【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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31 状況の探り聞き

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 僕たちが階段の近くで話している声が聞こえたのか階段より一番手前の部屋から誰かが出てきたので護衛が咄嗟に僕の前に立つ。
 出てきたのはダリアナ嬢だった。護衛はダリアナ嬢に対して少なからず敵意を見せる。母上から何かを聞いていたのか呼びに行ったメイドに聞いたのかはわからないがダリアナ嬢が味方でないという認識ははっきりと見てとれた。
 しかし、僕は護衛を止めた。

 それを僕との戦い開始の合図と勘違いしたのかダリアナ嬢は腕を前に組み片足を少し前にして斜めから僕を睨む。

「美しいわたくしがあなたを選んであげたのにあなたは何が不満なの?」

 せっかく止めた護衛がカチャリと嫌な音をさせるが僕はもう一度手で護衛を止めて冷静な声で話を始めた。

「君が美しいだって? ハッハッハっ! 冗談は止めてもらいたいな。君のような欲望を丸出しの女性を美しいなんて僕には思えないね。
ああ、安心してくれ。クララの可愛らしさも君にわかってもらおうとは思っていないよ」

 鼻で笑った僕の小馬鹿にした物言いにダリアナ嬢は苛つきを隠せない。

「はぁ? クラリッサが可愛らしいですって? あなた目が見えないの? あんな不細工が可愛らしいわけないじゃない!」

 僕はカッとなったが今は情報が大事なのでなんとか冷静に話をしようとした。

「もしかしてそれをクララに口にしたのかい?」

 僕の声は少し震えてしまったがそれを有利だと取ったのかダリアナ嬢は自慢げに答えた。

「そうよ。わたくしとお母様とでしっかりと教えてあげたのよ。とぉっても簡単だったわ。鏡の前に立つクラリッサの隣に並んで『不細工なのね』ってつぶやくだけ。 
フッハハハ! 最初こそ何を言われてるかわからなかったみたいだけどこの頃は私たちが側にいると鏡の前にも立たないわ。
あれが表に出るなんて伯爵家の恥だものちょうどよかった」

 ダリアナ嬢が当たり前のことをやったのだと言っているかのようにスラスラと自分たちがやってきた下等で低劣な話を声高に述べるのを見た僕は拳が震えるのを抑えようとしたが無理だった。いや、拳を震えさせることでなんとか意識を保っていられたのかもしれない。
 とにかくダリアナ嬢だけでなくマクナイト伯爵夫人もクララに暴言を吐いていたことはわかった。僕の夢ではダリアナ嬢の言葉しか出てこなかったからこの確認は必要だった。

「価値観の違いというのは恐ろしいね。とにかく僕は君には興味がないし今後近寄りたいとも思わないよ。今までもそう伝えてきたつもりだったけど君には態度で示しても通用しないようだ」

 暗に馬鹿にしたことは通じたようでダリアナ嬢はこめかみを引きつらせる。 

「だからこの際はっきり言わせてもらおう」

 僕はスーッと息を吸った。

「僕にこれ以上付き纏わないでくれ」

 僕の声が少し大きくなっってしまったのを受けてダリアナ嬢の声も甲高く大きくなった。

「ふんっ! 本当にバカな男ね。私と結婚すれば公爵になれたのにっ!」

 ダリアナ嬢が鼻を高々と上を向かせて横を向いたのは僕を小馬鹿にして返したつもりだろう。一人称が『わたくし』になったり『私』になったりと落ち着かないが一体どちらが本当のダリアナ嬢なのだろうか?
 
 ともかく僕は公爵など望んでいないから嫌味にもならないのだがそんなことに気が付かないほどダリアナ嬢自身が欲望に塗れているのかもしれない。
 しかし僕の意思がダリアナ嬢と一緒ではないことを伝えるべくさらにゆっくりとゆっくりと諭すように話した。

「君は一体何を言っているのかな?全く理解ができないよ。
僕はクララと一緒にここを継ぐんだよ。
あ~、そうだなぁ。その時君らにはここにいてほしくないから後で君たちを監禁できるような領地の屋敷を確認しておこう」

 僕はあえて『監禁』という言葉を選んだのだがこれにはダリアナ嬢は反応しなかった。今回のクララの監禁には関わっていないのかもしれない。
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