【完結】小悪魔笑顔の令嬢は断罪した令息たちの奇妙な行動のわけを知りたい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
7 / 9

7 クッキーのお好みは?

しおりを挟む
 ライルは昼休みになるとビーレルと剣の稽古に行ってしまうことが多いので、そんな時はデミスは図書室へ行くことにしている。ユシャフは音楽室へ行っているようだ。

 昼休みの図書室に、ポーリィナはよく現れた。そして、デミスに気がつくと、天使の微笑みで会釈をする。いや、小悪魔笑顔である。

〰️ 

 ある日、昼食で四人が揃っている席に、ポーリィナがクッキーを焼いてきたと可愛らしいリボンをつけた紙袋を持ってきた。
 ライルはそれを受け取ると紙袋の上部をビリビリと破り、クッキーをその場で皿にあけた。

「ポーリィナはこれだけはうまいんだ。お前たちも食べるといい」

 ライルの傲慢な言い方と、贈られた物へのガサツな扱いに驚いたデミスは思わず、ポーリィナの様子を伺った。ポーリィナは戸惑う様子もなくニコニコとしていた。
 三人は王子のススメであるのでクッキーに手を伸ばした。それは本当に美味しいもので、ついついいくつも食べてしまった。

「俺は飽きるほど食べているからな。遠慮せずに食べてくれ」

 ライルはあくまでも高飛車で威張った様子であったが、ポーリィナはいつものように美しい笑顔だった。

 数日後、またポーリィナがクッキーを持ってきた。今度は袋を四つ持っていた。ポーリィナは四人それぞれに手渡した。
 ライルはまたその場であけたが、デミスはなんとなく持ち帰ることにした。

 デミスは家に帰って驚いた。紙袋の中身は多くがジンジャークッキーで、ラズベリークッキーは一つも入っていないのだ。

『ポーリィナ嬢は、私のためだけにこれを用意してくれたのかっ!』

 たった一度、ライルに渡したはずのクッキーをみんなで食べただけだ。それでデミスの好みがわかるなど、デミスを気にしているとしか思えなかった。
 本当はミーデが先輩たちからの厳しくも愛のある指導によって、『お客様の好みを把握し、おかわりをお待ちするときにはそれを踏まえること』ということを自然にするようになっていたのである。つまりは訓練の賜物だ。
 ポーリィナはミーデの観察力を信じて袋詰しただけで、ポーリィナ自身はデミスのことなどこれっぽっちも見ていない。

『私の顔ではなく、私を見てくれている』

 デミスはこれまでのポーリィナの行動を思い出してみた。脳内勘違いのままで。

『殿下が図書室に来るわけがないことはわかっている上で図書室に来る意味は?』

 ウムムと唸る。

『そういえば、勉強のこともよく私に聞いてくる。私の能力をわかってくれているのだ』

 ハッと息を飲む。

『朝も毎日のように目が合う。これはっ! これはっ!!』

 ニヤニヤとする。
 デミスは一人百面相をしており、メイドが冷たい目で見ていた。
 モテるからといって女性から逃げてきたデミスは、女性に耐性が全くなかったのだ。

 ポーリィナからすれば、本が好きだっただけだし、デミスの成績がよいことはクラス中が知っている。一応婚約者としてライルが元気であるかぐらいは気にするので毎朝ライルを見る習慣になってしまっているのだが、ライルの隣にいるデミスを見ているように見えなくはないかもしれない。

『ああ……。なんと切ない私達の関係であろうか……』

 デミスは叶わぬ恋に余計に気持ちが盛り上がった。

 それからというもの、デミスはポーリィナが図書室に現れれば、話をするために近づいた。
 教室ではポーリィナが机に向かっているとさり気なく脇を通り、問題に悩んでいそうなら声をかける。デミスでさえ難しいと思ったものはその日の夜に猛勉強し、翌日、「昨日の問題は理解できた?」と聞いたりした。

 図書室にはいつもミーデが一緒だ。教室ではポーリィナとミーデは隣同士なので、デミスが押しかけ教師をするときには、ミーデも身を乗り出して聞いていた。
 それなのに、デミスにとってはポーリィナと二人っきりの逢瀬を楽しんでいるつもりだった。

 こうして、デミスが一人相撲していく。

『私達はお互いに思い合っているのにその気持ちは表に出せない。なんとつらいことか……』

 ライルの存在がデミスの恋にさらにスパイスとなって脳内を犯している。

 二年生の夏が終わり二学期になるとライルが男爵令嬢であるマーデル・リントンと仲良くなっていた。マーデルは成績順のクラスで最下位のEクラスの生徒であるので、ライルたち四人にもポーリィナとミーデとも接点はない。
 だが、夏休みにライルとビーレルがお忍びで市井に遊びに行き出会ったという。

 デミスは、図書室で男子生徒とイチャイチャしていて迷惑なマーデルのことを知っていた。いつも男を替えているイメージだった。
 そんな女に夢中になりそうなライルを見て、デミスはいい案を思いついたのだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

婚約破棄された悪役令嬢はヒロインの激昂を目の当たりにする

白生荼汰
恋愛
婚約発表するはずの舞踏会で婚約破棄された悪役令嬢は冤罪で非難される。 婚約破棄したばかりの目の前で、プロポーズを始めた王子に呆れて立ち去ろうとした悪役令嬢だったが、ヒロインは怒鳴り声を上げた。 一回書いてみたかった悪役令嬢婚約破棄もの。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

悪役令嬢を彼の側から見た話

下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。 普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
恋愛
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

処理中です...