婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第九章 最終章 それぞれの門出

4 あれから 2年目早春 2

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 それから、三月もの間、ナタロフ帝国で過ごし、さすがに、『そろそろ戻ってきなさい』と父上から『メールボックス』で手紙が届き、今度はガーリウム王国の結婚式へ来てもらう約束をした。だが、僕たちが出発する数日前に、ミラさんの妊娠が判明し、ミラさんとイロフスキー侯爵夫人は、ガーリウム王国には、今回は来ないことになった。ミラさんは、大変残念そうだった。
「オレとオーリーは、兄弟なんだ。いつでも連れてくから、今回は我慢してね。」

「わかりましたわ。でも、わたくしもエマさんと姉妹ということですのよ。わたくし、妹がずっと欲しかったんですの。今度はお揃いのドレスを作りましょうね。」

「はい、わたくしが赤ちゃんのお顔を見にまた来ますわ。」
と、エマとミラさんは笑顔で約束をしていた。

 残念ながらエマとミラさんの妊娠により、しばらく叶えられなくなったのだが。

 帰りはできるだけまっすぐに帰った。天候にも恵まれ、野盗にも会わず、一月かからずに帰ることができた。結婚式まで、2ヶ月だった。王都では、サンドエク伯爵邸で住むことにした。


〰️ 〰️ 〰️ 

 まだ少しだけ肌寒い春先、僕たちは、結婚式をあげた。旅行先から僕が伝えた僕の希望が叶えられていて、びっくりした。

 結婚式の朝、僕とエマは、別々の部屋に押し込まれ、支度に勤しんでいる。

 準備を終えた僕は、応接室で、エマを待つ。ノックの音で現れた僕の妖精は、とても可愛いらしく、とても可憐だった。

 若草色のドレスは、腰から下はふんわりと広がり、白いベールのような布が同じように広がりっていて、若草色が透けている。肘から手首にかけて広がった袖には、白いリボンで装飾され、肩に大きめの白いリボンが形つくられている。
 頭にはシロツメクサの花冠を被り、手には白いダリアを中心とした可愛らしいブーケだ。ダリアをシロツメクサに模したブーケなのだろう。

「僕の妖精さん、どこにもいかないでおくれ、ね。」

「ふふふ、ダムったら。どこにもいかないから、近くにいさせてね。」

「もちろんだよ。」
 僕の衣装は、白いタキシードで、小物を若草色に、してあるのだが、この際どうでもいい。とにかく、エマが可愛い!

 エマをエスコートして、会場へと進む。サンドエク伯爵邸の誇る芝生の広い演習場に、レッドカーペットがしかれ、その左右に長椅子が並べられている。そこには、すでにたくさんの招待客が座っており、長椅子の回りにも立っている人がたくさんいる。サロンからテラスへ出ると、メイドが拍手を始める。すると僕たちの入場を知った会場の人たちが、拍手と歓声で出迎えてくれた。その中を、エマと二人で、笑顔で歩く。
 署名台の前まで行くと、そのまま、裏へまわり、会場のみなさんの正面に立つ。

 魔法師団の隊長さんだという方が進行役をしてくれる。
「では、こちらの宣誓書をお読みください。」

 僕とエマで、左右を持ち、宣誓書を少し持ちあげる。
「私、オーリオダム・サンドエクと、」
「わたくし、エマローズ・ナハナージュは、」
「「ともに愛し合い、嬉しいときにはともに笑い、悲しいときにはともに慰め、つらいときにはともに励まし、いついかなる時でも、ともにあることを、ここにお集まりのみなさまに誓います。」」

「では、今の宣誓を認める者は、拍手をお願いいたします。」
 大歓声と大拍手とともに、まるで花火のようなものが、あちこちの空に舞う。魔法士たちの祝福だ。

 進行役が手を挙げると、静まる
「では、こちらにサインを。」

 僕がサインをし、ペンをエマに渡し、エマもサインをする。

 進行役が、その書面を高々と挙げ、宣言する。
「ここにいる者、すべてを証人とし、二人の婚姻を認めるものとする。」
 再び大歓声と花火の祝福が二人に降り注ぐ。

「では、誓いの口づけを。」
 僕はエマのベールをまくり、エマに優しく口づけをした。みんなの祝福が舞う。

 僕とエマは、そのまま、隣に用意されたパーティー会場へ移動し、ファーストダンスを踊る。
「神様ではなくて、みんなに愛を誓うなんて、素敵ねっ!」
 クルクルと回りながら、エマが笑顔で、呟く。
「みんなが証人だからね、エマ、僕と愛し合わなきゃ、みんなに怒られるよ、ハハハ」

「みんなが証人なのよ。私を置いていったら、みんなに怒られますわよ。フフフ。」

 曲が終わって片手を離したとき、僕はエマをお姫様抱っこして、くるっとまわった。エマは、びっくりしていたが、次の笑顔で、僕の頬に、キスをしてきた。

「びっくりさせた、お返しですわ。」
僕のいたずら妖精が微笑んだ。
 大歓声と花火の祝福がまた会場を沸かせた。エマを降ろして、僕たちが会場へ礼をすると、次の音楽が始まり、ダンスパーティーとなった。

 旅行先から伝えた僕の希望とは、『人前結婚式』であった。イロフスキー侯爵お義父さんに言われた言葉に感銘して、僕は僕たちの幸せを僕たちと繋がりのある人たちに誓いたかったのだ。

 ダンス会場の隣の食事会場に飲み物をもらいにいくと、グレーとイロフスキー侯爵お義父さんが近くに来た。

「人前結婚式かあ、かっこよかったぞ。」

「オーリー、よく考えたね。」

「お義父さんの言葉が嬉しくて、こうしたいって思ったんです。ガーリウム王国の家族が協力してくれました。」

「『人前結婚式』これから流行るかもしれないな。」

「そうかな?僕たちなんて、あまり影響力ないし。」

 という考えは、浅はかであった。僕はきっと緊張していたのだろう。グレーが、まさか、『ビデオカメラ』に革のカバーと取っ手を付けて、いわゆる『ハンディカム』にして、僕たちの入場からダンス終わりの礼まで、バッチリと撮っていたなんて、知らなかったんだ。その日のうちに、伯爵邸の玄関脇に張られたシーツでそのまま、写し出していたなんて。伯爵邸前は、すごい人だかりとなり、僕たちの結婚式の様子は何度も流された。そして、本当に『人前結婚式』は、流行した。

 さらに、『ハンディカム』の注文も殺到して、その後のイロフスキー侯爵家とメルシエ伯爵家に大いなる財産を与えた。僕は結婚式の翌日、ナハナージュ侯爵から、メルシエ領とメルシエ伯爵を譲り受けたのだ。

〰️ 〰️ 〰️

 今日はナタロフ帝国から、イロフスキー一家が、ガーリウム王国にある僕の別荘に遊びに来ている。湖の畔にあるシロツメクサの草原。ここは、なんとメルシエ伯爵領の南端だった。湖畔に大きなロッジを建てて、別荘とした。イロフスキー侯爵と侯爵夫人は、ロッジのデッキにあるラウンジベッドでワインを飲みながら、僕たちの様子を微笑ましく見ている。ラウンジベッドの脇には、ロッキングベビーベッドが置かれており、侯爵夫人と同じ髪色、口元がミラさんそっくりの女の子がスヤスヤと寝ていて、侯爵夫人は、嬉しそうに時々それを揺らす。

 グレーそっくりの5才の息子ドミトリーが、ミラさんと花冠を作っている。僕に少し似た目元にエマに似た顔の4才の娘ロズリーヌは、お腹の大きなエマとブーケを作っている。
 僕とグレーは、その様子を締まらない顔で見ているのだ。幸せさっ。

花冠を、作り終えたドミトリーが、それを持ってロズリーヌのそばへいく。
「ロズ、これあげる。ずっといっしょにいようね。」
と言って、花冠をロズリーヌの頭に捧げた。

 一度キョトンとした、ロズリーヌは、満面の笑顔を見せて、ドミトリーの頬にキスをした。
「ドミー、わたくしのおうじさまにしてあげるわ。」

「シロツメクサの花言葉は、『約束』なのよ。ふたりは、もう婚約者ね。」
と、エマローズが笑った。
 僕以外の大人たちは、笑っているが、4才にして、娘を失った気持ちになった僕だけが、アワアワとしていた。

「オーリー、オレたち正真正銘の親族になれそうだなっ!」
とグレーが嬉しそうだから、『それならいいかな』と思い直した。

「ロズリーヌがほしかったら、早く転移装置完成させてくれよな、兄さん!」

「お???おお!!まかせとけっ!」

 あの時のグレーの照れた顔は忘れられない。
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