。妻に原因を知っているか聞いたんだ。そうしたら、君に会えてないというではないか。確かに以前は君と話した本の話などをよくしてくれていたんだ。それに前妻が生きている頃は一緒に勉強もしていただろう? そろそろ二人に家庭教師を再開させようと思ってもいたんだよ。
だから、私が君に会いに行ったのだ」
やはりクララは今日僕が来ることは知らなかったのだ。それにしてもマクナイト伯爵夫人は都合よくクララの名前を使ったものだ。
「そうでしたか。僕は最近ではこちらにお邪魔してもクララと二人で話すことは全くできませんでした。それどころかクララは夫人の部屋に連れていかれて僕とダリアナ嬢は二人にされてばかりです」
「なに?」
伯爵様は片眉を上げて訝しむ。子供である僕を疑っているのか伯爵夫人を疑っているのかは定かではない。
「時には先触れを出したにも関わらずこの家にダリアナ嬢しかおらず、メイドたちも部屋から出てしまいダリアナ嬢と二人きりにされることもありました」
伯爵様が壁際に立つメイド二人に視線を移す。二人は戸惑っている。
「このお二人ではありませんよ。そのメイドが誰なのかは後で二人から聞いてください」
メイド二人がその者を知っていると首肯したのを見て伯爵様が目で頷いた。
「そうしよう」
伯爵様の視線がこちらに戻ったことを確認してさらに続ける。
「僕はそれが嫌でこちらに伺わなくなったのです。その代わりクララに我が家に来てもらう約束をしました。しかしその日に我が家へ来たのはダリアナ嬢でした。ダリアナ嬢にはクララの具合が悪いと聞かされました」
伯爵様は少し思い返すように宙を眺め訝しむ顔のまま答えた。
「確かに元気はなかったがそこまで具合の悪い日は記憶にない。医者を呼んだのなら私に報告があって然るべきだろう。そのような報告は受けていないぞ」
「そうでしたか。クララが病気でないのならそれはよかったです。しかし先程クララに聞いたらクララは僕が病気だと聞かされていたようです」
「どういうことだ?」
伯爵様は理解できないとばかりにソファーの背もたれに寄りかかり腕を前で組んで僕の話を待った。
「わかりません。ただ僕とクララは誰かの策略で会えなかったのではないかということです。
その日から僕はクララにたくさんの手紙を書いて我が家へ誘ったのですがクララからの返事はありませんでした。そのこともクララに聞いてみたらクララには届いていなかったようです」
「なぜだ?」
伯爵様は真相に辿りつけないことに少し苛立っているようだ。だが、僕としてもクララを守るためには最初からすべてをさらけ出すわけにはいかない。
「それも……わかりません。そういえば執事もメイドもずいぶん入れ替えたのですね」
「ん? メイドもか? 古くからいた者たちは引退したと聞いているが…」
急に話が変わったことに戸惑いつつも壁際の二人のメイドに伯爵が確認すると二人は頷いた。
「そうなのか。私の仕事は国立図書館の館長だから特に家内で秘書兼執事を必要としない。それで前妻の時も執事やメイドの採用は前妻がしていたのだ。古い者の中には前妻の実家からの者もいた。
前妻の選んだ使用人たちでは今の妻がやりづらいだろうと使用人の采配は自由にさせていたんだ。出てもらう使用人には推薦状を持たせるようにと伝えてな」
少し冷静になったような口調で伯爵様は説明してくれた。
「出ていった使用人のことは僕はわかりません。でも、公爵家からの手紙を握り潰せるなんてご当主様か執事か夫人しかいませんよね。僕の母上が僕の手紙をクラリッサ・マクナイト伯爵令嬢への正式な公爵家からのお誘いのお手紙だと判断してくださり僕の手紙には公爵家の封蝋がしてあったはずなのですが…」
伯爵様は公爵家の封蝋と聞きさすがに肩をゆらした。
マクナイト伯爵様は手の平を前で組み肘を膝に乗せて前屈みで僕の話に耳を傾けた。僕は背筋を伸ばししっかりと伯爵様の目を見る。
「伯爵様は、昨日、僕に『クラリッサに会いに来てほしい』と言われました。どなたに頼まれたのですか?」
「妻だ。クララはこのところ、どう見ても元気かったようで食事を共にすることも少なくなっていた。妻に原因を知っているか聞いたんだ。そうしたら、君に会えてないというではないか。確かに以前は君と話した本の話などをよくしてくれていたんだ。それに前妻が生きている頃は一緒に勉強もしていただろう? そろそろ二人に家庭教師を再開させようと思ってもいたんだよ。
だから、私が君に会いに行ったのだ」
やはりクララは今日僕が来ることは知らなかったのだ。それにしてもマクナイト伯爵夫人は都合よくクララの名前を使ったものだ。
「そうでしたか。僕は最近ではこちらにお邪魔してもクララと二人で話すことは全くできませんでした。それどころかクララは夫人の部屋に連れていかれて僕とダリアナ嬢は二人にされてばかりです」
「なに?」
伯爵様は片眉を上げて訝しむ。子供である僕を疑っているのか伯爵夫人を疑っているのかは定かではない。
「時には先触れを出したにも関わらずこの家にダリアナ嬢しかおらず、メイドたちも部屋から出てしまいダリアナ嬢と二人きりにされることもありました」
伯爵様が壁際に立つメイド二人に視線を移す。二人は戸惑っている。
「このお二人ではありませんよ。そのメイドが誰なのかは後で二人から聞いてください」
メイド二人がその者を知っていると首肯したのを見て伯爵様が目で頷いた。
「そうしよう」
伯爵様の視線がこちらに戻ったことを確認してさらに続ける。
「僕はそれが嫌でこちらに伺わなくなったのです。その代わりクララに我が家に来てもらう約束をしました。しかしその日に我が家へ来たのはダリアナ嬢でした。ダリアナ嬢にはクララの具合が悪いと聞かされました」
伯爵様は少し思い返すように宙を眺め訝しむ顔のまま答えた。
「確かに元気はなかったがそこまで具合の悪い日は記憶にない。医者を呼んだのなら私に報告があって然るべきだろう。そのような報告は受けていないぞ」
「そうでしたか。クララが病気でないのならそれはよかったです。しかし先程クララに聞いたらクララは僕が病気だと聞かされていたようです」
「どういうことだ?」
伯爵様は理解できないとばかりにソファーの背もたれに寄りかかり腕を前で組んで僕の話を待った。
「わかりません。ただ僕とクララは誰かの策略で会えなかったのではないかということです。
その日から僕はクララにたくさんの手紙を書いて我が家へ誘ったのですがクララからの返事はありませんでした。そのこともクララに聞いてみたらクララには届いていなかったようです」
「なぜだ?」
伯爵様は真相に辿りつけないことに少し苛立っているようだ。だが、僕としてもクララを守るためには最初からすべてをさらけ出すわけにはいかない。
「それも……わかりません。そういえば執事もメイドもずいぶん入れ替えたのですね」
「ん? メイドもか? 古くからいた者たちは引退したと聞いているが…」
急に話が変わったことに戸惑いつつも壁際の二人のメイドに伯爵が確認すると二人は頷いた。
「そうなのか。私の仕事は国立図書館の館長だから特に家内で秘書兼執事を必要としない。それで前妻の時も執事やメイドの採用は前妻がしていたのだ。古い者の中には前妻の実家からの者もいた。
前妻の選んだ使用人たちでは今の妻がやりづらいだろうと使用人の采配は自由にさせていたんだ。出てもらう使用人には推薦状を持たせるようにと伝えてな」
少し冷静になったような口調で伯爵様は説明してくれた。
「出ていった使用人のことは僕はわかりません。でも、公爵家からの手紙を握り潰せるなんてご当主様か執事か夫人しかいませんよね。僕の母上が僕の手紙をクラリッサ・マクナイト伯爵令嬢への正式な公爵家からのお誘いのお手紙だと判断してくださり僕の手紙には公爵家の封蝋がしてあったはずなのですが…」
伯爵様は公爵家の封蝋と聞きさすがに肩をゆらした。
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