婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第九章 最終章 それぞれの門出

9 あれから 3年目秋口 3 最終回

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 夜会のお衣装は、ゼファー様たってのご希望で、あの濃紺のお衣装になりました。王妃殿下には、
「この生地は、部分使いでもステキなのね。」
と、誉めていただけましたので、よかったですわ。

 ゼファー様は、お話になった方々に「この衣装は、我が妻が、刺繍をしたもので…」と、ご自慢にもならないことをお話になるので、恥ずかしくなってしまいましたわ。
「これはこれは、公爵殿の惚気は、国内一かもしれませんな。」
なんておっしゃる方までいらっしゃいましたのよ。それにも、
「まだまだ聞いてくださいますか?」
なんて、答えて、思わず、袖を引っ張りましたの。
「妻が恥ずかしがってしまったので、ここらで失礼しますね。」
 と、笑ってわたくしの腰を抱いてその場を離れました。後で王太子殿下に聞いたところ、この方はゼファー様の天敵だそうですわ。

 ゼファー様がわたくしから離れたときにお声をかけられましたの。
「アリーシャ嬢、お久しぶりでございます。お変わりありませんか?」

「まあ!モンタニール様!ガーリウムでの夜会以来でございますわね。ご健勝でいらっしゃいましたか?わたくしは今、こちらで生活しておりますのよ。」
 モンタニール様は、タニャード王国の公爵家のご子息様で、外交官としてガーリウム王国に滞在なされていたときに、何度かお話をいたしました。

「ええ、元気ですよ。アリーシャ嬢がこちらに来ていることは知っていたのですが…」

「アリーシャ嬢ではないっ!ティローネ公爵夫人だっ。ロベルト!」

「なーんだ、ゼファー、もう帰ってきたのか?」

「飲み物をとりに言っただけだ。
はい、アリス、果実水だよ。」

「ありがとうございます。ゼファー様。」
 わたくしは、二人のやり取りに目をしばたかせておりました。

「アリス、ロベルト・モンタニールは、私の学生時代からの知人だ。」
 知人などという近さではないですわ。親友であろうことは、すぐにわかりましたの。親友というよりは、悪友かしら。ふふふ。

「ティローネ公爵夫人、こいつがご挨拶にも行かさせてくれなくてね。」

「モンタニール様、アリーシャでよろしいですわ。」

「では、アリーシャ様。私のこともロベルトとお呼びください。」

「わかりましたわ。ロベルト様、ゼファー様をこれからもよろしくお願いいたしますわ。」

「ハハハ!貴女ではなく、ゼファーをですかっ!ハハハ!ゼファー、さりげなく釘を刺せる素晴らしい奥様だな。大事にしろよ。」

「言われなくても、私の宝物だっ!」

 ゼファー様の意外な一面を見ることができて、楽しい夜会でしたわ。

〰️ 〰️ 〰️

 今日の夜会は早めに退かせていただきます。国王陛下は、王宮に泊まるようにおっしゃいましたが、ゼファー様がどうしても王子殿下邸へ戻るとおっしゃり、あいなりました。

 いつものように、寝室の前まで送ってくださり、口づけと、頭にもう一つ口づけを落としてくださいます。
「アリス、では、またあとで。」
 これは、今までと違うお言葉です。理解したわたくしは、少しうつむき、
「はい。」
と答えました。声が緊張で掠れてしまいました。
 いつもは、わたくしがお部屋に入るまで待ってくださいますのに、今日は、踵を返して、執務室の方へと行ってしまわれました。
 わたくしは寝室へ入り、メイドに湯浴みの支度をしてもらいます。
 湯浴みが終わると、そこには、それはそれは薄い生地の桃色をした寝間着と思われるものがありました。戸惑っているとメイドが着せてくれて、上から薄手のローブを掛けてくれました。髪を整えてもらい、寝室へと、戻ると、すでにゼファー様がソファーで、お酒を飲んでいらっしゃいました。

「アリス、こちらへおいで。」
わたくしは、ゼファー様の隣へ座ります。
「君も少し飲むといい」
ゼファー様がわたくしのグラスに半分ほどついでくださいます。わたくしはそれをいただきました。

「あ、これは、」
「うん、卒業パーティーで飲んだシャンパンだ。」
「とても、おいしいですわ。」

「君はますますキレイになった。私は毎日、君をますます好きになってしまう。」
 そういって、口づけをしてくださる。

「ゼファー様……」
「アリス、今日からは、二人のときには、敬称はいらない。」
「ゼファァ」
 ゼファーがわたくしからグラスをとり、熱い熱い熱い口づけをくれる。そして、わたくしのローブの腰ひもが外され、ローブが肩を落ちていく。

「っっっ!」
ゼファーが口づけを離したかと思うと、息を飲んだことがわかる。

 と、わたくしをお姫様抱きをして、寝台まで運ぶ。

 寝台に横たわったわたくしは、愛しい人の名前を呟いた。
「ゼファァ」
 わたくしはそのまま、深く沈んでいった。

〰️ 〰️ 〰️

  ~ゼファーライトの焦り~

 いつものように、寝室の前まで送り、口づけと、頭にもう一つ口づけをする。
「アリス、では、またあとで。」
 私の決心を伝える。
「はい。」
 アリスの声は、か細く、儚げで、緊張が伝わってきて、このままここで押し倒してしまいそうになった。
 そうならないために、すぐさま、踵を返して、執務室のとなりの自室へと向かう。この自室は私がこの4ヶ月寝室としていた部屋だ。
 自室で湯浴みを済ませ、ローブを羽織り夫婦の寝室へと向かう。
 寝室には、まだアリスはいなかった。シャンパンとグラスをおいて、メイドはさがった。しばらくして、浴室からアリスが出てくる。寝間着の上に私と同じローブを羽織っている。

「アリス、こちらへおいで。」

「君も少し飲むといい」
私の隣に座ったアリスに、グラスに半分ほどのシャンパンを勧める。

「あ、これは、」
「うん、卒業パーティーで飲んだシャンパンだ。」
「とても、おいしいですわ。」

「君はますますキレイになった。私は毎日、君をますます好きになってしまう。」
 シャンパンのせいか、私の言葉のせいか、アリスがほんのり赤くなり、あまりの可愛いらしさに口づけをしてしまう。本当は、もっと話をして、リラックスしてもらおうと思っていたのだが、

「ゼファー様……」
「アリス、今日からは、二人のときには、敬称はいらない。」
「ゼファァ」

 アリスは、私の敬称を外すと、『ゼファァ』と、語尾に小さく『ア』が付く。これが甘えられているような、それでいてなまめかしく妖艶で、私は陥落寸前だ。
 アリスからグラスを受け取りテーブルへおく。そして、深く深く口づけをした。アリスのローブの腰ひもを外し、肩からローブを落とす。

口づけを離したとき、息が止まる。
「っっっ!」
 薄い桃色のネグリジェが目に入ると、完全に陥落した。アリスをお姫様抱きにして、寝台まで運ぶ。

そこでまた、
「ゼファァ」
 私は4ヶ月我慢した分、そこから正気を失った。
 ごめんね、アリス。君が魅力的すぎるんだ。

 一生幸せにするから、許してほしい。愛してる、私の女神。

 後日、外交官から渡された『ハンディカム』には、結婚式の際の僕の女神が美しいまま写っていた。オーリオダム君にもらったガーリウム王国でのパーティーの『ハンディカム』もある。アリスと一緒にいると宝物がいっぱいだ。幸せだなぁ。

 私はこの幸せを手放すことはないと誓おう。
アリスと出会って6年ほどになる。ガーリウム王国には、感謝しかない。
 そういえば、塔の彼は元気だろうか?私たちに子供が生まれ、その子供が爵位を継いだ頃には、彼に会いに行ってもいいかもしれない。彼は私に幸せの女神を譲ってくれたのだから。


~幸せな結婚式  fin~

~婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ  fin~

 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
 別話として、カザシュタントとヴィオリアのお話を投稿します。そちらもお付き合いいただけますとうれしいです。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

sanzo
2024.08.29 sanzo

ふぅ、
面白かった〜、、、

え、後日談、どれ?

宇水涼麻
2024.08.31 宇水涼麻

(´;ω;`)
こんな初期のものまで読んでくださって感無量でございますぅ。

この頃は「。」の付け方や語尾の変化なども知らず、ただただ思い浮かぶ限り綴ったものです。
今となるとお恥ずかしいですが、私の成長の歴史だと思い残しておりますwww

『辺境伯軍奮闘記』が外伝となっております。

本当にありがとうございます!

解除

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