5 / 18
5 ランチをしてみました
しおりを挟む
午前中の授業が修了した。
ランチは食堂室でするのだが、今朝のゴタゴタで、私にはまだ友人がいない。
『昨夜、話しかけようリスト作っておいたのになぁ』
私は私の身分に合いそうなクラスメートをチェックしておいたのだ。
辺境伯といえば侯爵ほどの身分と力があるというのは、戦争が多発していた遠い昔の話だ。今は山があるので、領地が広いだけの田舎伯爵である。
体格なども逞しいわけではない。私のお父様などお母様よりも貧弱なほどだ。
お母様は逞し過ぎるけど。
お母様の見た目の体型は普通なんですけど、なぜか武力は凄まじいのだ。
リストのご令嬢に朝のうちに話しかけ、ランチのお約束をするつもりだった。
『今日のところは一人飯でいっか……』
私が立ち上がるといつの間にかダンティルが近くにいた。
「今朝のお詫びがしたいのだが、私とランチに付き合ってもらえないか?」
唐突なお誘いに私はギョッとした。だが、淑女教育として、顔には出していない。
だから、嫌がっていることは、ダンティルにバレていない。いないのだが、バレていないことがいいことであるとは言えない。
私は困って固まった。
「ダンティル様。お立場をお考えくださいませ」
ダンティルを叱ってくれたのはベティーネ様だった。ダンティルはベティーネ様を軽く睨む。
「俺に詫びもさせぬ気か?」
『へぇ。ベティーネ様には俺なんだ』
私は変なところに感心した。しかし、こういう注意をしっかりとできるなんて、ベティーネ様は最高です!
「そうではありません。違う方法をお考えくださいと申し上げているのです」
ベティーネ様は一歩も引かない。私は思わず声を出した。
「では、ベティーネ様もご一緒してくださいませ。わたくし、保健室までお付き添いいただいたベティーネ様にお礼をしたいですわ」
「まあ、よろしいですのに。元々は、ダンティル様に頼まれたことですし」
こうなると『頼んだくせに礼もしない王子』となる。チラリとダンティルの様子を見る。
「わ、わかった……。二人の分は私が持つ。では、参ろう」
3人で食堂室へ向かう。
一生徒としてちゃんと並んだ。食事は数種類が小皿に小分けされ盛られているので、トレーに好きな物を乗せていくビュッフェのようなものだ。
選び終わったら、用意された紙に生徒番号と皿の数を書いて会計係に渡し、会計係は生徒カードと皿の数を確認する。お金は各家に請求される。
ちなみに子爵家男爵家は無料だそうだ。
ダンティルは三人分の皿の数を書いた。
それぞれのトレーを持って王子についていくと席が空けてあった。一つ離れて攻略キャラたちがいたので、彼らが用意してくれていたのだろう。私はそちらに軽く頭を下げてベティーネ様の隣に座った。
「会計係の方はね、二年生三年生のお顔とお名前を覚えていらっしゃるのですって。そうでなければ、この速さでは捌けませんものね。
どこにでも優秀な方はいらっしゃるのね」
ベティーネ様は、身分などではなく個人の力を認められる方ようだ。そういうところも素敵な方だ。
「そんなものは慣れれば誰にでもできるだろう?」
優秀であるがゆえに、他の者もそうであると勘違いする残念王子のダンティルだ。
「誰にでもできることではありませんわ」
ベティーネ様が少しだけ悲しそうな顔をした。ダンティルが他を認めない王子であることが気になるのかもしれない。
「ベティーネ様はクラスメートのお顔と名前をすでに覚えていらっしゃるのですよね?」
王子は片眉を上げて、私の話を訝しむ。だから、そんなに顔に出すなってば。
言えないけど。いや、いつか言う!つもり……。
ベティーネ様は私の真意がわからないのか一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を笑顔に戻し答えてくれた。
「ええ。クラスに知らない者が入ってきたら、まずは確認せねばなりませんから。クラスメートのお顔を知らないとそれもできませんもの」
ダンティルの二つ隣にいて今日は他人のフリをしている赤髪のエリアウスが肩を跳ねさせた。団長子息はあの席なのだから、王子の護衛込みだろう。それなのに、ベティーネ様のようには覚えていないのだと予想ができた。
「私はまだお二人のことしかわからないのです。やはり、得意なことと不得意なことはありますよね」
私は強引に話を纏めた。ベティーネ様の口角が少しだけ上がって私はホッとした。
〰️
ダンティルと顔見知りになり、尚且、なぜか引きつり笑いに顔を赤くされてしまったが、ベティーネ様ともお近づきになれたので、ダンティルと何かありそうになったらベティーネ様にご助力頂こうと思う。
ということで、ダンティル王子殿下との恋愛など進まないようにできると思っている。
しかし、私はあの馬に蹴られる恐怖を味わったのに、強制力について甘く見ていた。
〰️ 〰️
入学式から三日目。
私は恐怖の『昼休みの図書室』にいる。ここは、マジラウル・ノーザエム公爵子息、宰相様のご子息と出会い、恋に発展する場所なのだ。
わかっているのに、なぜここにいるか。本当になぜかわからないが、先生に手伝いを指名されたのだ。
朝の登校時間であった。
学園の玄関へ入ると、言語担当の先生が私を待っていた。授業初日である昨日、授業があったので言語担当の先生の顔をたまたま知っていた。
「アンナリセル君。昼休みに図書室の整理を手伝ってもらいたいんだ。図書室の整理室に昼食の用意はしておく。
頼んだよ」
「もらいたい」なんて言い方したくせに、「頼んだよ」で言い逃げした。おいおいっ!
なぜ私の名前と顔を知っているのだ? 私は昨日の授業で挙手も質問もしていない。
縋るように手を伸ばしたが先生は颯爽と消えた。
啞然としていた私に丁度登校して来たらしいベティーネ様がお優しく声をかけてくださった。
「わたくしもお手伝いしますわ」
天使だと、思った!
が、後ろから声がかかる。
「ベティ、今日は授業を午前で終わりにしてくれ。母上が午後にお茶に来いと仰っていた。学園の話をしたいそうだ。まだ三日目で何もわからないというのにな。
まあ、お前を気に入っているから会いたいだけだろう」
ダンティルの母上はもちろん王妃陛下だ。私が勝てる相手ではない。がっかり。
「ダンティル様。かしこまりましたわ。
アンナリセル様。ごめんなさいね」
「あはは、大丈夫ですよ」
私は乾いた笑いをするしかできなかった。
ランチは食堂室でするのだが、今朝のゴタゴタで、私にはまだ友人がいない。
『昨夜、話しかけようリスト作っておいたのになぁ』
私は私の身分に合いそうなクラスメートをチェックしておいたのだ。
辺境伯といえば侯爵ほどの身分と力があるというのは、戦争が多発していた遠い昔の話だ。今は山があるので、領地が広いだけの田舎伯爵である。
体格なども逞しいわけではない。私のお父様などお母様よりも貧弱なほどだ。
お母様は逞し過ぎるけど。
お母様の見た目の体型は普通なんですけど、なぜか武力は凄まじいのだ。
リストのご令嬢に朝のうちに話しかけ、ランチのお約束をするつもりだった。
『今日のところは一人飯でいっか……』
私が立ち上がるといつの間にかダンティルが近くにいた。
「今朝のお詫びがしたいのだが、私とランチに付き合ってもらえないか?」
唐突なお誘いに私はギョッとした。だが、淑女教育として、顔には出していない。
だから、嫌がっていることは、ダンティルにバレていない。いないのだが、バレていないことがいいことであるとは言えない。
私は困って固まった。
「ダンティル様。お立場をお考えくださいませ」
ダンティルを叱ってくれたのはベティーネ様だった。ダンティルはベティーネ様を軽く睨む。
「俺に詫びもさせぬ気か?」
『へぇ。ベティーネ様には俺なんだ』
私は変なところに感心した。しかし、こういう注意をしっかりとできるなんて、ベティーネ様は最高です!
「そうではありません。違う方法をお考えくださいと申し上げているのです」
ベティーネ様は一歩も引かない。私は思わず声を出した。
「では、ベティーネ様もご一緒してくださいませ。わたくし、保健室までお付き添いいただいたベティーネ様にお礼をしたいですわ」
「まあ、よろしいですのに。元々は、ダンティル様に頼まれたことですし」
こうなると『頼んだくせに礼もしない王子』となる。チラリとダンティルの様子を見る。
「わ、わかった……。二人の分は私が持つ。では、参ろう」
3人で食堂室へ向かう。
一生徒としてちゃんと並んだ。食事は数種類が小皿に小分けされ盛られているので、トレーに好きな物を乗せていくビュッフェのようなものだ。
選び終わったら、用意された紙に生徒番号と皿の数を書いて会計係に渡し、会計係は生徒カードと皿の数を確認する。お金は各家に請求される。
ちなみに子爵家男爵家は無料だそうだ。
ダンティルは三人分の皿の数を書いた。
それぞれのトレーを持って王子についていくと席が空けてあった。一つ離れて攻略キャラたちがいたので、彼らが用意してくれていたのだろう。私はそちらに軽く頭を下げてベティーネ様の隣に座った。
「会計係の方はね、二年生三年生のお顔とお名前を覚えていらっしゃるのですって。そうでなければ、この速さでは捌けませんものね。
どこにでも優秀な方はいらっしゃるのね」
ベティーネ様は、身分などではなく個人の力を認められる方ようだ。そういうところも素敵な方だ。
「そんなものは慣れれば誰にでもできるだろう?」
優秀であるがゆえに、他の者もそうであると勘違いする残念王子のダンティルだ。
「誰にでもできることではありませんわ」
ベティーネ様が少しだけ悲しそうな顔をした。ダンティルが他を認めない王子であることが気になるのかもしれない。
「ベティーネ様はクラスメートのお顔と名前をすでに覚えていらっしゃるのですよね?」
王子は片眉を上げて、私の話を訝しむ。だから、そんなに顔に出すなってば。
言えないけど。いや、いつか言う!つもり……。
ベティーネ様は私の真意がわからないのか一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を笑顔に戻し答えてくれた。
「ええ。クラスに知らない者が入ってきたら、まずは確認せねばなりませんから。クラスメートのお顔を知らないとそれもできませんもの」
ダンティルの二つ隣にいて今日は他人のフリをしている赤髪のエリアウスが肩を跳ねさせた。団長子息はあの席なのだから、王子の護衛込みだろう。それなのに、ベティーネ様のようには覚えていないのだと予想ができた。
「私はまだお二人のことしかわからないのです。やはり、得意なことと不得意なことはありますよね」
私は強引に話を纏めた。ベティーネ様の口角が少しだけ上がって私はホッとした。
〰️
ダンティルと顔見知りになり、尚且、なぜか引きつり笑いに顔を赤くされてしまったが、ベティーネ様ともお近づきになれたので、ダンティルと何かありそうになったらベティーネ様にご助力頂こうと思う。
ということで、ダンティル王子殿下との恋愛など進まないようにできると思っている。
しかし、私はあの馬に蹴られる恐怖を味わったのに、強制力について甘く見ていた。
〰️ 〰️
入学式から三日目。
私は恐怖の『昼休みの図書室』にいる。ここは、マジラウル・ノーザエム公爵子息、宰相様のご子息と出会い、恋に発展する場所なのだ。
わかっているのに、なぜここにいるか。本当になぜかわからないが、先生に手伝いを指名されたのだ。
朝の登校時間であった。
学園の玄関へ入ると、言語担当の先生が私を待っていた。授業初日である昨日、授業があったので言語担当の先生の顔をたまたま知っていた。
「アンナリセル君。昼休みに図書室の整理を手伝ってもらいたいんだ。図書室の整理室に昼食の用意はしておく。
頼んだよ」
「もらいたい」なんて言い方したくせに、「頼んだよ」で言い逃げした。おいおいっ!
なぜ私の名前と顔を知っているのだ? 私は昨日の授業で挙手も質問もしていない。
縋るように手を伸ばしたが先生は颯爽と消えた。
啞然としていた私に丁度登校して来たらしいベティーネ様がお優しく声をかけてくださった。
「わたくしもお手伝いしますわ」
天使だと、思った!
が、後ろから声がかかる。
「ベティ、今日は授業を午前で終わりにしてくれ。母上が午後にお茶に来いと仰っていた。学園の話をしたいそうだ。まだ三日目で何もわからないというのにな。
まあ、お前を気に入っているから会いたいだけだろう」
ダンティルの母上はもちろん王妃陛下だ。私が勝てる相手ではない。がっかり。
「ダンティル様。かしこまりましたわ。
アンナリセル様。ごめんなさいね」
「あはは、大丈夫ですよ」
私は乾いた笑いをするしかできなかった。
7
お気に入りに追加
594
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました
かぜかおる
ファンタジー
悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました!しかもサポートキャラ!!
特等席で恋愛模様を眺められると喜んだものの・・・
なろうでも公開中
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど
七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。
あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。
そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど?
毎回視点が変わります。
一話の長さもそれぞれです。
なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。
最終話以外は全く同じ話です。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる