【完結】小悪魔笑顔の令嬢は断罪した令息たちの奇妙な行動のわけを知りたい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
1 / 9

1 糾弾しましたよね?

しおりを挟む
「ポーリィナ嬢! 待たせたな。俺たちは結婚できるぞ!」

「断固お断りいたしますわ」

 興奮気味でのプロポーズに対してわたくしは冷静にお返しいたしました。すると、玄関に立ったまま室内に案内もされない殿方が呆けたお顔をなさります。

 なぜわたくしが求婚をお受けすると思っていらっしゃるのか、全く理解できませんわ。

 昨日の卒業パーティーでの所業をお忘れではありませんよね?

〰️ 〰️ 


 春麗らかな卒業シーズン。
 ソメール王国の王都にある貴族学園でも前日に卒業式が執り行われ、本日、貴族学園らしく卒業パーティーが催された。

 正確には、催されてすぐに問題が生じ、当日は解散と相成った。

 その生じた問題とは、王子、裁判官長子息、外交大臣子息、騎士団長子息による 王子の婚約者への糾弾からの婚約破棄だ。いわゆる断罪劇である。 

 その婚約者こそがポーリィナ・コーカス公爵令嬢であった。

 なんでも学園の女子生徒の一人である子爵令嬢マーデル・リントンをポーリィナが虐めたという糾弾であった。ポーリィナは特に言い訳も反論もせず、その場で婚約解消の書類にサインをし、会場を辞した。

 夜に話を聞いたコーカス公爵は、翌日に宰相を辞するための書類を書いた。

〰️ 〰️

 そして、翌日。

 コーカス公爵は王城の宰相執務室にある個人的な荷物を撤収するため数人の使用人とともに王城へ赴いた。

 コーカス公爵が不在の時間に、不思議な先触れがポーリィナに届けられた。

 昨日ポーリィナを糾弾したメンバーの一人、裁判官長子息であるデミス・ノキウス公爵令息がポーリィナに面会するため訪れるというものであった。

 ポーリィナは訝しんだが、この期に及んでポーリィナに会いに来るなどという愚行に及ぶ者の考えを知りたいという衝動に負け、その先触れを了承した。

 デミスは真っ赤な薔薇の大きな花束を抱えて馬車から降りてきた。コーカス公爵家の家令ゼビデッドに案内され、応接室へ通される。
 さほど時間をおかずにポーリィナも応接室へとやってきた。

「ポーリィナ嬢。今日も大変麗しく!」

 デミスの口上にポーリィナの口角は歪んだが、うまく扇で隠しているので、デミスからは優しげに見えるようにしているポーリィナの目元だけしか見えていない。

「ノキウス公爵令息様、そのままでよろしいわ」

 立ち上がってポーリィナをエスコートしようとしたデミスをポーリィナは止めた。ポーリィナがデミスの向かい側のソファーに腰を下ろすと、二人の前には薫り高い紅茶が出された。二人は一口飲むとそっとソーサーをテーブルに戻した。ポーリィナはまたすぐに扇で口元を隠した。

「やはり特にお変わりのないご様子ですね。誤解されているのではと心配しましたが、私を信じてくれたのですね。
先触れをご了承いただいたのでお会いできることはわかっておりましたが、やはり少しやりすぎたかなとは反省しておりましたので不安はあったのですよ」

 デミスがポーリィナを熱い目で見つめた。

 ポーリィナはポカンと口を開けた。少し離れて立っているメイド長が小さな咳払いをした。正面に座るデミスには扇があるので見えていないが、メイド長にははっきりと見えてしまっていたのだ。
 ポーリィナは一度口を閉じて、少しの逡巡で『お変わりのないご様子』という言葉に返答した。

「ライル王子殿下のお心は存じておりましたので、それについては特に思うことはございませんもの」

 婚約者であったライルが子爵令嬢マーデルに夢中になりポーリィナが無下にされていることは誰もが知っていた。ポーリィナも元々ライルに対しての愛があったわけではないので、特に悩みも落胆もなく、婚約解消を受け入れた。
 それどころか、それを予測し、婚約解消の書類を用意し、卒業パーティーの場でライルにサインをさせたのはポーリィナ本人であったのだ。
 つまりはポーリィナからしても望んだ婚約解消であった。

「これで私たちに障害はなくなりましたね」

 デミスは満面の笑みを浮かべて話を続けた。ポーリィナは目をしばたかせた。

「父からも早く婚約者を決めるようにと言われていましたので、ここまで待つのは大変でした。でも、ポーリィナ嬢のお気持ちもわかっていましたので、ずっとチャンスを狙っていたのです。あの愚王子ならいつかやらかしてくれるとは思っておりまたからね」

「ライル王子殿下のご行為が愚行であると理解しながらお止めにならなかったのですか?
ノキウス公爵令息様は、ライル王子殿下の側近となられるのですよね?」

 ポーリィナはあまりの驚きに声を必死で抑えた。

「アハハ! だって、私たちが結ばれるためには婚約解消をしていただかなければなりませんからね。そのためには、愚王子として行動していただけなければならなかったでしょう?
ライル殿下の側近にならずとも、私には公爵としての地位も裁判官としての地位もありますよ」

 ポーリィナは理解ができないことが多すぎて、少し目を瞑って考えた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

婚約破棄された悪役令嬢はヒロインの激昂を目の当たりにする

白生荼汰
恋愛
婚約発表するはずの舞踏会で婚約破棄された悪役令嬢は冤罪で非難される。 婚約破棄したばかりの目の前で、プロポーズを始めた王子に呆れて立ち去ろうとした悪役令嬢だったが、ヒロインは怒鳴り声を上げた。 一回書いてみたかった悪役令嬢婚約破棄もの。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

悪役令嬢を彼の側から見た話

下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。 普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
恋愛
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

処理中です...