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11 ドレスを仕立てた人
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ダリアーナが思い出したように含み笑いをした。
「うふふ。でも、もしニーナ様が悪女でしてら、もっと早くに……していらしたでしょうぉ?」
「そうですね。ふふふふ」
「もちろんですわっ。ふふ」
ダリアーナがはっきりと口にしない『……』が何を示すのか。それを理解しているそばに控えるメイドたちは顔色は変えない。高位貴族のメイドとして、とてもできた使用人であるのだ。
フラールがふと二人の今日のドレスを見た。夜会でもないのでそれほど派手ではないが、ステキなドレスであり、そこここにこだわりが見える。
お互いにそれぞれのドレスを褒め合う。
「ニーナ様はドレスを贈られることにも抵抗がなかったようですわね」
「ご自分でご注文なされて請求書を彼らに送ることもできましたでしょうっ」
「ラルトン様にお聞きしましたところ、お三方で同時にお贈りし、どなたが一番センスが良いかをニーナ様に決めていただくというあの方々のイベントだったようですわぁ」
「「まあ! そうでしたの」」
「結果はどうだったのですかっ?」
「ラルトン様が選ばれたそうですわ」
「なるほど。マイゼル様とコンジュ様はラルトン様にお負けになったので、わたくしたちにおっしゃれなかったのですね」
「仕立て屋さんも悩んだでしょうねっ」
一人の女性に三人がそれぞれ贈るものを一つの店で作るなどありえない。
フラールとメリナは『可哀想に』と眉を下げた。
「仕立て屋さんは喜んでおいででしたよぉ。彼らは色を指定しただけでほぼ仕立て屋さんにお任せしたそうですわ。先日、仕立て屋さんに伺いましたところ、久しぶりに自由に作れたと笑顔でおっしゃっておられましたわぁ」
「確かに高位貴族のご令嬢は、パーティードレスは自分でデザインすることが当たり前になっておりますものねっ」
「つまり、たまたまラルトン様に渡されたデザインがお好みであったということですのね。
それはマイゼル様にはお伝えせずにおきますわ」
「わたくしもコンジュ様にはお伝えいたしませんわっ」
「なぜですのぉ?」
「「面倒ですもの……」」
二人の意見にダリアーナは苦笑いした。
「ラルトン様にはお伝えしたのですが、ラルトン様からお二人にお話しなさることはないとは思いますわ。勝ったことを否定されることはお望みにならないでしょうしぃ。ぷふふ」
ダリアーナは堪えられずに吹き出し、口元に手を握り当てている。二人もつられて笑っていた。
笑いが収まり、ゆっくりと茶菓子を口にして紅茶で流していく。
「ニーナ様は卒業式にはいらっしゃいませんでしたわねぇ。卒業は難しそうでしたけど、いかがなされましたのかしらぁ?」
ダリアーナは可愛らしく顎に手を当てて首を傾げた。
「ヘンリ男爵様が妾婚についての説明をなさったようですが、それまでと違う説明を受けて納得できなかったようですの。淑女教育として、女性専用の修道院で一ヶ月ほどお暮らしになるそうですわ。そろそろ男爵家へお戻りになったのではないかしら?」
フラールは思案顔でカレンダーを頭に浮かべた。
メリナが困ったというように肩を竦めて目を瞑った。ニーナの学園での姿が思い出される。
「まさかニーナ様が本気であるとは思いませんでしたものねっ」
メリナの感想にフラールもダリアーナも首肯する。
「それも第二夫人としての本気ですものねぇ。知識がおありにならなかったようですが、領民のために身を捧げるお心積もりは素晴らしいですわぁ」
「あのお三方のどなたかへの本気の恋でしたら結末は変わっていたのかもしれませんわね」
「そうですわねっ。……対処していたのではないですかっ?」
「「ですわよね(ねぇ)」」
素晴らしい笑顔で怖い話を否定しない三人に対して、またしても『……』が出たが押して測るべしと、メイドたちは涼しい顔を貫いている。
「わたくしたちも、高位貴族として育てられた身ですものぉ。『領民のために』婚約者との婚姻をせねばなりませんものねぇ。
それを遮るとおっしゃられればそれなりにしなくてはなりませんわぁ」
三人で頷き合い、ゆっくりとソーサーを持ち上げた。
「うふふ。でも、もしニーナ様が悪女でしてら、もっと早くに……していらしたでしょうぉ?」
「そうですね。ふふふふ」
「もちろんですわっ。ふふ」
ダリアーナがはっきりと口にしない『……』が何を示すのか。それを理解しているそばに控えるメイドたちは顔色は変えない。高位貴族のメイドとして、とてもできた使用人であるのだ。
フラールがふと二人の今日のドレスを見た。夜会でもないのでそれほど派手ではないが、ステキなドレスであり、そこここにこだわりが見える。
お互いにそれぞれのドレスを褒め合う。
「ニーナ様はドレスを贈られることにも抵抗がなかったようですわね」
「ご自分でご注文なされて請求書を彼らに送ることもできましたでしょうっ」
「ラルトン様にお聞きしましたところ、お三方で同時にお贈りし、どなたが一番センスが良いかをニーナ様に決めていただくというあの方々のイベントだったようですわぁ」
「「まあ! そうでしたの」」
「結果はどうだったのですかっ?」
「ラルトン様が選ばれたそうですわ」
「なるほど。マイゼル様とコンジュ様はラルトン様にお負けになったので、わたくしたちにおっしゃれなかったのですね」
「仕立て屋さんも悩んだでしょうねっ」
一人の女性に三人がそれぞれ贈るものを一つの店で作るなどありえない。
フラールとメリナは『可哀想に』と眉を下げた。
「仕立て屋さんは喜んでおいででしたよぉ。彼らは色を指定しただけでほぼ仕立て屋さんにお任せしたそうですわ。先日、仕立て屋さんに伺いましたところ、久しぶりに自由に作れたと笑顔でおっしゃっておられましたわぁ」
「確かに高位貴族のご令嬢は、パーティードレスは自分でデザインすることが当たり前になっておりますものねっ」
「つまり、たまたまラルトン様に渡されたデザインがお好みであったということですのね。
それはマイゼル様にはお伝えせずにおきますわ」
「わたくしもコンジュ様にはお伝えいたしませんわっ」
「なぜですのぉ?」
「「面倒ですもの……」」
二人の意見にダリアーナは苦笑いした。
「ラルトン様にはお伝えしたのですが、ラルトン様からお二人にお話しなさることはないとは思いますわ。勝ったことを否定されることはお望みにならないでしょうしぃ。ぷふふ」
ダリアーナは堪えられずに吹き出し、口元に手を握り当てている。二人もつられて笑っていた。
笑いが収まり、ゆっくりと茶菓子を口にして紅茶で流していく。
「ニーナ様は卒業式にはいらっしゃいませんでしたわねぇ。卒業は難しそうでしたけど、いかがなされましたのかしらぁ?」
ダリアーナは可愛らしく顎に手を当てて首を傾げた。
「ヘンリ男爵様が妾婚についての説明をなさったようですが、それまでと違う説明を受けて納得できなかったようですの。淑女教育として、女性専用の修道院で一ヶ月ほどお暮らしになるそうですわ。そろそろ男爵家へお戻りになったのではないかしら?」
フラールは思案顔でカレンダーを頭に浮かべた。
メリナが困ったというように肩を竦めて目を瞑った。ニーナの学園での姿が思い出される。
「まさかニーナ様が本気であるとは思いませんでしたものねっ」
メリナの感想にフラールもダリアーナも首肯する。
「それも第二夫人としての本気ですものねぇ。知識がおありにならなかったようですが、領民のために身を捧げるお心積もりは素晴らしいですわぁ」
「あのお三方のどなたかへの本気の恋でしたら結末は変わっていたのかもしれませんわね」
「そうですわねっ。……対処していたのではないですかっ?」
「「ですわよね(ねぇ)」」
素晴らしい笑顔で怖い話を否定しない三人に対して、またしても『……』が出たが押して測るべしと、メイドたちは涼しい顔を貫いている。
「わたくしたちも、高位貴族として育てられた身ですものぉ。『領民のために』婚約者との婚姻をせねばなりませんものねぇ。
それを遮るとおっしゃられればそれなりにしなくてはなりませんわぁ」
三人で頷き合い、ゆっくりとソーサーを持ち上げた。
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