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第九章 最終章 それぞれの門出
3 あれから 2年目早春 1
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僕たちは、もう夫婦だ。僕オーリオダム・サンドエクとエマローズ・ナハナージュは、まだキスしかしてないし、まだ一緒に住んでないけど、夫婦なのだ。
『一刻も早くエマを僕のお姫様にしたい』という僕の願いのために、王妃殿下への『結婚許可願い』をとっとと提出することになった。本来この許可も、降りるまでに一月ほどかかるのだが、僕たちの場合、即日に許可された。これは、先日、魔法師団の存続問題を解決したことへの、国王陛下からの褒美だと思い、ありがたく受け取った。前世でいうところの、『入籍を済ませた』感じだ。
ここガーリウム王国では、本来、貴族は、王妃殿下から結婚許可が下りて初めて結婚が成立するわけだが、ほとんどの者が、結婚式の後に書類を提出するので、式をあげてから、一月くらいしないと夫婦じゃないということになる。が、そこまで気にする者はおらず、結婚式の日が結婚記念日であることがほとんどだ。
ちなみに、平民は、教会で式をして、その場で、宣誓書として婚姻届を出し、その場で神父より許可が下りる。
それは、さておき、入籍は済ませたので、来年の同じ日に結婚式をすれば、結婚記念日は、その日になるね、という理由で、結婚式の日取りも決まった。僕は小さい頃からナタロフ帝国に留学していたこともあり、こちらの風習についてはわからないので、両家の父上たちにすべてをおまかせした。なんでも、結婚式の日に僕に爵位を与えるだとかなんとか??僕にとっては、エマといれるなら、なんでもいい。
一月前から、僕たちに譲られるという領地の北側にある屋敷の敷地内に、僕の自費で私設研究所と隣に小さな工場となる建物を建て始めた。それができあがるまでは、とりあえず、やることもない。屋敷の改装も始めたので、住むこともできない。
だから、僕たちの結婚式の衣装を決めると、僕たちは、半年ほど、新婚旅行へ行くことにした。
旅行の前日、エマは、サンドエク侯爵邸に泊まり、
「ダムのお部屋に、お伺いしてもいいかしら?」
と頬を染めながら言ってくれて、僕はもちろんできる限り紳士的に、対応させていただいた。
朝方、目が覚めた時に、天使と肌を合わせた幸せを実感して、再び天使と肌を合わせてしまったことは、許してほしい。
そんなこともあり、初日は無理をせず、遠くまでは行かないことにして、僕たちの思い出のシロツメクサ草原を見渡せる、湖の畔にある宿に泊まった。
気の向くままに、のんびりと旅をして、ナタロフ帝国の港町に着いたのは、三月後だった。ここから、ナタロフ帝国帝都までは、馬車で、1週間ほど。『メールボックス』で、グレボウナ・イロフスキーに『そちらへ伺います。』という内容の手紙を送った。
港町で、馬車と多めの護衛を雇い、帝都へと出発する。エマにとって、すべてが初めて目にするものなので、いろんなところに寄り道しながら、向かっていると、グレーとグレーの奥様リュドミーラさんが途中の町まで迎えに来てくれた。そこからは、侯爵家の馬車と護衛で、寄り道しながら、またゆっくりと向かう。結局、港町から10日もかかった。その間に、エマとミラさんは、すっかり仲良しになった。
「オーリー坊ちゃま」
「「「「おかえりなさいませ」」」」
と執事さんとメイドたちが迎えてくれて、僕は恥ずかしながら、執事さんの肩で泣いた。僕は長身なので、胸では泣けなかった。
帝都のイロフスキー侯爵邸の僕の部屋はそのままで、ベッドだけが大きくなっていた。僕たちの荷物をメイドたちがどんどん片付けてくれる。
夕食は、イロフスキー侯爵夫妻と、グレボウナ夫妻とともに楽しい団欒となった。
一週間後、エマが朝からベッドにいない。即座に、メイドが来て、
「本日は、エマローズ様は、リュドミーラ様のお部屋にておくつろぎ中です。オーリオダム様につきましては、グレボウナ様とご朝食をダイニング室でとのことです。」
「わかった。エマは具合が悪いの?」
「すこぶるお元気でいらっしゃいます。」
「ミラさんに任せて大丈夫ってことだね?」
「はい、その通りでございます。」
「では、着替えたら、行きますから、もう大丈夫だよ。」
「くれぐれも、淑女のお部屋には、お近づきになられませんように。」
「了解。」
グレーとの朝食を終えると、
「そろそろ、いってらっしゃい。」
と、グレーに手をヒラヒラと降られ、僕はメイドたちに、引っ立てられた。僕の部屋へと戻ると、仕立ての良さそうな、タキシードが、かかっていた。それを後目に湯浴みに放り込まれ、出ると髪をセットされ、そのタキシードを着させられる。
メイドの案内で応接室へと行けば、いつもより、シャンとした格好をしたグレーがいた。
「グレー、これなに??」
「あ~、もうすぐ……」コンコンコン
「もう来たか。どうぞ。」
入ってきたのは、美しいミラさんと……。僕の天使は、とても美しかった。いつもより大人びたドレスは、僕をこれでもかとドキドキさせた。
「もう、オーリーったら、なんの連絡もせずにいらっしゃるから、今回はわたくしのドレスを仕立て直しで済ませましたわ。」
とミラさんが、拗ねているような喜んでいるような声で言った。
「よーし。いくぞ!」
グレーがミラさんをエスコートして、応接室を出ていく。僕も慌ててエマをエスコートしてついていく。途中で、エマに「天使さん、とても素敵だよ」と耳元でつぶやいたら、天使は、真っ赤になってしまった。
向かった場所は、侯爵邸で一番広いホールの前だった。執事の二人が扉の前に立っていて、扉の前を通り過ぎたグレーがクルリと回転してこちらを見て、お先にどうぞのジェスチャーをする。
僕とエマが、扉の前に立つと、執事がドアを左右に開ける。
大ホールには、たくさんの人がいた。僕らが、一歩入ると、
「オーリー、エマさん、結婚おめでとう!」
パーン、パーン、紙吹雪が舞う。
クラッカーだった。
びっくりしている僕らの後ろから、グレーたちが来て、
「みんなに一言どうぞ。」
と、茶目っ気に言う。
「あ、あの、みんな、ありがとう!」
僕が、その場でボロボロと泣き出し、エマがアワアワとしながら、ハンカチをくれて、僕たち以外の人たちは、笑顔で見守ってくれていた。
「オーリーは、泣き虫なので、先にダンスパーティーを始めよう!」
と、グレーがからかうように言い、音楽が奏でられた。
僕は、しばらく、その様子を見ていた。高等学校の友人、中等学校の友人は平民の子まで来てくれている。お世話になった先生たちや役所の方々、見知った顔がたくさんあった。
「ダムは、人気者だったのね。素晴らしいわ。」
エマが、満面の笑顔を見せてくれた。
曲の切れ目に、僕はエマをエスコートして、ホール中央へ進む。自然にみんなが中央から離れ、曲が始まっても踊るのは僕たちだけだ。1曲踊り、会場のみんなに向かって、礼をする。たくさんの拍手と指笛と冷やかしと、幸せな喧騒だった。
再び音楽が始まると、みんなも踊り始める。僕はエマと2曲踊った後、イロフスキー侯爵夫妻とパートナーチェンジし、グレー夫妻とパートナーチェンジし、ちょっと疲れたところで、飲み物をもらいに行く。
ミラさんに誘われて、エマが僕から離れる。お花詰みか、お化粧直しか、どちらにせよ、当分帰らないだろう。それを見計らって、悪友たちが、代わる代わる僕をからかっていった。
ふと、空いた間に、イロフスキー侯爵の元へ行く。
「侯爵様、今日は、本当にありがとうございます。」
「オーリー、君は人気者だねぇ。社会にもまだ出ていないし、ここで爵位を持つわけでもない。なのに、急な誘いにも関わらず、これだけの人が集まってくれた。人との繋がりは宝だ。大切にしなさい。」
「はい、お義父さん。」
僕はまた泣いてしまい、お義母さんがクスリと笑ってハンカチを差し出してくれた。
パーティーは、夜の帳が降りるまで続いた。
クラッカーは、魔石の削り粉に火魔法を纏わせ、糸ではなく、銅線が筒につけられており、銅線に少しだけ魔力を流すとクラッカーのようになるらしい。魔力を流し過ぎても、天井まで紙吹雪が飛んでいってしまうだけなので、問題ないそうだ。イロフスキー侯爵家の新製品だ。
『一刻も早くエマを僕のお姫様にしたい』という僕の願いのために、王妃殿下への『結婚許可願い』をとっとと提出することになった。本来この許可も、降りるまでに一月ほどかかるのだが、僕たちの場合、即日に許可された。これは、先日、魔法師団の存続問題を解決したことへの、国王陛下からの褒美だと思い、ありがたく受け取った。前世でいうところの、『入籍を済ませた』感じだ。
ここガーリウム王国では、本来、貴族は、王妃殿下から結婚許可が下りて初めて結婚が成立するわけだが、ほとんどの者が、結婚式の後に書類を提出するので、式をあげてから、一月くらいしないと夫婦じゃないということになる。が、そこまで気にする者はおらず、結婚式の日が結婚記念日であることがほとんどだ。
ちなみに、平民は、教会で式をして、その場で、宣誓書として婚姻届を出し、その場で神父より許可が下りる。
それは、さておき、入籍は済ませたので、来年の同じ日に結婚式をすれば、結婚記念日は、その日になるね、という理由で、結婚式の日取りも決まった。僕は小さい頃からナタロフ帝国に留学していたこともあり、こちらの風習についてはわからないので、両家の父上たちにすべてをおまかせした。なんでも、結婚式の日に僕に爵位を与えるだとかなんとか??僕にとっては、エマといれるなら、なんでもいい。
一月前から、僕たちに譲られるという領地の北側にある屋敷の敷地内に、僕の自費で私設研究所と隣に小さな工場となる建物を建て始めた。それができあがるまでは、とりあえず、やることもない。屋敷の改装も始めたので、住むこともできない。
だから、僕たちの結婚式の衣装を決めると、僕たちは、半年ほど、新婚旅行へ行くことにした。
旅行の前日、エマは、サンドエク侯爵邸に泊まり、
「ダムのお部屋に、お伺いしてもいいかしら?」
と頬を染めながら言ってくれて、僕はもちろんできる限り紳士的に、対応させていただいた。
朝方、目が覚めた時に、天使と肌を合わせた幸せを実感して、再び天使と肌を合わせてしまったことは、許してほしい。
そんなこともあり、初日は無理をせず、遠くまでは行かないことにして、僕たちの思い出のシロツメクサ草原を見渡せる、湖の畔にある宿に泊まった。
気の向くままに、のんびりと旅をして、ナタロフ帝国の港町に着いたのは、三月後だった。ここから、ナタロフ帝国帝都までは、馬車で、1週間ほど。『メールボックス』で、グレボウナ・イロフスキーに『そちらへ伺います。』という内容の手紙を送った。
港町で、馬車と多めの護衛を雇い、帝都へと出発する。エマにとって、すべてが初めて目にするものなので、いろんなところに寄り道しながら、向かっていると、グレーとグレーの奥様リュドミーラさんが途中の町まで迎えに来てくれた。そこからは、侯爵家の馬車と護衛で、寄り道しながら、またゆっくりと向かう。結局、港町から10日もかかった。その間に、エマとミラさんは、すっかり仲良しになった。
「オーリー坊ちゃま」
「「「「おかえりなさいませ」」」」
と執事さんとメイドたちが迎えてくれて、僕は恥ずかしながら、執事さんの肩で泣いた。僕は長身なので、胸では泣けなかった。
帝都のイロフスキー侯爵邸の僕の部屋はそのままで、ベッドだけが大きくなっていた。僕たちの荷物をメイドたちがどんどん片付けてくれる。
夕食は、イロフスキー侯爵夫妻と、グレボウナ夫妻とともに楽しい団欒となった。
一週間後、エマが朝からベッドにいない。即座に、メイドが来て、
「本日は、エマローズ様は、リュドミーラ様のお部屋にておくつろぎ中です。オーリオダム様につきましては、グレボウナ様とご朝食をダイニング室でとのことです。」
「わかった。エマは具合が悪いの?」
「すこぶるお元気でいらっしゃいます。」
「ミラさんに任せて大丈夫ってことだね?」
「はい、その通りでございます。」
「では、着替えたら、行きますから、もう大丈夫だよ。」
「くれぐれも、淑女のお部屋には、お近づきになられませんように。」
「了解。」
グレーとの朝食を終えると、
「そろそろ、いってらっしゃい。」
と、グレーに手をヒラヒラと降られ、僕はメイドたちに、引っ立てられた。僕の部屋へと戻ると、仕立ての良さそうな、タキシードが、かかっていた。それを後目に湯浴みに放り込まれ、出ると髪をセットされ、そのタキシードを着させられる。
メイドの案内で応接室へと行けば、いつもより、シャンとした格好をしたグレーがいた。
「グレー、これなに??」
「あ~、もうすぐ……」コンコンコン
「もう来たか。どうぞ。」
入ってきたのは、美しいミラさんと……。僕の天使は、とても美しかった。いつもより大人びたドレスは、僕をこれでもかとドキドキさせた。
「もう、オーリーったら、なんの連絡もせずにいらっしゃるから、今回はわたくしのドレスを仕立て直しで済ませましたわ。」
とミラさんが、拗ねているような喜んでいるような声で言った。
「よーし。いくぞ!」
グレーがミラさんをエスコートして、応接室を出ていく。僕も慌ててエマをエスコートしてついていく。途中で、エマに「天使さん、とても素敵だよ」と耳元でつぶやいたら、天使は、真っ赤になってしまった。
向かった場所は、侯爵邸で一番広いホールの前だった。執事の二人が扉の前に立っていて、扉の前を通り過ぎたグレーがクルリと回転してこちらを見て、お先にどうぞのジェスチャーをする。
僕とエマが、扉の前に立つと、執事がドアを左右に開ける。
大ホールには、たくさんの人がいた。僕らが、一歩入ると、
「オーリー、エマさん、結婚おめでとう!」
パーン、パーン、紙吹雪が舞う。
クラッカーだった。
びっくりしている僕らの後ろから、グレーたちが来て、
「みんなに一言どうぞ。」
と、茶目っ気に言う。
「あ、あの、みんな、ありがとう!」
僕が、その場でボロボロと泣き出し、エマがアワアワとしながら、ハンカチをくれて、僕たち以外の人たちは、笑顔で見守ってくれていた。
「オーリーは、泣き虫なので、先にダンスパーティーを始めよう!」
と、グレーがからかうように言い、音楽が奏でられた。
僕は、しばらく、その様子を見ていた。高等学校の友人、中等学校の友人は平民の子まで来てくれている。お世話になった先生たちや役所の方々、見知った顔がたくさんあった。
「ダムは、人気者だったのね。素晴らしいわ。」
エマが、満面の笑顔を見せてくれた。
曲の切れ目に、僕はエマをエスコートして、ホール中央へ進む。自然にみんなが中央から離れ、曲が始まっても踊るのは僕たちだけだ。1曲踊り、会場のみんなに向かって、礼をする。たくさんの拍手と指笛と冷やかしと、幸せな喧騒だった。
再び音楽が始まると、みんなも踊り始める。僕はエマと2曲踊った後、イロフスキー侯爵夫妻とパートナーチェンジし、グレー夫妻とパートナーチェンジし、ちょっと疲れたところで、飲み物をもらいに行く。
ミラさんに誘われて、エマが僕から離れる。お花詰みか、お化粧直しか、どちらにせよ、当分帰らないだろう。それを見計らって、悪友たちが、代わる代わる僕をからかっていった。
ふと、空いた間に、イロフスキー侯爵の元へ行く。
「侯爵様、今日は、本当にありがとうございます。」
「オーリー、君は人気者だねぇ。社会にもまだ出ていないし、ここで爵位を持つわけでもない。なのに、急な誘いにも関わらず、これだけの人が集まってくれた。人との繋がりは宝だ。大切にしなさい。」
「はい、お義父さん。」
僕はまた泣いてしまい、お義母さんがクスリと笑ってハンカチを差し出してくれた。
パーティーは、夜の帳が降りるまで続いた。
クラッカーは、魔石の削り粉に火魔法を纏わせ、糸ではなく、銅線が筒につけられており、銅線に少しだけ魔力を流すとクラッカーのようになるらしい。魔力を流し過ぎても、天井まで紙吹雪が飛んでいってしまうだけなので、問題ないそうだ。イロフスキー侯爵家の新製品だ。
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