婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
62 / 71
第八章 隣国王子の恋愛事情 愛の事情編

6 愛の結 2

しおりを挟む
 朝方はまだ寒い春の日。ガーデンパーティー当日、朝、明るくなるとともに、公爵邸へ向かう。

 レンバーグ公爵邸に着くと、ヨアンが迎えてくれて、公爵殿とヨアンと共に朝食をとった。女性たちは、もう準備を始めているそうだ。たいへんだなぁ。

 応接室で、ヨアンとしばらく雑談した。来週には、タニャード王国へ出発するので、タニャード王国のこととか、政務の違いなどを話した。

「こちらに、お願いします。」
と、メイドが呼びにきてくれた。案内をされた部屋には、私のタキシードが用意されていた。
 それは、あの卒業パーティーで着た光沢のある濃紺のタキシードがリメイクされていた。ベストでなく、青色のカマーベルト、襟のアクセントは、銀リボンでなく、青い糸で丁寧に刺繍されたていた。カマーベルトと同色のクラバット。
 あれから2年もたってしまったが、アリスが用意してくれたタキシードは、あの時のものだった。ありすが、あの頃からずっと私を見ていてくれたようで、心が温かくなった。



 支度が済みしばらくすると、メイドから声をかけられ、先ほどの応接室へ戻る。

 外から人々の声が聞こえる。招待客はすでに集まっているようだ。


 応接室のドアのノックがされ、返事をするとアリスが入室してきた。

 あの頃と変わらぬ、イヤ、あの頃よりも美しくなった女神がいた。湖面に佇む水の女神だ。
 あの日の光沢のある濃紺のドレスだが、ウエストの太いベルトと背中の大きなリボンが、白から青へのグラデーションになる生地を使ったものになっている。リボンが大きいと幼く見えそうだが、背中を大きく開けることて、あの頃より妖艶になったアリスには、ぴったりだった。胸から首へのレースは取られ艶かしいデコルテが露になっているが、リボンと同じ生地で胸元にドレープの華があるので、厭らしさはない。
 リメイクで、夜の女神から、水の女神へと変身していた。


「美しい……。」



 あまりの間に、アリスの顔が赤らむ。
「このドレス、覚えていらっしゃいますか?わたくしがゼファー様から、初めていただいたドレスですわ。」

「ああ、もちろん覚えているよ。君の美しさは、あの頃以上だ。」

「まぁ…。」
アリスが照れて、少し俯いた。

 そして、アリスがゆっくりと近づいてきて、私のタキシードの襟に手を触れた。
「この刺繍はわたくしが刺しましたのよ。今日の色にぴったりでよかったわ。」

「なんということだ。このタキシードは、もうリメイクしないでおくれ。私の宝物になってしまったのだから。」
 この刺繍は、一年以上前からこの日のために進めていてくれたそうだ。彼女もこの日を待ち望んでくれていたのだろう。


「ふふふ。ゼファー様が喜んでくださるなら、いつでも刺繍はいたしますわ。」

「そうだね。これからずっと一緒にいられるんだ。また頼むことにしよう。」

「はい。」
はにかんで頷くアリスを軽く抱き締めた。


〰️ 〰️ 〰️

 アリスをエスコートして、サロンから、みんなの待つ公爵邸の庭へ降りる。あちこちから「ほぉ…」という感嘆のため息が聞こえた後、大きな拍手で迎えてくれた。
 レンバーグ公爵殿が、挨拶と紹介を行い、私からも挨拶を、となった。

「紹介に預かりました。ゼファーライト・タニャードです。

私は、幸運にも、アリーシャ・レンバーグ嬢の伴侶に選んでいただきました。アリーシャ嬢を生涯愛し、幸せにすることを、本日お越しいただいた皆様に誓います。」

私は、アリスに向き合い跪き、片手をとる。

「アリーシャ・レンバーグ嬢。私の傍で、いつまでも笑っていてほしい。心から愛している。」

「ゼファーライト殿下。どこまでも共に参りますわ。」
アリスが目に涙を溜めて応えてくれた。

みんなから、更に大きな拍手をもらった。


 ダンスはもちろん、私たちからだ。
 庭園での、ダンスには多少コツがいる。床のようにクルクルとはいかないのだから。アリスはまた素晴らしい足さばきで、優雅さを増している。
 招待客のみなさんも、さすがなもので、庭園であることを承知で踊っている。だからこそ、会場全体が優雅で、これはこれでたいへん素晴らしいのだ。

ガーデンパーティーは、とても華やかで、みんなが、祝ってくれていることをとても実感できるものだった。



 このあと、タニャード王国での結婚式や夜会などが執り行われたが、私にとって、アリスを20年慈しみ育んでくれたガーリウム王国、そこでのガーデンパーティーこそが、私たち夫婦の始まりだと思っている。

 初夜は結婚式まで、我慢したけどね。


〰️ 〰️ 〰️ 


 ガーデンパーティーでの私たちの装いは、メイドたちにキレイにしてもらい、マネキンに着せ、ガラスケースに入れて玄関ロビーに飾った。いつでも、あの幸せが蘇る。

 ああ、でも、目の前にも幸せがやって来た。
「ゼファア、おかえりなさい。」
メイドにも聞こえない声で、紡いでくれる言葉。私が、帰ると笑顔で出迎えてくれるアリスが愛しくて、いつも、口づけしてしまう。未だに照れるアリスは、本当に可愛らしい。

 こうして、私の愛は永遠に続くのだ。

~隣国王子の恋愛事情  愛の事情 fin ~
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って… その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を その数日後王家から正式な手紙がくる ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと 「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ ※ざまぁ要素はあると思います ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...